ヨーゼフ・マティアス・ハウアー

ヨーゼフ・マティアス・ハウアー（Josef Matthias Hauer, 1883年ねん3月19日にち - 1959年ねん9月22日にち）は、オーストリアの作曲さっきょく家か、音楽おんがく理論りろん家いえ。

略歴りゃくれき

生おい立たち

シェーンベルクよりも早はやく、独自どくじに十じゅう二に音おと技法ぎほうを発展はってんさせていたことで知しられる。

ウィーナー・ノイシュタット生うまれ、ウィーンに没ぼっする。父親ちちおやは刑務けいむ官かんであったが、アマチュア音楽家おんがくかでもあり、ヨーゼフの3歳さいになった頃ころからツィターを教おしえた。その後ご、生地きじの師範しはん学校がっこうに学まなび、学校がっこう教員きょういんの技能ぎのうとしてチェロ、合唱がっしょうの指揮しき、オルガンなどの音楽おんがく教育きょういくを受うけたが、理論りろんや作曲さっきょくは独学どくがくであった。1902年ねん、のちに哲学てつがく者しゃとなる学友がくゆうフェルディナント・エープナー（Ferdinand Ebner, 1882-1931）とともに師範しはん学校がっこうを卒業そつぎょうした。クルムバッハ、ザンクト・ペルテン、ウィーナー・ノイシュタット等とうで小学校しょうがっこう教員きょういんを務つとめ、20歳さい代だい後半こうはんあたりから教員きょういん生活せいかつの余暇よかに作曲さっきょくと音楽おんがく理論りろんや神秘しんぴ学がくの研究けんきゅうに熱中ねっちゅう。第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせんが勃発ぼっぱつすると召集しょうしゅうされたが、兵へいとして不ふ適格てきかくと判断はんだんされ、後方こうほう勤務きんむに従事じゅうじするため1915年ねんウィーンに転居てんきょし、以後いご終生しゅうせいそこに留とどまった。

1918年ねん、ゲーテの色彩しきさい論ろんに基もとづいた色いろ聴についての音楽おんがく理論りろん書しょを出版しゅっぱん。1919年ねん8月がつ、12音おとによる作曲さっきょく技法ぎほうを発明はつめいする。彼かれの作曲さっきょく技法ぎほうは、作品さくひんを追おう毎ごとに変化へんかしており、1音おと1音おとを積木つみきを積つむように構築こうちくされた作品さくひんもあれば、12音おとの並ならびから和声わせいの連結れんけつを生成せいせいする手法しゅほうを用もちいたもの、易学えきがくに基もとづくもの、図形ずけい楽譜がくふまであり、非常ひじょうに多彩たさいである。中なかでも、いわゆる「44のトローペの理論りろん」は彼かれの十じゅう二に音おと技法ぎほうを語かたる上じょうで欠かかせない。なお、1919年ねん作曲さっきょくのピアノ曲きょく「ノモス」は、世界せかい最初さいしょの12音おと音楽おんがくと見みなされている。

1918年ねん頃ころからシェーンベルクと交流こうりゅうを持もちはじめ、一時いちじは「ノモス」を含ふくむいくつかのハウアー作品さくひんをシェーンベルクが私的してき演奏えんそう協会きょうかい（Verein für musikalische Privataufführungen）で紹介しょうかいしたり、共著きょうちょを執筆しっぴつする計画けいかくを立たてたり、十じゅう二に音おと技法ぎほうのための音楽おんがく学校がっこうを共同きょうどうで開設かいせつする構想こうそうを錬ねるほどにまで接近せっきんした。しかし関係かんけいは長続ながつづきせず、音楽家おんがくかは芸術げいじゅつ的てきな表現ひょうげんを志向しこうするのではなく12音おとのそれぞれが持もつ霊的れいてきな真実しんじつを代弁だいべんすることにのみ尽力じんりょくすべきという「新あたらしい音楽おんがく」を主張しゅちょうしてシェーンベルクとはげしく対立たいりつし、袂たもとを分わかつこととなった。「12音おとの代弁だいべん者しゃ」を自認じにんするハウアーは、作曲さっきょく家かと呼よばれることすら望のぞまなかった。

12音おとはトローペかセリーか？

シェーンベルクが十じゅう二に音おと技法ぎほうに基もとづく楽曲がっきょくを発表はっぴょうし始はじめると、ハウアーは厳きびしく批判ひはんした。シェーンベルクやアドルノらもハウアーをこき下おろした。しかし、一方いっぽうでシェーンベルクは自身じしんの十じゅう二に音おと技法ぎほうがトローペ理論りろんから一部いちぶ影響えいきょうを受うけたことを認みとめている。

音おとと色彩しきさいとの間あいだの論理ろんり的てきな関係かんけいを模索もさくしていたハウアーは、1919年ねん5月、ヨハネス・イッテンの展覧てんらん会かいを訪おとずれ、色彩しきさい理論りろんの図形ずけい的てきな表現ひょうげんに衝撃しょうげきを受うけた。彼かれはイッテンに知遇ちぐうを求もとめ、友情ゆうじょう関係かんけいが築きずかれた。一方いっぽうイッテンも「もしも自分じぶんが画家がかではなく、音楽家おんがくかだったら、全まったくハウアーのように作曲さっきょくしただろう」と語かたった。その後ごハウアーの「44のトローペの理論りろん」と、12色相しきそう環たまきをはじめとするイッテンの色彩しきさい研究けんきゅうは、音楽おんがくと色彩しきさいとその図形ずけい化かなどをめぐって互たがいに影響えいきょうを与あたえ合あい展開てんかいするところとなる。ハウアーは「トローペの記き譜ふには12音おとに適てきした五線譜ごせんふの破棄はきが必要ひつようである」という過激かげきな思想しそうに染そまり、新あたらしい記き譜ふ法ほうを考案こうあんしたが後継こうけい者しゃはいなかった。

1920年代ねんだいはハウアーの絶頂ぜっちょう期きであり、トローペ理論りろんに基もとづく楽曲がっきょくが数多かずおおく発表はっぴょうされ、その理論りろんと作品さくひんがようやく識者しきしゃの関心かんしんを得えるようになった。1923年ねんから1925年ねんまで作曲さっきょく家かヘルマン・ハイス（Hermann Heiß, 1897年ねん-1966年ねん）が彼かれのもとで十じゅう二に音おと技法ぎほうを学まなんだ。1927年ねん、「組曲くみきょく第だい7番ばん」（VII. Suite）がヘルマン・シェルヘンによりフランクフルトで初演しょえんされ、フローベールの原作げんさくによるオペラ「サランボー」が1930年ねんにオットー・クレンペラーによりクロル・オペラで初演しょえんされた。1927年ねんにはウィーン芸術げいじゅつ家か賞しょうを与あたえられ、1930年ねんからは州しゅうの助成じょせい金きんが支給しきゅうされた。1932年ねんには、ゴットヘルフの原作げんさくによる大作たいさくオペラ「黒くろい蜘蛛くも」を完成かんせいさせた。

迫害はくがいと復権ふっけん

しかし、ナチスの擡頭たいとうにより彼かれの作品さくひんは頽廃たいはい芸術げいじゅつの烙印らくいんを押おされ、1938年ねん以降いこうは公的こうてきな活動かつどうの場ばを全まったく奪うばわれてしまった。彼かれはナチ時代じだいを通つうじてオーストリアに留とどまったが、作品さくひんを公表こうひょうすることもなく、やがてその存在そんざいはほとんど忘わすれ去さられた。

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後こうは、ウィーン・コンツェルトハウス協会きょうかいの名誉めいよ会員かいいんに迎むかえられ、1954年ねん、教授きょうじゅの称号しょうごうを与あたえられた。戦後せんご公表こうひょうした作品さくひんは寥々りょうりょうたるものだが、1939年ねんから1959年ねんの死しに至いたる20年間ねんかん、自みずから「12音おとの戯じゃれ」（Zwölftonspiele）と呼よぶ夥おびただしい数かずの楽曲がっきょくを書かき続つづけ、篋底きょうていに秘ひしていた。

ハウアー畢生ひっせいの大作たいさくであるオペラ「黒くろい蜘蛛くも」は、彼かれの死後しご1966年ねんになってようやくミヒャエル・ギーレンによりウィーンで初演しょえんされた。

主おもな作品さくひん

• オペラ「黒くろい蜘蛛くも」（Die Schwarze Spinne）
• オペラ「サランボー」（Salambo）
• 「ヘルダーリン歌曲かきょく集しゅう」（Hölderlin Lieder）作品さくひん21ほか全ぜん6集しゅう
• ピアノ曲きょく「ノモス」（Nomos）作品さくひん19
• 管弦楽かんげんがく曲きょく「黙示録もくしろく幻想曲げんそうきょく」（Apokalyptische Phantasie）作品さくひん5
• 管弦楽かんげんがく曲きょく「ロマンティック幻想曲げんそうきょく」（Romantische Phantasie）作品さくひん37
• 管弦楽かんげんがく曲きょく「組曲くみきょく第だい7番ばん」（VII. Suite）作品さくひん48
• ヴァイオリン協奏曲きょうそうきょく（Violinkonzert）作品さくひん54
• 「12音おとの戯じゃれ」（Zwölftonspiele）―管弦楽かんげんがく曲きょく、室内楽しつないがく曲きょく、ピアノ独奏どくそう曲きょくなど多数たすう
  • 577曲きょくが確認かくにん済ずみ。実際じっさいには多おおくの12音おとの遊あそびが散逸さんいつまたは破棄はきされたといわれる。

関連かんれん文献ぶんけん

• Othmar Steinbauer: Josef Matthias Hauers Zwölftonspiel. Österreichische Musikzeitschrift, 18. Jahrgang, Heft 3, Wien 1963
• Monika Lichtenfeld: Untersuchungen zur Zwölftontechnik bei Josef Matthias Hauer. Gustav Bosse, Regensburg 1964
• Walter Szmolyan: Josef Matthias Hauer. Österreichische Komponisten des XX. Jahrhunderts. Bd.6. Lafite Verlag, Wien 1965
• Kurt Blaukopf: Hauers geistige Physiognomie, Österreichische Musikzeitschrift, 21. Jahrgang, Themenheft 3, Wien 1966.
• Rudolf Stephan: Hauer, Josef Matthias. In: Neue Deutsche Biographie (NDB). Band 8, Duncker & Humblot, Berlin 1969, ISBN 3-428-00189-3, S. 82 f. (Digitalisat).
• Johann Sengstschmid: Zwischen Trope und Zwölftonspiel. J. M. Hauers Zwölftontechnik in ausgewählten Beispielen. Gustav Bosse, Regensburg 1980
• Hans Ulrich Götte: Die Kompositionstechniken J. M. Hauers unter besonderer Berücksichtigung deterministischer Verfahren. Kasseler Schriften zur Musik. Bd. 2. Bärenreiter, Kassel 1989
• Helmut Neumann (Hrsg.): Die Klangreihen-Kompositionslehre nach Othmar Steinbauer. 2 Bde. Peter Lang, Frankfurt-Wien 2001
• Nikolaus Fheodoroff u.a.: Josef Matthias Hauer: Schriften, Manifeste, Dokumente. DVD-ROM. Lafite, Wien 2007. ISBN 978-3-85151-076-8
• Hans Florey: Die Gesetzmäßigkeiten für Josef Matthias Hauers „Zwölftonspiele“, Österreichische Musikzeitschrift, 65. Jahrgang, Heft 3, Wien 2010, S. 83-95.
• Dominik Sedivy: Serial Composition and Tonality. An Introduction to the Music of Hauer and Steinbauer, (Hrsg.): Günther Friesinger, Helmut Neumann, Dominik Sedivy, edition mono, Wien 2011
• Dominik Sedivy: Tropentechnik. Ihre Anwendung und ihre Möglichkeiten, Königshausen & Neumann, Würzburg 2012
• Covach, John. 1990. "The Music and Theories of Josef Matthias Hauer", Ph.D. dissertation. Ann Arbor: University of Michigan.
• Covach, John. 1992. "The Zwölftonspiel of Josef Matthias Hauer”. Journal of Music Theory 36.1 (1992): 149-84.
• Covach, John. 2002. "Twelve-Tone Theory”. In The Cambridge History of Western Music Theory, edited by Thomas Christensen, 603–627. Cambridge and New York: Cambridge University Press.
• Covach, John. 2003. "Josef Matthias Hauer". In Music of the Twentieth Century Avant-Garde, edited by Larry Sitsky, 197–202. [N.p.]: Greenwood Publishing.
• Lichtenfeld, Monika. 2001. "Hauer, Josef Matthias". The New Grove Dictionary of Music and Musicians, second edition, 29 vols., edited by Stanley Sadie and John Tyrrell, 11:134–37. London: Macmillan Publishers; New York: Grove's Dictionaires.
• Whittall, Arnold. 2008. The Cambridge Introduction to Serialism. Cambridge Introductions to Music. Cambridge & New York: Cambridge University Press. ISBN 978-0-521-86341-4 (cloth) ISBN 978-0-521-68200-8 (pbk.)
• リーマン音楽おんがく事典じてん・ハウアーの項こうにはトローペの記き譜ふ法ほうがある。

外部がいぶリンク

• オペラ「黒くろい蜘蛛くも」（Die Schwarze Spinne）楽曲がっきょく解説かいせつ（ドイツ語ご）
• Database on tone rows and tropes