演奏えんそう者しゃ

演奏えんそう者しゃ（えんそうしゃ）は、楽器がっきなどの演奏えんそうを通つうじて音楽おんがく表現ひょうげんを行おこなう者もの。単たんに奏者そうしゃとも。芸術げいじゅつ作品さくひんである楽曲がっきょくを創造そうぞうする作曲さっきょく者しゃおよびそれを享受きょうじゅする聴衆ちょうしゅう（享受きょうじゅ者しゃ）に対たいして、目めに見みえにくい芸術げいじゅつ作品さくひんとしての楽曲がっきょくの再生さいせい（再生さいせい芸術げいじゅつ）を行おこない、作曲さっきょく者しゃと聴衆ちょうしゅうの間あいだを媒介ばいかいする役目やくめを担になうのが演奏えんそう者しゃである。

概要がいよう

西洋せいよう音楽おんがくにおいて

音楽おんがくの歴史れきしにおいて、作曲さっきょく者しゃと演奏えんそう者しゃと聴衆ちょうしゅう（享受きょうじゅ者しゃ）の区別くべつは長ながい間あいだ必かならずしも明確めいかくではなかった。これが明確めいかくに分離ぶんりしていくのは、19世紀せいきに入はいってからである。市民しみん文化ぶんかの成立せいりつに伴ともなって幅広はばひろい階層かいそうの人々ひとびとが音楽おんがくを楽たのしむことが出来できるようになり、作曲さっきょくや演奏えんそうの技能ぎのうは持もたないものの、音楽おんがくの享受きょうじゅを望のぞむ聴衆ちょうしゅうが出現しゅつげんした。これに伴ともなって、多おおくの人々ひとびとに楽曲がっきょくが持もつ芸術げいじゅつ性せいを伝つたえると同時どうじにそれを生うみ出だす演奏えんそう技巧ぎこうを誇示こじすることを専門せんもんとする人々ひとびとも現あらわれ、作曲さっきょく者しゃと演奏えんそう者しゃの分離ぶんりが図はかられた。

演奏えんそう者しゃは目めに見みえない楽曲がっきょくを出来できるだけ客観きゃっかん的てきな図式ずしきの形かたちで表現ひょうげんした楽譜がくふを元もとにしてその作品さくひんの持もつ芸術げいじゅつ性せいを正当せいとうに再現さいげんすることが求もとめられる。そのためには、楽譜がくふを音おととして実現じつげんする技能ぎのう（楽器がっきを扱あつかう能力のうりょくに留とまらず、表現ひょうげんの統制とうせい能力のうりょくや音楽おんがく性せいも必要ひつようとされる）とその作品さくひんの精神せいしん性せい・芸術げいじゅつ性せいを理解りかいして表現ひょうげんする能力のうりょくが求もとめられる。ただし、作曲さっきょく者しゃによる創作そうさくの追つい体験たいけんが不可能ふかのうである以上いじょう、演奏えんそう者しゃ自身じしんが楽譜がくふから作曲さっきょく者しゃの意図いとを読よみ解とく必要ひつよう性せいがあり、それによって複数ふくすうの作品さくひんに対たいする「解釈かいしゃく」が生うみ出だされる可能かのう性せいが存在そんざいするし、演奏えんそう家か自身じしんが持もつ個性こせいによって実際じっさいに演奏えんそうされる楽曲がっきょくに微妙びみょうな変化へんかが加くわえられる場合ばあいもある。

楽器がっきの即興そっきょう演奏えんそうが一般いっぱん的てきでモーツァルトやベートーヴェンに代表だいひょうされるように作曲さっきょく者しゃが演奏えんそうを兼かねることが珍めずらしくなかった18世紀せいきまでと違ちがい、19世紀せいきになると演奏えんそうを専門せんもんとするものが現あらわれ、中期ちゅうきから後のちにかけては先人せんじんの曲きょくを優すぐれた演奏えんそう技巧ぎこうで再現さいげんする「大だい演奏えんそう家か」が出現しゅつげんするようになった。ピアノにおけるフランツ・リスト（彼かれは作曲さっきょく者しゃとしても名声めいせいがあるが）はその代表だいひょう的てきな人物じんぶつであった。だが、演奏えんそう技術ぎじゅつへの過度かどの評価ひょうかは、19世紀せいきの末すえになると大だい演奏えんそう家かによる主観しゅかん的てきな解釈かいしゃくによる楽曲がっきょく自体じたいの改変かいへんすら許容きょようされるようになった。20世紀せいきに入はいるとこうした演奏えんそう者しゃの振舞ふるまいに対たいする批判ひはんから、即そく物ぶつ主義しゅぎの客観きゃっかん的てき演奏えんそう様式ようしきが生うみ出だされるようになり、作品さくひんへの忠実ちゅうじつさが重おもんじられるようになる。今日きょうにおいて作品さくひんに対たいして忠実ちゅうじつ的てきかつ客観きゃっかん的てきな演奏えんそう態度たいどが主流しゅりゅう派はとなる一方いっぽうで、前衛ぜんえい音楽おんがくの世界せかいでは作曲さっきょく者しゃが演奏えんそう者しゃによる自由じゆうな演奏えんそう態度たいどを許容きょようして作品さくひんに新あらたな芸術げいじゅつ的てき可能かのう性せいを付与ふよさせようとする動うごきが見みられ、更さらに録音ろくおん技術ぎじゅつの発達はったつによって演奏えんそう会かいに直接ちょくせつ赴おもむかなくても、場合ばあいによっては聴衆ちょうしゅうの誕生たんじょう前まえに死去しきょして直接ちょくせつ聴きくことが不可能ふかのうとなった演奏えんそう家かの演奏えんそうを間接かんせつ的てきな手段しゅだんで聴きくことが可能かのうとなるなど、演奏えんそうを巡めぐる多様たよう化かが進すすんでいる。

参考さんこう文献ぶんけん

• 渡辺わたなべ護まもる「演奏えんそう」（『標準ひょうじゅん音楽おんがく辞典じてん ア-テ』（音楽之友社おんがくのともしゃ、2008年ねん） ISBN 978-4-276-00007-0）

関連かんれん項目こうもく

• 音楽家おんがくか