リャナンシー

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リャナンシー[ちゅう 1](アイルランド:Leannán-Sídhe、マンとう:Lhiannan-Shee)は、アイルランドマンとうつたえられる妖精ようせいである。名前なまえ原意げんいは「妖精ようせい[ちゅう 2]恋人こいびと[2]

キャサリン・ブリッグズ英語えいごばんの『妖精ようせい事典じてん』をはじめとして、おおくの事典じてんがアイルランドのものとマンとうのものを区別くべつしてたてこうし、またそれぞれの伝承でんしょうにも異同いどうがあるが、現代げんだいにおいてもっともよくられている解釈かいしゃくは、芸術げいじゅつあいもとめてり憑き創造そうぞう霊感れいかんあたえるわりに、生気せいきあるいはって衰弱すいじゃくさせ短命たんめいいたらしめる、吸血鬼きゅうけつきサキュバスてき性格せいかくムーサ役割やくわりあわ妖精ようせい、というものである。

アイルランドのリァノーンシー[ちゅう 1][編集へんしゅう]

ジェーン・ワイルドによる解釈かいしゃく[編集へんしゅう]

アイルランドの詩人しじんアイルランドの民族みんぞく運動うんどう支持しじしゃ民話みんわ収集しゅうしゅうしたジェーン・ワイルド英語えいごばんオスカー・ワイルドはは)は Ancient legends, Mystic Charms & Superstitions of Ireland (1888) において、悲運ひうん予告よこくするせいバンシーたいとなる、詩人しじんうた霊感れいかんあたえる生命せいめいせいとリァノーンシーを説明せつめいしている[3]

リァノーンシーが生命せいめいせいとしてのちからんだ女性じょせい詩人しじんエーダインの言葉ことばは、マンスターおうユージーンの勝利しょうりたすけ、おう国民こくみんしんうしな危機ききにあったときもおう成功せいこうみちびいたという[4]

W・B・イェイツによる解釈かいしゃく[編集へんしゅう]

現代げんだいもっと普及ふきゅうしているリャナンシーの解釈かいしゃくには、アイルランドの詩人しじん民族みんぞく運動うんどう支持しじしゃ民話みんわ収集しゅうしゅうした W・B・イェイツFairy and Folk Tales of the Irish Peasantry (1888)邦題ほうだい『ケルト妖精ようせい物語ものがたり』)と Irish Fairy Tales (1892)邦題ほうだい『ケルト幻想げんそう物語ものがたり』)の記述きじゅつおおきく影響えいきょうあたえている。

イェイツはリァノーンシーをひとりらしの妖精ようせいたち(The Solitary Fairies)[ちゅう 3]分類ぶんるいし、以下いかのように説明せつめいする。

This spirit seeks the love of men. If they refuse, she is their slave; if they consent, they are hers, and can only escape by finding one to take their place. Her lovers waste away, for she lives on their life. Most of the Gaelic poets, down to quite recent times, have had a Leanhaun Shee, for she gives inspiration to her slaves and is indeed the Gaelic muse—this malignant fairy. Her lovers, the Gaelic poets, died young. She grew restless, and carried them away to other worlds, for death does not destroy her power.

日本語にほんごやく

このれい(スピリット)は人間にんげんおとこあいさがもとめる。もしおとここばめば、彼女かのじょたちは奴隷どれいのようにおとこにかしずき、もしおとこれればおとこ彼女かのじょのものとなり、自分じぶんわりにとなるべつおとこつかるまで、彼女かのじょからのがれられなくなる[ちゅう 4]恋人こいびとたちはよわおとろえてゆく。なぜなら、リャナン・シーは恋人こいびとたちのいのちることで、きているのだ。ごく最近さいきんまで、ほとんどのゲールの詩人しじんはリャナン・シーの恋人こいびとだった。というのは、このあく妖精ようせいは、自分じぶんとりこになったものに霊感れいかんあたえるまごうことないゲールのしん(ミューズ)なのである。彼女かのじょ恋人こいびとであるゲールの詩人しじんたちはとしわかくしてぬ。彼女かのじょしんさわぎだし、詩人しじんべつ世界せかいってしまう。というのは、彼女かのじょ支配しはいりょくさまたげることはないからだ。
W・B・イェイツ(日本語にほんごやく井村いむら君江きみえ 『ケルト妖精ようせい物語ものがたり』)、Irish Fairy Tales

その伝承でんしょう[編集へんしゅう]

アイルランド民族みんぞく運動うんどう支持しじしゃ民話みんわ収集しゅうしゅうしたオーガスタ・グレゴリーは、Gods and Fighting Men (1904) において Manannanむすめ Aine は、音楽おんがくおくものをしてしばしばおとこあいささげたので、おとこたちは彼女かのじょをリァノーンシー、妖精ようせい恋人こいびとんだと説明せつめいする。

ジョン・オドノヴァン英語えいごばん採集さいしゅうの、トーリーとう英語えいごばんバロールについての民間みんかん伝承でんしょうでは、豊穣ほうじょうめすうしグラス・ガヴナンをバロールにぬすまれたマク・キニーリー(伝承でんしょうキアン相当そうとう)を超自然ちょうしぜんてきちからたすける使つか(familiar sprite)として登場とうじょうする。伝承でんしょうちゅうではやまのビローグ英語えいごばんともバンシーともばれる[5]

マンとうのラナンシー[ちゅう 1][編集へんしゅう]

マンとう民間みんかん伝承でんしょうでは、黄色きいろいシルクのローブを美女びじょ姿すがた[6][7]しま井戸いどいずみ[2]あらわれる一種いっしゅ吸血鬼きゅうけつき・サキュバス[7]としてつたえられる。ねらった若者わかものひょういていつもついてまわ[8]が、そのたまらなくうつくしい姿すがたものにはえない[2]誘惑ゆうわくければ、かれたおとこしん憔悴しょうすいしきりぬことになる[2]

アイルランドのリァノーンシーとくらべて、ひとたいして悪意あくいある妖精ようせいという性格せいかくつよ[6]が、フィッチャーという一族いちぞく守護しゅごれいとなり「妖精ようせいはい」とばれる水晶すいしょうはいあたえたという伝承でんしょうもある。毎年まいとしクリスマスごとに一族いちぞくはラナンシーをたたえて乾杯かんぱいした[2]妖精ようせいはいかぎ一族いちぞくさかつづけるとされていたが、この伝承でんしょう採録さいろくされたときにはすでにはいはベーコンという一族いちぞくしたわたっており、フィッチャー一族いちぞく途絶とだえてしまっていたという[6][7]

この妖精ようせいはいは、ノルウェーのおうマグヌス英語えいごばんがマンとうにもたらした「平和へいわはい」だとする伝承でんしょうもある。マグヌスおうせいオーラヴねむ聖堂せいどうおかし、きよらかな遺体いたいのかたわらにあったうつくしい水晶すいしょうはいった。翌晩よくばん王国おうこくいのちうしなうかノルウェーをるかどちらかをえらべとゆめのおげでせいオーラヴにせまられたマグヌスおうは、艦隊かんたい編成へんせいかいてマンとう住処すみかめる。そして平和へいわ妖精ようせいラナンシーがはいけっしてはなれずにまもるこの「平和へいわはい」をダグラスちかくのとりでいたという[9]

創作そうさく文化ぶんかなかのリャナンシー[編集へんしゅう]

現代げんだいにもうたがれるアイルランド民謡みんよう My Lagan Love は、「こいわずらうリャナンシーのように 彼女かのじょわたししんとりこにする(And like a love-sick lennan-shee / She has my heart in thrall)」とうた[10]えいはアイルランドの詩人しじんジョセフ・キャンベルかえせられる。

ヤマザキコレ漫画まんが魔法使まほうつかいのよめ』5かんでは、あと数日すうじついのちとなった妖精ようせいることができない老人ろうじんジョエルと、ジョエルにあたえる才能さいのうせず長年ながねんひょういていた妖精ようせいリャナン・シーのねがいをかなえるために、主人公しゅじんこうチセが奔走ほんそうする。

ジョン・バー監督かんとくの2017ねんのホラー映画えいが Muse邦題ほうだい:ボディヒート・サーガ 魔性ましょう伝説でんせつ)はリャナンシー伝説でんせつ下敷したじきに、なぞ美女びじょ魅入みいられたれない画家がか辿たど運命うんめいえが[11]

そのドレスデン・ファイル女神めがみ転生てんせいシリーズ東京とうきょう放課後ほうかごサモナーズなど現代げんだいのファンタジー作品さくひんなかにリャナンシーをモチーフにしたキャラクターはおお登場とうじょうする。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c 日本語にほんご表記ひょうきほんによって様々さまざまであるが、ほん記事きじでは、アイルランド・マンとう文脈ぶんみゃくではゲールマンとう監修かんしゅうのなされた『妖精ようせい事典じてん』にり、それぞれリァノーンシーラナンシーを、それ以外いがい文脈ぶんみゃくにおいてはもっと普及ふきゅうした表記ひょうきであるリャナンシー採用さいようした。
  2. ^ Sídhe あるいは Shee は、古代こだい土塚つちづかおか言葉ことば「シー(sidh)」に由来ゆらいする。このシー(sidh)には妖精ようせいんでいるとしんじられていたため、てんじてアイルランドの民間みんかん伝承でんしょうでは妖精ようせいたちの名称めいしょうとしてあらわれることがおお[1]
  3. ^ まった無情むじょうなものたち」「すべてなんらかのてん陰気いんきおそろしい」妖精ようせいだとイエイツはう。
  4. ^ Fairy and Folk Tales of the Irish Peasantry (1888)では Death is no escape from her彼女かのじょからのにはならない)とする。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • キャサリン・ブリッグズ妖精ようせい事典じてん平野ひらの敬一けいいち井村いむら君江きみえ三宅みやけ忠明ただあき吉田よしだ新一しんいちどもやく冨山とやまぼう、1992ねん9がつ28にち原著げんちょ1976ねん)。ISBN 978-4-572-00093-4 
  • キャロル・ローズ『世界せかい妖精ようせい妖怪ようかい事典じてん松村まつむら一男かずお監訳かんやくはら書房しょぼう、2003ねん11月25にち原著げんちょ1998ねん)。ISBN 978-4-562-03712-4 
  • アンナ・フランクリン『図説ずせつ妖精ようせい百科ひゃっか事典じてんつじ朱美あけみ監訳かんやく東洋とうよう書林しょりん、2004ねん3がつ15にち原著げんちょ2002ねん)。ISBN 978-4-887-21636-5 
  • 井村いむら君江きみえ妖精ようせいがく大全たいぜん東京書籍とうきょうしょせき、2008ねん8がつ5にちISBN 978-4-487-79193-4 
  • W・B・イエイツ『ケルト妖精ようせい物語ものがたり井村いむら君江きみえへんやく筑摩書房ちくましょぼう、1986ねん4がつ24にちISBN 978-4-480-02049-9 
  • W. B. Yeats (1888). Fairy and Folk Tales of the Irish Peasantry - プロジェクト・グーテンベルク
  • W. B. Yeats (1892). Irish Fairy Tales - プロジェクト・グーテンベルク
  • ソフィア・モリソン『マンとう妖精ようせい物語ものがたり』ニコルズ恵美子えびすやく山内やまうち玲子れいこ監訳かんやく筑摩書房ちくましょぼう、1994ねん10がつ20日はつか原著げんちょ1911ねん)。ISBN 978-4-480-83155-2 
  • Sophia Morrison (1911). Manx Fairy Tales - プロジェクト・グーテンベルク
  • Lady Wilde (1888). Ancient legends, Mystic Charms & Superstitions of Ireland - プロジェクト・グーテンベルク
  • Lady Gregory (1904). Gods and Fighting Men - プロジェクト・グーテンベルク