ヴェリーキー・クニャージ

ヴェリーキー・クニャージ（ウクライナ語ご / ロシア語ご: Великий князь、ベラルーシ語ご: Вялікі князь、リトアニア語ご: Didysis kunigaikštis）とは、中世ちゅうせいルーシの政権せいけんの長ちょうや、帝政ていせいロシアの皇室こうしつに連つらなる者ものが冠かんした称号しょうごうである。

中世ちゅうせいルーシにおけるヴェリーキー・クニャージの称号しょうごうは統治とうち者しゃの称号しょうごうであり、周辺しゅうへんのクニャージに比ひしてより権力けんりょくを有ゆうした統治とうち者しゃの称号しょうごうだった。しかしタタールのくびき期きのルーシのヴェリーキー・クニャージ（ウラジーミル大公たいこう等ひとし）の中なかには、ジョチ・ウルスの従属じゅうぞく下かにある者ものもあった。日本語にほんご文献ぶんけんにおいては、ヴェリーキー・クニャージは主おもに「大公たいこう」と訳やくされ、ヴェリーキー・クニャージの統治とうちする政権せいけんは「大公たいこう国こく」と訳やくされる（キエフ大公たいこう国こく、モスクワ大公たいこう国こく等ひとし）。また、18世紀せいきからは、帝政ていせいロシアのツェサレーヴィチ（ロシア皇帝こうていの相続そうぞく権けんを持もつ者もの）に対たいする称号しょうごうとしても用もちいられた。

（留意りゅうい事項じこう）

本ほん頁ぺーじの「ヴェリーキー・クニャージ」はロシア語ごに基もとづく表記ひょうきであり、他たの言語げんごに拠よれば別べつの表記ひょうきとなるが、便宜上べんぎじょうヴェリーキー・クニャージで統一とういつしている。
本ほん頁ぺーじの「大公たいこう国こく」は、遷都せんと、統合とうごう、また大公たいこうを名乗なのる以前いぜんの期間きかんの有無うむにより、時代じだいによっては別べつの名称めいしょうで呼よばれるものがある。詳くわしくは各かく項目こうもくを参照さんしょうされたし。

統治とうち者しゃとしての称号しょうごう[編集へんしゅう]

称号しょうごうの出現しゅつげんと統廃合とうはいごう[編集へんしゅう]

「Category:ルーシの諸公しょこう」も参照さんしょう

キエフ・ルーシ期きの初期しょきにおいては、各地かくち（公国こうこく）の統治とうち者しゃはクニャージの称号しょうごうを冠かんし、ヴェリーキー・クニャージの称号しょうごうは、他たのルーシ諸公しょこうを従属じゅうぞく下かに置おくキエフの統治とうち者しゃ（キエフ大公たいこう。キエフ大公たいこう国こくの君主くんしゅ）に対たいしてのみ用もちいられる称号しょうごうだった^[1]。しかし12世紀せいきにはキエフ大公たいこう国こくの分裂ぶんれつが進すすみ、ウラジーミル大公たいこう（ウラジーミル大だい公国こうこく）、ガーリチ・ヴォルィーニ大公たいこう（ガーリチ・ヴォルィーニ大公たいこう国こく）、リャザン大公たいこう（リャザン大公たいこう国こく）等とうがヴェリーキー・クニャージを称しょうした。これらの大公たいこう国こくの成立せいりつ期きには、依然いぜんキエフ大公たいこう位いは存在そんざいしていたが、各かく大公たいこう国こくはキエフ大公たいこうに従属じゅうぞくしない独立どくりつした政権せいけんであり、内部ないぶには自国じこくに従属じゅうぞくする分ぶん領りょう公国こうこくを抱かかえていた。なお、これらのルーシの大公たいこうは全すべてリューリク朝あさの流ながれを汲くむ。

13世紀せいきの半なかばのモンゴルのルーシ侵攻しんこうを経へてキエフ大公たいこう国こくは滅亡めつぼうし、キエフ大公たいこう位いは廃はいされた。キプチャク平原へいげんにジョチ・ウルスが成立せいりつすると、その支配しはいの及およんだルーシのヴェリーキー・クニャージは、他たのクニャージと同おなじく、ヤルルィクに従したがってジョチ・ウルスのハーンのために貢みつげ税ぜいを徴収ちょうしゅうする立場たちばにおかれた。また、この時期じきの、ウラジーミル大公たいこう位いをはじめとするいくつかの大公たいこう位いは、その称号しょうごうを得えるのにジョチ・ウルスの承認しょうにんが必要ひつようだった。この時期じきのヴェリーキー・クニャージには、ウラジーミル大公たいこう、リャザン大公たいこう、スモレンスク大公たいこう（スモレンスク大公たいこう国こく）などがある。また、西方せいほうからリトアニアが拡張かくちょうし、ルーシ西部せいぶから南部なんぶを支配しはい下かに置おいた。このリトアニア・ゲディミナス朝あさの政権せいけんの長ちょうはリトアニア大公たいこうを名乗なのった（リトアニア大公たいこう国こく）。

14世紀せいきのはじめから、ウラジーミル大公たいこう位いに就ついた者ものの多おおくは、自身じしんの称号しょうごうにフセヤ・ルーシ（全ぜんルーシ(ru)）の称号しょうごうも用もちいるようになった。14世紀せいき半なかばのルーシ北東ほくとう部ぶには、ウラジーミル大公たいこう、ニジニ・ノヴゴロド・スーズダリ大公たいこう（ニジニ・ノヴゴロド・スーズダリ大公たいこう国こく(ru)）、トヴェリ大公たいこう（トヴェリ大公たいこう国こく）が、14世紀せいきから15世紀せいきにかけてはヤロスラヴリ大公たいこう（ヤロスラヴリ大公たいこう国こく）や、リャザン大公たいこう国こくから分離ぶんりしたプロンスク大公たいこう（プロンスク大公たいこう国こく）が存在そんざいした。また、ウラジーミル大公たいこう位いは、モスクワ大公たいこう（モスクワ大公たいこう国こく）が名目めいもく上じょう有ゆうする称号しょうごうとなった。

最終さいしゅう的てきには、16世紀せいきのはじめまでにルーシの諸しょ公国こうこくはモスクワ大公たいこう国こくとリトアニア大公たいこう国こくによって統合とうごうされ、ヴェリーキー・クニャージの称号しょうごうは、モスクワ大公たいこうとリトアニア大公たいこうのみが有ゆうする称号しょうごうとなった。

16世紀せいき以降いこう[編集へんしゅう]

ロシアにおける変遷へんせん

「Category:ロシアのツァーリ」および「ロシア皇帝こうてい」も参照さんしょう

1547年ねん、モスクワ大公たいこうイヴァン4世せい（イヴァン雷かみなり帝みかど）は、他たのクニャージに対たいしてモスクワの統治とうち者しゃの権威けんいを高たかめる象徴しょうちょうとして、ツァーリの称号しょうごうを正式せいしきに採用さいようした（ロシア・ツァーリ国こく）^[1]。1721年ねんにはピョートル1世せい（ピョートル大帝たいてい）がインペラートル(ru)（皇帝こうてい）の称号しょうごうを採用さいようした（帝政ていせいロシア）。ただしヴェリーキー・クニャージの称号しょうごうは引ひき続つづき使用しようされた。これらロシアのツァーリやインペラートルの完全かんぜんな称号しょうごうは、その支配しはい領域りょういきを列挙れっきょしたものであり、例たとえば、「…カザン、アストラハン、シベリアのツァーリ、スモレンスク、トヴェリ、ヴャトカ(ru)とその他たの地ちのヴェリーキー・クニャージ^{[注ちゅう 1]}」というようなものであった。

リトアニアにおける変遷へんせん

「リトアニア大公たいこう」も参照さんしょう

リトアニア大公たいこうはリトアニア大公たいこう国こくの長ちょうの冠かんする称号しょうごうであり、14世紀せいきから16世紀せいきにかけて用もちいられた^[1]。1569年ねんのルブリン合同ごうどうにより、リトアニア大公たいこう国こくはポーランド王国おうこくとの同君どうくん連合れんごう制せいを採用さいようしたため、リトアニア大公たいこうはポーランド王おうが兼かねる称号しょうごうとなった^[1]。なお、元来がんらいは血縁けつえん関係かんけいに基もとづいて相続そうぞくされていたが、1573年ねん以降いこうは選挙せんきょによって相続そうぞくされるようになった。

フィンランドにおける変遷へんせん

「フィンランド大公たいこう」も参照さんしょう

1581年ねんより、スウェーデン王おうがフィンランド大公たいこうの称号しょうごうを作成さくせいした。その後ご、1809年ねんにフィンランド大公たいこう国こくは帝政ていせいロシアとの同君どうくん連合れんごう国家こっかとなったため、フィンランド大公たいこう位いはロシア皇帝こうていが兼かねる称号しょうごうとなった。

皇位こうい継承けいしょう者しゃとしての称号しょうごう[編集へんしゅう]

「ロシア大公たいこう一覧いちらん」も参照さんしょう

1797年ねん4月がつ5日にち、ロシア皇帝こうていパーヴェル1世せいが皇室こうしつ典範てんぱん^{[注ちゅう 2]}を定さだめ、ヴェリーキー・クニャージの称号しょうごうは、皇帝こうていの位くらいにある統治とうち者しゃの子こ（娘むすめも含ふくむ。女性じょせいに対たいしてはヴェリーカヤ・クニャージナ。）たちの称号しょうごうとして用もちいられることになった。この場合ばあいのヴェリーキー・クニャージは、西欧せいおうの「Prince du sang(en)」に近似きんじしているが、完全かんぜんに一致いっちするものではなかった。ヴェリーキー・クニャージの称号しょうごうは、所有しょゆう者しゃに、ロシア皇帝こうていの継承けいしょう者しゃの1人ひとりであるとする法的ほうてき根拠こんきょを与あたえたが、皇帝こうていの決定けっていにより剥奪はくだつされる可能かのう性せいがあった。

1886年ねん7月がつ2日にち以降いこう、アレクサンドル3世せいの定さだめた皇室こうしつ典範てんぱんによって、ヴェリーキー・クニャージの称号しょうごうは、皇帝こうていの子こと孫まごのみが冠かんすることが可能かのうな称号しょうごうとなった。曾孫そうそん以降いこうに対たいしては、クニャージ・インペラトルスコイ・クロヴィ（Князь императорской крови(ru) / 意訳いやく：皇帝こうていの血縁けつえんの公おおやけ）の称号しょうごうが与あたえられた。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

^ ロシア語ご表記ひょうき：…царь казанский, астраханский и сибирский, великий князь смоленский, тверской, вятский и иных земель.
^ 「皇室こうしつ典範てんぱん」はロシア語ご: Учреждении об императорской фамилииの意訳いやくによる。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

^ ^a ^b ^c ^d Великий князь // ソビエト大だい百科ひゃっか事典じてん