上部じょうぶ構造こうぞう

上部じょうぶ構造こうぞう（じょうぶこうぞう、独どく: Überbau, 英えい: superstructure）は、カール・マルクスの著作ちょさく『経済けいざい学がく批判ひはん』（独どく: Zur Kritik der Politischen Ökonomie）の序言じょげん（Vorwort）等とうで提示ていじされた史的してき唯物ゆいぶつ論ろんの基本きほん概念がいねんのひとつ。それによると時代じだいの生産せいさん総体そうたいと経済けいざい（下部かぶ構造こうぞう）に規定きていされる法律ほうりつ的てき・政治せいじ的てき社会しゃかい構造こうぞうであるとされた。

概要がいよう

この生産せいさん諸しょ関係かんけいの総体そうたいが社会しゃかいの経済けいざい的てき構造こうぞう、すなわち現実げんじつ的てき基盤きばんをなしている。
この基盤きばんの上うえに法的ほうてき政治せいじ的てきな上部じょうぶ構造こうぞうが建たっており、その上部じょうぶ構造こうぞうに特定とくていの社会しゃかい的てき意識いしき形成けいせいが呼応こおうする。

カール・マルクス『経済けいざい学がく批判ひはん』（いわゆる「唯物ゆいぶつ史観しかんの公式こうしき」の一文いちぶん）

上部じょうぶ構造こうぞうは政治せいじ的てき・法制ほうせい的てきな諸しょ関係かんけいや社会しゃかい的てき意識いしきの諸しょ形態けいたい、たとえば道徳どうとく・宗教しゅうきょう・芸術げいじゅつなどのことである。これらは生産せいさん関係かんけいの総体そうたいを土台どだいとしており、その土台どだいに依存いぞんしかつ土台どだいが変化へんかするに応おうじて変化へんかすることから上層じょうそう建造けんぞう物ぶつの比喩ひゆとして「上部じょうぶ」構造こうぞうと名付なづけられている。他方たほうで、上部じょうぶ構造こうぞうが下部かぶ構造こうぞうに反作用はんさようして変化へんかをもたらす働はたらきも存在そんざいしている。この上部じょうぶ構造こうぞうという概念がいねんの発想はっそうは、唯物ゆいぶつ史観しかんから観念論かんねんろん的てきな歴史れきし観かんや政治せいじを歴史れきし的てき発展はってんの駆動くどう力りょくとみる政治せいじ史観しかん・英雄えいゆう史観しかんなどを退しりぞけ、その歴史れきし観かんを確立かくりつさせた。

ただし、マルクスの著作ちょさく中ちゅうにおいて「上部じょうぶ構造こうぞう」の語かたりは一定いっていの意味いみで用もちいられていたわけではない。『経済けいざい学がく批判ひはん』における「唯物ゆいぶつ史観しかんの公式こうしき」では政治せいじ的てき・法制ほうせい的てき制度せいどのみを上部じょうぶ構造こうぞうとしているが、『ルイ・ボナパルトのブリュメール十じゅう八はち日にち』では社会しゃかい的てき意識いしき諸しょ形態けいたいを含ふくめた一切いっさいの意識いしき表象ひょうしょうを上部じょうぶ構造こうぞうとしている。また、マルクスは一貫いっかんして「科学かがく」を上部じょうぶ構造こうぞうに含ふくめていない。

• 上部じょうぶ構造こうぞう - 社会しゃかい的てきな制度せいど・組織そしきおよび意識いしき形態けいたい（イデオロギー）。
  • 政治せいじ・法律ほうりつ
  • 道徳どうとく・宗教しゅうきょう・芸術げいじゅつ

マルクスの論ろんにおいては下部かぶ構造こうぞうと上部じょうぶ構造こうぞうの関係かんけいは直接的ちょくせつてきなものではなく、階級かいきゅう闘争とうそうに固有こゆうの推進すいしん力りょくや社会しゃかい編成へんせいの諸しょ要素ようそ間あいだの相互そうご作用さようについて強調きょうちょうしている。またフリードリヒ・エンゲルスも同様どうように上部じょうぶ構造こうぞうは相対そうたい的てきな自律じりつ性せいを持もっており、経済けいざい的てき条件じょうけんが決定的けっていてきとなる場面ばめんは「最終さいしゅう審しん級きゅう」のみであるとしている。マルクス主義まるくすしゅぎ者しゃのうち「経済けいざい中心ちゅうしん主義しゅぎ者しゃ」と呼よばれる学派がくははこのマルクスが『経済けいざい学がく批判ひはん』で示しめした定式ていしきに関かんして、あらゆる社会しゃかい編成へんせいは下部かぶ構造こうぞうによってただちに決定けっていされるもので、上部じょうぶ構造こうぞうの表象ひょうしょうは下部かぶ構造こうぞうの反映はんえいにすぎないという機械きかい論ろん的てき解釈かいしゃくを加くわえている。

廣こう松まつ渉わたるは、ヨシフ・スターリンが1950年ねんに著あらわした『マルクス主義まるくすしゅぎと言語げんご学がくの諸しょ問題もんだい』を発端ほったんとして「言語げんごや科学かがくは上部じょうぶ構造こうぞうには属ぞくさない」という説せつが有力ゆうりょくとなったことなどから、上部じょうぶ構造こうぞうはマルクス主義まるくすしゅぎ者しゃの間あいだにおいても確定かくてい的てきに定義ていぎされていないとしている。

日本にっぽんにおける文学ぶんがく論争ろんそう

1955年ねん（昭和しょうわ30年ねん）、高橋たかはし義孝よしたかは、「文学ぶんがくは上部じょうぶ構造こうぞうか」という論考ろんこうを発表はっぴょうし、文学ぶんがくは普遍ふへん的てきな人間にんげん性せいを描えがくもので、上部じょうぶ構造こうぞうとはいえないのではないかという問題もんだい提起ていきをおこなった。これは、ハンガリーの美学びがく者しゃ、ルカーチ・ジェルジの1954年ねんの論考ろんこう、『上部じょうぶ構造こうぞうとしての文学ぶんがく』に触発しょくはつされてかかれたものであった。それに対たいして、本多ほんだ秋あき五ごや小田切おだぎり秀雄ひでおたちが反論はんろんした。このとき、マルクスが『経済けいざい学がく批判ひはんへの序言じょげん』で書かいたとされる、ギリシア文学ぶんがくに対たいする言及げんきゅうが焦点しょうてんのひとつとなった。

脚注きゃくちゅう

• 柳やなぎ和久かずひさ「シンポジウム 船体せんたい振動しんどう--主しゅ機関きかん起おこり振ふ力ちからによる船体せんたい振動しんどう」『マリンエンジニアリング』第だい44巻かん第だい2号ごう、日本にっぽんマリンエンジニアリング学会がっかい、2009年ねん、219-224頁ぺーじ、doi:10.5988/jime.44.219、ISSN 13461427、NAID 130002138970、OCLC 5183084755、国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:10185241、2023年ねん8月がつ6日にち閲覧えつらん。 
• 農林水産省のうりんすいさんしょう、農村のうそん振興しんこう局きょく 整備せいび部ぶ 地域ちいき整備せいび課か「６.１ 橋梁きょうりょう用語ようご集しゅう」『農道のうどう橋きょう直営ちょくえい点検てんけんマニュアル（案あん）』、農村のうそん振興しんこう局きょく整備せいび部ぶ地域ちいき整備せいび課か、2023年ねん、62-68頁ぺーじ、2023年ねん8月がつ6日にち閲覧えつらん。 

関連かんれん項目こうもく

• 土台どだいと上部じょうぶ構造こうぞう

外部がいぶリンク

• カール・マルクス『経済けいざい学がく批判ひはん』「序言じょげん」（マルクス＝レーニン主義しゅぎ研究所けんきゅうじょ訳やく） - ARCHIVE