人間にんげんの盾たて

人間にんげんの盾たて（にんげんのたて、Human shield）とは、軍事ぐんじおよび政治せいじ用語ようごである。

概要がいよう

敵てきに、目標もくひょう物ぶつの内部ないぶあるいは周囲しゅういに民間みんかん人じんがいることを敵てきに知しらせることにより攻撃こうげきを思おもいとどまらせることをいう。また人海じんかい戦術せんじゅつによる軍事ぐんじ作戦さくせんにおいて民間みんかん人じんに兵士へいしの前まえを進すすむことを強制きょうせいし兵士へいしの安全あんぜんを図はかることもこれにあてはまる。傷病しょうびょう者しゃの状態じょうたい改善かいぜんに関かんする第だい4回かい赤十字せきじゅうじ条約じょうやく（ジュネーヴ条約じょうやく）の締結ていけつ国こくにおいて禁止きんしされている。

国際こくさい法ほうでは、人間にんげんの盾たてを使つかって軍事ぐんじ目標もくひょうを守まもることは戦争せんそう犯罪はんざいであるとみなされている。また、交戦こうせん規定きていにおいては（それを定さだめる国くにの方針ほうしんにもよるのだが）民間みんかん人じんを無む暗あんに殺傷さっしょうすることを禁止きんししているため、人間にんげんの盾たてとなっている「非ひ武装ぶそうの民間みんかん人じん」に発砲はっぽうした正規せいき軍ぐんの将兵しょうへいは軍法ぐんぽう会議かいぎにおいて裁さばかれて禁固刑きんこけいや軍ぐんからの追放ついほうに処しょせられることもあり得える。

しかし最近さいきんでは一般いっぱん市民しみんや標的ひょうてきにされる市民しみんを守まもるための反戦はんせん戦略せんりゃくとして一般いっぱん市民しみんの志願しがん者しゃ（ボランティア）が人間にんげんの盾たてを利用りようするということが増ふえている。

実施じっし例れい

• モンゴル帝国ていこくは捕虜ほりょを人間にんげんの盾たてとして使用しようした。元もと寇で日本にっぽんとの交戦こうせんでも使用しようした。
• 第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中なかにソ連それん、中国ちゅうごくが使用しようしたという実例じつれいがいくつかある。
• 同おなじく第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中なかに原爆げんばく投下とうかや日本にっぽん全国ぜんこくの空襲くうしゅうにおいて、日本にっぽん軍ぐんが軍事ぐんじ施設しせつに民間みんかん人じんを近ちかくに居住きょじゅうさせ人間にんげんの盾たてにし、沖縄おきなわ戦せんでは民間みんかん人じんを盾たてにゲリラ戦せんを行おこなったとアメリカ軍ぐんは報告ほうこくしている。
• イスラエル軍ぐんは2002年ねんのジェニンの侵攻しんこうでこの戦術せんじゅつを著いちじるしく使つかっていたということが報告ほうこくされている。
• 1994年ねん、ボスニアのセルビア人ひとによる。
• 1990年ねん、湾岸わんがん戦争せんそうによる。
• 2003年ねんのイラク侵攻しんこうの前まえに、人間にんげんの盾たてになるために志願しがんして標的ひょうてき区域くいきに入はいった者ものがいた。日本人にっぽんじんであると思おもわれる者ものでも、戦場せんじょう／環境かんきょうジャーナリストの志こころざし葉は玲れいは「ブッシュ大統領だいとうりょうや小泉こいずみ首相しゅしょうに抗議こうぎ」するためにイラクの首都しゅとのバグダードのドーラ浄水じょうすい場じょうに「人間にんげんの盾たて」として滞在たいざいしていた。
• 2009年ねん、スリランカ内戦ないせんの最終さいしゅう局面きょくめんでは反はん政府せいふ勢力せいりょくタミル・イーラム解放かいほうのトラが北部ほくぶ地域ちいきに追おいやられ、事実じじつ上じょう10万まん人にん以上いじょうの一般いっぱん市民しみんが人間にんげんの盾たて状態じょうたいとなった。これら市民しみんの多おおくは停戦ていせん期間きかん中ちゅう（4月がつ中旬ちゅうじゅん）にスリランカ側がわへ脱出だっしゅつしている。
• 2011年ねんに始はじまったシリア内戦ないせんでは、シリア、イラクの都市としを占拠せんきょしたISILが住民じゅうみんの脱出だっしゅつを許ゆるさず、シリア政府せいふ軍ぐんやシリア民主みんしゅ軍ぐんに対たいして人間にんげんの盾たてとして抵抗ていこうした。
• 2013年ねん9月9日にち、フィリピンのサンボアンガを襲撃しゅうげきしたモロ民族みんぞく解放かいほう戦線せんせんは、占領せんりょうした村むらの住人じゅうにんを人間にんげんの盾たてとして利用りようし、フィリピン軍ぐんと戦たたかった。
• 2017年ねん、フィリピンの武装ぶそう組織そしきアブ・サヤフは、フィリピン軍ぐんとの間あいだでマラウィ市内しないで市街しがい戦せんを繰くり広ひろげた際さいに、住民じゅうみんを人間にんげんの盾たてとして利用りようした。
• 2021年ねん、クーデターを起おこしたミャンマー軍ぐんは市民しみんによる武装ぶそう組織そしきとの戦闘せんとうに際さいし、既すでに拘束こうそくした市民しみんを人間にんげんの盾たてとして利用りようした。

問題もんだい点てん

パレスチナ自治じち区くでは、NGOの国際こくさい連帯れんたい運動うんどう (International Solidarity Movement, ISM) のメンバーが「人間にんげんの盾たて」として様々さまざまな活動かつどうに従事じゅうじしている。ISMは、パレスチナ人じんの家々いえいえがイスラエルのブルドーザーで破壊はかいされるのを身体しんたいを張はって阻止そしし、またパレスチナ人じんの子供こどもたちの通学つうがくへ同行どうこうしたりしている、と主張しゅちょうしている。しかし、ISMのメンバーの中なかには、志願しがんして盾たてとなり一般いっぱん市民しみんを守まもることと、イスラエル国防こくぼう軍ぐん (IDF) が、自みずからの軍事ぐんじ標的ひょうてきを守まもるために、捕とらえられたパレスチナ人じんを盾たてとして使用しようすることを、両方りょうほうとも人間にんげんの盾たてという言葉ことばを使つかって表現ひょうげんすることは不適切ふてきせつであると主張しゅちょうしている者ものもいる。

盾たてが個人こじんではなく全ぜん住民じゅうみんである場合ばあい、集団しゅうだん的てきな「人間にんげんの盾たて」として非合法ひごうほうの武装ぶそう集団しゅうだんが利用りようする。武装ぶそう集団しゅうだんは基地きちを非ひ戦闘せんとう員いんの居住きょじゅう区くにおくことで敵てきからの攻撃こうげきを防ふせぐのである。また、敵てきからの攻撃こうげきで非ひ戦闘せんとう員いんが巻まき添ぞえを食くって死傷ししょうした場合ばあい、これを宣伝せんでん（プロパガンダ）に利用りようする。

人間にんげんの盾たてを破やぶることは、ヒューミントによって人質ひとじちたる民間みんかん人じんの位置いちを特定とくていすると同時どうじに、テロ組織そしきのみを殺傷さっしょうする精密せいみつ爆ばく撃げきをもってすれば不可能ふかのうではなくなった（十分じゅうぶんなヒューミントが実施じっしできなければコラテラル・ダメージを被こうむることとなる）。

また、事前じぜんに目標もくひょうを攻撃こうげきする日時にちじを相手あいて側がわに予告よこくし、その予告よこく通どおりに攻撃こうげきをすることで「事前じぜんに日時にちじを知しらせて攻撃こうげきしているのだから、その攻撃こうげき目標もくひょうに民間みんかん人じんがいて犠牲ぎせいになるのはそちらの責任せきにんだ」と主張しゅちょうできるため、現在げんざいでは人間にんげんの盾たては意味いみがない。このためイラク戦争せんそうにてイラクは、人間にんげんの盾たてになるため入国にゅうこくした人間にんげんをスパイと見みなした（人間にんげんの盾たてにはなれないと知しりつつ、「イラク戦争せんそうを間近まぢかで見みたいという」という欲求よっきゅうのために人間にんげんの盾たてに志願しがんして入国にゅうこくする者ものもいた）。

関連かんれん項目こうもく

• 戦術せんじゅつ - 人質ひとじち（盾たて）
• 抗議こうぎ活動かつどう - 人間にんげんの鎖くさり/座すわり込こみ
• 無む防備ぼうび都市とし宣言せんげん
• 非ひ武装ぶそう地帯ちたい
• 赤十字せきじゅうじ
• ペルシウムの戦たたかい - 動物どうぶつを盾たてに用もちいた歴史れきし上じょうの例れい。ペルシア王おうカンビュセス2世せいはエジプト人じんに神聖しんせい視し（バステト信仰しんこう）されていた猫ねこを盾たてに縛しばり付つけ（あるいは象かたどり）、エジプトを征服せいふくした。