代理だいりミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐん

代理だいりミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐん（だいりミュンヒハウゼンしょうこうぐん、英えい: Munchausen syndrome by proxy、MSbP、MSP）、他者たしゃに負おわせる作為さくい症しょう（たしゃにおわせるさくいしょう）とは、自じ傷きず行為こういで病気びょうきをつくる精神せいしん疾患しっかんミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐんにおいて、傷害しょうがいの対象たいしょうが庇護ひごしている近親きんしん者しゃである精神せいしん疾患しっかん。主おもに対象たいしょうは自身じしんの子供こどもであることが多おおく、「看病かんびょう」「介護かいご」する自己じこへ周囲しゅういから同情どうじょうや称賛しょうさんが集たかっている状態じょうたいが心地ここちよいと感かんじ、虚偽きょぎ報告ほうこく・薬くすり等とうを用もちいた隠かくれた虐待ぎゃくたい行為こういをする精神せいしん疾患しっかん、医療いりょう乱用らんよう虐待ぎゃくたい（MCA）である。

代理だいりミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐんを親おやの精神せいしん疾患しっかんとして扱あつかうと虐待ぎゃくたいの一類いちるい型がたであるという理解りかいが妨さまたげられるため、「医療いりょう乱用らんよう虐待ぎゃくたい（MCA）」という用語ようごを用もちいることが提唱ていしょうされている。これは、ネグレクトのように医療いりょうを拒こばむ行為こういとは逆ぎゃくに、不要ふような医療いりょうを求もとめる状況じょうきょう全般ぜんぱんを指さしている。罹患りかん者しゃ側がわの目的もくてきは傷害しょうがい行為こうい自体じたいではなく、自分じぶんに周囲しゅういの関心かんしんを引ひき寄よせる手段しゅだんとして行いっており、自みずからの精神せいしん的てき満足まんぞくを他者たしゃから得えようとしてやっている背景はいけいがある。自分じぶんの子供こどもなど庇護ひごする者ものへの傷害しょうがい自体じたいを目的もくてきとして行いっているわけではないとはいえ、行為こういが反復はんぷく・継続けいぞくし、重じゅう篤あつしな傷害しょうがい・死亡しぼうの危険きけんがある。

疫学えきがく

「虚偽きょぎ性せい障害しょうがい」および「ミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐん」も参照さんしょう

ミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐんと同おなじく周囲しゅういの関心かんしんを自分じぶんに引ひき寄よせるためにケガや病気びょうきを捏造ねつぞうする症例しょうれいだが、その傷付きずつける対象たいしょうが自分じぶん自身じしんではなく身近みぢかの者ものに代理だいりさせるケースを代理だいりミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐんという。症例しょうれいは子こを持もつ母親ははおやに多おおく見みられ、その傷付きずつける対象たいしょうの多おおくは自分じぶんの子こであり、子こに対たいする親心おやごころの操作そうさであったり、懸命けんめいまたは健気けなげな子育こそだてを演えんじて他人たにんに見みせることによって周囲しゅういの同情どうじょうをひき、自己じこ満足まんぞくすることも挙あげられる。

アメリカでは、年間ねんかん600 - 1000件けん近ちかくのMSbP症例しょうれいがあるといわれ、その数かずは近年きんねん増加ぞうか傾向けいこうにあるという。また、シュライアー博士はかせによれば、このMSbP患者かんじゃの約やく25%が、以前いぜんに「ミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐん」を患わずらっていた事ことが知しられていると指摘してきする。

事例じれい

アメリカ

1970年代ねんだいから1980年代ねんだいにかけて、テキサス州しゅうの准じゅん看護かんご師しであるジェニーン・ジョーンズは、自身じしんが担当たんとうする乳幼児にゅうようじ60人にんあまりを殺害さつがいした疑うたがいがあるが（うち3件けんで起訴きそ）、その背景はいけいには代理だいりミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐんがあった可能かのう性せいも指摘してきされている。

1996年ねん、オハイオ州しゅうで、フロリダ州しゅうの母親ははおやが児童じどう虐待ぎゃくたいの容疑ようぎで逮捕たいほされた。難病なんびょうと闘たたかう8歳さいの少女しょうじょと、けなげな母親ははおやとして、しばしばマスメディアに登場とうじょうしていたが、実じつは、娘むすめに毒物どくぶつを飲のませたり、バクテリアを点滴てんてきのチューブに入いれたりしていた。その少女しょうじょ、ジュリー・グレゴリーは、200回かいの入院にゅういん、40回かい以上いじょうの手術しゅじゅつを受うけて、内臓ないぞうの一部いちぶを摘出てきしゅつされていた。逮捕たいほ後ご、母親ははおやには判決はんけつが下くだり、出所しゅっしょ後ごも女児じょじに接近せっきん禁止きんし令れいが下くだされ、手紙てがみのやり取とりだけで会あっていない。女児じょじはこの一連いちれんの出来事できごとを書かいた書籍しょせきを発表はっぴょうし、代理だいりミュンヒハウゼン症候群しょうこうぐんから子供こどもたちを守まもるためのライターとなった。

日本にっぽん

日本にっぽんの厚生こうせい労働省ろうどうしょうの平成へいせい20年度ねんどの統計とうけいによれば、日本にっぽんでは2008年ねん4月がつから2009年ねん3月がつまでの間あいだに心中しんちゅうの以外いがいで虐待ぎゃくたい死しした児童じどう67人にん中ちゅう4.5 %にあたる3人にんがMSbPにより死亡しぼうしている。

1998年ねん、福岡ふくおか県けん久留米くるめ市しで、1歳さい半はんの女児じょじが20代だい前半ぜんはんの母親ははおやから抗こうてんかん剤ざいを飲のまされた。嘔吐おうとや下痢げり、痙攣けいれん（けいれん）などの症状しょうじょうで入院にゅういんするが、1週間しゅうかんほどで回復かいふくし退院たいいん。ところが1ヶ月かげつ後ごに救急きゅうきゅう車しゃで病院びょういんに運はこび込こまれた。女児じょじは意識いしき障害しょうがいを起おこしていて揺ゆさぶっても目めを開あけず、発作ほっさが起おきるという母親ははおやの訴うったえで、抗こうてんかん剤ざいを少量しょうりょう投与とうよすると、いきなり血ち中ちゅう濃度のうどが高たかまり、中毒ちゅうどく状態じょうたいに陥おちいった。同おなじ薬やくを大量たいりょうに飲のまされていた可能かのう性せいが高たかかった。病院びょういんが調しらべると、母親ははおやが自分じぶんの神経痛しんけいつうで、二ふたつの病院びょういんからその薬くすりを処方しょほうされていた事ことが判明はんめい。女児じょじは他たに、水みずを1日にち2リットル以上いじょうも飲のまされていて、水みず中毒ちゅうどくによる低ていナトリウム血ち症しょうを起おこしていた。担当たんとうの医師いしは「『うちの子こ、難むずかしい病気びょうきなんでしょう』と繰くり返かえし聞きいてくる。よくいる心配しんぱい性せいなお母かあさんという感かんじだった。時ときには母親ははおやを疑うたがってみる姿勢しせいがないと、不ふ必要ひつように採血さいけつしたり、子供こどもを傷きずつけてしまうと反省はんせいした」と述のべた。

関連かんれん作品さくひん

• ジュリー・グレゴリー『Sickened 母ははに病気びょうきにされ続つづけたジュリー』竹たけ書房しょぼう文庫ぶんこ、2004年ねん1月がつ。ISBN 978-4-8124-1454-5。  - 上記じょうきであげた、女児じょじが書かいた書籍しょせき。
• 秋元あきもと康やすし『着信ちゃくしんアリ』角川書店かどかわしょてん、2003年ねん11月。ISBN 978-4-04-174514-4。 
• 知念ちねん実希みき人じん『天久あめく鷹たか央ひさしの推理すいりカルテ』第だい4話わ『オーダーメイドの毒薬どくやく』新潮しんちょう文庫ぶんこnex、2014年ねん10月がつ。
• 米国べいこくテレビドラマ「クリミナル・マインド FBI行動こうどう分析ぶんせき課か」シーズン5 第だい13話わ 『リスキーゲーム(原題げんだいRisky Business)』。

関連かんれん項目こうもく

• ミュンヒハウゼン男爵だんしゃく
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• 英雄えいゆう症候群しょうこうぐん
• 狼おおかみ少年しょうねん/ホラ吹ふき