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分裂ぶんれつのうかく

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分裂ぶんれつのうかく(ぶんれつのうかく、英語えいご: split ergativity)とは、ひとつの言語げんごにおいて、アスペクト人称にんしょうなどの条件じょうけんによってのうかく構文こうぶん対格たいかく構文こうぶんの2種類しゅるい構文こうぶん使つかいわけられることをいう。

アスペクトによる分裂ぶんれつ

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アスペクトまたは時制じせいによってのうかく構文こうぶん対格たいかく構文こうぶんかれることはおおくの言語げんごられる。この場合ばあい一般いっぱん過去かこまたは完了かんりょうのうかく構文こうぶんが、過去かこまたは完了かんりょう対格たいかく構文こうぶん出現しゅつげんする。

アスペクトによる分裂ぶんれつインド・イランのいくつかの言語げんご出現しゅつげんする。たとえばヒンディー基本きほんてき対格たいかく言語げんごだが、過去かこおよび完了かんりょうでは行為こういしゃのうかくのちおけ(ne)がくわえられ、動詞どうし人称にんしょう行為こうい対象たいしょう一致いっちする[1]

  • anitā abhī soniyā ko dekh rahī hai. アニターはこんソーニヤーをている。
  • anitā ne soniyā ko skūl mẽ dekhā thā. アニターはソーニヤーを学校がっこうた。

最初さいしょぶん完了かんりょうなのでアニターにはおけがついていない。2番目ばんめぶん完了かんりょうで、のうかくおけくわえられている[2]

グルジアでは、現在げんざいしょう対格たいかく構文こうぶん過去かこではのうかく構文こうぶん[3]

  • Švil-i ga-i-zard-a 息子むすこそだった(自動詞じどうし
  • Deda švil-s zrdi-s 母親ははおや息子むすこそだてる(現在げんざいšvil息子むすこ」に与格よかく標示ひょうじ(グルジアには対格たいかく標示ひょうじがないため与格よかく使用しようする))
  • Deda-m švil-i ga-zard-a 母親ははおや息子むすこそだてた(過去かこdeda母親ははおや」にのうかく標示ひょうじ

古代こだいマヤのう格言かくげんだったが、古典こてん後期こうきになると分裂ぶんれつのうかく現象げんしょうあらわれ、完了かんりょうではのうかく代名詞だいめいし接頭せっとう(u-)が自動詞じどうし主語しゅご使つかわれる。これは現代げんだいチョルユカテコでも同様どうようである[4]

  • ts'ib-n-ah-∅ それはかれた(完了かんりょう)。
  • u-ts'ib-n-ah-al それはかれている(完了かんりょう)。

また、叙法じょほうによっても分裂ぶんれつ条件じょうけんづけられる。ネワールでは、命令めいれいほうでは対格たいかくてき、それ以外いがいではのうかくてきである[5]シュメールのう格言かくげんだが、人称にんしょう代名詞だいめいし独立どくりつがた命令めいれいほう願望がんぼうほう、およびいくつかの分詞ぶんし構文こうぶんにおいて対格たいかくせいあらわれる[6]

人称にんしょうによる分裂ぶんれつ

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人称にんしょうによってのうかく構文こうぶん対格たいかく構文こうぶんかれることもおおくの言語げんごられる。一般いっぱんに、一人称いちにんしょう行為こうい対象たいしょうでなく行為こういしゃとしてあらわれやすく、二人称ににんしょうがそれにつぎ、ついで三人称さんにんしょう最後さいご固有名詞こゆうめいしがもっとも行為こういしゃとしてあらわれにくい。おおくの言語げんごにおいて、行為こういしゃとしてあらわれやすい人称にんしょう対格たいかく標示ひょうじとともに、行為こうい対象たいしょうとしてあらわれやすい人称にんしょうのうかく標示ひょうじとともに使つかわれる[7]

また、名詞めいしのうかくてきで、自立じりつてき代名詞だいめいし対格たいかくてきになり、自立じりつてき代名詞だいめいしはそのどちらかになるという分裂ぶんれつもある[8]

動詞どうし種類しゅるいによる分裂ぶんれつ

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言語げんごによっては自動詞じどうし動作どうさあらわすもの(活動かつどう動詞どうし)と状態じょうたいあらわすもの(中立ちゅうりつ動詞どうし)の2種類しゅるいかれる。前者ぜんしゃはまた他動詞たどうしでもありるが、その行為こうい主体しゅたい活動かつどう動詞どうし主語しゅご同形どうけいに、行為こうい対象たいしょう中立ちゅうりつ動詞どうし主語しゅご同形どうけいになる[9]。このような言語げんごのう格言かくげん対格たいかく言語げんごとはことなるだい3の類型るいけいであるかつ格言かくげんとしてあつかわれることがおお[10][11]

アメリカしゅう先住民せんじゅうみんぞく言語げんごのうち、スー語族ごぞくイロコイ語族ごぞくアラワク語族ごぞくなどにぞくするおおくの言語げんごにこの類型るいけいられる[12]

かつ格言かくげんのように自動詞じどうしが2種類しゅるいかれるわけではなく、主語しゅごによって動作どうさ制御せいぎょ可能かのうであるかどうかという意味いみちがいによってかく標示ひょうじ使つかける言語げんごがある。ディクソンはこれを「流動的りゅうどうてきS」とんでいる[13]。たとえばチベット典型てんけいてきのう格言かくげんだが、例外れいがいとして自動詞じどうし意志いし動詞どうし、とくに移動いどうあらわ動詞どうしく・る)の主語しゅごのうかく標示ひょうじ(-gis /kiʔ/)がくわえられることがあり、その場合ばあい行為こういしゃ意志いしによる行為こういであることを強調きょうちょうする[14]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ Masica (1993) p.340
  2. ^ Shapiro (2007) p.268
  3. ^ のうかく」『言語げんごがくだい辞典じてん だい6かん術語じゅつごへん三省堂さんせいどう、1995ねん、1048-1049ぺーじISBN 4385152187 
  4. ^ Bricker (2004) p.1062
  5. ^ ディクソン(2018) p.125
  6. ^ Michalowski (2004) p.22
  7. ^ ディクソン(2018) pp.104-106
  8. ^ ディクソン(2018) pp.117-120
  9. ^ ディクソン(2018) pp.88-90
  10. ^ ディクソン(2018) pp.96-97
  11. ^ 神山かみやま(2006) pp.185-188
  12. ^ ディクソン(2018) p.91
  13. ^ ディクソン(2018) p.97-98
  14. ^ Tournadre & Sangda Dorje (2003) p.145

参考さんこう文献ぶんけん

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  • R.M.W.ディクソン ちょ柳沢やなぎさわ民雄たみお石田いしだ修一しゅういち やくのうかくせい研究けんきゅうしゃ、2018ねんISBN 9784327401719 
  • 神山かみやま孝夫たかおしるしおう祖語そご母音ぼいん組織そしき研究けんきゅうようせつ試論しろん大学だいがく教育きょういく出版しゅっぱん、2006ねんISBN 9784887307186 
  • Bricker, Victoria R. (2004). “Mayan”. In Roger D. Woodard. The Cambridge Encyclopedia of the World's Ancient Languages. Cambridge University Press. pp. 1041-1070. ISBN 9780521562560 
  • Masica, Colin P. (1993) [1991]. The Indo-Aryan Languages. Cambridge University Press. ISBN 0521299446 
  • Michalowski, Piotr (2004). “Sumerian”. In Roger D. Woodard. The Cambridge Encyclopedia of the World's Ancient Languages. Cambridge University Press. pp. 19-59. ISBN 9780521562560 
  • Shapiro, Michael C. (2007) [2003]. “Hindi”. In George Cardona; Dhanesh Jain. The Indo-Aryan Languages. Routledge. ISBN 9780415772945 
  • Tournadre, Nicolas; Sangda Dorje (2003). Manual of Standard Tibetan: Language and Civilization. Snow Lion Publications. ISBN 1559391898