前ぜん鼻音びおん化か

前ぜん鼻音びおん化か（ぜんびおんか、英語えいご: prenasalized）とは、子音しいんの入はいりわたりに同どう器官きかん的てきな鼻音びおんが加くわえられることをいう。

国際こくさい音声おんせい記号きごうではしばしば上うえ付つきの記号きごうを用もちいて、[ᵐb, ⁿd, ᵑɡ]のように表記ひょうきされるが、紛まぎらわしくない場合ばあいには単たんに[mb, nd, ŋɡ]のように書かかれる。短音たんおん記号きごうを用もちいて[m̆b, n̆d, ŋ̆ɡ]と書かくこともある。

概要がいよう

前ぜん鼻音びおん化か閉鎖へいさ音おんにおいてはまず軟口蓋なんこうがいが下さげられた状態じょうたいで口くちの閉鎖へいさが形成けいせいされ、短みじかい鼻はな子音しいんが発音はつおんされた後のちに軟口蓋なんこうがいをもち上あげ、その状態じょうたいで閉鎖へいさを開放かいほうして口くち子音しいんを出だす。

前ぜん鼻音びおん化かし得える子音しいんには閉鎖へいさ音おん（破やぶ擦ず音おとを含ふくむ）と摩擦音まさつおんがあるが、ふるえ音おんも前ぜん鼻音びおん化かするかもしれない。

ほとんどの言語げんごにおいて前ぜん鼻音びおん化か子音しいんは有声音ゆうせいおんだが、（通常つうじょう有ゆう声ごえの）鼻音びおん部分ぶぶんの後のちに無声むせいの口くち子音しいんがつづく言語げんごもある。

言語げんごによっては前ぜん鼻音びおん化か子音しいんと鼻はな子音しいん+口くち子音しいんの子音しいん結合けつごうの間あいだに区別くべつがあるとされる。有名ゆうめいな例れいとしてシンハラ語ごで[laⁿda]（盲目もうもくの）と[landa]（雑木林ぞうきばやし）が区別くべつされるといわれるが、ラディフォギッドとマディソンによると音声おんせい的てきにはむしろ単たん子音しいん鼻音びおんと重じゅう子音しいん鼻音びおんの間あいだの区別くべつと考かんがえた方ほうがよいという。

中国ちゅうごく語ごの方言ほうげんの記述きじゅつなどで、鼻はな子音しいんの出だしわたりが非ひ鼻音びおん化かした音おとが[mᵇ, nᵈ]のように書かかれることがあるが、これが音声おんせい的てきに前ぜん鼻音びおん化か子音しいんと違ちがうものかどうかは調しらべられていない。

言語げんご例れい

前ぜん鼻音びおん化かはアフリカの諸しょ言語げんご（バントゥー諸語しょごなど）やオーストロネシア語族ごぞくの諸しょ言語げんごに広ひろく見みられる。

• スワヒリ語ご: ndizi（バナナ）
• フラニ語ご: waandu（サル）、-nduは名詞めいしクラスを表あらわす接尾せつび辞じ
• マルギ語ご (Margi language) : mpà（戦たたかう）、mbà（結むすぶ）
• フィジー語ご: ndala（ダール）、ndanda（やわらかい）
• 白しろモン語ご: mpe（名前なまえ）

日本語にほんごの前ぜん鼻音びおん化か

日本語にほんごのいくつかの方言ほうげんには前ぜん鼻音びおん化か閉鎖へいさ音おんが見みられる。有名ゆうめいなのは東北とうほく方言ほうげんであり、標準ひょうじゅん語ごの語かたり中ちゅうの濁音だくおんに規則きそく的てきに前ぜん鼻音びおん化か閉鎖へいさ音おんが対応たいおうする（ただしガ行ぎょうでは前ぜん鼻音びおん化か子音しいんではなく鼻音びおん[ŋ]が出現しゅつげんする）。[maⁿdo]（窓まど）、[taᵐbi]（旅たび）など。

高知こうち方言ほうげんではガ行ぎょう・ダ行ぎょうの濁音だくおんにのみ前ぜん鼻音びおん化か閉鎖へいさ音おんが対応たいおうする。[kaᵑɡami]（鏡かがみ）、[eⁿda]（枝えだ）など。ただし高年こうねん層そうにしか前ぜん鼻音びおん化か子音しいんは残のこっていない。

鼻はな子音しいん+閉鎖へいさ音おんの子音しいん結合けつごうとは異ことなって鼻音びおん部分ぶぶんは短みじかく、たとえば[eⁿda]（枝えだ）は標準ひょうじゅん語ごの[eda]と同様どうように2モーラで発音はつおんされる。なお、これらを先行せんこうする母音ぼいんの鼻はな母音ぼいん化かと記述きじゅつしているものもある。

ロドリゲス『日本にっぽん大だい文典ぶんてん』の記述きじゅつなどから、中世ちゅうせい末期まっきの日本語にほんごにおいてガ行ぎょうおよびダ行ぎょうの子音しいんは語かたり中ちゅうでは前ぜん鼻音びおん化かしていたと推測すいそくされている。