向山むかいやま黄村こうそん

向山むかいやま黄村こうそん

向山むかいやま 黄村こうそん（むこうやま こうそん、文政ぶんせい9年ねん1月がつ13日にち（1826年ねん2月がつ19日にち） - 明治めいじ30年ねん（1897年ねん）8月がつ12日にち）は、幕末ばくまつから明治めいじ時代じだいの幕臣ばくしん、漢詩かんし人じん。諱いみなは一いち履くつ、字じは欣文、通称つうしょうは栄さかえ五郎ごろう、隼人はやと正せい。海軍かいぐん中将ちゅうじょうで男爵だんしゃくの向山むかいやま慎吉しんきちは養子ようし。

人物じんぶつ・生涯しょうがい

旗本はたもと・一色いっしき仁左衛門にざえもん真ま浄きよしの三男さんなんとして江戸えどに生うまれた。父ちちの仁左衛門にざえもんも、潤沢じゅんたくな学才がくさいと広ひろい見識けんしきを備そなえた人物じんぶつであったという。幼少ようしょうの頃ころより利発りはつな人物じんぶつであったらしく、その才覚さいかくを見込みこんだ幕臣ばくしん・向山むかいやま源はじめ太夫たゆう（篤あつし、誠まこと斎とき）によって養子ようしに迎むかえられた。

はじめ千坂ちさか廉れん斎とき（古賀こが精里せいりの門人もんじん）の門人もんじんとなり、昌平しょうへい坂ざか学問がくもん所しょに入はいって学問がくもんの研鑽けんさんを積つんだ。台頭たいとうして教授きょうじゅ方かた出で役やくとなった。

養父ようふの源みなもと太夫たゆうは箱はこ館かん奉行ぶぎょう支配しはい組頭くみがしらを務つとめ、松浦まつうら武四郎たけしろうの上司じょうしとして知しられる。安政あんせい3年ねん（1856年ねん）、源みなもと太夫たゆうが樺太からふとからの帰途きと宗谷そうやで没ぼっすると、黄村こうそんは家督かとくを継つぐとともに箱はこ館かん奉行ぶぎょう支配しはい調ちょう役やくとして召めし出だされ、安政あんせい6年ねん（1859年ねん）には養父ようふの職しょくでもあった箱はこ館かん奉行ぶぎょう支配しはい組頭くみがしらとなる。このときには樺太からふとまで足あしを運はこんで測量そくりょうを行おこない、居合いあわせたロシア人じんたちと交渉こうしょうを行おこなっている。万延まんえん元年がんねん（1860年ねん）には表ひょう御ご右筆ゆうひつついで奥おく御ご右筆ゆうひつ、文久ぶんきゅう元年がんねん（1861年ねん）には外国がいこく奉行ぶぎょう支配しはい組頭くみがしら、文久ぶんきゅう3年ねん（1863年ねん）には御ご目付めつけ、慶応けいおう2年ねん（1866年ねん）には外国がいこく奉行ぶぎょうとなった。同年どうねん若年寄わかどしより格かく・駐ちゅう仏ふつ公使こうしに任命にんめいされ、徳川とくがわ昭武あきたけに随行ずいこうしてパリに渡わたり、ナポレオン3世せいにも拝謁はいえつした。

フランス政府せいふは欧州おうしゅうに5年間ねんかん留学りゅうがくの予定よていであった徳川とくがわ昭武あきたけや他たの留学生りゅうがくせいの指導しどうと教育きょういくをメルメ・カションに担当たんとうさせる予定よていであったが、向山むかいやま一いち履くつはこれに大だい反対はんたいした。理由りゆうは、カションが神父しんぷであることと、その性格せいかく（小人こども・佞人ねいじんとも言いわれていた）であった。教育きょういく係がかりからは外はずされたカションは、突然とつぜん「日本にっぽんは一種いっしゅの連邦れんぽう国家こっかであり、幕府ばくふは全権ぜんけんを有ゆうしていない」という論説ろんせつをパリの新聞しんぶんに寄稿きこうしたが、これはアーネスト・サトウやシャルル・ド・モンブランら薩摩さつま寄よりの人物じんぶつと同一どういつの主張しゅちょうであった。この論説ろんせつをフランス政府せいふも無視むしできず、結果けっかとして小栗おぐり忠順ただまさが成約せいやくしたフランスからの600万まんドル借款しゃっかんが取とり消けされてしまっている。

明治維新めいじいしん後こうは旧主きゅうしゅ徳川とくがわ家達いえさとに随従ずいじゅうして静岡しずおかに赴おもむいた。府中ふちゅう（駿府すんぷ）と呼よばれたこの町まちを「静岡しずおか」と命名めいめいしたのは黄村こうそんである。黄村こうそんは静岡しずおか学問がくもん所しょ頭取とうどりに就任しゅうにんし、後身こうしんの教育きょういくに励はげんだ。学問がくもん所しょが廃校はいこうとなった後のちは東京とうきょうに移うつり、杉浦すぎうら梅潭ばいたん、稲津いなつ南洋なんようと共ともに晩翠ばんすい吟社ぎんしゃを創立そうりつ、詩作しさくに余生よせいを費ついやした。墓所はかしょは文京ぶんきょう区く栄松えいまつ院いん。

著作ちょさくに『景けい蘇そ軒のき詩鈔ししょう』『游ゆう晃あきら小しょう草くさ』がある。

逸話いつわ

旧きゅう幕臣ばくしんによる『徳川とくがわ氏し実録じつろく』の編纂へんさんが計画けいかくされると、勝かつ海舟かいしゅうは黄村こうそんに活動かつどう資金しきんを与あたえて関係かんけい者しゃを訪たずね歩あるかせ、「実録じつろく編纂へんさんが反はん政府せいふ活動かつどうと取とられかねない」と説得せっとくする編纂へんさん阻止そし工作こうさくを行おこなわさせ、これを妨害ぼうがいした。結果けっか、この計画けいかくは実現じつげんしなかった。『氷川ひかわ清しん話ばなし』によると、勝かつ海舟かいしゅうは黄村こうそんの人ひととなりに高たかい評価ひょうかを下くだしていたという。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『江戸えど文人ぶんじん辞典じてん』 東京とうきょう堂どう出版しゅっぱん。ISBN 4490104278
• 小野寺おのでら龍太りゅうた『古賀こが謹一きんいち郎ろう―万民ばんみんの為ため、有益ゆうえきの芸事げいごと御開おひらき』ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼう、2006年ねん。ISBN 978-4623046485。 
• 萩原はぎはら延壽えんじゅ『外国がいこく交際こうさい 遠とおい崖がけ5 アーネスト・サトウ日記にっき抄しょう』朝日新聞社あさひしんぶんしゃ、2007年ねん。ISBN 978-4022615473。 
• 霞かすみ会館かいかん資料しりょう展示てんじ委員いいん会かい・編へん 『幕末ばくまつ直参じきさん旗本はたもとの軌跡きせき : 向山むかいやま源はじめ太夫たゆう・黄村こうそん父子ふし』（霞かすみ会館かいかん、1989年ねん）

関連かんれん項目こうもく

• 三田みた葆光 - 黄村こうそんの従者じゅうしゃ

外部がいぶリンク

• 『向山むかいやま黄村こうそん』 - コトバンク