国華こっか

『国華こっか』（こっか、題字だいじは旧きゅう字体じたいの國華こっか）は、日本にっぽん・東洋とうよう古こ美術びじゅつ研究けんきゅう誌しである。1889年ねん（明治めいじ22年ねん）、岡倉おかくら天心てんしんらにより創刊そうかんされた。現在げんざいも刊行かんこうが続つづく美術びじゅつ雑誌ざっしとしては世界せかいで最もっとも古ふるい雑誌ざっしの一ひとつ。現在げんざいは朝日新聞あさひしんぶん出版しゅっぱんが、美術館びじゅつかんや博物館はくぶつかん、美術びじゅつ史し研究けんきゅう者しゃら向むけに毎号まいごう800部ぶを発行はっこうしている。

概要がいよう

『国華こっか』の木版もくはん画が制作せいさく風景ふうけい

発刊はっかん

岡倉おかくら天心てんしん、高橋たかはし健三けんぞうの二人ふたりが中心ちゅうしんとなって創刊そうかん。雑誌ざっし名めいの由来ゆらいは、無む署名しょめいだが文体ぶんたいや内容ないようから天心てんしんが執筆しっぴつしたと考かんがえられる創刊そうかんの辞じの一節いっせつ「夫おっとレ美術びじゅつハ國こくノ精華せいかナリ」から取とられている。明治維新めいじいしんに伴ともなう文明開化ぶんめいかいかの風潮ふうちょうが一段落いちだんらくし、廃仏毀釈はいぶつきしゃくによる江戸えど時代じだい以前いぜんの美術びじゅつ品ひんの海外かいがい流出りゅうしゅつを憂うれえて、日本にっぽん・東洋とうよう美術びじゅつの価値かちを紹介しょうかい・啓発けいはつすることをめざした。

『国華こっか』創刊そうかん当時とうじ、既すでに『大だい日本にっぽん美術びじゅつ新報しんぽう』『絵画かいが叢くさむら誌し』などの美術びじゅつ雑誌ざっしが出版しゅっぱんされていた。ところが、『国華こっか』は採算さいさんを度外視どがいしして、1冊さつ1円えんという高価こうかな雑誌ざっしだった（当時とうじは小学校しょうがっこう教員きょういんの月給げっきゅうが5円えんの時代じだいであり、通常つうじょうの雑誌ざっしは10銭ぜに程度ていどだった）。現在げんざいの価格かかくは、通常つうじょうの号ごうが5000円えん、特集とくしゅう号ごうは最高さいこう7000円えん。

当時とうじはまだカラー写真しゃしんがなかった。美術びじゅつ作品さくひんの図版ずはん写真しゃしんでは、モノクロ写真しゃしんでも濃淡のうたんや明暗めいあんの微妙びみょうな差さを出だしやすいコロタイプを用もちいた。創刊そうかん以来いらい続つづく1ページを使つかった大判おおばんのカラーは、浮世絵うきよえの多色たしょく刷ずり技術ぎじゅつを応用おうようし、模写もしゃの色いろ別べつ木版もくはん画がを数すう十じゅう回かい刷ずり重かさねて再現さいげんした。木版もくはん画がによるカラー図版ずはんは1973年ねんまで行おこなわれた。口絵くちえの木版もくはん画がは特とく漉紙に一流いちりゅうの職人しょくにんが刷すって雑誌ざっしに付つけ、コロタイプは写真しゃしん印刷いんさつ術じゅつの第一人者だいいちにんしゃ・小川おがわ一真かずまさを起用きようしていた。

社会しゃかい的てきには高たかい評価ひょうかを受うけたが、発刊はっかん早々そうそうに資金しきん面めんで行いき詰づまった。そこで天心てんしんは、1891年ねん（明治めいじ24年ねん）、『朝日新聞あさひしんぶん』の創業そうぎょう者しゃ・村山むらやま龍平りゅうへいと上野うえの理一りいちの援助えんじょを受うけて出資しゅっし権けんと債権さいけんを二に人にんに譲ゆずり渡わたし、示談じだんの上うえで退社たいしゃした。両氏りょうしは東洋とうよう古こ美術びじゅつへの造詣ぞうけいが深ふかく、その関係かんけいで高橋たかはしとも懇意こんいになっていた。二人ふたりは「金かねは出だすが、口くちは出ださぬ」という不文ふぶん律りつを固かたく守まもり、『国華こっか』の経営けいえいを盛もり立たて続つづけた。1905年ねん（明治めいじ38年ねん）からは経営けいえいに必要ひつような資金しきんを全額ぜんがく負担ふたん、上野うえのの没後ぼつごは村山むらやま家かが単独たんどくで援助えんじょしたが、1939年ねん（昭和しょうわ14年ねん）からは朝日新聞社あさひしんぶんしゃが経営けいえいを引ひき継つぎ現在げんざいに至いたっている。

瀧たき精一せいいちと国華こっか

この間あいだ、『国華こっか』の歴史れきしに大おおきな役割やくわりを果はたしたのは高橋たかはしの甥おいにあたる瀧たき精一せいいちである。瀧たきは1898年ねん（明治めいじ31年ねん）から『国華こっか』の編集へんしゅうと経営けいえいにあたり、同年どうねんに亡なくなる高橋たかはしを継ついで『国華こっか』の発展はってんに尽つくした。瀧たきは1901年ねん（明治めいじ34年ねん）の第だい132号ごうから主幹しゅかんとなり、以後いごは1945年ねん（昭和しょうわ20年ねん）5月がつに72歳さいで亡なくなるまでの44年間ねんかん主幹しゅかんとして活躍かつやく、『国華こっか』の基礎きそを固かためた。その情熱じょうねつは、国華こっか社しゃ社屋しゃおくが関東大震災かんとうだいしんさいで全焼ぜんしょうして所蔵しょぞう原版げんばん全すべてを失うしなっても、僅わずか半年はんとし間あいだ休刊きゅうかんしただけで復刊ふっかんに漕こぎつけていることにも現あらわれている。一方いっぽう、瀧たきは天心てんしんのように同どう時代じだい美術びじゅつの改革かいかくに大おおきな熱意ねついを持もたなかったため、『国華こっか』も古こ美術びじゅつの学術がくじゅつ的てき研究けんきゅうに雑誌ざっしの性格せいかくを移うつしていった。『国華こっか』における現代げんだい美術びじゅつに関かんする記事きじは1920年ねん初はじめから数かずを減へらしており、この傾向けいこうが1930年代ねんだいから1950年代ねんだいにかけて美術びじゅつ史しの学術がくじゅつ雑誌ざっしが増ふえる呼よび水みずになったとする見解けんかいもある。

戦中せんちゅうの危機ききから現在げんざい

『国華こっか』は、太平洋戦争たいへいようせんそう末期まっきに危機ききを迎むかえる。1944年ねん（昭和しょうわ19年ねん）、戦時せんじ規制きせいにより四よん六ろく倍ばい版ばんから現在げんざいのB4規格きかく版ばんに変かえられ、企業きぎょう整備せいびのため第だい648号ごうをもって休刊きゅうかんせざるを得えなくなる。翌年よくねんには空襲くうしゅうにより社屋しゃおくの一部いちぶと写真しゃしんなどの貴重きちょうな資料しりょうを失うしない、更さらに瀧たきの死去しきょが重かさなる。しかし、1946年ねん（昭和しょうわ21年ねん）に瀧たき門下もんかの藤懸ふじかけ静也しずやを新あたらしい主幹しゅかんに迎むかえ、1年ねん4ヶ月かげつぶりに復刊ふっかん。藤懸ふじかけは戦後せんごの厳きびしい出版しゅっぱん事情じじょうの中なかで『国華こっか』の発刊はっかんを軌道きどうに乗のせた。1958年ねん（昭和しょうわ33年ねん）に急逝きゅうせいするも、その後ごも主幹しゅかん制度せいどを採とりつつ現在げんざいに至いたっている。他たに山根やまね有三ゆうぞう、辻つじ惟おもんみ雄ゆう、河野こうの元昭もとあきらが主幹しゅかんを務つとめた。

1989年ねん（平成へいせい元年がんねん）には、日本にっぽん東洋とうよう美術びじゅつに関かんする論文ろんぶんや図書としょのうち、特とくに優すぐれたものに贈おくられる「国華こっか賞しょう」を創設そうせつ。2003年ねん（平成へいせい15年ねん）、百ひゃく十じゅう数すう年ねんにわたって美術びじゅつ史し研究けんきゅうを主導しゅどうしてきた功績こうせきに対たいし菊池きくち寛ひろし賞しょうが贈おくられた。

創刊そうかん以来いらい、現在げんざいまで継続けいぞくして刊行かんこうされ続つづけている日本にっぽんでもロングセラーの月刊げっかん誌しとなっている。世界せかい的てきに見みても、現在げんざい発行はっこうを続つづけている美術びじゅつ雑誌ざっしの中なかでは最もっとも古ふるい。

『国華こっか』は2020年ねんまで約やく1万まん点てんの作品さくひんを紹介しょうかいしてきた。図版ずはんとして一いち度ど載のせた作品さくひんは再さい掲載けいさいしない「一いち載の不ふ再さい録ろく」を原則げんそくとしているが、未み紹介しょうかいや国内外こくないがいで新あらたに名品めいひんが見みつかることもあり、刊行かんこうが続つづいている。『国華こっか』名誉めいよ顧問こもんの水尾みずお比呂志ひろしは「国華こっか無尽蔵むじんぞう」と評ひょうする。海外かいがいの日本にっぽん美術びじゅつ研究けんきゅう者しゃにも参考さんこうにされており、大だい英えい博物館はくぶつかんは創刊そうかん号ごうから所蔵しょぞうしている。所在しょざい不明ふめいになったり、関東大震災かんとうだいしんさいや空襲くうしゅうなどで焼失しょうしつしたりした作品さくひんの図版ずはんは、特とくに貴重きちょうな資料しりょうとなっている。葛飾かつしか北斎ほくさいの肉筆にくひつ大だい絵馬えま『須佐すさ男おとこ之の命いのち厄神やくじん退治たいじ之の図ず』は、関東大震災かんとうだいしんさいで焼失しょうしつする前まえの1910年ねんに『国華こっか』が掲載けいさいした白黒しろくろ図版ずはんから、凸版印刷とっぱんいんさつが彩色さいしきを推定すいてい復元ふくげんして、すみだ北斎ほくさい美術館びじゅつかんに常設じょうせつ展示てんじされている。

本誌ほんしは、戦後せんごの一時期いちじき（第だい690号ごう（昭和しょうわ24年ねん（1949年ねん）9月がつ号ごう）から第だい831号ごう（昭和しょうわ36年ねん（1961年ねん）6月がつ号ごう）まで）を除のぞいて、長ながらく正せい字体じたいだった。しかし、今いまや正せい字体じたいは多おおくの日本にっぽん・東洋とうよう美術びじゅつ研究けんきゅう者しゃや愛好あいこう家かでも読よみ難がたく、特とくに若わかい世代せだいには近ちかづき難がたい紙面しめんとなったとして、第だい1428号ごう（平成へいせい26年ねん（2014年ねん）10月がつ号ごう）から新しん字体じたいに改あらためている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 河野こうの元昭もとあき「『國華こっか』百ひゃく二に十じゅう年ねんの歩あゆみ」（東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかん 國華こっか社しゃ 朝日新聞社あさひしんぶんしゃ編集へんしゅう 『創刊そうかん記念きねん『國華こっか』百ひゃく二に十じゅう年ねん・朝日新聞あさひしんぶん百ひゃく三さん十じゅう年ねん特別とくべつ展てん 「対決たいけつ─巨匠きょしょうたちの日本にっぽん美術びじゅつ」』朝日新聞社あさひしんぶんしゃ、2008年ねん7月がつ、pp.6-10）

関連かんれん項目こうもく

• 美術びじゅつ史し
• 日本にっぽん美術びじゅつ史し

外部がいぶリンク

• 國華こっか公式こうしきサイト（朝日新聞あさひしんぶん出版しゅっぱん）