山内やまうち作つくる左衛門さえもん

山やま內作左衛門さえもん肖像しょうぞう（內藤遂とげ博士はかせ蔵ぞう）

山内やまうち 作つくる左衛門さえもん（やまのうち / やまうち さくざえもん、1836年ねん9月1日にち（天保てんぽう7年ねん7月がつ21日にち） - 1886年ねん（明治めいじ19年ねん）3月21日にち）は、江戸えど時代じだいの幕臣ばくしん、明治めいじ時代じだいの実業じつぎょう家か。名なは信しんじ恭きょう。

経歴けいれき

江戸えどにおいて、旗本はたもと伊奈いな氏し家臣かしんの山内やまうち豊ゆたか城じょう（徳とく右みぎ衛門えもん）の息子むすことして生うまれる。天保てんぽう14年ねん8月がつ、父ちちが仕つかえた伊奈いな遠江とおとうみ守まもるが京都きょうとの東ひがし町奉行まちぶぎょうを命めいじられたため、山内やまうち家か一同いちどうで上京じょうきょうし、父ちちの任地にんちである京都きょうと伏見ふしみ町まち奉行ぶぎょう屋敷やしきで育そだつ。弟おとうとの山内やまうち六三郎ろくさぶろうと共ともに知ち恩おん院いんで父ちちの友人ゆうじんの画家がか・冷泉れいせん為恭ためちか（狩野かの永えい泰やすしの三男さんなん）に画がを習ならう。一家いっかが江戸えどに戻もどってからは、父ちちの畏友いゆう・前田まえだ夏蔭なつかげに国学こくがくを学まなぶ。他たの師友しゆうに藤森ふじもり弘ひろし庵あん、大橋おおはし訥庵とつあんがいる。

1858年ねん(安政あんせい5年ねん）に箱はこ館かん奉行ぶぎょう支配しはい調ちょう役やく並なみとして箱はこ館かんへ赴任ふにんする。1865年ねん（慶応けいおう元年がんねん）、29歳さいの時ときに江戸えど幕府ばくふがロシア語ご通詞つうじ・志賀しが親ちかし朋ともと箱はこ館かん駐在ちゅうざいの露ろ国こく領事りょうじヨシフ・ゴシケーヴィチの勧請かんじょうを容いれて、初はじめてロシアへ留学生りゅうがくせいを派遣はけんすることになり、当時とうじ、箱はこ館かん奉行ぶぎょう支配しはい調ちょう役やく並なみの外国がいこく係がかりを務つとめていた作さく左衛門さえもんは目付めつけ役やくとして、10代の市川いちかわ文吉ぶんきち、緒方おがた城じょう次郎じろう、大築おおつき彦五郎ろう、田中たなか次郎じろう、小沢おざわ清次郎せいじろうと9月がつ16日にちに、ロシアの軍艦ぐんかん「ポカテール」号ごうで箱はこ館かんを出帆しゅっぱんした。長崎ながさき、香港ほんこん、シンガポール、バタビア（現げんジャカルタ）、ケープタウン、セント・ヘレナ、イギリスのプリマス経由けいゆで、フランスのシェルブールに上陸じょうりく、汽車きしゃでパリ、ベルリンを経由けいゆして、翌よく1866年ねん（慶応けいおう2年ねん）4月がつ1日にちに、サンクトペテルブルク到着とうちゃく。

到着とうちゃく後ごにロシア外務省がいむしょうアジア局きょくに出頭しゅっとうし、橘たちばな耕こう斎ときと合流ごうりゅう、サンクトペテルブルク大学さんくとぺてるぶるくだいがく東洋とうよう語学ごがく部長ぶちょうで中国ちゅうごく学者がくしゃ・ワシーリエフ教授きょうじゅ下かでロシア語ごを学まなぶが、当時とうじのロシアはニコライ1世せいによるバルカン半島ばるかんはんとうなどへの南下なんか政策せいさく失敗しっぱいの直後ちょくごで、アレクサンドル2世せいの治世ちせい下かにあったが、農奴のうど解放かいほう令れい、地方ちほう自治じち制せい、司法しほう制度せいどの改革かいかく等とう、西欧せいおう文化ぶんかの輸入ゆにゅうに汲々きゅうきゅうたる時代じだいだったので外国がいこくの留学生りゅうがくせいを指導しどうするような状態じょうたいではなく、留学りゅうがく先さきで初はじめてロシアが文化ぶんか的てきに後進こうしん国こくであることを知しる。

「諸しょ学校がっこうも追おいて開盛かいせいの由よし、併此国人くにびとは万事ばんじ万物ばんぶつ他国たこくよりは不良ふりょう之のゆへ、皆みな他国たこく之のものを学まなぶ。先さき海軍かいぐんは英えいを、陸軍りくぐんは仏ほとけを、医術いじゅつは独逸どいつを学まなぶ。外国がいこくより此国に来きて何なに物ぶつても学まなぶ不ふ聞、ゆへに魯国語ごは魯国中ちゅうにて外国がいこくにては不通ふつう也。幕まく生せい衆しゅも魯渡の事ことを甚はなはだ悔あり。」と露ろ都と見学けんがく中ちゅうの森もり有礼ありのりに語かたったことが残のこっている。

1866年ねん（慶応けいおう2年ねん）6日にち10月がつに樺太からふと国境こっきょう画定かくてい交渉こうしょうの遺のこ露ろ使節しせつ団だんの代表だいひょう正使せいしとして外国がいこく奉行ぶぎょう・小出こいで秀実ひでみがロシアへ派遣はけんされたのを機きに帰国きこくが決定けっていし、1867年ねん（慶応けいおう3年ねん）3月がつに遺のこ露ろ使節しせつ団だんに随行ずいこうして帰国きこくすることになる。一いち行ぎょうは途中とちゅう、プロイセンの首相しゅしょうオットー・フォン・ビスマルクやフランス皇帝こうていナポレオン3世せいと謁見えっけんし、第だい2回かいパリ万国博覧会ばんこくはくらんかいを視察しさつ、パリ万国博覧会ばんこくはくらんかいに派遣はけんされた徳川とくがわ昭武あきたけの通訳つうやくとして随行ずいこうしていた弟おとうとの山内やまうち堤つつみ雲くもと9年ねんぶりに再会さいかいした。

結果けっか的てきに、榎本えのもと武揚ぶようら1862年ねんに開陽かいよう丸まるで向むかったオランダ留学りゅうがく組ぐみ、1866年ねんのイギリス留学りゅうがく組ぐみ、1867年ねんのフランス留学りゅうがく組ぐみのように最新さいしんの技術ぎじゅつや知識ちしきを習得しゅうとく出来できずに帰国きこくすることになり、維新いしん後ごの活躍かつやくの舞台ぶたいで不利ふりに働はたらくことになった。

帰国きこく後ご、新選しんせん組ぐみに助力じょりょくしたため、新しん政府せいふ軍ぐんによって投獄とうごくされたが、維新いしん後ごは実業じつぎょう家かに転身てんしん、横浜よこはまや東京とうきょう日本橋にほんばしで陸軍りくぐん御用ごようの薬種やくしゅ商しょうを営いとなんだ。1884年ねん（明治めいじ17年ねん）には、欧州おうしゅう留学りゅうがく時じに知しり合あった森もり有礼ありのりと東京とうきょう外国がいこく語ご学校がっこうの改廃かいはい問題もんだいに関かかわっている。

1886年ねん（明治めいじ19年ねん）3月がつ、室町むろまちの自宅じたくで51歳さいの生涯しょうがいを閉とじた。

家族かぞく

• 祖父そふ・山内やまうち信しん経けい（旗本はたもと・松平まつだいら定じょう節ぶしの家臣かしん）
• 父ちち・山内やまうち豊ゆたか城じょう
• 弟おとうと・山内やまうち堤つつみ雲くも（逓信ていしん省しょう大だい書記官しょきかん、鹿児島かごしま県知事けんちじ、初代しょだい製鉄せいてつ所しょ長官ちょうかん、澤柳さわやなぎ政太郎まさたろうの岳父がくふ、山内やまうち恭彦やすひこの祖父そふ）
• 弟おとうと・山内やまうち徳三郎とくさぶろう（地質ちしつ学者がくしゃ。農のう商務省しょうむしょう鉱山こうざん局長きょくちょう）開拓かいたく使し御用ごよう掛かけ時代じだいにベンジャミン・スミス・ライマンから地質ちしつ、測量そくりょう学がくを授さづけられ「福岡ふくおか佐賀さが長崎ながさき三さん県下けんか炭坑たんこう巡回じゅんかい報告ほうこく書しょ」を執筆しっぴつ。
• 妹いもうと・玉たま　宮原みやはら忠英ただひでの妻つま
• 妹いもうと・富とみ　幕臣ばくしん・横山よこやま敬一けいいち（外国がいこく奉行ぶぎょう支配しはい定じょう役やく）の妻つま

• 妻つま・ふさ（佐藤さとう泰然たいぜん（母方ははかた叔父おじ）の四よん女じょ）

　　佐藤さとう尚中しょうちゅう 、林はやし洞ほら海かい、松本まつもと良りょう順じゅん、林はやし董ただしは義兄弟ぎきょうだいにあたる。林はやし洞ほら海かいの娘むすめ婿むこが榎本えのもと武揚ぶよう。

• 長男ちょうなん・山内やまうち一太郎いちたろう
• 孫まごの玉枝たまえ（一太郎いちたろうの娘むすめ）は海軍かいぐん少将しょうしょう・森もり電でん三さん（黒野くろの義文よしふみの二男じなん）の妻つま。

参考さんこう文献ぶんけん

• アルフイド・バルク著ちょ、山内やまうち明あきら訳やく『東洋とうよう平和へいわの鍵かぎ シンガポール大だい根拠地こんきょち』,日本にっぽん探検たんけん協会きょうかい,1938
• 村上むらかみ一郎いちろう 著ちょ『蘭医らんい佐藤さとう泰然たいぜん : その生涯しょうがいとその一族いちぞく門流もんりゅう』、房総ぼうそう郷土きょうど研究けんきゅう会かい,1941
• 內藤遂とげ、山やま內作左衛門さえもん「幕末ばくまつロシア留学りゅうがく記き」（雄山閣ゆうざんかく）、 1968年ねん-
• 西村にしむら庚かのえ「黒野くろの義文よしふみに関かんするききその他た」『文献ぶんけん』（特殊とくしゅ文庫ぶんこ連合れんごう協議きょうぎ会かい）第だい10号ごう、1965年ねん、pp. 5-15 （『ユーラシア』1、1971年ねん、pp. 73-85 に再掲さいけい）
• 倉沢くらさわ剛つよし「幕末ばくまつ教育きょういく史しの研究けんきゅう」 第だい2巻かん（吉川弘文館よしかわこうぶんかん）、 1983年ねん
• 関せき榮次えいじ「遥はるかなる祖国そこく ロシア難民なんみんと二人ふたりの提督ていとく」（PHP研究所けんきゅうじょ）、1996年ねん
• 伊藤いとう隆たかし「日本にっぽんの内うちと外そと」（中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ）、2001年ねん
• 渡辺わたなべ雅司まさし『明治めいじ日本にっぽんとロシアの影かげ』東洋とうよう書店しょてん〈ユーラシア・ブックレット〉、2003年ねん
• 野中のなか正ただし孝こう（編著へんちょ）『東京とうきょう外国がいこく語ご学校がっこう史し - 外国がいこく語ごを学まなんだ人ひとたち』不ふ二に出版しゅっぱん、2008年ねん
• 上田うえだ正ただし昭あきら他た『日本人にっぽんじん名めい大だい辞典じてん』講談社こうだんしゃ、2001年ねん。
• 安岡やすおか昭男あきお編へん『幕末ばくまつ維新いしん大人おとな名めい事典じてん』下巻げかん、新人物往来社しんじんぶつおうらいしゃ、2010年ねん。