岩井いわい半四郎はんしろう

丸まるに三さんツ扇おうぎ

杜若かきつばた丁字ていじ

岩井いわい 半四郎はんしろう（いわい はんしろう）は、歌舞伎かぶき役者やくしゃの名跡みょうせき。屋号やごうは大和屋やまとや。定紋じょうもんは丸まるに三さんツ扇おうぎ（まるに みつおおぎ）、替紋かえもんは杜若かきつばた丁字ていじ（かきつばた ちょうじ）。定紋じょうもんの丸まるに三さんツ扇おうぎは初代しょだいの生家せいかが扇おうぎ商しょうだったことに由来ゆらいする。

解説かいせつ

「岩井いわい半四郎はんしろう」は初代しょだいから三さん代目だいめまでが上方かみがた歌舞伎かぶきで活躍かつやくする立役たちやくで、大坂おおさか岩井いわい座ざの座元ざもとも兼かねる大だい名跡みょうせきとして知しられていた。四よん代目だいめ以降いこうは系統けいとうがまったく異ことなるばかりか、後期こうき江戸えど歌舞伎かぶきから明治めいじ歌舞伎かぶきにおいて「岩井いわい半四郎はんしろう」は女形おんながたを代表だいひょうする大だい看板かんばんの一ひとつとして知しられていた。

三さん代目だいめ半四郎はんしろうは娘むすめ・おまんを四よん代目だいめ市川いちかわ團だん十郎じゅうろうの後のち添そえとして嫁とつがせていたが、宝たから暦れき10年ねんにこの娘むすめと婿むこを江戸えどに訪たずねると、そこで客死かくししてしまった。この知しらせを大坂おおさかで聞きいた初代しょだい中村なかむら富十郎とみじゅうろうは「岩井いわい半四郎はんしろう」が絶たえてしまうことを惜み、自身じしんの高弟こうていで養子ようしに迎むかえていた二代目岩井半之助にこの大だい名跡みょうせきを襲名しゅうめいさせることにした。富十郎とみじゅうろうは初代しょだい半四郎はんしろうの孫娘まごむすめを妻つまとしていた縁えんから、岩井いわい家かのことは他人事たにんごとにはできなかったのである。

これに納得なっとくできなかったのが三さん代目だいめ半四郎はんしろうを看取みとったおまつと團だん十郎じゅうろうだった。彼かれらもまた当然とうぜんのことながら「岩井いわい半四郎はんしろう」が絶たえることを憂うれい、この大だい名跡みょうせきを襲名しゅうめいするにふさわしい役者やくしゃに思おもいを廻まわらせていたのである。それは團だん十郎じゅうろうの高弟こうていで、一座いちざでは自みずからの相方あいかたとして常つねに傍かたわらに置おいていた二に代目だいめ松本まつもと七蔵しちぞうという者ものだった。團だん十郎じゅうろうにとっては自身じしんの前々まえまえ名めいを二に代目だいめとして襲名しゅうめいさせるほど目めにかけていた役者やくしゃで、一座いちざには他たに相方あいかたがつとまる女形おんながたはいなかったが、それでも本人ほんにんの将来しょうらいを考かんがえてひと働はたらきしようと決意けついした。

相談そうだんもなく養子ようしに「岩井いわい半四郎はんしろう」を襲名しゅうめいさせたことについて、團だん十郎じゅうろうからその経緯けいいを問とわれると富十郎とみじゅうろうは返答へんとうに苦慮くりょした。いかに妻つまが従姉妹いとこ同士どうしとはいえ、先代せんだいの娘むすめを妻つまにしている團だん十郎じゅうろうのい分いぶんの方ほうが筋すじが通とおる。そこで富十郎とみじゅうろうもあえて争あらそわず、養子ようしには「岩井いわい半四郎はんしろう」を返上へんじょうさせて代かわりに自身じしんの義父ぎふの名跡みょうせき「中村なかむら新五郎しんごろう」を襲名しゅうめいさせた。これをうけて團だん十郎じゅうろうは、二に代目だいめ七なな蔵ぞうを妻つま・おまつを介かいして岩井いわい宗家そうけを相続そうぞくさせたうえで、改あらためてこれに四よん代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろうを襲名しゅうめいさせたのである。

令れい和わ期きの名跡みょうせき復活ふっかつ

岩井いわい半四郎はんしろうの名跡みょうせきは10代目だいめが亡なくなったのち後継こうけい者しゃがなく、しばらく空席くうせきとなっていたが、2020年ねんに10代目だいめの娘むすめで女優じょゆう・日本にっぽん舞踊ぶよう家かの岩井いわい友見ゆみが日本にっぽん舞踊ぶようの名跡みょうせきとしてこれを継つぎ、11代目だいめを襲名しゅうめいすることを発表はっぴょう。同年どうねん5月がつに東京とうきょう・国立こくりつ劇場げきじょうで襲名しゅうめい披露ひろう公演こうえんを開ひらく予定よていであったが、新型しんがたコロナウイルス感染かんせん症しょうの世界せかい的てき流行りゅうこう (2019年ねん-)の影響えいきょうを受うけ、襲名しゅうめいを一いち年ねん延期えんきした。

岩井いわい半四郎はんしろう代だい々

• 初代しょだい 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 摂津せっつ国こく有馬ありまの人ひと、1652–99。
  • 初代しょだい岩井いわい半なかば之これ助すけ → 岩井いわい半はん太夫たゆう → 初代しょだい岩井いわい半四郎はんしろう

• 二に代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 初代しょだいの長男ちょうなん、生年せいねん不ふ詳しょう–1710頃ごろ。はじめ女形おんながた、のち立役たちやくに転てんじる。
  • 岩井いわい亀松かめまつ → 二に代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう

• （旧きゅう伝つて三さん代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう）
  • 初代しょだいの次男じなん、生年せいねん未み詳しょう-1713頃ごろ。兄あにである二に代目だいめの没後ぼつご座元ざもとと岩井いわい半四郎はんしろうの名跡みょうせきを相続そうぞく。文化ぶんか年間ねんかん頃ごろまでの資料しりょうでは岩井いわい半四郎はんしろうの代々だいだいに数かぞえられている。
  • 岩井いわい半三はんぞう郎ろう → 岩井いわい半四郎はんしろう

• 三さん代目だいめ（旧きゅう伝つて四よん代目だいめ） 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 初代しょだいの三男さんなん、1698–1760。若衆わかしゅ方かたから立役たちやくに。江戸えどの娘むすめ・おまつと婿むこ・四よん代目だいめ市川いちかわ團だん十郎じゅうろうのもとで客死かくし。
  • 岩井いわい竹松たけまつ → 三さん代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう

• 岩井いわい半四郎はんしろう（二に代目だいめ中村なかむら新五郎しんごろう）
  • 初代しょだい中村なかむら富十郎とみじゅうろうの門人もんじんから養子ようし、1747–77。
  • 中村なかむら初五郎はつごろう → 二に代目だいめ岩井いわい半なかば之の助じょ → 岩井いわい半四郎はんしろう → 二に代目だいめ中村なかむら新五郎しんごろう（天王寺屋てんのうじや）

• 四よん代目だいめ（旧きゅう伝つて五ご代目だいめ） 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 三さん代目だいめの位牌いはい養子ようし、1747–1800。実父じっぷは人形遣にんぎょうつかいの辰たつ松重まつしげ三郎さぶろう。はじめ二に代目だいめ松本まつもと幸四郎こうしろう（のちの四よん代目だいめ市川いちかわ團だん十郎じゅうろう）の門弟もんてい。岩井いわい宗家そうけを相続そうぞく。
  • 松本まつもと長松ちょうまつ → 二に代目だいめ松本まつもと七蔵しちぞう（雑司ぞうし谷屋たにや）→ 四よん代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう

• 五ご代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 四よん代目だいめの子こ、1776–1847。
  • 初代しょだい岩井いわい粂三郎さぶろう → 五ご代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう → 岩井いわい杜若かきつばた → 松下まつした庵あん永久えいきゅう（隠居いんきょ名めい）

• 六ろく代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 五ご代目だいめの長男ちょうなん、1799–1836。
  • 初代しょだい岩井いわい久次郎きゅうじろう → 二に代目だいめ岩井いわい粂三郎さぶろう → 六ろく代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう

• 七なな代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 五ご代目だいめの次男じなん、1804–45。
  • 初代しょだい岩井いわい小しょう紫むらさき → 岩井いわい松之助まつのすけ → 初代しょだい岩井いわい紫若しじゃく → 七なな代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう

• 八はち代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 七なな代目だいめの子こ、1829–82。
  • 二に代目だいめ岩井いわい久次郎きゅうじろう → 三さん代目だいめ岩井いわい粂三郎さぶろう → 二に代目だいめ岩井いわい紫若しじゃく → 八はち代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう

• 贈おく九きゅう代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう（五代目岩井粂三郎）
  • 八はち代目だいめの養子ようし・四よん代目だいめ岩井いわい粂三郎さぶろうの子こ、1882–1945。はじめ四よん代目だいめ澤村さわむら源之助げんのすけの門人もんじん。「岩井いわい半四郎はんしろう」を死後しご追贈ついぞう。
  • 岩井いわい紀おさむの丸まる → 四よん代目だいめ岩井いわい久次郎きゅうじろう → 五ご代目だいめ岩井いわい粂三郎さぶろう → 贈おく九きゅう代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう

• 十じゅう代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 日本にっぽん舞踊ぶよう花柳かりゅう流りゅうの初代しょだい花柳はなやぎ壽太郎じゅたろうの長男ちょうなん、1927–2011 。はじめ二に代目だいめ市川いちかわ猿之助えんのすけの門人もんじん。
  • 仁科にしな周しゅう芳かおる → 二に代目だいめ市川いちかわ笑えみ猿ざる（澤瀉おもだか屋や）→ 十じゅう代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう

• 十じゅう一いち代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう
  • 10代目めの実子じっしでのち贈おく九きゅう代目だいめ 岩井いわい半四郎はんしろう（五代目岩井粂三郎）家いえの養女ようじょ。
  • 岩井いわい友見ゆみ → 十じゅう一いち代目だいめ岩井いわい半四郎はんしろう