形而上けいじじょう絵画かいが

ジョルジョ・デ・キリコによる形而上けいじじょう絵画かいがの一いち例れい（Paolo Monti撮影さつえい）

形而上けいじじょう絵画かいが（けいじじょうかいが、英えい・Metaphysical painting, 伊い: Pittura Metafisica）とは、20世紀せいき初頭しょとうにジョルジョ・デ・キリコらによって提唱ていしょうされた、イタリア絵画かいがの芸術げいじゅつ動向どうこうおよび絵画かいが様式ようしき。形而上けいじじょう派は、メタフィジック絵画かいがともいい、シュルレアリスム絵画かいがの先駆せんくとされる。形而上けいじじょう絵画かいがの兆候ちょうこうはデ・キリコが1909-1910年ねん頃ごろに制作せいさくした《神託しんたくの謎なぞ》《秋あきの午後ごごの謎なぞ》にすでに見みられるが、芸術げいじゅつ動向どうこうとしては1917年ねんにフェッラーラにおけるデ・キリコとカルロ・カッラの出会であいによって生うまれ、翌年よくねんジョルジョ・モランディが加くわわり、さらにデ・キリコの弟おとうと・アルベルト・サヴィニオやフィリッポ・デ・ピシスらが同調どうちょうするが、1921年ねんには解体かいたいした。他たにマリオ・シローニがいる。

キリコの絵えには遠とおくにいる人物じんぶつと、洋裁ようさい師しのマネキンを描えがいた絵えがあるが、これは時間じかんと空間くうかんのずれの効果こうかを狙ねらったものである。アルノルト・ベックリンやマックス・クリンガーの影響えいきょうを受うけたとされ、"実際じっさいには見みることができないもの（現象げんしょう･景色けしき）を描えがく絵画かいが"と描写びょうしゃされている。アンドレ・ブルトンは、デ・キリコの形而上けいじじょう絵画かいが作品さくひんを、それが引ひき起おこす感覚かんかくゆえに高たかく評価ひょうかし、シュルレアリスムを創始そうしするときの1つの源泉げんせんとして位置付いちづけた。また、マックス・エルンスト、ルネ・マグリット、イヴ・タンギー、ポール・デルヴォー、ピエール・ロワなどへ、強つよい影響えいきょうを、場合ばあいによっては決定的けっていてきな影響えいきょうを与あたえている。

デ・キリコ、カッラ、モランディといった作家さっかは、いずれも1910年代ねんだい後半こうはんから1920年代ねんだいにかけて形而上けいじじょう絵画かいがから離はなれ、特とくにデ・キリコは（パブロ・ピカソのキュビスム時代じだいの後のちのように）一転いってんして古典こてん的てきな画風がふうの作品さくひんを描えがくようになり、ブルトンはこれに対たいして否定ひてい的てきな評価ひょうかをしている。1920年代ねんだい以降いこうになると、デ・キリコは古典こてん的てきな画風がふうの作品さくひんとともに形而上けいじじょう絵画かいがと呼よべるような作品さくひんを多数たすう制作せいさくするようになるが（特とくに1910年代ねんだいの作品さくひんと全まったく同おなじ題材だいざいの作品さくひんを多おおく制作せいさくしている）、ブルトンが高たかく評価ひょうかしなかったこともあり、1910年代ねんだいの形而上けいじじょう絵画かいが作品さくひんのみが優すぐれているという評価ひょうかをされることも多おおい。

デ・キリコの典型てんけい的てきな作品さくひんに則そくして述のべれば、形而上けいじじょう絵画かいがの特徴とくちょうとしては、主しゅとしてイタリア広場ひろばを舞台ぶたいにしつつ、下記かきのような特徴とくちょうが挙あげられる。これらの特徴とくちょうの結果けっか、作品さくひんを見みる者ものは、静謐せいひつ、郷愁きょうしゅう、謎なぞ、幻惑げんわく、困惑こんわく、不安ふあんなどを感かんじることが多おおい。

1. 画面がめんの左右さゆうで、遠近えんきん法ほうにおける焦点しょうてんがずれている。
2. 人間にんげんがまったく描えがかれていないか、小ちいさくしか描えがかれていない。
3. 彫刻ちょうこく、または、マネキンなどの特異とくいな静物せいぶつが描えがかれている。
4. 長ながい影かげが描えがかれている。作品さくひんによっては、画面がめん内ないの時計とけいが示しめしている時刻じこくと影かげの長ながさの辻褄つじつまが合あわない。例たとえば、時計とけいは、正午しょうごに比較的ひかくてき近ちかい時刻じこくを示しめしているのに、影かげがひどく長ながい、など。
5. 画面がめん内ないに汽車きしゃが描えがかれており、煙けむりを出だしているので、走はしっていると思おもわれるのに、煙けむりはまっすぐ上うえに向むかっている。

デ・キリコの作品さくひんで、形而上けいじじょう絵画かいがの嚆矢こうしとしては、1910年ねん頃ごろに制作せいさくされた下記かきの油彩ゆさい画が4作品さくひんが挙あげられることが多おおい。なお、デ・キリコの形而上けいじじょう絵画かいが作品さくひんは、1910年代ねんだいだけで100点てん以上いじょう存在そんざいする。

• 神託しんたくの謎なぞ（Enigma of the Oracle/Enigme de l'oracle）
• 秋あきの午後ごごの謎なぞ（Enigma of an Autumnal Afternoon/Enigme d'un apres-midi d'antomne）
• 時間じかんの謎なぞ（Enigma of the Hour/Enigme de l'heure）
• 自画じが像ぞう（Self Portrait (Autoportrait)/Portrait de l'artiste par lui-même(Autoportrait)）

関連かんれん項目こうもく

• キュビスム

参考さんこう文献ぶんけん

• “形而上けいじじょう絵画かいが”. コトバンク. 2019年ねん6月がつ4日にち閲覧えつらん。
• “形而上けいじじょう絵画かいが”. artscape（大日本印刷だいにほんいんさつ）. 2019年ねん6月がつ4日にち閲覧えつらん。
• Roderick Conway Morris (2007年ねん2月がつ11日にち). “De Chirico: Painting landscapes of the mind - Culture - International Herald Tribune”. NYTimes.com. 2016年ねん8月がつ閲覧えつらん。