注意ちゅうい義務ぎむ

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忠実ちゅうじつ義務ぎむから転送てんそう

注意ちゅうい義務ぎむ(ちゅういぎむ)とは、法律ほうりつじょう要求ようきゅうされる一定いってい注意ちゅういはら義務ぎむをいう。

私法しほうじょう注意ちゅうい義務ぎむ[編集へんしゅう]

注意ちゅうい義務ぎむ種類しゅるい[編集へんしゅう]

私法しほうじょう注意ちゅうい義務ぎむには善良ぜんりょう管理かんりしゃ注意ちゅうい義務ぎむぜんかん注意ちゅうい義務ぎむ)と自己じこ財産ざいさんたいするのと同一どういつ注意ちゅうい義務ぎむ自己じこのためにするのと同一どういつ注意ちゅうい義務ぎむ)がある。ぜんかん注意ちゅうい義務ぎむ自己じこ財産ざいさんたいするのと同一どういつ注意ちゅうい義務ぎむよりも程度ていどたか注意ちゅうい義務ぎむである[1]

  • 善良ぜんりょう管理かんりしゃ注意ちゅうい義務ぎむぜんかん注意ちゅうい義務ぎむ
    善良ぜんりょう管理かんりしゃ注意ちゅうい義務ぎむぜんかん注意ちゅうい義務ぎむ)とは、債務さいむしゃぞくする職業しょくぎょう社会しゃかいてき経済けいざいてき地位ちいにおいて取引とりひきじょう抽象ちゅうしょうてき平均へいきんじんとして一般いっぱんてき要求ようきゅうされる注意ちゅういをいう[2][3]。これはローマほうの「善良ぜんりょう家父かふ注意ちゅうい」に由来ゆらい[3]フランスほうの「良家りょうけちち注意ちゅうい[4]ドイツほうの「取引とりひき必要ひつよう注意ちゅうい」がこれにあたる[5]。この一般いっぱんてき客観きゃっかんてき標準ひょうじゅんもとづく程度ていど注意ちゅうい状態じょうたい抽象ちゅうしょうてきけい過失かしつ[5]あるいは客観きゃっかんてきけい過失かしつという[3]
  • 自己じこのためにするのと同一どういつ注意ちゅうい自己じこ財産ざいさんにおけると同一どういつ注意ちゅうい義務ぎむ固有こゆう財産ざいさんにおけるのと同一どういつ注意ちゅうい義務ぎむ
    行為こういしゃ自身じしん職業しょくぎょう性別せいべつ年齢ねんれいなど個々ここ具体ぐたいてき注意ちゅうい能力のうりょくおうじた注意ちゅういであり[5]、この注意ちゅうい状態じょうたい具体ぐたいてきけい過失かしつ[5]あるいは主観しゅかんてきけい過失かしつという[3]

以上いじょう抽象ちゅうしょうてきけい過失かしつ具体ぐたいてきけい過失かしつをあわせて広義こうぎけい過失かしつという[5]。これにたいして必要ひつよう注意ちゅういいちじるしく状態じょうたい重大じゅうだい過失かしつあるいは重過失じゅうかしつという[5][3]

日本にっぽん民法みんぽうじょう注意ちゅうい義務ぎむ[編集へんしゅう]

民法みんぽうじょう注意ちゅうい義務ぎむとしては民法みんぽう特定とくていぶつ債権さいけんにおける債務さいむしゃ保管ほかん義務ぎむ通則つうそくとして民法みんぽう400じょうぜんかん注意ちゅうい義務ぎむさだめ、とく注意ちゅうい義務ぎむ軽減けいげんされる場合ばあい民法みんぽう659じょうひとし)を個別こべつてき規定きていすることとしている[5]。なお、民法みんぽう400じょうぜんかん注意ちゅうい義務ぎむは2017ねん改正かいせい民法みんぽうで「契約けいやくその債権さいけん発生はっせい原因げんいんおよ取引とりひきじょう社会しゃかい通念つうねんらしてさだまる善良ぜんりょう管理かんりしゃ注意ちゅうい」と具体ぐたいされた(2020ねん4がつ1にち施行しこう)。

重大じゅうだい過失かしつ問題もんだいとなる場合ばあいとしてはつぎのようなれいがある。

  • 錯誤さくご表意ひょういしゃ重大じゅうだい過失かしつによるものであった場合ばあい民法みんぽう95じょう3こう
  • 指図さしず証券しょうけん善意ぜんい取得しゅとく民法みんぽう520じょうの5)
  • 指図さしず証券しょうけん質入しちいれ(民法みんぽう520じょうの7・520じょうの5)
  • 指図さしず債権さいけん証券しょうけん調査ちょうさ権利けんりとう民法みんぽう520じょうの10)
  • 緊急きんきゅう事務じむ管理かんり民法みんぽう698じょう
    管理かんりしゃは、本人ほんにん身体しんたい名誉めいよまた財産ざいさんたいする急迫きゅうはく危害きがいまぬかれさせるために事務じむ管理かんりをしたときは、悪意あくいまた重大じゅうだい過失かしつがあるのでなければ、これによってしょうじた損害そんがい賠償ばいしょうする責任せきにんわない。

その特別とくべつほう重大じゅうだい過失かしつ問題もんだいとなる場合ばあいとしてはつぎのようなれいがある。

  • 失火しっか責任せきにんほう
    民法みんぽうだいななひゃくきゅうじょう規定きてい失火しっか場合ばあいニハ適用てきようセスただし失火しっかしゃ重大じゅうだいナル過失かしつアリタルトキハ此ノかぎりざいラス
  • 国家こっか賠償ばいしょうほう1じょう2こう
    公務員こうむいん故意こいまた重大じゅうだい過失かしつがあつたときは、くにまた公共こうきょう団体だんたいは、その公務員こうむいんたいして求償きゅうしょうけんゆうする。

会社かいしゃ取締役とりしまりやく注意ちゅうい義務ぎむ[編集へんしゅう]

日本にっぽん会社かいしゃほう[編集へんしゅう]

取締役とりしまりやく会社かいしゃとの関係かんけい委任いにんにより規律きりつされる(会社かいしゃほう330じょう)ため、取締役とりしまりやく会社かいしゃたいぜんかん注意ちゅうい義務ぎむう(民法みんぽう644じょう準用じゅんよう)。具体ぐたいてきにはコンプライアンス義務ぎむげられる。

取締役とりしまりやく会社かいしゃたいし、ぜんかん注意ちゅうい義務ぎむのみならず忠実ちゅうじつ義務ぎむ負担ふたんする(会社かいしゃほう355じょう)。忠実ちゅうじつ義務ぎむ内容ないようとは、会社かいしゃ利益りえき犠牲ぎせいにして自己じこ利益りえきはかってはならない義務ぎむ説明せつめいされる。

忠実ちゅうじつ義務ぎむぜんかん注意ちゅうい義務ぎむ関係かんけいについては、いいかえただけとかんがえる同質どうしつせつ鈴木すずき竹雄たけお河本かわもと一郎いちろう森本もりもとしげる八幡やはた製鉄せいてつ事件じけん最大さいだいばん昭和しょうわ45ねん6がつ24にちみんしゅう24かん6ごう625ぺーじ))と、取締役とりしまりやくせられた独立どくりつ義務ぎむかんがえる異質いしつせつ田中たなか誠二せいじ前田まえだいさお北沢きたざわただしけい)がある。異質いしつせつ場合ばあい利益りえき相反あいはん取引とりひき禁止きんし会社かいしゃほう356じょう1こう2ごう・3ごう)、きおいぎょう避止義務ぎむ(356じょう1こう1ごう)、報告ほうこく義務ぎむ会社かいしゃほう357じょう)、お手盛ても禁止きんし報酬ほうしゅう規制きせい会社かいしゃほう361じょう)などは、忠実ちゅうじつ義務ぎむ具体ぐたいである。従来じゅうらい同質どうしつせつ通説つうせつてきであったが、現在げんざい異質いしつせつ有力ゆうりょくしている。

ビジネス・ジャッジメントルール[編集へんしゅう]

経営けいえい判断はんだん原則げんそくともいう。取締役とりしまりやく業務ぎょうむ執行しっこうかんする意思いし決定けっていさい適切てきせつ情報じょうほう収集しゅうしゅう適切てきせつ意思いし決定けっていプロセスをたと判断はんだんされるときには、結果けっかとして会社かいしゃ損害そんがい発生はっせいしたとしてもぜんかん注意ちゅうい義務ぎむ違反いはんわないとする原則げんそくアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく判例はんれいほうとして発展はってんし、近年きんねん日本にっぽん裁判さいばんれいにも影響えいきょうあたえているといわれる。

刑法けいほうじょう注意ちゅうい義務ぎむ[編集へんしゅう]

刑法けいほうにおける過失かしつ本質ほんしつは、注意ちゅうい義務ぎむ違反いはんであるとされる(しん過失かしつろんにおいても、結果けっか回避かいひ義務ぎむ違反いはんを「客観きゃっかんてき注意ちゅうい義務ぎむ違反いはん」とよぶことがある)。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 松尾まつおひろし民法みんぽう体系たいけい だい6はん慶應義塾大学けいおうぎじゅくだいがく出版しゅっぱんかい、263ぺーじISBN 978-4766422771 
  2. ^ 遠藤えんどうひろし編著へんちょ 『基本きほんほうコンメンタール 債権さいけん総論そうろん 平成へいせい16ねん民法みんぽう現代げんだいしん条文じょうぶん対照たいしょうていばん』 日本にっぽん評論ひょうろんしゃ別冊べっさつ法学ほうがくセミナー〉、2005ねん7がつ、7ぺーじ
  3. ^ a b c d e 我妻あづまさかえ有泉ありいずみとおる清水しみずまこと田山たやま輝明てるあき我妻あづま有泉ありいずみコンメンタール民法みんぽう 総則そうそく物権ぶっけん債権さいけん だい3はん日本にっぽん評論ひょうろんしゃ、2013ねん、699ぺーじ 
  4. ^ 遠藤えんどうひろし編著へんちょ 『基本きほんほうコンメンタール 債権さいけん総論そうろん 平成へいせい16ねん民法みんぽう現代げんだいしん条文じょうぶん対照たいしょうていばん』 日本にっぽん評論ひょうろんしゃ別冊べっさつ法学ほうがくセミナー〉、2005ねん7がつ、7ぺーじ-8ぺーじ
  5. ^ a b c d e f g 遠藤えんどうひろし編著へんちょ 『基本きほんほうコンメンタール 債権さいけん総論そうろん 平成へいせい16ねん民法みんぽう現代げんだいしん条文じょうぶん対照たいしょうていばん』 日本にっぽん評論ひょうろんしゃ別冊べっさつ法学ほうがくセミナー〉、2005ねん7がつ、8ぺーじ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 森田もりたあきら取締役とりしまりやく執行しっこうやくぜんかん注意ちゅうい義務ぎむ忠実ちゅうじつ義務ぎむ」 (『会社かいしゃほう争点そうてん』(有斐閣ゆうひかく、2009ねん)138ぺーじ

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]