抑止よくし力りょく

抑止よくし力りょく（よくしりょく、英えい: deterrence）とは、抑止よくしする力ちからであり、つまり相手あいてに有害ゆうがいな行動こうどうを思おもいとどまらせる力ちから、作用さよう。なにかをしようと思おもっている者ものにそれを行おこなうことを思おもいとどまらせる力ちから。やろうかと思おもっている活動かつどうをやめさせる力ちから。

安全あんぜん保障ほしょうにおける抑止よくし力りょく

安全あんぜん保障ほしょう分野ぶんやで抑止よくし力りょくは、一方いっぽうが他方たほうに軍事ぐんじ力りょくの行使こうしを行おこなえば、被ひ攻撃こうげき国こくは攻撃こうげき国こくに報復ほうふく攻撃こうげきを行おこない、攻撃こうげき国こくは利得りとくに見合みあわない損害そんがいを被こうむることをあらかじめ明白めいはくに認識にんしきさせることで、軍事ぐんじ力りょく行使こうしを思おもいとどまらせることを言いう。抑止よくし力りょくにはさまざまな形かたちがあるものの、その中核ちゅうかく部分ぶぶんは、相手あいてに恐怖きょうふを与あたえる威嚇いかくであり、報復ほうふくの脅おどしによる「懲罰ちょうばつ的てき抑止よくし」である。相手あいて国こくが望のぞましくない行動こうどうをすることを思おもいとどまらせて、現状げんじょうを維持いじし変更へんこうさせないことを目的もくてきとする。

抑止よくし力りょくが成立せいりつするには、次つぎの3つの要件ようけんを満みたしている必要ひつようがある。

1.相手あいてが耐たえがたいまたは受うけ入いれがたい効果こうか的てきな報復ほうふく攻撃こうげきの能力のうりょく

2.相手あいてに対たいする報復ほうふくの意思いしの明示めいじ

3.相手あいてに1および2を信憑しんぴょう性せいをもって伝達でんたつし、相手あいてがそれらを認識にんしきし信頼しんらいすること

具体ぐたい例れい

日にち米べい韓かん3ヶ国かこくと北朝鮮きたちょうせんの例れい

• 北朝鮮きたちょうせんに対たいする日ひ米べい韓かん3ヶ国かこくの抑止よくし力りょく - 日にち米べい韓かん3ヶ国かこく側がわは、通常つうじょう戦力せんりょくの優位ゆうい性せいを北朝鮮きたちょうせんに示しめし、またアメリカの核かく戦力せんりょくも明示めいじすることで、北朝鮮きたちょうせんが大だい規模きぼな挑発ちょうはつ的てき軍事ぐんじ行動こうどうに出でることを思おもいとどまらせる作用さようを維持いじしている
• アメリカに対たいする北朝鮮きたちょうせんの抑止よくし力りょく - 北朝鮮きたちょうせん側がわは、同様どうように、核かく・ミサイルによる攻撃こうげき能力のうりょくや局地きょくち戦せん能力のうりょくの高たかさを宣伝せんでんすることで、アメリカが北朝鮮きたちょうせんに対たいして軍事ぐんじ介入かいにゅうすることを思おもいとどまらせる作用さようを成なりたせようとしている。2017年ねんにアメリカのマティス国防こくぼう長官ちょうかんが記者きしゃ会見かいけんで「北朝鮮きたちょうせん問題もんだいを軍事ぐんじ的てきに解決かいけつしようとすれば、想像そうぞうを絶ぜっする規模きぼの悲劇ひげきが生しょうじる」と指摘してきしたが、これは北朝鮮きたちょうせんの報復ほうふく能力のうりょくへの一定いっていの理解りかいを背景はいけいにした発言はつげんである。

両方りょうほうとも上述じょうじゅつの「抑止よくし力りょくの3条件じょうけん」の維持いじあるいは成立せいりつに取とり組くんでいる。

インドとパキスタンの例れい

• インドは1974年ねんに、パキスタンは1998年ねんに核かく実験じっけんを行おこない、両国りょうこくとも核保有かくほゆう国こくとなり互たがいに報復ほうふくを恐おそれ核兵器かくへいきの使用しようは行おこなっていない。なお小規模しょうきぼ紛争ふんそうを抑止よくしすることはできず、2000年代ねんだいに入はいっても両国りょうこくの紛争ふんそうは続つづいた

「インド・パキスタン関係かんけい」も参照さんしょう

参考さんこう文献ぶんけん

• 神保じんぼ謙けん (2017年ねん5月がつ31日にち). “抑止よくし力りょく成立せいりつの３条件じょうけん: 報復ほうふく能力のうりょく・意思いしと相手あいての理解りかい”. キャノングローバル戦略せんりゃく研究所けんきゅうじょ. 2023年ねん9月がつ6日にち閲覧えつらん。
• 後こう瀉桂かつら太郎たろう「抑止よくし概念がいねんの変遷へんせん: 多層たそう化かと再さい定義ていぎ」『海うみ幹みき校こう戦略せんりゃく研究けんきゅう』第だい5巻かん第だい2号ごう、海上かいじょう自衛隊じえいたい幹部かんぶ学校がっこう、2015年ねん12月、ISSN 21871868。 
• 山本やまもと哲史てつし「抑止よくし理論りろんにおける認知にんちについて」『エア・アンド・スペース・パワー研究けんきゅう』第だい7巻かん、航空こうくう自衛隊じえいたい幹部かんぶ学校がっこう、2021年ねん3月がつ、ISSN 24362395。 

関連かんれん項目こうもく

• 罰ばっ、制裁せいさい、脅おどし
• 核かく抑止よくし力りょく
• Massive Ordnance Air Blast bomb - 核兵器かくへいきはいろいろな意味いみで被害ひがいが大おおきすぎて使つかえない、ということで開発かいはつされた爆ばく弾だん。核兵器かくへいきではないので放射能ほうしゃのう汚染おせんは無なく実際じっさいに使つかえるが、猛烈もうれつな破壊はかい力りょくを持もつ爆ばく弾だん。
• ダイナマイト - 発明はつめい者しゃのアルフレッド・ノーベルは強力きょうりょくな爆ばく弾だんであるため、各国かっこくが使用しようを躊躇ちゅうちょし戦争せんそう抑止よくしになると期待きたいしていたが、実際じっさいには戦争せんそうの激化げきかを招まねいた。
• 敵てき基地きち攻撃こうげき能力のうりょく
• サダム・フセイン - 報復ほうふく力りょく、抑止よくし力りょくを持もたず米国べいこくに滅ほろぼされた。
• ムアンマル・アル＝カッザーフィー -報復ほうふく力りょく、抑止よくし力りょくを持もたず米国べいこくに滅ほろぼされた。
• チベット - 報復ほうふく力りょく、抑止よくし力りょくを持もたず中国共産党ちゅうごくきょうさんとうにすっかり侵略しんりゃくされた。
• 台湾たいわん - 大陸たいりくの中国共産党ちゅうごくきょうさんとう側がわから侵略しんりゃくのターゲットにされつづけている。現状げんじょうは台湾たいわん単独たんどくでは十分じゅうぶんな報復ほうふく能力のうりょくつまり抑止よくし力りょくを持もたず、米国べいこくや日本にっぽんが中国ちゅうごくに対たいするしっかりとした報復ほうふく能力のうりょくつまり強烈きょうれつな攻撃こうげき能力のうりょくを持もち、もし台湾たいわんを侵略しんりゃくすれば中国ちゅうごくの中枢ちゅうすうに対たいして報復ほうふくするとの意思いしも明示めいじすることで抑止よくし力りょくを持もたないと、2025年ねん～2026年ねん前後ぜんこうには台湾たいわんは中国ちゅうごくによって侵略しんりゃくされ半導体はんどうたい生産せいさんなども中国ちゅうごくに握にぎられてしまう、と米国べいこくの分析ぶんせき官かんなどから指摘してきされている。
• アメリカ同時どうじ多発たはつテロ事件じけん - イスラーム側がわからの米国べいこくに対たいする報復ほうふく能力のうりょくの明示めいじと意思いしの明示めいじ。米国べいこくの軍事ぐんじ展開てんかい（イスラーム側がわから見みた侵略しんりゃく）に対たいする抑止よくしの試こころみ。
• 新あたらしい戦争せんそう - 近年きんねんの戦争せんそうは国家こっか対たい国家こっかという枠わくにはおさまらない、という指摘してきを含ふくんだ概念がいねん。古典こてん的てきな抑止よくしの仕組しくみからはずれている。