招魂しょうこん祭さい

宮中きゅうちゅう祭祀さいしの主要しゅよう祭儀さいぎ一覧いちらん

四方拝しほうはい・歳旦さいたん祭さい

元始げんし祭さい

奏そう事始ことはじめ

昭和しょうわ天皇てんのう祭まつり（先帝せんてい祭さい）

孝明天皇こうめいてんのう例祭れいさい（先帝せんてい以前いぜん三さん代だいの例祭れいさい）

祈年祭としごいのまつり

天てん長ちょう祭さい（天長節てんちょうせつ祭さい）

春季しゅんき皇霊こうれい祭さい・春季しゅんき神殿しんでん祭さい

神武じんむ天皇てんのう祭さい・皇霊こうれい殿どの御神楽みかぐら

香こう淳じゅん皇后こうごう例祭れいさい（先さき后きさきの例祭れいさい）

節ふし折おり・大祓おおはらい

明治天皇めいじてんのう例祭れいさい（先帝せんてい以前いぜん三さん代だいの例祭れいさい）

秋季しゅうき皇霊こうれい祭さい・秋季しゅうき神殿しんでん祭さい

神嘗祭かんなめさい

新嘗祭にいなめさい

賢所かしこどころ御神楽みかぐら

大正天皇たいしょうてんのう例祭れいさい（先帝せんてい以前いぜん三さん代だいの例祭れいさい）

節ふし折おり・大祓おおはらい

招魂しょうこん祭さい（しょうこんのまつり）は日本にっぽんの陰陽いんよう道どう・中国ちゅうごくの道教どうきょうで行おこなわれる祭祀さいし・呪術じゅじゅつのひとつ。宮中きゅうちゅうでも行おこなわれた。

近代きんだいに新あたらしく招魂しょうこん社しゃ・靖国神社やすくにじんじゃなどで死者ししゃに対たいして始はじめられた「招魂しょうこん祭さい」（しょうこんさい）については靖国神社やすくにじんじゃ参照さんしょう。

概略がいりゃく

日本にっぽんの陰陽いんよう道どうでは衰弱すいじゃくしている生いきた人間にんげんの活性かっせい化かのため、中国ちゅうごくの道教どうきょうでは死者ししゃの霊魂れいこんの離散りさん防止ぼうしのためとして行おこなわれる。神道しんとうの生者しょうじゃ・死者ししゃの双方そうほうに対たいする鎮魂ちんこん祭さいとは別べつのものである。

日本にっぽんの陰陽いんよう道どう

平安へいあん時代じだいの中頃なかごろから貴族きぞく社会しゃかいに浸透しんとうした。初はつ見みは『小しょう記き目録もくろく』第だい8巻かん「御ご祭事さいじ付づけ解除かいじょ」の「永えい延のべ二に年ねん十じゅう月がつ十じゅう一いち日にち招魂しょうこん祭さい時じ」という記述きじゅつ。「永えい延のべ二に年ねん」は988年ねん。人ひとには「魂たましい」というものがあると信しんじられ、熟睡じゅくすいしたり悩なやみ事ごとに屈託くったくしたときには衰弱すいじゃくした肉体にくたいからその「魂たましい」が遊離ゆうりすると考かんがえられていた。そのため、病気びょうきやお産さんなどの際さいに身体しんたいから遊離ゆうりした魂たましいを屋根やねの上うえで衣ころもを振ふるなどして招まねき戻もどす祭祀さいしを行おこなった。生者しょうじゃに対たいして行おこなう祭祀さいしであり、死者ししゃに対たいして行おこなうことは禁止きんしされていた。禁きんを破やぶった者ものは罰ばっせられた（『左ひだり経けい記き』1025年ねん8月がつ23日にち条じょう）。1025年ねん8月がつの藤原ふじわら嬉うれし子この死去しきょに際さいし陰陽いんよう師しの中原なかはら恒ひさし盛もりは招魂しょうこん祭さいを行おこない、祓はらいを科かせられそうになったという。日本にっぽんの陰陽いんよう道どうでは死者ししゃに対たいしては行おこなわない点てんが中国ちゅうごくの道教どうきょうとの大おおきな相違そうい点てんである。これについては、平安へいあん時代じだい前期ぜんきより、陰陽いんよう寮りょうの職掌しょくしょうが拡大かくだいして神祇官じんぎかんの職掌しょくしょうとも被こうむるようになり、神祇官じんぎかんが扱あつかう神道しんとうの死しや穢けがれに対たいする忌避きひが陰陽いんよう道どうの世界せかいにも入はいり込こんだために陰陽いんよう師しが生死せいしに関かかわる問題もんだいに関かかわる事ことが禁きんじられたと説明せつめいされている（例たとえば、病気びょうきの原因げんいんを怨霊おんりょうや物もの怪のけによるものだと占うらなったとしても、そこから先さきは僧侶そうりょの加持かじ祈祷きとうに任まかせるなど）。ただし、これは所謂いわゆる官かん人じんの陰陽いんよう師しに関かんする話はなしで、民間みんかんにおける活動かつどうでは陰陽いんよう師しが物もの怪のけを祓はらう事例じれいもあるため、民間みんかんの陰陽いんよう師しにまで徹底てっていされていたのかは不明ふめいである（また、招魂しょうこん祭さいは別べつとしても11世紀せいき後半こうはんには貴族きぞく社会しゃかいでも怨霊おんりょうや物もの怪のけの排除はいじょに陰陽いんよう師しが関かかわるようになる）。

用例ようれいと鎮魂ちんこん祭さいとの混同こんどう・区別くべつ

用語ようごとしては『日本書紀にほんしょき』巻まき第だい29、天武天皇てんむてんのう14年ねん11月24日にち（丙へい寅とら）条じょうに「是ぜ日び為ため天皇てんのう招魂しょうこん之これ」とあるが、『釈しゃく日本にっぽん紀き』巻まき21秘ひ訓くん6 はこの「招魂しょうこん」を「ミタマフリス」と訓くんじ、同どう書巻しょかん15、述じゅつ義ぎ11では「今こん鎮魂ちんこん祭さい也」として、『日本書紀にほんしょき』の「招魂しょうこん」の記述きじゅつを「鎮魂ちんこん祭さい」のこととしている。伴ばん信友のぶともも『鎮魂ちんこん伝でん』で「例れいの漢かんざまに傚ひて、招魂しょうこんと書しょなされたるもの」 としている。伴ばん信友のぶともはまた「比ひ古こ婆ばば衣ころも」第だい20巻かんで「後醍醐天皇ごだいごてんのう日にち中ちゅう行事ぎょうじに、日毎ひごとせうこんの御祭おまつり、今いまは定さだまれる事ことなり、とあるせうこんは招魂しょうこんにて、こは鎮魂ちんこんにはあらず、陰陽いんよう家かにて別べつに招魂しょうこん祭さいとて為なる方ほうなるべし」 と述のべて、招魂しょうこん祭さいと鎮魂ちんこん祭さいとの区別くべつを明確めいかくにしている 。

中国ちゅうごくの道教どうきょう

道教どうきょうでは死者ししゃに対たいしても招魂しょうこん祭さいを行おこなう。但ただし、復活ふっかつの儀式ぎしきではない。たとえば紀元前きげんぜんの戦国せんごく時代じだいの『楚すわえ辞じ』には宋そう玉だまの「招魂しょうこん篇へん」では罪つみなく奸人に追おわれて死しんだ屈こごめ原はらを偲しのび、その魂たましいの離散りさんを恐おそれ、呼よび戻もどす為ために行おこなわれている。『楚すわえ辞じ』九きゅう歌うたの「国くに殤」には「身み既すでに死しして神かみ以もって霊れい・魂魄こんぱく毅あつしとして鬼おに雄ゆうとなる」とある。現在げんざいでも死しんでから1～3年ねん後ごに常設じょうせつの「神主かんぬし（しんしゅ）」（儒教じゅきょうでも用もちいる。仏教ぶっきょうの位牌いはいにあたるもの。）に名前なまえを記しるし、新あらたな先祖せんぞとして祀まつる。すると、一種いっしゅの鬼おにでありつつ、子孫しそんの幸福こうふく・安全あんぜんを守まもる先祖せんぞとなるとされる。

関連かんれん項目こうもく

• 鎮魂ちんこん
• 鎮魂ちんこん祭さい
• 招魂しょうこん社しゃ
• 御ご招霊

参考さんこう文献ぶんけん

• 岩波書店いわなみしょてん版ばん『日本にっぽん史し辞典じてん』（CD-ROM版ばん、2000年ねん）。
• 折口おりぐち信夫しのぶ『万葉集まんようしゅう辞典じてん』1919年ねん1月がつ、文ぶん会堂かいどう書店しょてん。所収しょしゅう、『折口おりぐち信夫しのぶ全集ぜんしゅう』第だい11巻かん、1996年ねん1月がつ、中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ。
• 『国史こくし大だい辞典じてん』1986年ねん、吉川弘文館よしかわこうぶんかん。
• 野口のぐち鉄郎てつおほか編へん『道教どうきょう事典じてん』1994年ねん、平河ひらかわ出版しゅっぱん社しゃ。
• 坂出さかいで祥さち伸しん編へん『「道教どうきょう」の大だい事典じてん』1994年ねん、新人物往来社しんじんぶつおうらいしゃ。
• 渡辺わたなべ勝義まさよし『鎮魂ちんこん祭さいの研究けんきゅう』名著めいちょ出版しゅっぱん、1994年ねん。