捕食ほしょく寄生きせい

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捕食ほしょく寄生きせい(ほしょくきせい)とは、生物せいぶつられる寄生きせいひとつのかたで、寄生きせいしゃ宿主しゅくしゅかならころしてしまう寄生きせいのことである。昆虫こんちゅうれいおおい。

概説がいせつ[編集へんしゅう]

寄生虫きせいちゅうなどとえば、宿主しゅくしゅ深刻しんこくがいあたえる存在そんざいであるとかんがえられがちであるが、かならずしもそうではない。たとえば、体長たいちょうかずmにもたっするサナダムシ場合ばあいは、宿主しゅくしゅには軽微けいび被害ひがいしかあたえていない場合ばあいおおい。むしろ、宿主しゅくしゅ被害ひがいあたえると、寄生きせいしゃ自身じしん生活せいかつ生命せいめいあやうくするから、被害ひがいすくなくする方向ほうこう進化しんかしたものが目立めだつ。

これが寄生きせいバチ場合ばあいでは、おや宿主しゅくしゅ産卵さんらんすると幼虫ようちゅう宿主しゅくしゅ栄養えいようって成長せいちょうし、成長せいちょうするとそのからだして成虫せいちゅうになるが、そのさい宿主しゅくしゅからだくしてしまうれいおおい。そこで、これを一般いっぱん寄生きせい区別くべつする場合ばあいに、より捕食ほしょくちか寄生きせいという意味いみで、これを捕食ほしょく寄生きせいぶ。このかたり英語えいごのparasitoidの意訳いやくであるが、直訳ちょくやくてき意味合いみあいとしてはむしろ「寄生きせいたもの」にちかい。この術語じゅつごはO.M.Meuter(1913)の造語ぞうごである。

一般いっぱんてき寄生きせいしゃ場合ばあいにも、宿主しゅくしゅいたらしめるほど健康けんこう被害ひがいをもたらすものもあるが、捕食ほしょく寄生きせいしゃ場合ばあいかなら宿主しゅくしゅころす。その寄生きせいしゃ生活せいかつのある段階だんかいるためには宿主しゅくしゅころ必要ひつようがあるということである。

しん寄生きせいしゃなか宿主しゅくしゅころしてしまうものがある、とく寄生きせいしゃ中間ちゅうかん宿主しゅくしゅからおわり宿主しゅくしゅ移行いこうするときに後者こうしゃ前者ぜんしゃ捕食ほしょくする必要ひつようがある場合ばあいには、健康けんこう被害ひがいのみならず寄生きせいしゃ宿主しゅくしゅ行動こうどう制御せいぎょして捕食ほしょくされやすくすることもすくなくないということがられる一方いっぽうで、後述こうじゅつのように捕食ほしょく寄生きせいしゃ仲間なかま宿主しゅくしゅ器官きかん一部いちぶだけをくすがかならずしも個体こたいいのちうばうわけではないものもある。このため両者りょうしゃ連続れんぞくしている側面そくめんがあり、捕食ほしょく寄生きせいしん寄生きせい区別くべつしない立場たちばもある。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

捕食ほしょく寄生きせいのものには、以下いかのような特徴とくちょうがある。

  • 寄生きせいしゃ宿主しゅくしゅおおきさのちいさい。普通ふつう寄生きせいでは、宿主しゅくしゅからだ関係かんけいじょう寄生きせいしゃおおきさは宿主しゅくしゅよりずっとちいさいのが普通ふつうだが、それほどがないことがおおい。
  • 成体せいたい自由じゆう生活せいかつをする。宿主しゅくしゅころ以上いじょう繁殖はんしょくおこなからだ自由じゆう生活せいかつでなければならない。
  • 成体せいたい寄生虫きせいちゅうによくある体制たいせい退化たいかられない。ただし、口器こうき消化しょうかけい退化たいかする場合ばあいはある。

もっとも、ふたつの特徴とくちょうは、普通ふつう寄生きせいしゃにもられることがある。また、寄生きせいバチのコバチるいコマユバチ一部いちぶのように宿主しゅくしゅよりはるかにちいさいこともすくなくないが、その場合ばあい最終さいしゅうてき1個いっこからだ宿主しゅくしゅから脱出だっしゅつしてくる寄生きせいしゃ個体こたいすう非常ひじょうおおくなり、そのバイオマス総量そうりょう宿主しゅくしゅのバイオマスにして非常ひじょうおおきなものとなる。

具体ぐたいれい[編集へんしゅう]

動物どうぶつ寄生きせいせい寄生きせいバチのだい部分ぶぶんはこのれいたる。寄生きせいバエにもそのれいおおいが、ヤドリバエのカマキリヤドリバエのように宿主しゅくしゅたいして寄生きせいしゃからだサイズがかなりちいさい場合ばあいや、おなのヒラタヤドリバエ一部いちぶのように幼虫ようちゅうおもカメムシ生殖せいしょくせん摂食せっしょくするため生命せいめい維持いじ必要ひつよう組織そしき損傷そんしょうすくない場合ばあいには、宿主しゅくしゅ生命せいめいうばうにいたらない場合ばあいがある。それらのだい部分ぶぶん昆虫こんちゅう宿主しゅくしゅとするが、クロバエOnesiaぞくのようにミミズに寄生きせいするハエや、やはりクロバエのコクロバエのように陸生りくせい貝類かいるいカタツムリナメクジ)に寄生きせいするハエなど、昆虫こんちゅう以外いがい宿主しゅくしゅたいして捕食ほしょく寄生きせいおこなれいられる。ヒツジバエヒフバエのように哺乳類ほにゅうるい皮下ひか組織そしき粘膜ねんまく寄生きせいするハエもあるが、これは普通ふつう寄生きせいであって宿主しゅくしゅころすわけではない。ただし、クロバエラセンウジバエトウヨウラセンウジバエでは人畜じんちく傷口きずぐち幼虫ようちゅう集団しゅうだんんで組織そしきにひどい損傷そんしょうあたえるため、宿主しゅくしゅいたらしめることもすくなくない。

なお、ツチハンミョウやヤドリニクバエるいなどりバチやハナバチ寄生きせいするものでは、寄生きせいしゃはしばしば宿主しゅくしゅたまご幼虫ようちゅうくすが、それだけでは成長せいちょうまっとうするには不十分ふじゅうぶんで、宿主しゅくしゅおやたくわえたえさ麻酔ますいされている獲物えもの花粉かふん団子だんご)をべて成長せいちょう完了かんりょうする。幼虫ようちゅう生存せいぞんできない寄生きせいであるてんでは捕食ほしょく寄生きせいおなじであるが、宿主しゅくしゅおや幼虫ようちゅうのためにえさたくわえた寄生きせいがたのハナバチや、きんえんのアリのって奴隷どれいするサムライアリなどとともに、労働ろうどう寄生きせい分類ぶんるいされることがおおい。

また、幼虫ようちゅう宿主しゅくしゅたまごかたまりさなぎしつまゆ侵入しんにゅうしてたまごさなぎくして成長せいちょうする、というかた生活せいかつをもつものがあり、マメハンミョウ宿主しゅくしゅバッタ)やミイデラゴミムシ宿主しゅくしゅケラ)、カマキリモドキ宿主しゅくしゅ日本にっぽん確認かくにんされているたねではクモ)などのれいがある。これも寄生きせいなす場合ばあいおおく、その場合ばあいにはこれも捕食ほしょく寄生きせいてきであるが、この範疇はんちゅうふくめるかどうかは意見いけんかれる。

微生物びせいぶつれい[編集へんしゅう]

寄生きせいせい微生物びせいぶつ宿主しゅくしゅころすものはむしろ病原びょうげんたいわれるが、捕食ほしょく寄生きせいであるとわれるれいもある。たとえばハエカビ昆虫こんちゅう体内たいない増殖ぞうしょくし、昆虫こんちゅうぬと内部ないぶには休眠きゅうみん胞子ほうし形成けいせいし、そとけてはぶん生子いくこつくるようになる。またふゆちゅうなつくさるいはやはり昆虫こんちゅう寄生きせいし、ころしたのち体外たいがい実体じったい形成けいせいする。これらは宿主しゅくしゅころすことで生活せいかつたまき完了かんりょうできるから、捕食ほしょく寄生きせいてきえる。よりそれらしいのは、トリモチカビゼンマイカビで、アメーバなどの微生物びせいぶつ寄生きせいするものだが、普通ふつう宿主しゅくしゅいち個体こたいひとつだけが寄生きせいし、その内部ないぶ渦巻うずまいたきんたい形成けいせいし、外部がいぶ胞子ほうしつくる。

実際じっさいてき差異さい[編集へんしゅう]

このようなかた寄生きせい生物せいぶつは、いくつかのてん一般いっぱんてき寄生きせい生物せいぶつとはことなった特徴とくちょうをもつ。普通ふつう寄生虫きせいちゅう宿主しゅくしゅころさないので、かならずしも宿主しゅくしゅ天敵てんてきとしては機能きのうしない(生殖せいしょく能力のうりょくうしなれいはある)。たとえば害虫がいちゅう防除ぼうじょのために天敵てんてき利用りようする場合ばあい病原菌びょうげんきんかこのような捕食ほしょく寄生きせいのものがよく使つかわれる。通常つうじょう寄生虫きせいちゅうではこのような効果こうか期待きたいできない。

生態せいたいがく群集ぐんしゅうたねあいだ関係かんけいかんがえる場合ばあいも、このふたつを区別くべつしてかんがえる必要ひつようがあることもある。たとえば食物しょくもつ連鎖れんさかんがえる場合ばあい一般いっぱん寄生きせいしゃ宿主しゅくしゅ関係かんけいは、捕食ほしょくしゃしょくしゃとの関係かんけいとはなせない。寄生きせいしゃ宿主しゅくしゅだけをればたしかに栄養えいよう宿主しゅくしゅからるとえるが、宿主しゅくしゅたいする捕食ほしょくしゃから場合ばあいえさ寄生きせい生物せいぶつはいっているかどうかは問題もんだいにならない。したがって、食物しょくもつ連鎖れんさ全体ぜんたいれば、寄生きせいしゃ宿主しゅくしゅ関係かんけい宿主しゅくしゅ体内たいない問題もんだいまれたかたちえなくなる。しかし、捕食ほしょく寄生きせい場合ばあいには、寄生きせい生活せいかつちゅう一般いっぱん寄生きせいしゃおなじにかんがえられるが、そうながくない期間きかんあいだ宿主しゅくしゅころして独立どくりつしてしまうから、捕食ほしょく-しょく関係かんけいなせる。