探偵たんてい趣味しゅみの会かい

探偵たんてい趣味しゅみの会かい（たんていしゅみのかい）は、1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）4月がつに設立せつりつされた探偵たんてい小説しょうせつファンの親睦しんぼく団体だんたい、かつ探偵たんてい作家さっか団体だんたいである。機関きかん誌し『探偵たんてい趣味しゅみ』（1925年ねん9月がつ - 1928年ねん9月、全ぜん34輯）を発行はっこうした。

沿革えんかく

結成けっせい

1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）4月がつ頃ごろ、当時とうじ、大阪毎日新聞おおさかまいにちしんぶん社会しゃかい部ぶ副ふく部長ぶちょうだった星野ほしの龍りゅう猪いのしし（筆名ひつめい・春日野かすがの緑みどり）が、大阪おおさか在住ざいじゅうの江戸川えどがわ乱歩らんぽに結成けっせいを提案ていあんし、星野ほしのから大阪毎日新聞おおさかまいにちしんぶん関係かんけい者しゃ、乱歩らんぽから神戸こうべ在住ざいじゅうの横溝よこみぞ正史せいし・西田にしだ政治せいじらに呼よびかけて結成けっせいされた。このほか京都きょうとの山下やました利三郎としさぶろう、名古屋なごやの小酒井不木こざかいふぼく・本田ほんだ緒いとぐち生せい、東京とうきょうの甲賀こうが三郎さぶろうらが参加さんかしている。乱歩らんぽは『探偵たんてい小説しょうせつ四よん十じゅう年ねん』で「今いまの探偵たんてい作家さっかクラブと大体だいたい同おなじ性格せいかく」としているが、会員かいいんは作家さっかや翻訳ほんやく家かに限定げんていされておらず、新聞しんぶん・雑誌ざっし記者きしゃやファンにも広ひろく門戸もんこの開ひらかれた団体だんたいであった。

会則かいそくでは、「事業じぎょう」として以下いかのことが掲かかげられていた。

1. 犯罪はんざい及探偵たんていに関かんする研究けんきゅうと其発表はっぴょう
2. 探偵たんてい小説しょうせつの創作そうさくと翻訳ほんやくと批評ひひょう
3. 探偵たんてい趣味しゅみ講演こうえん会かい開催かいさい
4. 探偵たんていもの活動かつどう写真しゃしんの鑑賞かんしょう
5. 犯罪はんざい及探偵たんていに関かんする各種かくしゅ施設しせつの見学けんがく
6. 会員かいいんの作品さくひんを各かく雑誌ざっしへ紹介しょうかい
7. 機関きかん雑誌ざっしの発行はっこう

会費かいひは1月がつあたり50銭せんであった。

1925年ねん4月がつ11日にち、第だい一いち回かい趣味しゅみの会かいの例会れいかいを大毎だいまい講堂こうどうで開催かいさい。以後いご、毎月まいつき1回かい、講演こうえんと映画えいがの会かいが開催かいさいされた。同年どうねん10月がつ25日にちには六甲ろっこう苦楽くらく園えんで渡瀬わたせ淳子じゅんこ一座いちざによる「探偵たんていページェント」を開催かいさいしている。

機関きかん誌し『探偵たんてい趣味しゅみ』

設立せつりつ当初とうしょは、春日野かすがのの友人ゆうじんが発行はっこうしていたタブロイド判はんの週刊しゅうかん紙し『サンデー・ニュース』に会報かいほうが掲載けいさいされていた。その後ご、1925年ねん9月がつに機関きかん誌し『探偵たんてい趣味しゅみ』が創刊そうかんされた。発行はっこう元もとは大阪おおさかのサンデー・ニュース社しゃであった。第だい4輯（1926年ねん1月がつ号ごう）から東京とうきょうの春陽しゅんよう堂どうが赤字あかじ覚悟かくごで発行はっこうを引ひき受うけ、一般いっぱん書店しょてんでも販売はんばいされるようになる。

創刊そうかん当初とうしょ、編集へんしゅうは同人どうじんの持もち回まわり制せいであった。各号かくごうの担当たんとうは以下いかの通とおりである。

1. 江戸川えどがわ乱歩らんぽ（1925年ねん9月がつ）
2. 春日野かすがの緑みどり（1925年ねん10月がつ）
3. 小酒井不木こざかいふぼく（1925年ねん11月）
4. 西田にしだ政治せいじ（1926年ねん1月がつ）
5. 甲賀こうが三郎さぶろう（1926年ねん2月がつ）
6. 村島むらしま帰き之の（1926年ねん3月がつ）
7. 延原えんばら謙けん（1926年ねん4月がつ）
8. 本田ほんだ緒いとぐち生せい（1926年ねん5月がつ）
9. 巨きょ勢ぜい洵まこと一郎いちろう（1926年ねん6月がつ）
10. 牧まき逸馬いつま（1926年ねん7月がつ）
11. 横溝よこみぞ正史せいし（1926年ねん8月がつ）

第だい12輯（1926年ねん10月がつ号ごう）から編集へんしゅう当番制とうばんせいを廃止はいしし、小酒井不木こざかいふぼく・甲賀こうが三郎さぶろう・江戸川えどがわ乱歩らんぽの3人にんによる共同きょうどう編集へんしゅうを謳うたったが、実際じっさいに編集へんしゅうを担当たんとうしていたのは水谷みずたに準じゅんであった。乱歩らんぽによれば、発行はっこう部数ぶすうは最大さいだいで5000 - 6000部ぶ程度ていどだったという。

乱歩らんぽは、『探偵たんてい小説しょうせつ四よん十じゅう年ねん』の中なかで、1926年ねん（大正たいしょう15年ねん）11月がつ当時とうじの同人どうじんとして以下いかのメンバーを挙あげている。

浅田あさだ一はじめ 浅野あさの玄げん府ふ 江戸川えどがわ乱歩らんぽ 大下宇陀児おおしたうだる 大野木おおのき繁しげる三郎さぶろう 小流こながし智さとし尼あま（一条いちじょう栄子えいこ） 春日野かすがの緑みどり 片岡かたおか鉄兵てっぺい 川口かわぐち松太郎まつたろう 川田かわた功いさお 神部かんべ正次まさつぐ 国枝くにえだ史郎しろう 甲賀こうが三郎さぶろう 小酒井不木こざかいふぼく 巨きょ勢ぜい洵まこと一郎いちろう（巨勢こせ詢一郎ろう） 島田しまだ美彦よしひこ 城じょう昌幸まさゆき 白井しらい喬二きょうじ 妹尾せのお韶夫 高田たかだ義よし一郎いちろう 田中たなか早苗さなえ 地味じみ井い平造へいぞう 角田つのだ喜久雄きくお 西田にしだ政治せいじ 延原えんばら謙けん 土師はじ清二せいじ 羽はね志こころざし主人しゅじん（羽はね志こころざし主ぬし水すい） 長谷川はせがわ伸しん 久山ひさやま秀子ひでこ 平林ひらばやし初之輔はつのすけ 福田ふくだ正夫まさお 保ほ篠しの龍りゅう緒いとぐち 本田ほんだ緒いとぐち生せい 牧まき逸馬いつま 正木不如丘まさきふじょきゅう 松野まつの一夫かずお 水谷みずたに準じゅん 村島むらしま帰き之の 森下もりした雨村うそん 山下やました利三郎としさぶろう 山本やまもと禾太郎のぎたろう 夢野ゆめの久作きゅうさく 横溝よこみぞ正史せいし 吉田よしだ甲子太郎きねたろう

このほかの出版しゅっぱん活動かつどうとして、1926年ねんには「探偵たんてい趣味しゅみ叢書そうしょ」を企画きかく、春日野かすがの緑みどり『秘密ひみつの鍵かぎ』（サンデー・ニュース社しゃ、1926年ねん）などを刊行かんこう。また、1926年ねんから1929年ねん（昭和しょうわ4年ねん）まで、春陽しゅんよう堂どうから年度ねんど別べつアンソロジー『創作そうさく探偵たんてい小説しょうせつ選集せんしゅう』（1925年版ねんばん - 1928年版ねんばん、全ぜん4輯）を刊行かんこうしている。

しかし、探偵たんてい小説しょうせつがブームとなり、発表はっぴょう媒体ばいたいが増ふえたことで、かえって同人どうじん誌しである『探偵たんてい趣味しゅみ』への寄稿きこうは減へっていった。1928年ねん（昭和しょうわ3年ねん）9月がつ、浅川あさがわ棹ざお歌かへの編集へんしゅう長ちょう交替こうたいと平凡社へいぼんしゃへの移籍いせきが告知こくちされるが、これは実現じつげんせず、そのまま廃刊はいかんとなった。

乱歩らんぽは後年こうねん、平凡社へいぼんしゃ版ばん『江戸川えどがわ乱歩らんぽ全集ぜんしゅう』（1931年ねん - 1932年ねん、全ぜん13巻かん）出版しゅっぱんに際さいし、その別冊べっさつ付録ふろくとして、『探偵たんてい趣味しゅみ』の題号だいごうを流用りゅうようした小しょう雑誌ざっし『探偵たんてい趣味しゅみ』を発行はっこうしている。

関西かんさいメンバーの活動かつどうと同人どうじん誌し『猟奇りょうき』

1926年ねんから『探偵たんてい趣味しゅみ』の発行はっこうが東京とうきょうに移うつり、また同年どうねんに江戸川えどがわ乱歩らんぽが上京じょうきょうすると、関西かんさいに残のこった春日野かすがの緑みどり・山下やました利三郎としさぶろう・本田ほんだ緒いとぐち生せいらは、独自どくじの活動かつどうを始はじめる。春日野かすがのらは、まず『映画えいがと探偵たんてい』（映画えいがと探偵たんてい社しゃ、1925年ねん12月創刊そうかん）を「探偵たんてい趣味しゅみの会かい推薦すいせん雑誌ざっし」とした。これが約やく半年はんとしで廃刊はいかんになると、1926年ねん10月がつに「京都きょうと探偵たんてい趣味しゅみの会かい編輯へんしゅう」を謳うたった『探偵たんてい・映画えいが』（共同きょうどう出版しゅっぱん社しゃ）を発行はっこう。これも短命たんめいに終おわったのち、1928年ねん5月がつ、同人どうじん誌し『猟奇りょうき』（Mystery Hunters, 猟奇りょうき社しゃ）を創刊そうかんした。同誌どうしは当時とうじの探偵たんてい文壇ぶんだんに対たいして歯はに衣ころも着きせぬ批判ひはんを展開てんかいした匿名とくめいコラムで知しられ、1932年ねん（昭和しょうわ7年ねん）5月がつ号ごうまでの刊行かんこうが確認かくにんされている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 江戸川えどがわ乱歩らんぽ『江戸川えどがわ乱歩らんぽ全集ぜんしゅう 第だい28巻かん 探偵たんてい小説しょうせつ四よん十じゅう年ねん（上うえ）』光文社こうぶんしゃ〈光文社こうぶんしゃ文庫ぶんこ〉、2006年ねん1月がつ20日はつか。ISBN 4-334-74009-X。 
• ミステリー文学ぶんがく資料しりょう館かん 編へん『幻まぼろしの探偵たんてい雑誌ざっし (2) 「探偵たんてい趣味しゅみ」傑作けっさく選せん』光文社こうぶんしゃ〈光文社こうぶんしゃ文庫ぶんこ〉、2000年ねん4月がつ20日はつか。ISBN 4-334-72994-0。 
• ミステリー文学ぶんがく資料しりょう館かん 編へん『幻まぼろしの探偵たんてい雑誌ざっし (6) 「猟奇りょうき」傑作けっさく選せん』光文社こうぶんしゃ〈光文社こうぶんしゃ文庫ぶんこ〉、2001年ねん3月がつ20日はつか。ISBN 4-334-73130-9。