接せっ語ご

接せっ語ご（せつご、clitic）とは、統語とうご論ろん上うえは独立どくりつの語かたりだが、音韻おんいん論ろん上うえは他たの語かたりに依存いぞんしている拘束こうそく形態素けいたいそ（束縛そくばく形態素けいたいそ）である。接せっ語ごが音韻おんいん論ろん的てきに依存いぞんする相手あいてをホストという。クリティック、倚辞とも。

接せっ語ごは一般いっぱんに機能きのう語ごであり、弱よわく発音はつおんされることが多おおい。

日本語にほんごでは、助詞じょしの殆ほとんどとコピュラが接せっ語ごである。例たとえば「わたしが」の「が」は独立どくりつした語かたりであり、「わたしが」は複合語ふくごうごではないが、発音はつおんはひとまとまりである。

接せっ語ごは接辞せつじではない。接辞せつじは構文こうぶん上じょうも発音はつおん上じょうも独立どくりつではなく、派生はせい語ごの中なかにしか現あらわれない。接せっ語ごは構文こうぶん上じょうは独立どくりつであり、一般いっぱんに句くや節ふしと文法ぶんぽう的てきな関係かんけいを持もつ。「あの男おとこは」の「は」は、構文こうぶん上じょうは「あの男おとこ」と結むすびついているが、発音はつおん上じょうは「男おとこ」とだけ結むすびついている。

分類ぶんるい

発音はつおん上じょう、前まえの語かたりと結むすびつく接せっ語ごを enclitic、後うしろの語かたりと結むすびつく接せっ語ごを proclitic と呼よぶ。『言語げんご学がく大だい辞典じてん』では enclitic を前ぜん接せっ語ご、proclitic を後こう接せっ語ごと訳やくしている。逆ぎゃくから見みれば、enclitic は語かたりの後うしろから結むすびつき、proclitic は前まえから結むすびつく。『文部もんぶ科学かがく省しょう学術がくじゅつ用語ようご集しゅう 言語げんご学がく編へん』では enclitic を後こう接せっ語ご、proclitic を前ぜん接せっ語ごと訳やくしている。en- は「後うしろ」、pro- は「前まえ」の意いの接頭せっとう辞じである。宮岡みやおか (2002) はその字義じぎに従したがって enclitic を後こう倚辞、proclitic を前ぜん倚辞と訳やくしている。

接せっ語ごと接辞せつじ

接せっ語ごと接辞せつじは一見いっけん似にているが、語かたりとして機能きのうする接せっ語ごと、語かたりの中なかに現あらわれる接辞せつじとは構造こうぞう上じょう全まったく異ことなる。ただし様々さまざまな言語げんごで、接せっ語ごだったものが独立どくりつ性せいを失うしなって接辞せつじになることはしばしば見みられる。

英語えいごの n't が接せっ語ごではなく接辞せつじであることをズウィッキーとプラムが示しめした時ときに用もちいた基準きじゅんを以下いかに示しめす。

	接せっ語ご	接辞せつじ
定義ていぎ	発音はつおん上じょうは語かたりと結むすび付ついているが、構造こうぞう上じょうは語かたりではなく句くや節ふしとつながりがあり、独立どくりつの語かたりとして働はたらく。 私わたしの妻つまの弟おとうと 発音はつおん: 私わたしの / 妻つまの / 弟おとうと 構造こうぞう: [[[私わたし の] 妻つま] の] 弟おとうと my wife's brother 発音はつおん: my / wife's / brother 構造こうぞう: [[my wife] 's] brother	発音はつおん上じょうおよび構造こうぞう上じょう、他たの語かたりあるいは形態素けいたいそに結むすび付ついて一ひとつの語かたりをなす。 called helped aren't couldn't
性質せいしつ	一般いっぱんに、様々さまざまな種類しゅるいの語かたりと結むすび付つく。 弟おとうとの手紙てがみ (名詞めいしの後のち) 彼かれの手紙てがみ (代名詞だいめいしの後のち) 彼かれからの手紙てがみ (接せっ置おけ詞しの後のち) the mayor's brother (名詞めいしの後のち) the mayor of London's brother (固有名詞こゆうめいしの後のち) a friend of mine's brother (代名詞だいめいしの後のち)	一般いっぱんに、狭せまい種類しゅるいの語かたりと結むすび付つく。 call - called (動詞どうしの後のち) could - couldn't (助動詞じょどうしの後のち)
	例外れいがい的てきな欠落けつらくが無ない。	例外れいがい的てきな欠落けつらくがあり得える。 *musted *oughted *amn't *mayn't
	例外れいがい的てきな語形ごけいが無ない。	例外れいがい的てきな語形ごけいがあり得える。 have - had (*haved) do - did (*doed) eat - ate (*eated) will - won't (*willn't)
	例外れいがい的てきな意味いみの変化へんかが無ない。	例外れいがい的てきな意味いみの変化へんかがあり得える。 shall (…だろう) - should (…するべき) *use to - used to (かつて…していた) must (…しなくてはならない) - mustn't (…してはならない) ex. don't have to (…しなくてよい)

日本語にほんご

助詞じょしおよびコピュラは前ぜん接せっ語ごであり、前まえの名詞めいし句くとひとまとまりに発音はつおんされる。文節ぶんせつとは、この名詞めいし句くと前ぜん接せっ語ごとからなる発音はつおん上じょうの単位たんいであり、文ぶんの構造こうぞうを反映はんえいしているわけではない。

文ぶん	あの人ひとは私わたしの甥おいです。
構造こうぞう	あの人ひとは			私わたしの甥おいです。
	あの人ひと		は	私わたしの甥おい			です。
	あの	人ひと		私わたしの		甥おい
				私わたし	の
文節ぶんせつ	あの	人ひとは		私わたしの		甥おいです。

英語えいご

英語えいごでは、コピュラ be の縮ちぢみ約やく形かたち 'm (am), 're (are), 's (is) および助動詞じょどうしの縮ちぢみ約やく形かたち 'll (will), 've (have), 's (has), 'd (would/had) が前ぜん接せっ語ごである。これらには強つよ勢いきおいを置おけないので、強調きょうちょうする時ときには縮ちぢみ約やくしない元もとの形かたちを使つかう。逆ぎゃくに言いえば、強つよ勢ぜいがある時ときにはこれら接せっ語ごを用もちいることはできない。

• I don't know who she is. (^*I don't know who she's.)
• Have you done it? — Yes, I have. (^*Yes, I've.)
• He's not a fool. — He is a fool! (^*He's a fool!) cf. He's not a genius, either.

所有しょゆうを表あらわす 's も前ぜん接せっ語ごであり、発音はつおんと構造こうぞうにずれがある。例たとえば名詞めいし句く the king of Sparta's wife では、the king of Sparta に接せっ語ご 's が付つき、wife の所有しょゆう限定げんてい詞しとして働はたらいているが、発音はつおん上じょうは Sparta's でひとまとまりである。

冠詞かんしの a /ə/, an /ən/, the /ðə/ は後こう接せっ語ごであり、強つよ勢ぜいを置おけない。強調きょうちょうするときは、代かわりに /eɪ/, /æn/, /ði/ を用もちいる。字じは変かわらない。

否定ひていの n't は接せっ語ごではなく、接尾せつび辞じである。n't を含ふくむ語かたりは完全かんぜんに 1 語ごとして機能きのうし、強つよ勢ぜいを持もち、また現あらわれ方かたに制限せいげんがある。

フランス語ふらんすご

フランス語ふらんすごでは、人称にんしょう代名詞だいめいしは強つよ勢いきおい形かたちを除のぞいて全すべて接せっ語ごである。詳くわしくはフランス語ふらんすごの人称にんしょう代名詞だいめいしを参照さんしょうすること。また数量すうりょう詞し以外いがいの限定げんてい詞しも接せっ語ごである。詳くわしくはフランス語ふらんすごの限定げんてい詞しを参照さんしょうすること。

アラビア語ご

アラビア語ごでは、定冠詞ていかんし、主格しゅかくを除のぞく人称にんしょう代名詞だいめいし、および副詞ふくしの一部いちぶが接せっ語ごである。このうち人称にんしょう代名詞だいめいしは前ぜん接せっ語ごである。