星ほしから訪おとずれたもの

『ウィアード・テイルズ』1935年ねん9月がつ号ごう掲載けいさい時じの挿絵さしえ。ビンセント・ナポリによる。

『星ほしから訪おとずれたもの』（ほしからおとずれたもの、星ほしから来きた妖魔ようま／妖蛆の秘密ひみつ、原題げんだい：英えい: The Shambler from the Stars）は、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくのホラー小説しょうせつ家かロバート・ブロックが1935年ねんに発表はっぴょうした短編たんぺん小説しょうせつ。クトゥルフ神話しんわの1つ。

魔道まどう書しょ「妖蛆の秘密ひみつ」の初出しょしゅつとなった作品さくひんであり、当とう文献ぶんけんは創造そうぞう者しゃブロックにとどまらず多おおくのクトゥルフ神話しんわ作家さっかが自作じさくに取とり入いれることになる。本ほん作品さくひんには複数ふくすうの邦訳ほうやくがあり、意訳いやく題だいの一ひとつにもなっている。

作品さくひん解説かいせつ

概要がいよう

ラヴクラフトとブロックの交流こうりゅうから生うまれ、『ウィアード・テイルズ』1935年ねん9月がつ号ごうに掲載けいさいされた。当時とうじ19歳さいで年少ねんしょうのブロックがラヴクラフトをリスペクトし、彼かれをモデルとした人物じんぶつを作中さくちゅうに登場とうじょうさせて惨殺ざんさつしてしまう。類例るいれいは幾いくつかありそれ自体じたいは珍めずらしくないが、本ほん作さくはラヴクラフトが続編ぞくへんを執筆しっぴつして続つづき物ものとなっているというエピソードを有ゆうする、無む二にの特徴とくちょうがある。最終さいしゅう的てきには、ブロック1935年ねん『星ほしから訪おとずれたもの』、ラヴクラフト1936年ねん『闇やみをさまようもの』、ブロック1950年ねん『尖塔せんとうの影かげ』という3連作れんさくとなる。

東あずま雅夫まさおは『クトゥルー神話しんわ事典じてん』にて先述せんじゅつの解説かいせつを述のべた上うえで「記念きねんすべき（？）作品さくひん」と付つけ加くわえている。

主人公しゅじんこうは名無ななしの語かたり手てであり、ラヴクラフトによる続編ぞくへん『闇やみをさまようもの』にて「ロバート・ハリスン・ブレイク」というフルネームが設定せっていされ、大幅おおはばに人物じんぶつ像ぞうが書かき加くわえられる。

あらすじ

16世紀せいきブリュッセルの錬金術れんきんじゅつ師しルドウィク・プリンは、召喚しょうかんした使つかい魔まの群むれに仕つかえられて暮くらしていたと伝つたわる。それらの魔物まものは「目めには見みえざる朋輩ほうばい」「星ほしの送おくりし下僕げぼく」などと、記録きろくに記しるされている。ルドウィクは魔女まじょ裁判さいばんを司つかさどる異端いたん審問しんもん所しょの役人やくにんたちに捕とらえられ、拷問ごうもんにかけられるも何一なにひとつ自白じはくせず、獄中ごくちゅうで己おのれの知識ちしきを文書ぶんしょに記しるした。ルドウィクは処刑しょけいされるも、その文書ぶんしょは何者なにものかが持もち出だし出版しゅっぱんにこぎつけ、禁書きんしょに指定していされる。その本ほんのタイトルは「デ・ウェルミス・ミステリイス」といい、英語えいごに訳やくせば『妖蛆の秘密ひみつ』となる。

怪奇かいき作家さっかの主人公しゅじんこうは、吸血鬼きゅうけつきや狼おおかみ男おとこや神話しんわの怪物かいぶつなどうそっぱちとみなし、真しんにリアリティあるホラーを書かきたいと、禁断きんだんの知識ちしきを求もとめていた。年長ねんちょうの友人ゆうじんである「プロヴィデンスの夢想むそう家か」は、『ネクロノミコン』や『エイボンの書しょ』などの存在そんざいを教おしえつつも、深入ふかいりしないよう忠告ちゅうこくする。しかし主人公しゅじんこうは辛抱強しんぼうづよく探索たんさくを続つづけ、ついに古書こしょ店てんで伝説でんせつの禁書きんしょを発見はっけんする。主人公しゅじんこうは、鉄てつの表紙ひょうしのつけられた大おおきな黒くろい書物しょもつ『妖蛆の秘密ひみつ』の初はつ版本はんぽんを、わずか1ドルで入手にゅうしゅする。だがラテン語らてんごで書かかれていたため、主人公しゅじんこうには読よめなかった。

主人公しゅじんこうはプロヴィデンスの夢想むそう家宅かたくを訪おとずれ、解読かいどくを依頼いらいする。夢想むそう家かは最初さいしょはためらうも、翻訳ほんやくを始はじめるとすぐさまのめり込こむ。やがてプリンの伝説でんせつにある「星ほしから召喚しょうかんした不可視ふかしの下僕げぼく」について書かかれていることがわかり、彼かれは呪文じゅもんを読よみ上あげる。

夜よるの星空ほしぞらのもと、窓まどから突風とっぷうが舞まい込こみ、友人ゆうじんが悲鳴ひめいを上あげながら、空中くうちゅうに浮うかび上あがる。友人ゆうじんの体からだは背骨せぼねが折おれそうなほどにねじ曲まがり、やがて首くびが裂さける。そして噴ふき出だした鮮血せんけつが、空中くうちゅうで消きえ、何者なにものかが血ちを啜すする音おとが響ひびく。血ちを奪うばわれた友人ゆうじんの肉体にくたいはしなび果はてて、不可視ふかしであった怪物かいぶつが血ちの色いろで染そまった姿すがたを浮うかび上あがらせる。やがて魔物まものは窓まどから去さり、死体したいと主人公しゅじんこうが残のこされる。

主人公しゅじんこうは友人ゆうじん宅たくに火ひを放はなち、すぐさまプロヴィデンスを離はなれて地元じもとに帰かえる。友人ゆうじんの死しは、火事かじでの焼死しょうしと報道ほうどうされる。主人公しゅじんこうは、夜よるになって星ほしを見みるたびに、悪夢あくむを思おもい出だす。主人公しゅじんこうは、あの魔物まものが再ふたたび訪おとずれて自分じぶんを闇やみに引ひきずり込こむのではないかと、恐怖きょうふしつつも、禁断きんだんの知識ちしきを身みを以もって知しることに焦こがれながら、物語ものがたりは幕まくを下おろす。（闇やみをさまようものに続つづく）

主おもな登場とうじょう人物じんぶつ

• 「わたし」 - 怪奇かいき作家さっか。陰性いんせいの嗜好しこうのため就職しゅうしょくが難むずかしかったために作家さっかとなった。3連作れんさくで次第しだいにキャラが立たっていく。
• プロヴィデンスの夢想むそう家か - 隠遁いんとん生活せいかつをしながら禁断きんだんの知識ちしきを研究けんきゅうしている。
• ルドウィク・プリン - 16世紀せいきの錬金術れんきんじゅつ師し。魔女まじょ裁判さいばんで捕つかまり、獄中ごくちゅうで「妖蛆の秘密ひみつ」を執筆しっぴつした後のちに処刑しょけいされる。

怪物かいぶつ

プリンが使役しえきして「目めには見みえざる朋輩ほうばい」「星ほしの送おくりし下僕げぼく」などと称しょうされた吸血きゅうけつ生物せいぶつ。姿すがたは見みえず、哄笑こうしょうを響ひびかせる。血ちを吸すったときに赤あかく染そまると視認しにんできるようになる。

単発たんぱつの怪物かいぶつであるが、TRPGでは「星ほしの精せい Star Vampire」と命名めいめいされ、知名度ちめいどを得えている。

収録しゅうろく

• 『クトゥルー7』青あお心しん社しゃ、大瀧おおたき啓裕けいすけ訳わけ、「星ほしから訪おとずれたもの」

『星ほしから訪おとずれたもの』『闇やみをさまようもの』『尖塔せんとうの影かげ』の3連作れんさくが続つづけて収録しゅうろくされている。

• 『暗黒あんこく界かいの悪霊あくりょう』ソノラマ文庫ぶんこ、柿沼かきぬま瑛子えいこ訳やく、「星ほしから来きた妖魔ようま」
• 『真まク・リトル・リトル神話しんわ大系たいけい2』国書刊行会こくしょかんこうかい、松村まつむら三さん生せい訳わけ、「妖蛆の秘密ひみつ」
• 『新編しんぺん真まク・リトル・リトル神話しんわ大系たいけい2』国書刊行会こくしょかんこうかい、松村まつむら三さん生せい訳やく、「妖蛆の秘密ひみつ」

関連かんれん作品さくひん

• 闇やみをさまようもの - ラヴクラフトによる続編ぞくへん。
• 喰くらうものども - ロングによるクトゥルフ神話しんわにして、非ひラヴクラフトによるクトゥルフ神話しんわ第だい1号ごう。ラヴクラフトをモデルとする人物じんぶつが登場とうじょうし、惨死ざんしする。
• キーパー・コンパニオン - スウェーデンの作家さっかヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが2017年ねんに発表はっぴょうした作品さくひん。本ほん作さく、スティーブン・キング、TRPGクトゥルフの呼よび声ごえの3つを踏ふまえて書かかれている。