有限ゆうげん責任せきにん

有限ゆうげん責任せきにん（ゆうげんせきにん、（英えい: limited liability）とは、ある事業じぎょう体たいについてその帰属きぞく主体しゅたいや出資しゅっし者しゃ、拠出きょしゅつ者しゃなどが限定げんていされた範囲はんいの財産ざいさん（例たとえば出資しゅっしした財産ざいさん）でのみ責任せきにんを負おうことをいう。ここでいう責任せきにんとは、債務さいむとの関係かんけいで財産ざいさんがその引当ひきあてになることをいう。

有限ゆうげん責任せきにんの例れい

2人ふたりの人ひとがいる場合ばあい、原則げんそくとして（すなわち、法律ほうりつや契約けいやく（保証ほしょう契約けいやくなど）の定さだめがない限かぎり）、一方いっぽうは、他方たほうの負おう債務さいむとの関係かんけいで一切いっさいの責任せきにんを負おわない。このことはある意味いみ当然とうぜんであり、このことを普通ふつうはわざわざ有限ゆうげん責任せきにんと呼よぶことはない。

上記じょうきの点てんの帰結きけつとして、法人ほうじんとの関係かんけいにおいては、法人ほうじんとは別べつの法ほう主体しゅたいであるその構成こうせい員いん（株主かぶぬしや社員しゃいん）は、原則げんそくとして法人ほうじんの負おう債務さいむとの関係かんけいで一切いっさいの責任せきにんを負おわないはずであり、その意味いみで有限ゆうげん責任せきにんである。例たとえば、株式会社かぶしきがいしゃの株主かぶぬしは、株式会社かぶしきがいしゃの負おう債務さいむとの関係かんけいですでに出資しゅっしした額がくを超こえて出資しゅっしを求もとめられることはなく、その意味いみで有限ゆうげん責任せきにんである。一方いっぽう、持分もちぶん会社かいしゃの有限ゆうげん責任せきにん社員しゃいんなど、法律ほうりつの規定きていにより一定いっていの範囲はんいで自みずからの財産ざいさんにつき責任せきにんを負おわされることもある。しかし、この場合ばあいも一定いっていの範囲はんいに限定げんていされていることから、やはり有限ゆうげん責任せきにんである。これに対たいして、持分もちぶん会社かいしゃとの関係かんけいでその無限むげん責任せきにん社員しゃいんは無限むげん責任せきにんである。有限ゆうげん責任せきにんとされる場合ばあいには出資しゅっし額がく又または拠出きょしゅつ額がく（あるいは出資しゅっし又または拠出きょしゅつを確約かくやくした額がく）の限度げんどで責任せきにんを負おうのが通常つうじょうである。

民法みんぽう上じょうの組合くみあいは法人ほうじん格かくを有ゆうさないため、その組合くみあい員いんは無限むげん責任せきにんであるが、その例外れいがいとして、投資とうし事業じぎょう有限ゆうげん責任せきにん組合くみあいにおける有限ゆうげん責任せきにん組合くみあい員いんや有限ゆうげん責任せきにん事業じぎょう組合くみあいにおける組合くみあい員いんは有限ゆうげん責任せきにんである。また、法人ほうじん格かくを有ゆうする組合くみあいにおける組合くみあい員いんもまた有限ゆうげん責任せきにんである。

また、信託しんたくにおける受益じゅえき者しゃも、基本きほん的てきには、有限ゆうげん責任せきにんであり自みずから財産ざいさんを拠出きょしゅつする義務ぎむを負おわない。有限ゆうげん責任せきにん信託しんたくにおける受託じゅたく者しゃも有限ゆうげん責任せきにんであり、信託しんたく財産ざいさんの限度げんどでのみ責任せきにんを負おい、固有こゆう財産ざいさんについては責任せきにんを負おわない。

また、法令ほうれいの定さだめがなくとも、責任せきにん財産ざいさん限定げんてい特約とくやくを締結ていけつすることによって、相手方あいてがたに対たいする特定とくていの債務さいむとの関係かんけいで特定とくていの財産ざいさんでのみ責任せきにんを負おうものとすることも可能かのうである（一切いっさいの責任せきにんを負おわないとした場合ばあいには責任せきにんなき債務さいむとなる。）。

資金しきん調達ちょうたつの容易たやすさ

ある事業じぎょう体たいとの関係かんけいで出資しゅっし者しゃが有限ゆうげん責任せきにんである場合ばあい、出資しゅっし者しゃは当該とうがい事業じぎょう体たいの倒産とうさんなどの際さいにも、最悪さいあくでも、例たとえば出資しゅっし額がくなど、一定いっていの財産ざいさんさえ失うしなえばすむのであるから、出資しゅっしのダウンサイドリスクが限定げんていされることになる。これによって出資しゅっし者しゃの出資しゅっし意欲いよくを向上こうじょうさせ、会社かいしゃの資金しきん調達ちょうたつが容易よういとなる。さらに株式会社かぶしきがいしゃの株式かぶしきのように出資しゅっし額がくを小口こぐち化かできる場合ばあいには、よりその効果こうかが高たかまることが期待きたいされている。

債権さいけん回収かいしゅうと有限ゆうげん責任せきにん原理げんりの回避かいひ

一方いっぽうで、問題もんだいとなる事業じぎょう体たいの債権さいけん者しゃからみれば、その出資しゅっし者しゃが有限ゆうげん責任せきにんにとどまることは、会社かいしゃ債務さいむの弁済べんさいのために期待きたいできる資産しさんが当該とうがい事業じぎょう体たいの資産しさんのみであることを意味いみする。会社かいしゃ法ほうでは株式会社かぶしきがいしゃに配当はいとう制限せいげんを課かすことによって、信託しんたく法ほうでは受益じゅえき債権さいけんを信託しんたく債権さいけんに劣後れつごするものとすることによって、債権さいけん者しゃ保護ほごを図はかっている。

ただし、法人ほうじん格かくに伴ともなう有限ゆうげん責任せきにん性せいが濫用らんよう的てきに用もちいられた場合ばあいにはこれが否定ひていされることがある。例たとえば、法人ほうじん格かく否認ひにんの法理ほうりを援用えんようして、会社かいしゃの法人ほうじん格かくを否定ひていして会社かいしゃと同視どうしできる実質じっしつ的てき経営けいえい者しゃの財産ざいさんからも債権さいけんの回収かいしゅうを図はかることがある。また、出資しゅっし者しゃとしては有限ゆうげん責任せきにんであっても、他たの理由りゆうにより固有こゆうの債務さいむ・責任せきにんを負担ふたんすることはありうる。例たとえば、株主かぶぬしが取締役とりしまりやくを兼任けんにんしていれば、取締役とりしまりやくとしての責任せきにんを負おうことがある。

これらは、実質じっしつ的てきに見みれば有限ゆうげん責任せきにん原理げんりを回避かいひして株主かぶぬしから債権さいけんを回収かいしゅうすることになる。

また、事前じぜんの手配てはいとして、より直接的ちょくせつてきに出資しゅっし者しゃの責任せきにんを問とう方法ほうほうとしては、株主かぶぬしであり経営けいえい者しゃである者ものと、あらかじめ会社かいしゃ債務さいむに関かんする連帯れんたい保証ほしょう契約けいやくを結むすんでおくことが金融きんゆう機関きかんによる融資ゆうしの場面ばめんなどを中心ちゅうしんに行おこなわれており、いわゆるオーナー経営けいえい者しゃが有限ゆうげん責任せきにんの利益りえきを必かならずしも原則げんそくどおり享受きょうじゅできるとは限かぎらない。

間接かんせつ責任せきにんと直接ちょくせつ責任せきにん

例たとえば株式会社かぶしきがいしゃの設立せつりつ時じや新株しんかぶ発行はっこう時じに株式かぶしきを取得しゅとくして株主かぶぬしになろうとする場合ばあい、その者ものは会社かいしゃに対たいしてその発行はっこう価額かがくを払はらい込こむ。その後ご、その会社かいしゃが多額たがくの負債ふさいを抱かかえて倒産とうさんした場合ばあいでも株主かぶぬしは会社かいしゃの債務さいむについて責任せきにんを負おわない（支払しはらう義務ぎむがない）。株主かぶぬしは株式かぶしきを得える対価たいかとして支払しはらった金額きんがくを失うしなうことになるが、それ以上いじょうの損失そんしつを迫せまられることはない。これを間接かんせつ責任せきにんという。上うえで説明せつめいしてきた有限ゆうげん責任せきにんは同時どうじに間接かんせつ責任せきにんでもある（間接かんせつ有限ゆうげん責任せきにん）。

これに対たいして合名ごうめい会社かいしゃの社員しゃいんや合資ごうし会社かいしゃの無限むげん責任せきにん社員しゃいん・有限ゆうげん責任せきにん社員しゃいんは、会社かいしゃの債務さいむについて会社かいしゃ財産ざいさんをもってしても完済かんさいできなかった場合ばあいには自己じこの財産ざいさんをその弁済べんさいに充あてることを迫せまられる。これを間接かんせつ責任せきにんと対比たいひして直接ちょくせつ責任せきにんという。無限むげん責任せきにん社員しゃいんと有限ゆうげん責任せきにん社員しゃいんとは、責任せきにんを負おうべき額がくに文字通もじどおり限度げんどがあるかないかという点てんで違ちがいがある。株式会社かぶしきがいしゃの株主かぶぬしや合同ごうどう会社かいしゃの社員しゃいんが間接かんせつ有限ゆうげん責任せきにんを負おうに過すぎないのに対たいし、合資ごうし会社かいしゃの有限ゆうげん責任せきにん社員しゃいんは、直接ちょくせつ有限ゆうげん責任せきにんを負おっているのである。ただし、会社かいしゃに対たいし出資しゅっしを履行りこうしていれば、その価額かがくの分ぶんについては間接かんせつ責任せきにんとなる。

無限むげん責任せきにんの会社かいしゃ

無限むげん責任せきにんとは、出資しゅっし者しゃが「出資しゅっしの範囲はんいを超こえてまで」企業きぎょうの債務さいむ返済へんさいを果はたすべき責任せきにんである。その出資しゅっし者しゃを無限むげん責任せきにん社員しゃいんという。

有限ゆうげん責任せきにんでは、出資しゅっし者しゃは自みずからの「出資しゅっし額がくの範囲はんい内ない」で企業きぎょうの債務さいむ返済へんさいを果はたす。有限ゆうげん責任せきにんを負おう出資しゅっし者しゃを有限ゆうげん責任せきにん社員しゃいんという。

個人こじん企業きぎょうの経営けいえい者しゃは無限むげん責任せきにん社員しゃいんである。個人こじん企業きぎょうは上場じょうじょうしていないので、キャピタルゲインはしないし、儲もうかった場合ばあいの配当はいとう金きんといっても、自分じぶんがすべてもらうだけである。逆ぎゃくに損失そんしつが出でれば、すべて自分じぶんで償つぐなわなければならない。

自己じこ資本しほん100万まん円えんを投資とうしして、200万まん円えんの赤字あかじが出でた場合ばあい、その経営けいえい者しゃが償つぐなうのは自己じこ資本しほんの100万まん円えんだけでいいということはなく、200万まん円えんすべてを経営けいえい者しゃが負担ふたんしなければならない。すなわちこの場合ばあい、経営けいえい者しゃが負担ふたんする責任せきにんは出資しゅっし額がくにかかわらず、その企業きぎょうの負担ふたん額がく全額ぜんがくである。

無限むげん責任せきにんを負おう出資しゅっし者しゃのみで構成こうせいされる集団しゅうだん企業きぎょうを合名ごうめい会社かいしゃという。

先程さきほどの100万まん円えんを出資しゅっしする経営けいえい者しゃは、同おなじ100万まん円えんを出資しゅっししてくれて完全かんぜんに対等たいとうに経営けいえいしてくれる人ひとをもう一人ひとり見付みつければ、2人ふたりの共同きょうどう経営けいえい者しゃ、自己じこ資本しほん200万まん円えんの集団しゅうだん企業きぎょうとなる。利益りえきが出でれば2人ふたりで山分やまわけとなるが、もし大おおきな損失そんしつを出だせば、2人ふたりの経営けいえい者しゃは自みずからの出資しゅっし金きん100万まん円えんに関係かんけいなく、企業きぎょうの損失そんしつ全額ぜんがくを負担ふたんする無限むげん責任せきにんを負おう。

無限むげん責任せきにん社員しゃいんに加くわえて、有限ゆうげん責任せきにん社員しゃいんを含ふくめて自己じこ資本しほんを構成こうせいする集団しゅうだん企業きぎょうを合資ごうし企業きぎょうという。

有限ゆうげん責任せきにん社員しゃいんは、無限むげん責任せきにん社員しゃいんを探さがすより、ずっと楽らくであり、資本しほんを集あつめやすい。

「100万まん円えんは出だせないけど、10万まんなら出だす、儲もうかったらそれに応おうじて分わけ前まえを要求ようきゅうするが、もし損害そんがいを出だしても10万まん円えんまでは負担ふたんするがそれ以上いじょうは責任せきにんを負おわない。」というものである。

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