朝鮮ちょうせん語ご綴字ていじ法統ほうとう一案いちあん

朝鮮ちょうせん語ご綴字ていじ法統ほうとう一案いちあん（ちょうせんごていじほうとういつあん、한글 맞춤법 통일안、発表はっぴょう当初とうしょの名称めいしょうは한글 마춤법 통일안）は、日本にっぽん統治とうち時代じだいの1933年ねんに朝鮮ちょうせん語ご学会がっかい（現げん・ハングル学会がっかい）が定さだめた朝鮮ちょうせん語ごの正書法せいしょほうである。この正書法せいしょほうは現在げんざいの大韓民国だいかんみんこくと朝鮮民主主義人民共和国ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこくにおける正書法せいしょほうの基礎きそになっている。ここでは朝鮮ちょうせん語ご綴字ていじ法ほう統一とういつ案あん（初版しょはん）の主おもな特徴とくちょうと、大韓民国だいかんみんこく（以下いか「韓国かんこく」）の現行げんこうの正書法せいしょほうであるハングル正書法せいしょほう（한글 맞춤법、以下いか「現行げんこうの正書法せいしょほう」）と異ことなる部分ぶぶんについて主おもに記述きじゅつし、必要ひつように応おうじて改訂かいてい版ばんについても言及げんきゅうする。

経緯けいい

大韓たいかん帝国ていこくでは1894年ねん11月に勅みことのり令れい第だい1号ごう公文こうぶん式しきを公布こうふし、公文書こうぶんしょを国文こくぶん（ハングル）で表あらわすことを決きめた後のち、1907年ねんに学部がくぶに国語こくご研究所けんきゅうじょを設置せっちして朝鮮ちょうせん語ごの正書法せいしょほうの整備せいびを進すすめた。1910年ねんに朝鮮ちょうせんが日本にっぽんに併合へいごうされるとこれらの事業じぎょうは朝鮮ちょうせん総督そうとく府ふに引ひき継つがれていった。朝鮮ちょうせん総督そうとく府ふでは1912年ねんに朝鮮ちょうせん語ごの正書法せいしょほうとしては初はつの「普通ふつう学校がっこう用よう諺文おんもん綴字ていじ法ほう」を制定せいていし、1921年ねんに「普通ふつう学校がっこう用よう諺文おんもん綴字ていじ法ほう大要たいよう」を定さだめ、1930年ねんには、諺文おんもん綴字ていじ法ほうを制定せいていした。この正書法せいしょほうはそれまで行おこなわれてきた慣習かんしゅう的てきな表音ひょうおん主義しゅぎ的てき表記ひょうき法ほうを整理せいりし、形態けいたい主義しゅぎ的てき表記ひょうき法ほうをかなり採とり入いれたものであった。

周しゅう時じ経けい学派がくはは表音ひょうおん主義しゅぎ的てき表記ひょうき法ほうに対置たいちする形態けいたい主義しゅぎ的てき表記ひょうき法ほうを主張しゅちょうしていた。周しゅう時じ経学けいがく派はは1921年ねんに朝鮮ちょうせん語ご研究けんきゅう会かい（後ごの朝鮮ちょうせん語ご学会がっかい、現げん・ハングル学会がっかい）を創設そうせつし、所属しょぞく学者がくしゃが朝鮮ちょうせん総督そうとく府ふの正書法せいしょほう整備せいび事業じぎょうにも深ふかく関与かんよしていった。その結果けっか、朝鮮ちょうせん総督そうとく府ふが1930年ねんに制定せいていした「諺文おんもん綴字ていじ法ほう」は周しゅう時じ経学けいがく派はの形態けいたい主義しゅぎ的てき表記ひょうき法ほうをかなり採とり入いれたものとなったが、これは表音ひょうおん主義しゅぎ的てき表記ひょうき法ほうとの「妥協だきょう」の産物さんぶつでもあったため、彼かれらの主張しゅちょうが徹底てっていされたものではなかった。このような背景はいけいにあって、朝鮮ちょうせん語ご研究けんきゅう会かいは1930年ねん12月の総会そうかいにおいて、彼かれらの主張しゅちょうする徹底てっていした形態けいたい主義しゅぎ的てき表記ひょうき法ほうを具現ぐげんすべく、朝鮮ちょうせん語ご綴字ていじ法ほう統一とういつ案あんの制定せいていを決定けっていした。朝鮮ちょうせん語ご研究けんきゅう会かいは1931年ねんに朝鮮ちょうせん語ご学会がっかいに改称かいしょうしつつ、その間あいだ100回かい以上いじょうに及およぶ討議とうぎを経へて1933年ねん10月がつ29日にち（当時とうじのハングルの日ひ）に正式せいしきに公表こうひょうした。朝鮮ちょうせん語ご綴字ていじ法ほう統一とういつ案あんはその後ご、1940年ねん、1946年ねん、1948年ねん、1958年ねんに改訂かいてい版ばんを出だしている（1958年版ねんばんは用語ようご修正しゅうせい版ばん）。1980年ねん改訂かいてい版ばんは現行げんこうの正書法せいしょほうと同おなじ名称めいしょう「ハングル正書法せいしょほう（한글 맞춤법）」である。

構成こうせい

朝鮮ちょうせん語ご綴字ていじ法ほう統一とういつ案あんの初版しょはんは総論そうろん、各論かくろん、付録ふろく（標準ひょうじゅん語ご・文章ぶんしょう符号ふごう）からなり、各論かくろんは7章しょう65項こうからなる。章あきらの構成こうせいは以下いかの通とおりである。

総論そうろん
各論かくろん
- 第だい1章しょう字母じぼ
  - 第だい1節せつ字母じぼの数かずとその順序じゅんじょ
  - 第だい2節せつ字母じぼの名称めいしょう
- 第だい2章しょう声音こわねに関かんすること
  - 第だい1節せつ濃こ音おん
  - 第だい2節せつ舌した側がわ音おんㄹ
  - 第だい3節せつ口蓋こうがい音おん化か
  - 第だい4節せつ ㄷ終おわり声音こわね
- 第だい3章しょう文法ぶんぽうに関かんすること
  - 第だい1節せつ体言たいげんと吐
  - 第だい2節せつ語幹ごかんと語尾ごび
  - 第だい3節せつ規則きそく用言ようげん
  - 第だい4節せつ変格へんかく用言ようげん
  - 第だい5節せつ終おわり声ごえ
  - 第だい6節せつ語源ごげん表示ひょうじ
  - 第だい7節せつ品詞ひんし合成ごうせい
  - 第だい8節せつ原はら詞しと接頭せっとう辞じ
- 第だい4章しょう漢字かんじ語ご
  - 第だい1節せつ母音ぼいんのみを変へん記きするもの
  - 第だい2節せつ子音しいんのみを変へん記きするもの
  - 第だい3節せつ子音しいんと母音ぼいんをともに変へん記きするもの
  - 第だい4節せつ俗ぞく音おん
- 第だい5章しょう略語りゃくご
- 第だい6章しょう外来がいらい語ご表記ひょうき
- 第だい7章しょう分わかち書がき
付録ふろく
- 1. 標準ひょうじゅん語ご
- 2. 文章ぶんしょう符号ふごう

字母じぼ

字母じぼの種類しゅるいと順序じゅんじょは韓国かんこくにおけるものと同おなじであり、合成ごうせい字母じぼは正式せいしきな字母じぼとして扱あつかっていない。ただし、合成ごうせい字母じぼは以下いかのような順序じゅんじょで記述きじゅつされていた（版はん次じにより揺ゆれあり）。

ㄲ，ㄸ，ㅃ，ㅆ，ㅉ，ㅐ，ㅔ，ㅚ，ㅟ，ㅒ，ㅖ，ㅘ，ㅝ，ㅙ，ㅞ，ㅢ

表記ひょうき法ほう

慣習かんしゅう的てきな表記ひょうき法ほうの修正しゅうせい

従来じゅうらいの慣習かんしゅう的てきな表記ひょうき法ほうを改あらためたものとして、語かたり中ちゅうの濃こ音おとを終おわり声ごえと初声はつこえに分わけてつづらず濃こ音字おんじ母ははでつづること、ㄹㄹの連続れんぞくを発音はつおん通どおりにつづること、이，히が付ついて口蓋こうがい音おん化かする場合ばあいに元もとの形態けいたいを明示めいじしてつづること、語源ごげんの明確めいかくでない終おわり声音こわね［ㄷ］はㅅでつづることなどがある。これらは現行げんこうの正書法せいしょほうの基本きほんにもなっている。

○오빠 ×옵바（兄あに）
○걸레 ×걸네（雑巾ぞうきん）
○밭이 ×바치（畑はたけが）
○짓밟다 ×짇밟다（踏ふみにじる）

語幹ごかんと語尾ごび・接尾せつび辞じの分離ぶんり表記ひょうき

現行げんこうの正書法せいしょほうと同様どうように、語幹ごかんと語尾ごび（助詞じょしも含ふくむ）・接尾せつび辞じを分離ぶんりして表記ひょうきする形態けいたい主義しゅぎ的てきな表記ひょうき法ほうを取とっている。形態けいたい主義しゅぎ的てきな表記ひょうき法ほうは1930年ねんに朝鮮ちょうせん総督そうとく府ふが定さだめた「諺文おんもん綴字ていじ法ほう」にも取とり入いれられているが、一部いちぶの表記ひょうきがいまだ不完全ふかんぜんであった。朝鮮ちょうせん語ご綴字ていじ法ほう統一とういつ案あんでは形態けいたい主義しゅぎが徹底てっていされている。

現行げんこう正書法せいしょほうとの違ちがいは以下いかの通とおりである。

疑問ぎもん形がた語尾ごび「-ㄹ까（…か），-ㄹ꼬（…か）」は「-ㄹ가，-ㄹ고」とつづる（第だい8項こう）。ただし、この記述きじゅつは第だい2版はん（1937年ねん）以降いこうにはない。
語幹ごかん末まつの2文字もじの終おわり声ごえ表記ひょうきに「ㅁㄱ」を認みとめている（第だい11項こう）。この終おわり声ごえは古語こごに用もちいられるものであるが、現代げんだい語ごの表記ひょうきに用もちいられることはなかった。
「맞추다（合あわせる）」など現行げんこうの正書法せいしょほうで「-추-」とつづられる接尾せつび辞じは「맞후다」のように「-후-」とつづられた（第だい19項こう）。これは1940年ねんの改訂かいてい版ばんで現行げんこうと同おなじ「-추-」に改あらためられる。

合成ごうせい語ごの表記ひょうき

사이시옷（間あいだのㅅ）の規定きていは現行げんこうの正書法せいしょほうと同様どうようである。ただし、1940年ねんの改訂かいてい版ばんでは濃こ音おと化かとn挿入そうにゅうが起おこる合成ごうせい語ごにおいて「ㅅ」を1文字もじとして表記ひょうきしたが（담배ㅅ대‘きせる’、담ㅅ요‘毛布もうふ’）、1948年ねん改訂かいてい版ばんで従前じゅうぜんの表記ひょうきに戻もどされた。なお、朝鮮民主主義人民共和国ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこくで1954年ねんに定さだめられた「朝鮮ちょうせん語ご綴字ていじ法ほう（조선어 철자법）」における사이표（間あいだ標しるべ）「’」は、この1940年ねん改訂かいてい版ばんの「ㅅ」を符号ふごう化かしたものと思おもわれる。

漢字かんじ語ごの表記ひょうき

漢字かんじ語ごの表記ひょうきにおいても慣用かんよう的てきな表記ひょうき法ほうを排除はいじょすると同時どうじに、頭あたま音おん法則ほうそくによる語頭ごとうのㄹ，ㄴの音おと変化へんかを反映はんえいした表記ひょうき法ほうもここで定さだめられた。また、慣用音かんようおんが通用つうようしているものについては慣用音かんようおん通どおりに表記ひょうきする点てんも、現行げんこうの正書法せいしょほうと同様どうようである。

縮ちぢみ約やく形かたちの表記ひょうき

하다（する）が縮ちぢみ約やくされて激げき音おん化かする場合ばあいの表記ひょうき法ほうが現行げんこうの正書法せいしょほうと大おおきく異ことなる。語幹ごかんと語尾ごびの間あいだに1文字もじで「ㅎ」を表記ひょうきするのを原則げんそくとし、語幹ごかん末まつに終おわり声ごえㅎとして表記ひょうきするのを許容きょようとした。逆ぎゃくに、現行げんこうの正書法せいしょほうのように激げき音おん字母じぼで表記ひょうきすることは認みとめられなかった。

原則げんそく	許容きょよう	不可ふか	日本語にほんご
가ㅎ다	갛다	가타	可かなり
부지런ㅎ다	부지럲다	부지런타	まじめだ

分わかち書がき

分わかち書がきの規定きていは5項こうの簡単かんたんな規則きそくのみである。単語たんご単位たんいで分わかち書がきをし、語尾ごび（助詞じょしを含ふくむ）を付つけて書かくという原則げんそくは現行げんこうの正書法せいしょほうと同様どうようであるが、以下いかの点てんで現行げんこうの正書法せいしょほうと異ことなる。

補助ほじょ用言ようげんは直前ちょくぜんの用言ようげんに付つけて書かく。
形式けいしき名詞めいし（助数詞じょすうしを含ふくむ）は直前ちょくぜんの単語たんごに付つけて書かく。
数かずは十進法じっしんほうに従したがって分わかち書がきする。

補助ほじょ用言ようげんと形式けいしき名詞めいしに関かんする規定きていは、1948年ねん改訂かいてい版ばんで分わかち書がきされることになる。

文章ぶんしょう符号ふごう

文章ぶんしょう符号ふごうについて特徴とくちょう的てきなものをいくつか挙あげる。

句読点くとうてんは初版しょはんでは「、」「。」のみであったが、1940年ねんの改訂かいてい版ばんでは横書よこがきに合あわせて「，」「．」も句読点くとうてんとして認みとめている。
引用いんよう符ふは初版しょはんでは括弧かっこ（「」，『』）のみであったが、1940年ねんの改訂かいてい版ばんでは横書よこがきに合あわせてクォーテーションマーク（‘ ’，“ ”）も認みとめている。
固有名詞こゆうめいしには傍線ぼうせん（縦たて書がきでは左ひだりに、横書よこがきでは下したに）を付ふした。

外部がいぶリンク

朝鮮ちょうせん語ご綴字ていじ法ほう統一とういつ案あん（ハングル学会がっかい）（朝鮮ちょうせん語ご）

参考さんこう文献ぶんけん

申さる昌あきら淳あつし（2003）『國語こくご近代きんだい表記ひょうき法ほう의 展開てんかい』，太ふとし學がく社しゃ
한글 학회（1989）『한글 맞춤법 통일안（1933～1980）외래어 표기법 통일안（1940）우리말 로마자 적기（1984）』，한글 학회