束帯そくたい

束帯そくたい（そくたい、旧きゅう字体じたい：束帶そくたい）は、平安へいあん時代じだい以降いこうの、天皇てんのう以下いか公家くげ男子だんしの正装せいそう（平安へいあん装束しょうぞく）。衣冠いかんを「宿直しゅくちょく（とのい）装束しょうぞく」と呼よぶのに対たいし、束帯そくたいは「昼ひる（ひの）装束しょうぞく」と呼よばれる。

種類しゅるい

束帯そくたいは文官ぶんかん用ようと武官ぶかん用ように分わかれる。冠かんむりは文官ぶんかんは纓えい（えい）と呼よばれる飾かざりを後うしろに垂たらした垂たれ纓えい冠かんむり（すいえいのかんむり）をかぶり、武官ぶかんは纓えい（えい）を巻まき上あげた巻まき纓えい冠かんむり（けんえいのかんむり）に緌（おいかけ）と呼よばれる馬うま毛げ製せいの扇状せんじょうの飾かざりが付ついたものをかぶる。

袍ほう（ほう）は文官ぶんかんと三さん位い以上いじょうの武官ぶかんは脇わきが縫ぬわれている縫ぬい腋わき袍ほう（ほうえきのほう）、四よん位い以下いかの武官ぶかんは活動かつどうさを優先ゆうせんした脇わきを縫ぬわない厥脇袍ほう（けってきのほう）を着用ちゃくようする。六ろく衛まもる府ふに所属しょぞくする武官ぶかんは弓箭きゅうせん（弓ゆみと矢や）を装備そうびすることが許ゆるされた。

靴くつは文官ぶんかんは浅あさ沓くつ（あさぐつ）、武官ぶかんは牛革ぎゅうかわ製せいの鞾（かのくつ）をはく。本来ほんらいは文武ぶんぶを問とわず鞾をはいた。

武官ぶかん・中務なかつかさ省しょうの官かん人じん、勅許ちょっきょを得えた参議さんぎ以上いじょうの文官ぶんかんは、大刀たちを佩用はいようした。その場合ばあい、大刀たちは平ひら緒いとぐち（ひらお）で括くくり、腰こしに結むすびつけた。

構成こうせい

以下いかは文官ぶんかんの束帯そくたいの構成こうせいである。

a：垂たれ纓えい冠かんむり
b：袍ほう（ほう）
c：飾かざり太刀だち（かざりたち）
d：笏しゃく（しゃく）
e：平ひら緒いとぐち（ひらお）
f：下しも襲かさねの裾すそ（したがさねのきょ）
g：表おもて袴はかま（うえのはかま）
h：大口おおぐち袴はかま（おおぐちばかま）

束帯そくたいの構成こうせいは下したから、単たん（ひとえ）・袙（あこめ）・下しも襲かさね（したがさね）・半臂はんぴ（はんぴ）・袍ほうを着用ちゃくよう、袍ほうの上うえから腰こしの部位ぶいに革かわ製せいのベルトである石いし帯たい（せきたい）を当あてる。袴はかま（はかま）は大口おおぐち袴はかま・表おもて袴はかまの2種類しゅるいあり、大口おおぐちを履はき、その上うえに表おもて袴はかまを重かさねて履はく。冠かんむりを被こうむり、足あしには襪（しとうず）を履はく。帖じょう紙し（たとう）と檜扇ひおうぎ（ひおうぎ）を懐中かいちゅうし、笏しゃく（しゃく）を持もつ。公卿くぎょう、殿上人てんじょうびとは魚さかな袋ぶくろ（ぎょたい）と呼よばれる装飾そうしょく物ぶつを腰こしから提さげた。

特徴とくちょう

下しも襲かさねの後うしろ身頃みごろ（背部はいぶ）は長ながくできており、着用ちゃくよう時じは長ながく尾おを引ひくように引ひき擦こすった。この部位ぶいを「裾すそ（きょ）」と呼よび、束帯そくたい姿すがたの大おおきな特徴とくちょうである。また、裾すその長ながさによって身分みぶんが表あらわされるようになると、下しも襲かさね自体じたいが長大ちょうだいになった為ため、下しも襲かさねと裾すそが分離ぶんりするようになった（別べつ裾すそ）。その場合ばあい、下しも襲かさねを着きた後のちに腰こしに裾すそを当あて、裾すそから伸のびる帯おびを前まえに回まわして結むすびつけた。しかしながら、天皇てんのうと皇太子こうたいしが着用ちゃくようするものに関かんしては下しも襲かさねと裾すそが続つづくものとされている。また、纔著（さいじゃく）と言いわれる丈たけの短みじかい裾すそもあり、地下ちか官かん人じんの束帯そくたいに用もちいられた。

文官ぶんかんは冬期とうきは半臂はんぴを廃はいして着用ちゃくようしていた。これは文官ぶんかんの用もちいる縫ぬい腋わき袍ほうは脇わきが縫ぬわれているので、着用ちゃくようの有無うむを外見がいけんから判別はんべつ出来できない為ためである。夏期かきは半臂はんぴが透すける（袍ほうの布地ぬのじが薄うすい為ため）ので着用ちゃくようされていたが、近世きんせいに入はいってからは夏期かきも廃はいされた。なお、『今こん鏡かがみ』には、冬期とうきにくだけた場面ばめんで袍ほうを肩かた脱ぬぎした際さい、皆みな下か襲かさねが露あらわになる中なかで藤原ふじわら教きょう通どおりのみがきちんと半臂はんぴを着用ちゃくようしており、周囲しゅういがいたく自みずからを恥はじた、という伝承でんしょうが残のこされている。この事ことから、本来ほんらいは冬期とうきも半臂はんぴを着用ちゃくようする制せいであったことが窺うかがえる。天皇てんのうに関かんしては半臂はんぴを略りゃくさないとされる。

衣冠いかんは本来ほんらい、宮中きゅうちゅうに於おける宿直しゅくちょく用ようの装束しょうぞく（とのいぎぬ）であったが、宮中きゅうちゅうでの勤務きんむ服ふくとして定着ていちゃくするにつれ、束帯そくたいは儀式ぎしきに用もちいる儀礼ぎれい的てきな服ふくとなった。このため、両者りょうしゃをまとめて「衣冠いかん束帯そくたい」とも呼よぶ。

歴史れきし

奈良なら時代じだいの『養老ようろう律令りつりょう』衣服いふく令れいで、礼服れいふく、朝ちょう服ふく、制服せいふくの服ふく制せいが制定せいていされた^[1]。

礼服れいふくは朝賀ちょうがならびに即位そくいの礼れいの際さいに着用ちゃくようする最高さいこう礼装れいそうであったが、のちに朝賀ちょうがが廃止はいしされると、即位そくいの礼れいのみに着用ちゃくようされることになった。

朝ちょう服ふくは官吏かんりが宮廷きゅうていに参内さんだいする際さいの日常にちじょう服ふくであったが、平安へいあん時代じだいになると和様わよう化かして束帯そくたいへと変化へんかした。

ギャラリー

束帯そくたい姿すがたの歴代れきだい天皇てんのう
第だい45代だい聖武天皇しょうむてんのう
第だい94代だい後こう二条天皇にじょうてんのう
第だい121代だい孝明天皇こうめいてんのう
第だい122代だい明治天皇めいじてんのう
第だい124代だい昭和しょうわ天皇てんのう
第だい125代だい天皇てんのう明仁あきひと（当時とうじ）、帛御袍ほう

未成年みせいねんの束帯そくたい（闕腋袍ほうを着きて、冠かんむりは被かぶらず空そら頂いただき黒くろ幘を被こうむる）
闕腋袍ほうに空そら頂いただき黒くろ幘を被こうむった裕仁ひろひと親王しんのう（のちの昭和しょうわ天皇てんのう）
闕腋袍ほうに空そら頂いただき黒くろ幘を被こうむった山階やましな宮みや武彦たけひこ王おう
闕腋袍ほうに空そら頂いただき黒くろ幘を被こうむった竹田たけだ宮みや恒つね徳王とくおう

その他た
江戸えど期きの縫ぬい腋わきの袍ほう（阿部あべ正弘まさひろ）
武官ぶかん装束しょうぞくを着きた衛門えもん
1990年ねん、即位そくい礼れいにて

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ 黒板こくばん 1939, pp. 213–219.

参考さんこう文献ぶんけん

黒板こくばん, 勝美かつみ編へん『国史こくし大系たいけい』 22巻かん、国史こくし大系たいけい刊行かんこう会かい〈新しん訂てい増補ぞうほ〉、1939年ねん。doi:10.11501/3431635。
佐多さた芳彦よしひこ「公武こうぶ服ふく制せいの成立せいりつと展開てんかい（「朝ちょう服ふく」と「束帯そくたい」―用例ようれいからみた平安へいあん初期しょき公家くげ服ふく制せい）」『服ふく制せいと儀式ぎしきの有職故実ゆうそくこじつ』吉川弘文館よしかわこうぶんかん
津田つだ大輔だいすけ「平安へいあん時代じだい前期ぜんき服飾ふくしょく復元ふくげんの可能かのう性せい--考証こうしょうの方法ほうほうと男子だんし装束しょうぞくの復元ふくげん」古代こだい文化ぶんか研究けんきゅう16 島根しまね県けん古代こだい文化ぶんかセンター 2008年ねん

外部がいぶリンク

風俗ふうぞく博物館はくぶつかん

[FOOTNOTE黒板1939213–219-1] 黒板こくばん 1939, pp. 213–219.

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