東洋とうよう的てき浪漫ろうまん主義しゅぎ

東洋とうよう的てき浪漫ろうまん主義しゅぎ（とうようてきろまんしゅぎ）は、岡倉おかくら天心てんしんが提唱ていしょうした東洋とうようの美よしの精神せいしん・特質とくしつ。

概要がいよう

インドから中国ちゅうごく、日本にっぽんへと伝播でんぱされた東洋とうよう美術びじゅつは、仏教ぶっきょう、儒教じゅきょう、道教どうきょう、神道しんとう、民間みんかん信仰しんこうなどの宗教しゅうきょう観かんを根本こんぽんに、外見がいけんではなく内面ないめん性せいや精神せいしん性せいに基もとづく美意識びいしきが重おもんじられた。

「日本にっぽんの芸術げいじゅつは足利あしかがの名匠めいしょう時代じだい以後いご、わずかに退歩たいほしたとはいえ、着実ちゃくじつに東洋とうよう的てき浪漫ろうまん主義しゅぎの理想りそうすなわち芸術げいじゅつにおける努力どりょくの結晶けっしょうたる精神せいしんの表現ひょうげんを固守こしゅしてきた。この精神せいしん性せいは我々われわれにとっては、キリスト教きりすときょう初期しょきの教父きょうふの禁欲きんよく的てき純粋じゅんすい主義しゅぎでもなければ、擬なずらえルネサンスの寓意ぐうい的てきな理想りそう化かでもなかった。またマンネリズムでもなければ、自己じこ抑制よくせいでもなかった。精神せいしん性せいとは事物じぶつの神髄しんずいあるいは生命せいめい、万物ばんぶつの霊れいの特殊とくしゅ化か、内うちに燃もえる火ひと考かんがえられたのであった。美びとは宇宙うちゅうに遍在へんざいする根本こんぽん原理げんりであった。」

日本にっぽん画がの美意識びいしき

天心てんしんは、美術びじゅつ史家しかアーネスト・フェノロサが日本にっぽん画がの造形ぞうけい性せい、装飾そうしょく性せいを高たかく評価ひょうかした事ことをきっかけに、新あたらしい日本にっぽん画がの構想こうそうとして西にし洋画ようが法ほうの踏襲とうしゅうと東洋とうよう的てき浪漫ろうまん主義しゅぎを掲かかげ、彼かれが参画さんかくした日本にっぽん絵画かいが協会きょうかいや東京とうきょう美術びじゅつ学校がっこうにおいて横山よこやま大観たいかんや菱田ひしだ春草しゅんそうなど多おおくの若手わかて画家がかが実践じっせんした。

日本にっぽん画がにおける東洋とうよう的てき浪漫ろうまん主義しゅぎの特徴とくちょうは以下いかの通とおり。

1. 観念かんねん的てきな画題がだいやテーマ（寂静じゃくじょう、勇壮ゆうそう、華麗かれいなど、特定とくていのモチーフを持もたない概念がいねん）
2. 感覚かんかくの表現ひょうげん（騒々そうぞうしさ、生臭なまぐささ、冷つめたさ、湿しめっぽさなど、観賞かんしょう者しゃの感覚かんかくや内面ないめんに訴うったえかける目めに見みえないもの）
3. 心情しんじょうの描写びょうしゃ（人物じんぶつや動物どうぶつの心情しんじょうに限かぎらず、草花くさばなや山やま、海うみなどのあらゆるモチーフから感情かんじょうを読よみ取とれるような描えがき方かた）
4. 観察かんさつ眼め（実物じつぶつを見みながら写生しゃせい・デッサンするのではなく、実物じつぶつをしばらく観察かんさつして目めに焼やき付つけ、時間じかんを置おいて思おもい出だしながら描えがく。こうする事ことで自身じしんの印象いんしょうに残のこっていない余計よけいな情報じょうほうが省はぶかれ、洗練せんれんされたモチーフを描えがき出だすことができる。）

日本にっぽん美術びじゅつ院いんでは、こうした特徴とくちょうを踏ふまえた絵画かいが研究けんきゅう会かいや互評会かいが組織そしきされ、毎月まいつき定期ていき的てきに開ひらかれた。具体ぐたい的てきに、岡倉おかくら天心てんしんが月つき毎ごとに画題がだいを発表はっぴょうし、正員せいいんや研究生けんきゅうせいたちは１ヶ月かげつかけて作品さくひんを描えがき、画題がだいの真意しんいが表現ひょうげんできているかどうか天心てんしんによって論ろんじられた。

影響えいきょう

横山よこやま大観たいかん、菱田ひしだ春草しゅんそう等とうは、東洋とうよう的てき浪漫ろうまん主義しゅぎに基もとづく絵えの研鑽けんさんを積つみ、朦朧もうろう体たい、没ぼつ線せん彩いろどり画が描法といった新あたらしい日本にっぽん画が法ほうを確立かくりつした。

京都きょうと画壇がだんの竹内たけうち栖鳳せいほうは、実物じつぶつを観察かんさつしながら写生しゃせいに取とり組くむ事ことを重視じゅうししていた事ことから東洋とうよう的てき浪漫ろうまん主義しゅぎとは異ことなる立場たちばであったが、写生しゃせいを重かさねる事ことでモチーフの内面ないめん性せいや精神せいしん性せいを描えがき出だそうとした点てんは、プロセスは違ちがえど東洋とうよう的てき浪漫ろうまん主義しゅぎの美意識びいしきと合致がっちするものであった。

参考さんこう文献ぶんけん

• 岡倉おかくら天心てんしん『東洋とうようの理想りそう』講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、1986年ねん
• 佐藤さとう志乃しの『「朦朧もうろう」の時代じだい―大観たいかん、春草しゅんそうらと近代きんだい日本にっぽん画がの成立せいりつ』人文書院じんぶんしょいん、2013年ねん

関連かんれん項目こうもく

• 朦朧もうろう体たい
• 没ぼつ線せん彩いろどり画が描法
• 鵺ぬえ派は