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校正こうせい (生物せいぶつがく)

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生物せいぶつがくにおいて校正こうせい(こうせい、えい: proofreading)とは、さまざまな生物せいぶつがくてき過程かていにおいてそのエラーを修正しゅうせいする過程かていす。この機構きこうジョン・ホップフィールドJacques Ninioによって最初さいしょ提唱ていしょうされた。校正こうせいDNA複製ふくせい免疫めんえきけい特異とくいせい酵素こうそ-基質きしつ認識にんしきや、その特異とくいせいたかめる必要ひつようのあるおおくの過程かてい関係かんけいしている。ホップフィールドとNinioによって提唱ていしょうされた校正こうせい機構きこうは、さまざまな生物せいぶつがくてき反応はんのう特異とくいせいたかめるためにATP消費しょうひする、平衡へいこうてき能動のうどう過程かていである。

細菌さいきんでは、3種類しゅるいDNAポリメラーゼI英語えいごばんII英語えいごばんIII英語えいごばん)のすべてが3’ → 5’エキソヌクレアーゼ活性かっせいもちいて校正こうせいおこなうことができる。不正確ふせいかく塩基えんきたい認識にんしきされると、DNAポリメラーゼはDNAを1塩基えんきたいごとにぎゃく方向ほうこう移動いどうし、ミスマッチした塩基えんき除去じょきょする。その、ポリメラーゼはただしい塩基えんきさい挿入そうにゅうし、複製ふくせい継続けいぞくすることができる。

かく生物せいぶつでは、伸長しんちょう反応はんのうになうポリメラーゼ(δでるた英語えいごばんεいぷしろん英語えいごばん)のみが校正こうせい能力のうりょく(3’ → 5’エキソヌクレアーゼ活性かっせい)を[1]

校正こうせいタンパク質たんぱくしつ合成ごうせいのためのmRNA翻訳ほんやくさいにもおこなわれる[2]。この場合ばあい機構きこうの1つとして、不正確ふせいかくアミノアシルtRNAペプチド結合けつごう形成けいせいされるまえ放出ほうしゅつされる[3]

DNA複製ふくせい校正こうせい程度ていどによって突然変異とつぜんへんいりつ英語えいごばん決定けっていされ、そのしゅによってことなる[4]。ヒトの大腸だいちょうがんでは、DNAポリメラーゼεいぷしろん遺伝子いでんし変異へんいによる校正こうせい機能きのう喪失そうしつによって、1 Mbpあたり100以上いじょう変異へんいしょうじるhyper-mutated(こう頻度ひんど変異へんいがた)の遺伝子いでんしがたとなる[5]

分子ぶんし過程かていにおける校正こうせい程度ていどは、たね有効ゆうこう個体こたいすう英語えいごばん同一どういつ校正こうせい機構きこうによって影響えいきょうける遺伝子いでんしかず依存いぞんしている[6]

T4ファージDNAポリメラーゼ

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T4ファージのgene 43は、ファージのDNAポリメラーゼをコードしている。gene 43の温度おんど感受性かんじゅせい変異へんいたい英語えいごばんこう変異へんいばらせい表現ひょうげんがたつことがしめされており、その自発じはつてき変異へんいりつ野生やせいがたよりもひく[7]。こうした変異へんいたいの1つであるtsB120もちいた研究けんきゅうでは、DNA鋳型いがた複製ふくせい野生やせいがたのポリメラーゼよりもよりおそ速度そくど進行しんこうすることがしめされている[8]。しかしながら、この変異へんいたいの3’ → 5’エキソヌクレアーゼ活性かっせい野生やせいがたよりたかいわけではない。DNA複製ふくせいに、新生しんせいDNAくさり安定あんていまれるヌクレオチドにたいするターンオーバー(dNTPからdNMPへの変換へんかん)されるヌクレオチドの比率ひりつは、tsB120変異へんいたいでは野生やせいがた比較ひかくして10ばいから100ばいたかい。この結果けっかからは、ヌクレオチド選択せんたく正確せいかくさと、相補そうほてきなヌクレオチドの除去じょきょ校正こうせい)の効率こうりつ双方そうほうによってtsB120ポリメラーゼのこう変異へんいばらせい説明せつめいされるのではないかという提案ていあんがなされている。

野生やせいがたのgene 43 DNAポリメラーゼをつT4ファージビリオンでは、DNAにシクロブタンピリミジンダイマー英語えいごばん損傷そんしょう導入どうにゅうする紫外線しがいせん照射しょうしゃや、またはピリミジン付加ふかたい導入どうにゅうするソラレン存在そんざいでのひかり照射しょうしゃによって、変異へんいりつ増加ぞうかする。しかし、ファージのDNA合成ごうせいtsCB120こう変異へんいばらせいポリメラーゼやこう変異へんいばらせいポリメラーゼであるtsCB87によって触媒しょくばいされる場合ばあいには、こうした変異へんいばらせい効果こうか阻害そがいされる[9]。これらの知見ちけんは、DNA損傷そんしょうによる突然変異とつぜんへんい誘発ゆうはつ程度ていどが、gene 43 DNAポリメラーゼの校正こうせい機能きのうによってつよ影響えいきょうされることをしめしている。

SARS-CoV-2の校正こうせい酵素こうそ

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SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、COVID-19パンデミック原因げんいんとなったウイルスである。SARS-CoV-2 RNAウイルスゲノムには、ウイルスの生活せいかつたまき不可欠ふかけつなゲノムの複製ふくせい転写てんしゃおこなサブユニットがたタンパク質たんぱくしつ装置そうちである複製ふくせい転写てんしゃふく合体がったいがコードされている。コロナウイルスのゲノムにコードされているタンパク質たんぱくしつの1つに構造こうぞうタンパク質たんぱくしつnsp14があり、これは3’ → 5’エキソリボヌクレアーゼ活性かっせいつ。このタンパク質たんぱくしつは、nsp10-nsp14タンパク質たんぱくしつふく合体がったいとして存在そんざいし、ウイルスの生活せいかつたまきにおいて重要じゅうよう活性かっせいであるRNA合成ごうせい校正こうせいすることによって複製ふくせい正確せいかくせいたかめている[10]。さらに、nsp14の校正こうせいがたエキソリボヌクレアーゼ活性かっせいは、感染かんせんおこなわれる遺伝いでんてきえの維持いじにも必要ひつようである[11]

出典しゅってん

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  1. ^ Moldovan, G. L.; Pfander, B.; Jentsch, S. (2007). “PCNA, the Maestro of the Replication Fork”. Cell 129 (4): 665–79. doi:10.1016/j.cell.2007.05.003. PMID 17512402. 
  2. ^ Pharmamotion --> Protein synthesis inhibitors: aminoglycosides mechanism of action animation. Classification of agents Archived 2010-03-12 at the Wayback Machine. Posted by Flavio Guzmán on 12/08/08
  3. ^ Translation: Protein Synthesis by Joyce J. Diwan. Rensselaer Polytechnic Institute. Retrieved October 2011 Archived 2016-03-07 at the Wayback Machine.
  4. ^ Drake, J. W.; Charlesworth, B; Charlesworth, D; Crow, J. F. (1998). “Rates of spontaneous mutation”. Genetics 148 (4): 1667–86. doi:10.1093/genetics/148.4.1667. PMC 1460098. PMID 9560386. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1460098/. 
  5. ^ The Cancer Genome Atlas Network; Bainbridge; Chang; Dinh; Drummond; Fowler; Kovar; Lewis et al. (2012). “Comprehensive molecular characterization of human colon and rectal cancer”. Nature 487 (7407): 330–337. Bibcode2012Natur.487..330T. doi:10.1038/nature11252. PMC 3401966. PMID 22810696. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3401966/. 
  6. ^ Rajon, E., Masel, J.; Masel (2011). “Evolution of molecular error rates and the consequences for evolvability”. PNAS 108 (3): 1082–1087. Bibcode2011PNAS..108.1082R. doi:10.1073/pnas.1012918108. PMC 3024668. PMID 21199946. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3024668/. 
  7. ^ Drake, J. W.; Allen, E. F. (1968). “Antimutagenic DNA polymerases of bacteriophage T4”. Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology 33: 339–344. doi:10.1101/sqb.1968.033.01.039. ISSN 0091-7451. PMID 5254574. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5254574. 
  8. ^ Gillin, F. D.; Nossal, N. G. (1976-09-10). “Control of mutation frequency by bacteriophage T4 DNA polymerase. I. The CB120 antimutator DNA polymerase is defective in strand displacement”. The Journal of Biological Chemistry 251 (17): 5219–5224. ISSN 0021-9258. PMID 956182. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/956182. 
  9. ^ Yarosh, D. B.; Johns, V.; Mufti, S.; Bernstein, C.; Bernstein, H. (1980-04). “Inhibition of UV and psoralen-plus-light mutagenesis in phage T4 by gene 43 antimutator polymerase alleles”. Photochemistry and Photobiology 31 (4): 341–350. doi:10.1111/j.1751-1097.1980.tb02551.x. ISSN 0031-8655. PMID 7384228. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7384228. 
  10. ^ Liu, Chang; Shi, Wei; Becker, Scott T.; Schatz, David G.; Liu, Bin; Yang, Yang (2021-09-03). “Structural basis of mismatch recognition by a SARS-CoV-2 proofreading enzyme”. Science (New York, N.Y.) 373 (6559): 1142–1146. doi:10.1126/science.abi9310. ISSN 1095-9203. PMID 34315827. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34315827. 
  11. ^ Gribble, Jennifer; Stevens, Laura J.; Agostini, Maria L.; Anderson-Daniels, Jordan; Chappell, James D.; Lu, Xiaotao; Pruijssers, Andrea J.; Routh, Andrew L. et al. (2021-01). “The coronavirus proofreading exoribonuclease mediates extensive viral recombination”. PLoS pathogens 17 (1): e1009226. doi:10.1371/journal.ppat.1009226. ISSN 1553-7374. PMC 7846108. PMID 33465137. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33465137. 

外部がいぶリンク

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