田た堵と

田た堵と（たと）は、日本にっぽんの平安へいあん時代じだいに荘園しょうえん・国衙こくが領りょうの田地でんち経営けいえいをおこなった有力ゆうりょく百姓ひゃくしょう層そうを指さす。経営けいえい規模きぼに応おうじて、大だい名田なた堵と（だいみょうたと）や小名田おなだ堵と（しょうみょうたと）などと呼よばれた。初期しょきの文書ぶんしょでは田た刀がたな、田頭たがしらとも言いう。田た堵との堵とは、垣かきを意味いみする。

また、「田た刀がたな」を「田た刀禰とね」の略りゃくとみて、元もとは国司こくし・郡司ぐんじの下したにいて田地でんちの境界きょうかい画定かくていや勧すすむ農のうを担になった刀禰とねを指さしていたとする見方みかたもある。

概要がいよう

9世紀せいき〜10世紀せいきごろに律令制りつりょうせいの解体かいたいが進展しんてんしていくなかで、直接ちょくせつ納税のうぜいを請うけ負おう立場たちばにあったのが田た堵とである。初期しょきにおける「田た刀がたな」は後世こうせいの田た堵ととやや性格せいかくを異ことにし、荘園しょうえんの職掌しょくしょうの1つとしての性格せいかくが強つよく、荘園しょうえんの土地とちを預あずか作さくをすると同時どうじに自みずからの私宅したく（穀物こくもつの貯蔵庫ちょぞうこにもなり得える）と治田はるた（開墾かいこん地ち）を有ゆうしていた。田た刀がたなは院いん宮王みやおう臣しん家かや寺社じしゃに私宅したくと治田はるたを寄進きしんして田た刀がたなの身分みぶんを手てに入いれて国衙こくがからの租税そぜいを逃のがれようとした。なお延喜えんぎの荘園しょうえん整理せいり令れい制定せいていの目的もくてきの1つにはこうした田た刀がたなの行動こうどうを規制きせいすることも含ふくまれていた。10世紀せいき後半こうはんの王朝おうちょう国家こっか確立かくりつとともに国衙こくがによる賦課ふか主体しゅたいとしての田た刀がたなの把握はあくが進すすみ、この時期じきから代かわりに「田た堵と」の字じが用もちいられるようになる。「田た堵と」の初はつ見みは永えい延のべ2年ねん（988年ねん）の「尾張おわり国こく郡司ぐんじ百姓ひゃくしょう等とう解かい」である。

田た堵とには、古来こらいの郡司ぐんじ一族いちぞくに出自しゅつじする在地ざいち豪族ごうぞくや、土着どちゃく国司こくしなどの退官たいかんした律令りつりょう官かん人じんを出自しゅつじとする者ものもいて、蓄積ちくせきした富とみをもって、墾田こんでん開発かいはつ・田地たじ経営けいえいなどの営田活動かつどうを進すすめたり、他たの百姓ひゃくしょうへの私わたし出で挙きょを行おこなった。また在地ざいち豪族ごうぞくは律令制りつりょうせい下したでも一定いっていの武力ぶりょくを保有ほゆうしていた。

そして、まず国衙こくが領りょうにおいて、公田くでんから名田なだへの再さい編成へんせいが行おこなわれると、田た堵とが名田なだ経営けいえいを請うけ負おう主体しゅたいに位置いちづけられるようになる。さらに、荘園しょうえんにも名田なだ化かが波及はきゅうすると、荘園しょうえん内ないの名田なだ経営けいえいも田た堵とが請うけ負おうようになった。こうして田た堵とは、荘園しょうえん・公おおやけ領りょう経営けいえいに深ふかく携たずさわるようになっていき、荘そう官かんや名主なぬしの地位ちいを得えるのである。田た堵とは、荘園しょうえん公こう領りょう制せいの成立せいりつに非常ひじょうに大おおきな役割やくわりを果はたしたといえる。

11世紀せいきに成立せいりつした『新しん猿楽さるがく記き』という世相せそうを映うつし出だした書物しょもつには、「出羽でわ権けん介かいの田中たなか豊ゆたか益えきは、農業のうぎょう経営けいえいを専門せんもんとし、数すう町まちの田地でんちを経営けいえいする大だい名田なた堵とである。ひでりに備そなえて、農具のうぐや用水ようすいの整備せいびにいそしんで農民のうみんの育成いくせいにあたり、種播たねまき期きには農民のうみんの作業さぎょうをうまく指揮しきする。」という内容ないようの記載きさいがあり、田た堵との実情じつじょうをよく知しることができる。

関連かんれん項目こうもく

• 荘園しょうえん
• 名田なだ
• 百姓ひゃくしょう
• 開発かいはつ領主りょうしゅ