出で挙きょ

出で挙きょ（すいこ）とは、古代こだいから中世ちゅうせいの日本にっぽんに見みられた利子りし付つき貸借たいしゃくを指さす。

稲いね粟あわの種子しゅしを蓄たくわえた者ものが、播種はしゅ期きにそれを農民のうみんへ貸与たいよし、収穫しゅうかく期きに利子りしを付つけて返済へんさいさせる行為こういが起源きげんである。

発生はっせい

世界せかい各地かくちの農業のうぎょう社会しゃかいでは、このような慣行かんこうが農業のうぎょう成立せいりつ初期しょきに生うまれたと考かんがえられている（これを利子りしの起源きげんとする意見いけんもある）。これは農業のうぎょう生産せいさんの推進すいしん・奨励しょうれい、すなわち勧すすむ農のうの意味いみがあった。中国ちゅうごくでも古ふるくから同様どうようの慣習かんしゅうが存在そんざいしたとされている。

日本にっぽんでも古代こだいからこの慣習かんしゅうがあったと見みられている。また、地域ちいきの支配しはい者しゃである首長しゅちょうが種たね稲いねを支配しはい民みんに貸かし与あたえ、収穫しゅうかく期きに収穫しゅうかくの中なかから初穂はつほ料りょうとして首長しゅちょうに進上しんじょうした日本にっぽん古来こらいの慣習かんしゅうとの関係かんけいも指摘してきされている。

日本書紀にほんしょきの孝徳天皇こうとくてんのう2年ねん（646年ねん）3月がつ19日にちの記事きじに「貸かし稲いね」（いらしのいね）の語かたりが登場とうじょうする。これが出で挙きょの前身ぜんしんではないかと考かんがえられており、少すくなくとも7世紀せいき中期ちゅうきまでに利子りしの慣行かんこうが発生はっせいしていたことの傍証ぼうしょうとされている。（日本書紀にほんしょきの記述きじゅつに懐疑かいぎ的てきな意見いけんもある。）

律令りつりょうにおける出で挙きょ

8世紀せいきに施行しこうされた律令りつりょうに初はじめて「出で挙きょ」の語かたりが現あらわれ（養老ようろう律令りつりょう雑ざつ令れい）、それまでの慣行かんこうが国家こっかにより制度せいど化かされた（唐とうの影響えいきょうを指摘してきする意見いけんもある）。

律令制りつりょうせいにおいては、公的こうてきな出だし挙きょ（公おおやけ出で挙きょ：くすいこ）・私的してきな出だし挙きょ（私わたし出で挙きょ：しすいこ）に区分くぶんされ、また、財物ざいぶつを出で挙きょした場合ばあいと稲いね粟あわを出で挙きょした場合ばあいで取扱とりあつかいが異ことなっていた。細則さいそくは次つぎのとおりである。

1. まず出で挙きょの原則げんそくは、私的してき・自由じゆうな契約けいやく関係かんけいに依よるべきであり、官庁かんちょうの管理かんりを受うけないこととした。
2. 財物ざいぶつの場合ばあい、60日にちごとに8分ぶんの1ずつ利子りしを取とることとされ（年利ねんり約やく75％）、480日にちを経過けいかしても元本がんぽん以上いじょうの利子りしを取とることは認みとめられなかった。さらに、利子りしの複利ふくり計算けいさんも禁きんじられていた。債務さいむ者しゃが逃にげたときは、保証人ほしょうにんが弁済べんさいすることも定さだめられていた。
3. 稲いね粟あわの場合ばあい、1年ねんを満期まんきとして、私わたし出で挙きょであれば年利ねんり100％まで、公おおやけ出で挙きょであれば年利ねんり50％まで利子りしを取とることが認みとめられており、財物ざいぶつと同様どうよう、複利ふくり計算けいさんは禁きんじられていた。

財物ざいぶつも稲いね粟あわも、非常ひじょうに高たかい利子りし率りつが設定せっていされているのが特徴とくちょう的てきである。稲いね粟あわであれば、播種はしゅ量りょうに対たいする収穫しゅうかく量りょうの割合わりあいが非常ひじょうに高たかいため、利子りし率りつが著いちじるしく高たかくなるのは合理ごうり的てきだと言いえる。しかし、財物ざいぶつについても利子りし率りつがかなりの高水準こうすいじゅんであり、その理由りゆうについて見解けんかいが分わかれている。

都市とし部ぶ（平城京へいじょうきょうや平安京へいあんきょう）では、財物ざいぶつの出だし挙きょが盛さかんに行おこなわれていたようで、平安へいあん時代じだい初期しょきに書かかれた日本にっぽん霊異れいい記きに、出で挙きょによって金銭きんせん亡者もうじゃとなったり返済へんさいに苦悩くのうしたりする都市とし住民じゅうみんの様子ようすがまざまざと描えがかれている。また、正せい倉くら院いん文書ぶんしょの中なかに出で挙きょの貸借たいしゃく証文しょうもんが多数たすうのこされており、奈良なら時代じだい当時とうじの財物ざいぶつ出で挙きょの貴重きちょうな史料しりょうとなっている。

出で挙きょの租税そぜい化か

稲いね粟あわの出だし挙きょは、農民のうみん（百姓ひゃくしょう）の救済きゅうさいや勧すすむ農のうが元来がんらいの目的もくてきだった。

しかし、国府こくふや郡ぐん家かなどの地方ちほう機関きかんは公おおやけ出で挙きょを財源ざいげんとみなすようになり定着ていちゃくした。本来ほんらいの律令制りつりょうせい上じょうの地方ちほう機関きかんの主要しゅよう財源ざいげんは正せい税ぜい（田租でんそ）だが、その徴収ちょうしゅうした種籾たねもみを原資げんしとして、春はると秋あきの年とし二に回かい、百姓ひゃくしょうへ強制きょうせい的てきに貸与たいよし、秋あきになると50％の利息りそくをつけて返済へんさいさせることで租税そぜい化かした。この利息りそく分ぶんの稲いねを利り稲いね（りとう）という。

正せい税ぜいは田たの面積めんせきを基準きじゅんとし、その徴収ちょうしゅうは戸籍こせきの作成さくせい、班はん田でんなど煩雑はんざつな事務じむを経へる必要ひつようがあったのに対たいし、公おおやけ出で挙きょは簡素かんそな事務じむで多額たがくの税収ぜいしゅうを安定あんていして確保かくほできた。

律令りつりょう政府せいふは、公おおやけ出で挙きょの負担ふたんにより百姓ひゃくしょうが疲弊ひへいし始はじめたことを知しり、720年ねん（養老ようろう4年ねん）3月がつ、公おおやけ出で挙きょの利子りし率りつの低減ていげん（年利ねんり50％ → 30％）、および養老ようろう2年ねん以前いぜんに生しょうじた全すべての債務さいむの免除めんじょを決定けっていし、諸国しょこくへ通知つうちした。

しかし、ほどなくして公おおやけ出で挙きょの利子りし率りつは50％へ戻もどされた。更さらに745年ねんの国司こくしの給与きゅうよの財源ざいげんとして公おおやけ廨稲が正せい税ぜいから分離ぶんりされて、出で挙きょの運用うんよう原資げんしとして用もちいられるようになった事ことで出で挙きょと国司こくしの収入しゅうにゅうが直接ちょくせつ関係かんけいするようになると、むしろ公おおやけ出で挙きょは益々ますます盛さかんになった。その後ご、奈良なら末期まっき～平安へいあん初頭しょとうにかけて桓武かんむ天皇てんのうは大だい規模きぼな行政ぎょうせい改革かいかくの一環いっかんとして公おおやけ出で挙きょの利子りし率りつを再ふたたび年利ねんり30％へ引ひき下さげた。

平安へいあん初期しょきの出だし挙きょ

平安へいあん期きにはいると、正せい税ぜいと並ならんで公おおやけ出で挙きょが主要しゅような地方ちほう財源ざいげんとなっていった。これに伴ともない、平安へいあん前期ぜんきの弘ひろし仁ひとし貞さだ観かん期き（9世紀せいき）には、政府せいふの租税そぜい方針ほうしんも律令りつりょうが当初とうしょ想定そうていしていた人ひとへの課税かぜいから土地とちへの課税かぜいへと転換てんかんしていき、例たとえば、土地とちに対たいして公おおやけ出で挙きょの納入のうにゅう義務ぎむが課かせられるような事例じれいも見みられた。

地方ちほう機関きかんの倉庫そうこ（正せい倉くら）には正せい税ぜいを備蓄びちくし、地方ちほう機関きかんが備蓄びちく米まいを公おおやけ出で挙きょにより運用うんようすることとされていた。しかし、公おおやけ出で挙きょのウェイトが大おおきくなってくると、地方ちほう機関きかんの出だし挙きょ運用うんように様々さまざまなトラブルが起おこるようになり、利り稲いねを確保かくほできない状況じょうきょうも生しょうじていた。このころには地方ちほう機関きかんによる公おおやけ出で挙きょの他ほか、地域ちいきの富豪ふごう・有力ゆうりょく百姓ひゃくしょうら（田た堵となど）も零細れいさい百姓ひゃくしょうらを対象たいしょうに私わたし出で挙きょを行おこなうようになっており、9世紀せいきには広範囲こうはんいの国くにで、公おおやけ出で挙きょと私わたし出で挙きょを組くみ合あわせた租税そぜい徴収ちょうしゅう方法ほうほうが模索もさくされていた。これは、公おおやけ出で挙きょの貸付かしつけ先さきとして利払りばらいが滞とどこおりがちな小規模しょうきぼ広範囲こうはんいの百姓ひゃくしょうではなく、大だい規模きぼで少数しょうすうの有力ゆうりょく百姓ひゃくしょう等とうを指定していし、彼かれらが公おおやけ出で挙きょにより受うけ取とった本ほん稲いね（元本がんぽんの稲いね）を私わたし出で挙きょの財源ざいげんとすることを認みとめたものであった。彼かれらは年利ねんり30％で公おおやけ出で挙きょの本ほん稲いねを借かり受うけ、年利ねんり50％で貸かし付つけることにより20％の利息りそくを得えることとなった。

更さらに9世紀せいき後半こうはんには、地域ちいきの富豪ふごう・有力ゆうりょく百姓ひゃくしょうらの私わたし倉くらを正せい倉くらと認みとめ（里さと倉くら）、彼かれらに公おおやけ出で挙きょ運用うんようを請うけ負おわせることで、地方ちほう機関きかんの出だし挙きょ収入しゅうにゅうの確保かくほが図はかられるようになった。これを里さと倉くら負まけ名めい（りそうふみょう）という。里さと倉くら負まけ名めい制せいでは、負まけ名めいと呼よばれるようになった地域ちいきの富豪ふごう・有力ゆうりょく百姓ひゃくしょうら請負人うけおいにんは徴税ちょうぜい役人やくにんに任命にんめいされた。負まけ名めいは、私わたし出で挙きょにより得えた50％の利子りしのうち30％分ぶんを公おおやけ出で挙きょの利子りしとして地方ちほう機関きかんに納入のうにゅうすれば残のこりの20％を正せい倉くら管理かんり料りょう、運用うんよう請負うけおい費用ひよう等とうとして自分じぶんのものとすることが出来できた。

このような状況じょうきょうの下した、公おおやけ出で挙きょと不可分ふかぶんの存在そんざいとなった私わたし出で挙きょも半はん強制きょうせい的てきに行おこなわれていた。私わたし出で挙きょにおいては、借受かりうけ側がわの百姓ひゃくしょうらの宅地たくち・耕地こうち・奴婢ぬひなどが担保たんぽとされていたが、高利こうりのため返済へんさいできない例れいも多おおく、担保たんぽ物件ぶっけんは貸与たいよ側がわの所有しょゆうへと移転いてん（質流しちながれ）することとなり、富とみの集中しゅうちゅう・蓄積ちくせきが進すすんでいった。このようにして、平安へいあん中期ちゅうきごろには、富豪ふごう層そうによる地域ちいき支配しはいが徐々じょじょに拡ひろがり始はじめていき、これが中世ちゅうせいの萌芽ほうがへつながって行いった。

中世ちゅうせい期きの出だし挙きょ

延喜えんぎ年間ねんかんに里さと倉くら負まけ名めい体制たいせいは負まけ名めい体制たいせいに移行いこうし、公的こうてき租税そぜいとしての正せい税ぜい及および公おおやけ出で挙きょに代かわり官かん物ぶつとして一括いっかつして土地とちに賦課ふかする方式ほうしきとなった。11世紀せいき中期ちゅうきには官かん物ぶつの税率ぜいりつが公田くでん官かん物ぶつ率りつ法ほうにより「段別たんべつ三さん斗と」に固定こてい化かされ土地とち税ぜいとしての性質せいしつが強つよまり、荘園しょうえん公こう領りょう制せいの展開てんかいに伴ともなって荘園しょうえん領主りょうしゅへの貢みつぎ納おさめのうち、国衙こくが領りょうでいう官かん物ぶつにあたるものが年貢ねんぐと呼よばれるようになる。

一方いっぽう、在地ざいち領主りょうしゅ・富豪ふごう・有力ゆうりょく百姓ひゃくしょうらが新あらたな支配しはい層そうとして台頭たいとうしていたが、彼かれらによる私わたし出で挙きょは、私的してき租税そぜいの一ひとつとして存続そんぞくしていた。鎌倉かまくら期きごろから貨幣かへい経済けいざいが発達はったつしていくと、それまでの稲いねの出だし挙きょではなく、金銭きんせんの出だし挙きょが行おこなわれるようになった。これを利り銭ぜに出で挙きょ（りせんすいこ）という。

中世ちゅうせいにおいても、出で挙きょは、単たんなる利子りし付つき貸借たいしゃくにとどまらず、租税そぜいという面めんも持もっていた。これはすなわち、出で挙きょを行おこなえるのは支配しはい層そうに限かぎられていたこと、支配しはい層そうも自みずからが支配しはいする範囲はんい内ないでのみ出だし挙きょを行おこなえたこと、を表あらわしている。

貨幣かへい経済けいざいの進展しんてんによって出現しゅつげんしたのは利り銭ぜに出で挙きょだけではなかった。純粋じゅんすいな商行為しょうこういである貸付かしつけ金融きんゆうも生うまれることとなった。鎌倉かまくら後期こうきごろから次第しだいに貸付かしつけ金融きんゆうが主流しゅりゅうとなっていき、室町むろまち期きごろに利り銭ぜに出で挙きょは消滅しょうめつした。利り稲いね出で挙きょは、中世ちゅうせい後期こうきになっても存続そんぞくしており、戦国せんごく期きの史料しりょうに出で挙きょの記事きじのあることが知しられている。しかし、織お豊ゆたか期きになると、太閤たいこう検地けんちなどを通つうじて土地とち所有しょゆう関係かんけいが大おおきく整理せいりされたため、出で挙きょは近世きんせいに入はいるまでに消滅しょうめつしたとされている。

関連かんれん文献ぶんけん

• 『八はち・九きゅう世紀せいきにおける私わたし出で挙きょについて』吉川弘文館よしかわこうぶんかん〈律令りつりょう国家こっかの基礎きそ構造こうぞう〉、1960年ねん、467 - 514頁ぺーじ。doi:10.11501/3006634。https://dl.ndl.go.jp/pid/3006634/1/246。 

関連かんれん項目こうもく

• 利子りし
• 消費しょうひ貸借たいしゃく
• 律令制りつりょうせい
• 借か上じょう
• 種たね貸かし