相互そうご主義しゅぎ

相互そうご主義しゅぎ（そうごしゅぎ、英語えいご: principle of reciprocity）とは、以下いかのような内容ないようの考かんがえ方かたをいう。

1. 外交がいこうや通商つうしょうなどにおいて、相手あいて国こくの自国じこくに対たいする待遇たいぐうと同様どうようの待遇たいぐうを相手あいて国こくに対たいして付与ふよしようとする考かんがえ方かた。互恵ごけい主義しゅぎ、レシプロシティーとも。
2. 外国がいこく人じんの権利けんりに関かんして、その外国がいこく人じんの本国ほんごくが自じ国民こくみんに同等どうとうの権利けんりを与あたえることを条件じょうけんとする考かんがえ方かた
3. 保険ほけん用語ようごとして、保険ほけん事業じぎょうの経営けいえいは相互そうご組織そしきの団体だんたいを保険ほけん者しゃとして行おこなうことが望のぞましいとする考かんがえ方かた。

貿易ぼうえきにおける相互そうご主義しゅぎ

貿易ぼうえきにおける相互そうご主義しゅぎの歴史れきし

経済けいざい学者がくしゃのカール・ポランニーは、共同きょうどう体たいの贈与ぞうよ関係かんけいや相互そうご扶助ふじょ関係かんけいとして互酬 (reciprocity) を分析ぶんせきし、共同きょうどう体たい間あいだの互酬は交易こうえきの形かたちをとることがあると論ろんじた。互酬にもとづく交易こうえきは当事とうじ者しゃを相互そうごに結むすびつける効果こうかがあるため、贈与ぞうよ交易こうえきの形かたちをとることがある。太平洋たいへいようのクラや、ナヴァホ族ぞくとズニ族ぞく（Zuni people）の間あいだのゲスト・フレンドなどがこれにあたる。この場合ばあいの交易こうえき組織そしきは儀礼ぎれい的てきなものとなり、贈物おくりものの交換こうかん、使節しせつの交換こうかん、首長しゅちょうの政治せいじ的てき行為こういなどを含ふくむ。一方いっぽうで国家こっか間あいだの管理かんり貿易ぼうえきは、古代こだいより必かならず条約じょうやくを必要ひつようとした。また、輸入ゆにゅうの利害りがいが双方そうほうにとって重要じゅうようであるため、政府せいふまたは政府せいふに認みとめられた方途ほうとによって組織そしきされた。管理かんり貿易ぼうえきにおける取引とりひき交渉こうしょうは、特とくに古代こだい社会しゃかいでは手続てつづきに含ふくまれておらず、原則げんそくとして等価とうか物ぶつの遵守じゅんしゅがなされた。

貿易ぼうえき政策せいさくにおける相互そうご主義しゅぎ

政治せいじ経済けいざい学者がくしゃのロバート・トレンズ (Robert Torrens) は、1833年ねんに発表はっぴょうした Letters on Commercial Policy において、貿易ぼうえき政策せいさくの原則げんそくとして互恵ごけい主義しゅぎを論ろんじた。トレンズは、デヴィッド・リカードの国際こくさい貿易ぼうえき論ろんに依拠いきょしつつ、一方いっぽう的てきな自由じゆう貿易ぼうえきに対たいして互恵ごけい的てきな自由じゆう貿易ぼうえきを論ろんじている。

1860年ねんの英えい仏ふつ通商つうしょう条約じょうやく（コブデン条約じょうやく）（Cobden–Chevalier Treaty）においては、自由じゆう貿易ぼうえき政策せいさくの互恵ごけい主義しゅぎ (reciprocity) が採とられた。

法学ほうがくにおける相互そうご主義しゅぎ

法学ほうがく者しゃで人権じんけんとは異ことなる「人類じんるい権けん的てき私権しけん」を構想こうそうした梅うめ謙次郎けんじろうの1893年ねん(明治めいじ26年ねん)は、論考ろんこう「外国がいこく人じんノ権利けんり」や「(講演こうえん)外国がいこく人じんノ権利けんり」(明治めいじ30年ねん)において、欧米おうべいの法制ほうせいを次つぎの四よっつに分類ぶんるいした。

• 外国がいこく人じんは内国ないこく人じんより「権利けんり少しょうキ者きしゃ」なりとの原則げんそくをとる賤外主義しゅぎ（英えい米べい法ほう）
• 条約じょうやくで外国がいこくがその内国ないこく人じんと同おなじく自国じこくの人民じんみんの利りを保護ほごすべきことを規定きていするのでなければその外国がいこくの人民じんみんに自国じこく人じんと同様どうようの権利けんりを賦与ふよしない条約じょうやく相互そうご主義しゅぎ(フランス・ベルギー等とう)
• 外国がいこくの法律ほうりつにおいて自国じこくの人民じんみんをその外国がいこくの人民じんみんと同様どうように取とり扱あつかうときは自国じこくにおいてもその外国がいこく人民じんみんに内国ないこく人じんと同様どうようの権利けんりを認みとめる法律ほうりつ相互そうご主義しゅぎ(ドイツ、オーストリア、スイス等とう)
• 内外ないがい人じん同等どうとう主義しゅぎ(イタリア、ロシア、スペイン・ポルトガル等とう)

日本にっぽん法ほうにおける相互そうご主義しゅぎの規定きてい

日本国にっぽんこく国内こくない法ほうでは、国家こっか賠償ばいしょう法ほう6条じょう相互そうご保証ほしょうにおいて、「賠償ばいしょう請求せいきゅうは日本人にっぽんじんだけができるが、外国がいこくで日本人にっぽんじんが外国がいこく政府せいふに同様どうようの請求せいきゅうができる場合ばあいは、その国くにの外国がいこく人じんも国くに賠法上じょうの請求せいきゅうができる」とし、相互そうご主義しゅぎを明記めいきしている。ほか、民事みんじ訴訟そしょう法ほう118条じょうの外国がいこく判決はんけつの効力こうりょくに関かんする条項じょうこうにおいても、採用さいようされている。

出入国しゅつにゅうこく管理かんり及および難民なんみん認定にんてい法ほう5条じょう2項こうは「法務大臣ほうむだいじんは、本邦ほんぽうに上陸じょうりくしようとする外国がいこく人じんが前項ぜんこう各号かくごうのいずれにも該当がいとうしない場合ばあいでも、その者ものの国籍こくせき又または市民しみん権けんの属ぞくする国くにが同どう項こう各号かくごう以外いがいの事由じゆうにより日本人にっぽんじんの上陸じょうりくを拒否きょひするときは、同一どういつの事由じゆうにより当該とうがい外国がいこく人じんの上陸じょうりくを拒否きょひすることができる」と規定きていする。

通商つうしょう関係かんけいにおいては、通商つうしょう航海こうかい条約じょうやくにおける内うち国民こくみん待遇たいぐう、最恵国さいけいこく待遇たいぐうにおいて相互そうご主義しゅぎが採用さいようされる。租税そぜい法ほうに関かんしては外国がいこく人じん等とうの国際こくさい運輸うんゆ業ぎょうに係かかる所得しょとくに対たいする相互そうご主義しゅぎによる所得しょとく税ぜい等とうの非課税ひかぜいに関かんする法律ほうりつがある。

また，著作ちょさく権けんの保護ほご期間きかんについても相互そうご主義しゅぎが採とられている。著作ちょさく権けんの保護ほご期間きかんにおける相互そうご主義しゅぎを参照さんしょう。

参政さんせい権けんにおける相互そうご主義しゅぎ

詳細しょうさいは「外国がいこく人参にんじん政権せいけん」を参照さんしょう

EU加盟かめい国こくにおける相互そうご主義しゅぎ

EU加盟かめい国こくにおいては、マーストリヒト条約じょうやくで「欧州おうしゅう連合れんごうの市民しみん」（EU市民しみん）の概念がいねんを導入どうにゅうし、その権利けんりを相互そうごに認みとめEU加盟かめい国こくの国籍こくせきを持もつ外国がいこく人じんに欧州おうしゅう議会ぎかいと地方自治体ちほうじちたいにおける参政さんせい権けん(選挙せんきょ権けん)を付与ふよしなければならないことを定さだめており、EU市民しみんとしてのアイデンティティーの形成けいせいを目的もくてきとする。このため、各国かっこくは批准ひじゅんにあたり国内こくない法ほうを整備せいびしており、ドイツとフランスでは憲法けんぽうを改正かいせいして、EU加盟かめい国こくの国籍こくせき者しゃに限定げんていして外国がいこく人参にんじん政権せいけんを与あたえられるようにした。イギリスにおいてはイギリス連邦れんぽう加盟かめい国こくに限定げんていされている。ドイツにおけるトルコ人じんやバルト三さん国こくにおけるロシア人じんなど、EU市民しみんとそれ以外いがいの外国がいこく人じんの待遇たいぐうの差さとして新あらたに問題もんだい化かすることがある。EUに先立さきだち1970年代ねんだいから「北欧ほくおう市し民権みんけん」と呼よばれる形かたちで相互そうごに地方ちほう参政さんせい権けんを認みとめていた北欧ほくおう諸国しょこくは、互恵ごけい国民こくみんとその他たの外国がいこく人じんとの待遇たいぐう差さが問題もんだいとなり、互恵ごけい型がたから定住ていじゅう者しゃ一般いっぱんに認みとめる方向ほうこうに移行いこうした。

韓国かんこくにおける相互そうご主義しゅぎ

詳細しょうさいは「韓国かんこくにおける外国がいこく人参にんじん政権せいけん」を参照さんしょう

2005年ねん6月がつに盧武鉉のむひょん政権せいけん下かで「永住えいじゅう外国がいこく人じんに対たいする外国がいこく人じん地方ちほう参政さんせい権けん付与ふよ法案ほうあん」を可決かけつ。外国がいこく人参にんじん政権せいけんを付与ふよした。以来いらい、在日ざいにち韓国かんこく人じんおよび韓国かんこく政府せいふが相互そうご主義しゅぎを主張しゅちょうし、日本にっぽん政府せいふに対たいして外国がいこく人じんの参政さんせい権けん付与ふよを要請ようせいしている。

日本にっぽんにおける相互そうご主義しゅぎ

詳細しょうさいは「日本にっぽんにおける外国がいこく人参にんじん政権せいけん」を参照さんしょう

日本国にっぽんこく憲法けんぽうは、15条じょう1項こうで｢公務員こうむいんを選定せんていし、及およびこれを罷免ひめんすることは、国民こくみん固有こゆうの権利けんりである」、43条じょう1項こうで｢両りょう議院ぎいんは、全ぜん国民こくみんを代表だいひょうする選挙せんきょされた議員ぎいんでこれを組織そしきする」としており、現状げんじょうで外国がいこく人じんの国政こくせい参政さんせい権けんは認みとめられていない。民主党みんしゅとう推進すいしん派は議連ぎれんは、2008年ねんの提言ていげんで、相互そうご主義しゅぎに一定いっていの合理ごうり性せいを認みとめつつも、その採用さいようには慎重しんちょうであるべきとの結論けつろんに至いたったとしている。日にち韓かんで相互そうご主義しゅぎをとる場合ばあいの制度せいど差さとして永住えいじゅう者しゃ数すう、永住えいじゅう資格しかく付与ふよ条件じょうけん、政党せいとうや選挙せんきょ運動うんどうへの参加さんか条件じょうけんなどの相違そうい点てんが議論ぎろんとなっている。

土地とち所有しょゆう権けんにおける相互そうご主義しゅぎ

日本にっぽんにおける規制きせい

「外国がいこく人じん土地とち法ほう」も参照さんしょう

1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）に制定せいていされた外国がいこく人じん土地とち法ほうでは、日本人にっぽんじん・日本にっぽん法人ほうじんによる土地とちの権利けんりの享有きょうゆうを制限せいげんしている国くにに属ぞくする外国がいこく人じん・外国がいこく法人ほうじんに対たいしては、日本にっぽんにおける土地とちの権利けんりの享有きょうゆうについて、その外国がいこく人じん・外国がいこく法人ほうじんが属ぞくする国くにが制限せいげんしている内容ないようと同様どうようの制限せいげんを政令せいれいによってかけることができると定さだめている。敗戦はいせん後ご、日本国にっぽんこく憲法けんぽう下かにおいてこの法律ほうりつに基もとづく政令せいれいは制定せいていされていない。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくにおける規制きせい

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくは、外国がいこく政府せいふの土地とち所有しょゆうは相互そうご主義しゅぎを原則げんそくとする外交がいこう使節しせつ団だん法ほうで判断はんだんされる。また、米国べいこくでは、外国がいこく政府せいふや外資がいしによる投資とうしが安全あんぜん保障ほしょうや公共こうきょうの利益りえきを阻害そがいすると判断はんだんされれば、国くにが強制きょうせい的てきに審査しんさする制度せいどもある。

参考さんこう文献ぶんけん

• 熊谷くまがい次郎じろう　「自由じゆう貿易ぼうえきと互恵ごけい主義しゅぎ : コブデン・クラブの一いちパンフレッ トの周辺しゅうへん」一橋大学ひとつばしだいがく社会しゃかい科学かがく古典こてん資料しりょうセンター年報ねんぽう、1992年ねん3月がつ31日にち。
• アラン・コーエン、デビッド・ブラッドフォード　『影響えいきょう力りょくの法則ほうそく』高嶋たかしま薫かおる・高嶋たかしま成しげる豪ごう訳わけ、税務ぜいむ経理けいり協会きょうかい、2007年ねん。
• 河合かわい康夫やすお「ロバート・トレンズの互恵ごけい主義しゅぎ論ろんの形成けいせい過程かていをめぐって」『武蔵大学むさしだいがく論集ろんしゅう』第だい54巻かん第だい2号ごう、2006年ねん11月。
• カール・ポランニー　『人間にんげんの経済けいざい 1 市場いちば社会しゃかいの虚構きょこう性せい』　玉野井たまのい芳郎よしお・栗本くりもと慎一郎しんいちろう訳わけ、岩波書店いわなみしょてん / 『人間にんげんの経済けいざい 2 交易こうえき・貨幣かへいおよび市場いちばの出現しゅつげん』　玉野井たまのい芳郎よしお・中野なかの忠ただし訳わけ、岩波書店いわなみしょてん、2005年ねん。
• 大河おおかわ純夫すみお　「外国がいこく人じんの私権しけんと梅うめ謙次郎けんじろう」立たて命いのち館かん法学ほうがく、1997年ねん5号ごう(255号ごう)。
• 田中たなか宏ひろし、金敬得きむきょんどく編へん　『日にち・韓かん「共生きょうせい社会しゃかい」の展望てんぼう―韓国かんこくで実現じつげんした外国がいこく人じん地方ちほう参政さんせい権けん』新しん幹みき社しゃ、2006年ねん。

関連かんれん項目こうもく

• 最恵国さいけいこく待遇たいぐう
• 内うち国民こくみん待遇たいぐう
• 外国がいこく人参にんじん政権せいけん
• 相互そうご会社かいしゃ
• 自由じゆう貿易ぼうえき協定きょうてい