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紀きの長谷ながたに雄つよし

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』
 
紀きの 長谷ながたに雄つよし
『長谷ながたに雄つよし草紙ぞうし』（作者さくしゃ不ふ詳しょう）より
紀きの長谷ながたに雄つよし（左ひだり）と朱雀すざく門もんの鬼おにの双そう六ろく勝負しょうぶ
時代じだい 平安へいあん時代じだい前期ぜんき
生誕せいたん 承うけたまわ和わ12年ねん（845年ねん）
死没しぼつ 延喜えんぎ12年ねん2月がつ10日とおか（912年ねん3月1日にち）
別名べつめい 紀きの納言なごん、字じ：紀きの寛ひろし
官位かんい 従したがえ三さん位い・中納言ちゅうなごん
主君しゅくん 清和せいわ天皇てんのう→陽成ようぜい天皇てんのう→光孝みつたか天皇てんのう→宇多天皇うだてんのう→醍醐天皇だいごてんのう
氏族しぞく 紀きの氏し（紀きの朝臣あそん）
父母ちちはは 父ちち：紀きの貞さだ範はん
子こ 淑よし望もち、淑人よしと、淑よし信しん、淑よし光こう、淑よし行ぎょう、淑よし間あいだ、淑よし方かた、淑よし久ひさ、淑江よしえ
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紀きの 長谷ながたに雄つよし（き の はせお）は、平安へいあん時代じだい前期ぜんきの公卿くぎょう・文人ぶんじん。典薬てんやく頭あたま・紀きの国守こくしゅの孫まご。弾たま正大せいだい忠ちゅう・紀きの貞さだ範はんの子こ。官位かんいは従したがえ三さん位い・中納言ちゅうなごん。『竹たけ取と物語ものがたり』の作者さくしゃの候補者こうほしゃの一人ひとりであり、『長谷ながたに雄つよし草紙ぞうし』の主人公しゅじんこう。

経歴けいれき

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若わかい頃ころより学問がくもんを志こころざし、18歳さいにして文章ぶんしょうをつづることを会得えとくしたが、有力ゆうりょくな援助えんじょ者しゃはなく、紀伝きでん道どうの名家めいかであった菅原すがわら氏し・大江おおえ氏しなどとは異ことなり、学問がくもんを指導しどうし取とり立たててくれる人物じんぶつにも恵めぐまれなかったという[1]。

貞さだ観かん10年ねん（868年ねん）頃ごろより、当時とうじ文章ぶんしょう得業とくぎょう生せいであった都みやこ良りょう香がに師事しじし詩文しぶんを学まなぶが、神仙しんせん的てき人物じんぶつとして敬仰けいぎょうされた良りょう香がからは神仙しんせんや怪奇かいきについても影響えいきょうを受うけたともされる[2]。ある夜よる、紀伝きでん道どうを学まなぶ学生がくせいが群ぐん飲のまして「幽かそけ人じん春水しゅんすいに釣つりす」の題だいで試作しさくを競きそった。良りょう香がは、ただひとり長谷ながたに雄つよしの詩しを取とり上あげて「綴つづり韻いんの間あいだ、甚はなはだ風骨ふうこつを得える」（韻いんを綴つづる間あいだの趣おもむきが非常ひじょうに優すぐれている）と激賞げきしょうした。良りょう香がのこの一言いちげんによって、長谷ながたに雄つよしはようやくその名なを知しられるようになった。しかし、逆ぎゃくにその才能さいのうを妬ねたむ同おなじ門人もんじんから讒言ざんげんを受うけてしまい、師しである良りょう香がとの関係かんけいが次第しだいに疎遠そえんになっていったという[1]。

貞さだ観かん18年ねん（876年ねん）32歳さいにしてようやく文章ぶんしょう生せいに補ほせられ、字じを紀きの寛ひろしと称しょうした。元もと慶けい5年ねん（881年ねん）文章ぶんしょう得業とくぎょう生せいとなるが、このころ長谷ながたに雄つよしは次第しだいに菅原すがわら道真みちざねの人柄ひとがらに引ひかれ、道真みちざねと同門どうもんの党とうを結むすぶようになった[3]。元もと慶けい6年ねん（882年ねん）には右みぎ衛門えもん大尉たいい・坂上さかがみ茂樹しげきと共ともに掌てのひら渤海客きゃく使しを務つとめ、元もと慶けい7年ねん（883年ねん）対策たいさくに丁ひのと科かで及第きゅうだいして三さん階かい昇進しょうしんし従したがえ七なな位い下かに叙じょせられた。その後ご、讃岐さぬき掾じょう・少しょう外そと記きを経へて、仁和にわ4年ねん（888年ねん）従したがえ五ご位い下かに叙爵じょしゃくするが、道真みちざねの推挙すいきょによるものとも想定そうていされる[4]。

宇多うた朝ちょう前半ぜんはんは、図書としょ頭あたま・文章ぶんしょう博士はかせ・式部しきぶ少しょう輔を歴任れきにんする。寛平かんぺい6年ねん（894年ねん）に従したがえ五ご位い上じょう・右みぎ少しょう弁べんに叙任じょにんされると、寛平かんぺい7年ねん（895年ねん）正せい五ご位い下か、寛平かんぺい8年ねん（896年ねん）従したがえ四よん位い下かと宇多うた朝ちょう後半こうはんは急速きゅうそくに昇進しょうしんを果はたし、この間あいだの寛平かんぺい7年ねん（895年ねん）に式部しきぶ少しょう輔・大学だいがく頭あたま・文章ぶんしょう博士はかせを兼かねて三さん職しょく兼帯けんたいの栄誉えいよに浴よくし、寛平かんぺい9年ねん（897年ねん）には式部しきぶ大輔だいすけ兼けん侍従じじゅうに任にんぜられた。また、菅原すがわら道真みちざねに才能さいのうを見込みこまれ、寛平かんぺい6年ねん（894年ねん）に計画けいかくされるも道真みちざねの建議けんぎにより中止ちゅうしとなった最後さいごの遣唐使けんとうしでは副使ふくしに補ほされている。長谷ながたに雄つよしの知識ちしきや政務せいむ能力のうりょく、そして人柄ひとがらは宇多天皇うだてんのうからも早はやくから嘱目しょくもくされており[5]、宇多うた上皇じょうこうが醍醐天皇だいごてんのうに与あたえた御ご遺戒いかいの中なかでも、藤原ふじわら時じ平ひらた、菅原すがわら道真みちざね、藤原ふじわら定国さだくに、平ひら季き長ちょうと並ならべて、長谷ながたに雄つよしを「心しんをしれり、顧問こもんにも、そなわりぬべし[6]」あるいは「博ひろしく、経典きょうてんに渉わたるり、共ともに大器たいきなり[7]」と評ひょうして推挙すいきょされている。

醍醐だいご朝あさに入はいると左右さゆう大だい弁べんの要職ようしょくを務つとめる。昌あきら泰やすし4年ねん（901年ねん）昌あきら泰たいの変へんが発生はっせいし、師しとも仰あおぐ右大臣うだいじん・菅原すがわら道真みちざねが大だい宰おさむ権けん帥そちに左遷させんされて失脚しっきゃくする。この変へんにおいて長谷ながたに雄つよしがどのような態度たいどを取とったかは明あきらかではないが、道真みちざねに深ふかい同情どうじょうの念ねんを寄よせ、無念むねんやるかたのない想おもいを抱いだきながらも、恐おそらく宇多うた上皇じょうこうに慰留いりゅうされて、目立めだった行動こうどうを起おこすようなことを慎つつしんでいたと想定そうていされる。あるいは行動こうどうが逆ぎゃく効果こうかになることを恐おそれていた可能かのう性せいもある。それでも、秘ひそかに長谷ながたに雄つよしは配所はいしょの道真みちざねを慰なぐさめ援助えんじょしていたと見みられ、道真みちざねもこの誠意せいいに感かんじ、配所はいしょで作つくった詩集ししゅう『菅家すがや後ご集しゅう』を長谷ながたに雄つよしに贈おくっている[8]。長谷ながたに雄つよしは道真みちざねに心しんを寄よせていたものの、醍醐天皇だいごてんのうや執政しっせいの左大臣さだいじん・藤原ふじわら時じ平ひらたも長谷ながたに雄つよしの人柄ひとがらや優すぐれた政務せいむ能力のうりょくを無視むしできず[8]、延喜えんぎ2年ねん（902年ねん）には参議さんぎに任にんじて公卿くぎょうに加くわえた。なお、参議さんぎ任官にんかんを挟はさんで要職ようしょくの左ひだり大だい弁べんを約やく10年ねんの長期ちょうきに亘わたって務つとめたが、長谷ながたに雄つよしが優秀ゆうしゅうな官かん人じんであったことの証明しょうめいとする意見いけんもある[8]。延喜えんぎ10年ねん（910年ねん）従したがえ三さん位い・権けん中納言ちゅうなごん、延喜えんぎ11年ねん（911年ねん） 中納言ちゅうなごんに至いたる。醍醐天皇だいごてんのうの侍読じどくを務つとめる一方いっぽう、『延喜えんぎ格式かくしき』の編纂へんさんにもあたった。

延喜えんぎ12年ねん（912年ねん）2月がつ10日とおか薨去こうきょ。享年きょうねん68。最終さいしゅう官位かんいは中納言ちゅうなごん従したがえ三さん位い。

人物じんぶつ

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漢詩かんし文集ぶんしゅうに『紀きの家集かしゅう』があり、和歌わかが『後こう撰せん和歌集わかしゅう』に4首しゅ入いれ集しゅうしている。『竹たけ取と物語ものがたり』の作者さくしゃの候補者こうほしゃの一人ひとり。

説話せつわ

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長谷ながたに雄つよしの祖父そふである紀きの国守こくしゅは医道いどうを家業かぎょうとして伝つたえてきたが、国守こくしゅの遺誡いかいにより、紀きの氏しの衰退すいたいから脱却だっきゃくするために新あたらしく家いえを継つぐ者ものには紀伝きでん道どうを学まなばせることになった。 しかし、国守こくしゅの子こである貞さだ範はんはその遺誡いかいを果はたせぬことを覚さとって、自みずから長谷寺はせでらに参籠さんろうし、文才ぶんさいの優すぐれた子こを授ることを祈願きがんした。 満願まんがんの日ひに至いたり、御ご帳とばりの中なかより12-3歳さいばかりの童子どうじが現あらわれ、貞さだ範はんの懇篤こんとくなる願ねがいをき届きとどけ、「吾われは汝なんじの子ことならん」と伝つたえ、さらに、汝なんじとこの山やまの松まつに変かわらぬ契ちぎりを結むすぼうと夢ゆめ告つげした。やがて、貞さだ範はんは夢ゆめ告つげにいう「松まつ」は、「十じゅう八はち公おおやけ」とも書かくと気きづく。観音かんのんの縁日えんにちは18日にちであったことから、観世音菩薩かんぜおんぼさつが伽藍がらん守護しゅごの金剛こんごう童子どうじを授さづけて下くださったと歓喜かんきし、その童子どうじを長谷ながたに観音かんのんに因ちなんで「長谷ながたに雄つよし」と名付なづけたという（『三さん国こく伝記でんき』）[9]。

官かん歴れき

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紀きの長谷ながたに雄つよし（菊池きくち容斎ようさい『前賢ぜんけん故実こじつ』）

注記ちゅうきのないものは『公卿くぎょう補任ほにん』による。

系譜けいふ

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注記ちゅうきのないものは『尊卑そんぴ分脈ぶんみゃく』による。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b 『本朝ほんちょう文ぶん粋いき』書しょ八はち序じょ,『延喜えんぎ以後いご詩し序じょ』
  2. ^ 井上いのうえ[2008: 33]
  3. ^ 井上いのうえ[2008: 34]
  4. ^ 井上いのうえ[2008: 36]
  5. ^ 井上いのうえ[2008: 37]
  6. ^ 『古今ここん著聞ちょぶん集しゅう』巻まき第だい三さん,政道せいどう忠臣ちゅうしんの一いち
  7. ^ 『寛平かんぺい御ご遺誡いかい』
  8. ^ a b c 井上いのうえ[2008: 43]
  9. ^ 『三さん国こく伝記でんき』11,中納言ちゅうなごん長谷ながたに雄つよし卿きょう事ごと
  10. ^ 『菅家すがや文章ふみあき』牒
  11. ^ a b c 『日本にっぽん三さん代だい実録じつろく』
  12. ^ a b 『公卿くぎょう補任ほにん』
  13. ^ 「紀きの氏し系図けいず」『続つづけ群ぐん書しょ類従るいじゅう』巻まき第だい168所収しょしゅう

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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ポータル 文学
ポータル 文学ぶんがく
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