絣かすり

織機しょっきと織物おりもの（倉吉くらよし絣かすり）

沖縄おきなわ・石垣いしがき島とうのミンサー織おり

絣かすり（かすり）は、織物おりものの技法ぎほうの一ひとつで、絣かすり糸いと（かすりいと）、すなわち前まえもって染そめ分わけた糸いとを経糸たていと（たていと）、緯糸よこいと（よこいと、ぬきいと）、またはその両方りょうほうに使用しようして織おり上あげ、文様もんようを表あらわすものである。「絣かすり」は日本にっぽんおよび琉球りゅうきゅうの織物おりものを指さす用語ようごであるが、これに類るいした織お技わざは東南とうなんアジアをはじめ世界せかい各地かくちにみられ、マレー語ご/インドネシア語ごで「縛しばる、括くくる」を意味いみする「イカット」(ikat)という語かたりで呼よばれている。

技法ぎほうの概要がいよう

織物おりものに文様もんようを表あらわすには、各種かくしゅの色いろ糸いとを用もちいて織おり上あげ、経糸たていとまたは緯糸よこいとの浮うき沈しずみによって図柄ずがらを表あらわす方法ほうほう（錦にしきなど）、織おり上あがった布ぬのに後こう染そめする方法ほうほうなどがあるが、絣かすりはあらかじめ斑むらに染そめた糸いとを用もちいて織おる技法ぎほうである。糸いとで縛しばって防ぼう染しみするなどの方法ほうほうであらかじめ染そめ分わけた絣かすり糸いとを経糸たていとに使用しようするものを経けい絣かすり（たてがすり）、絣かすり糸いとを緯糸よこいとに用もちいたものを緯ぬき絣かすり（よこがすり）、絣かすり糸いとを経糸たていと・緯糸よこいとの両方りょうほうに使用しようしたものを経緯けいい絣かすり（たてよこがすり）という。

地合じあいは、日本にっぽんでは平織ひらおりのものが多おおいが、綾織あやおりや繻子しゅす織おの絣かすりもある。 倉吉くらよし絣かすりでは絵画かいが的てきな柄えを織おった絵え絣かすり（えがすり）や、さらに高度こうどな綾あや織おり、浮うき織おなど様々さまざまな組織そしき織お（そしきおり）の「風通織ふうつうおり」など高度こうどな絣かすりが主体しゅたいとなり幻まぼろしの織物おりものと呼よばれ評判ひょうばんを呼よんだ。 素材そざい的てきには木綿こわた絣かすり、麻あさ絣かすり、絹きぬ絣かすりなどがある。

歴史れきし

フィリピン・ミンダナオ島しまのティナラク織お

絣かすり（織お絣かすり）の技術ぎじゅつはインドで生うまれたとされ、タイやカンボジアの絹きぬ絣かすり、インドネシア、ベトナムなど東南とうなんアジアを経へて日本にっぽんには琉球りゅうきゅう経由けいゆで伝つたわった。日本にっぽんでは、法隆寺ほうりゅうじ裂きれの中なかに「太子たいし間道かんどう」「広東かんとん錦にしき」と呼よばれる絹きぬの経けい絣かすりがあるが、これは時代じだい的てきにも孤立こりつした存在そんざいで、江戸えど時代じだいの絣かすりと直接ちょくせつの関係かんけいはなく、大陸たいりく（中国ちゅうごく）からの渡来とらい裂きれとみられる。「かすり」の語かたりの使用しようは江戸えど時代じだいも後期こうきになってからで、それ以前いぜんにこの種たねの織物おりものを日本語にほんごで何なにと呼よんでいたかはわかっていない。北前きたまえ船せんの下くだり荷にとしても有名ゆうめいで「西にしの大和やまと絣かすり、東ひがしの中野なかの絣かすり(館林たてばやし絣かすり)」と言いわれた時代じだいもあった。1800年ねん頃ころ、各かく藩はんで財政ざいせい対策たいさくとして専売せんばい制せいが採用さいようされるなか久留くる米べい藩はんの井上いのうえ伝つたえが掠かすれ模様もようの織おり方かたを発見はっけんする（加寿かず利とし）。のち久留米絣くるめがすりとして殖産しょくさん奨励しょうれいされる。また伊予いよでは鍵谷かぎたにカナが伊予いよ絣かすりを独自どくじに開発かいはつした。江戸えど時代じだい後期こうきには各地かくちで様々さまざまな絣かすりが織おられ量産りょうさんされた。

明治めいじから1960年代ねんだい頃ころまで、絣かすりは普段着ふだんぎの和服わふく用ようの反物たんものとして親したしまれ、絣かすりの産地さんちには多おおくの織元おりもとが立たち並ならび毎年まいとし数すう百ひゃく万まん反たんが生産せいさんされた。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中なかには女性じょせいの着物きもの着用ちゃくようが禁止きんしされたためもんぺとして仕立したてて直なおし着用ちゃくようされた。しかしその後ごは洋装ようそう化かが急速きゅうそくに進すすみ、特とくに普段着ふだんぎとしては和服わふくが着きられることがほとんどなくなったことから需要じゅようが激減げきげん、絣かすりの生産せいさん量りょうもわずかになった。

現状げんじょう

弓ゆみ浜はま絣かすり

絣かすりは現在げんざいでも日本にっぽん各地かくちで織おられており、洋服ようふく・ネクタイ・鞄かばん・壁掛かべかけなどの装飾そうしょくやその他た小物こものなどにも利用りようされている。しかし、生産せいさんに手間てまがかかるため割高わりだかであるにもかかわらず、もともと普段着ふだんぎの素材そざいのため高級こうきゅう品ひんとは見みなされず、需要じゅようは伸のびていない。いずれも少数しょうすうの織元おりもとが細々こまごまと生産せいさんするにとどまっている。

専せん業者ぎょうしゃが減へる中なかで、昭和しょうわ末期まっき頃ごろより手てづくりの見直みなおしやカルチャーブーム、地方ちほう再生さいせいなどによる伝統でんとう文化ぶんかの見直みなおしや保護ほごなどもあり 子育こそだてを終おわった世代せだいやリタイア世代せだいを中心ちゅうしんに絣かすりを織おろうとする人ひとたちが徐々じょじょにではあるが、増ふえてきている。

自分じぶんたちでより深ふかく覚おぼえたいと、絣かすりの技法ぎほう書しょを求もとめる声こえも増ふえており、その声こえで吉田よしだたすく著ちょ『図説ずせつ 紬つむぎと絣かすりの手織ており技法ぎほう入門にゅうもん』などの、わかりやすい技法ぎほう書しょの復刻ふっこく版ばんも再版さいはんされるなどの動うごきもでてきている。

日本にっぽん三さん大だい絣かすり

伊予いよ絣かすり

• 伊予いよ絣かすり（松山まつやま絣かすり）
• 久留米絣くるめがすり
• 備後びんご絣かすり

※備後びんご絣かすりは最盛さいせい期きには年間ねんかん200〜300万まん反たんを生産せいさんしたが、現在げんざいの生産せいさん量りょうは少量しょうりょうである。

著名ちょめいな地方ちほうの絣かすり

• 伊勢崎いせさき絣かすり（伊勢崎いせさき銘仙めいせん）
• 佐々ささ絣かすり
• 薩摩絣さつまがすり
• 武蔵むさし絣かすり（村山むらやま絣かすり・所沢ところざわ絣かすり）
• 琉球りゅうきゅう絣かすり
  • 南風原はえばる町まちの琉球りゅうきゅう絣かすり　「南風みなみかぜ原はら花織かおり」など
  • 石垣島いしがきじまや宮古島みやこじまなどの麻あさ織物おりもの「上布じょうふ」、綿織物めんおりものの「ミンサー織おり」

• 大和やまと絣かすり
• 近江おうみ上布じょうふ
• 倉吉くらよし絣かすり
• 弓ゆみ浜はま絣かすり
• 広瀬ひろせ絣かすり
  • 倉吉くらよし絣かすり、弓ゆみ浜はま絣かすり、広瀬ひろせ絣かすりは山陰やまかげの三さん絵え絣かすり（または山陰やまかげの三さん大だい絣かすり）と呼よばれる。
• 作さく州しゅう絣かすり
• 十日町とおかまち絣かすり
• 西陣にしじん絣かすり

海外かいがいの絣かすり

イカット（インドネシアなど）　バリ島ばりとうの経緯けいい絣かすり「グリンシン（grinsing）」など

参考さんこう文献ぶんけん

• 吉田よしだたすく著しる 吉田よしだ公こう之の介かい編集へんしゅう 『図説ずせつ 紬つむぎと絣かすりの手織ており技法ぎほう入門にゅうもん』 染織せんしょくと生活せいかつ社しゃ、1988年ねん。復刊ふっかん版ばん　復刊ふっかんドットコム 　2016年ねん。ISBN 9784835453484
• 永原ながはら慶けい二に 『新しん・木綿もめん以前いぜんの事こと―苧麻からむしから木綿もめんへ 』 中公新書ちゅうこうしんしょ、1990年ねん。ISBN 4121009630
• 小笠原おがさわら小枝さえ 『染しみと織おの鑑賞かんしょう基礎きそ知識ちしき』 至文しぶん堂どう、1998年ねん。 ISBN 4784301615
• 福井ふくい貞子さだこ 『絣かすり(ものと人間にんげんの文化ぶんか史し)』 法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく、2002年ねん。ISBN 4588210513
• 森本もりもと喜久男きくお 『カンボジア絹きぬ絣かすりの世界せかい―アンコールの森もりによみがえる村むら』 NHKブックス、2008年ねん。ISBN 4140911026

外部がいぶリンク

• 『絣かすり』 - コトバンク
• “File121　絣かすり(かすり)｜美びの壺つぼ”. www.nhk.or.jp. 日本にっぽん放送ほうそう協会きょうかい. 2022年ねん2月がつ12日にち閲覧えつらん。