絵えコンテ

絵えコンテ（えコンテ、英えい: storyboard）は、漫画まんが、映画えいが、アニメ、テレビドラマ、CM、ミュージックビデオなどの映像えいぞう作品さくひんの撮影さつえい前まえに用意よういされるイラストによる表ひょう。映像えいぞうのイメージを具現ぐげん化かするための設計せっけい図ずにあたるものである^[1]。

画がコンテ（えコンテ）と表記ひょうきされることもある^[1]。単たんにコンテとも呼よぶ。漫画まんがの場合ばあいはネーム、イラストではなく文章ぶんしょうによる場合ばあいは字じコンテ（じコンテ）、動画どうがによるものをビデオコンテ^{[注ちゅう 1]}と呼よぶ。

「コンテ」は、英語えいごのコンティニュイティ (continuity、"継続けいぞく"や"連続れんぞく"という意味いみ) の略りゃくである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

現在げんざい一般いっぱん的てきに用もちいられている絵えコンテの手法しゅほうは、1930年代ねんだいにウォルト・ディズニー・プロダクションで開発かいはつされた^[2]。絵えコンテは1つのカットがどのようなものかを説明せつめいするものである。「人物じんぶつなどの被写体ひしゃたいはどのようなサイズ、構図こうずになるか」「それらはどのような動うごきをするのか」「カメラのどのフチから画面がめんに入はいったり出でたりするのか」「カメラ自体じたいはどのような動うごきをするのか、固定こてい（フィックスと呼よぶ）なのか」「どのくらいの時間じかん映うつしているのか（尺しゃくと呼よぶ）」などである。

絵えコンテはイラストのみによって説明せつめいするものではなく、必かならず簡単かんたんな文字もじ・文章ぶんしょう（ト書とがき）が付属ふぞくし、そのカットの詳細しょうさいを説明せつめいする。その内容ないようは絵えの動うごきとセリフ、芝居しばいの意図いとを説明せつめいする補足ほそくなどが書かかれる。1カットの中なかで大おおきな変化へんかがある場合ばあいは何なにコマものイラストによって1つのカットが説明せつめいされるが、変化へんかが少すくない場合ばあいには1コマで説明せつめいされる。

類似るいじする物ものに海外かいがい作品さくひんの「Storyboard」（ストーリーボード）やアニメ作品さくひんなどにおける「イメージボード」などがある。それらは全すべてのカットを描えがいたものではなく、大体だいたいのイメージをスタッフに掴つかませるためのものであり、絵えコンテは全すべてのカットの「コンティニュイティ:連続れんぞく性せい」について決定けっていするものであるとして分わけた考かんがえもある。しかし、制作せいさく現場げんばによってその定義ていぎはまちまちであり、例たとえば、黒澤くろさわ明あきらの作品さくひんにおける絵えコンテは「Storyboard」（ストーリーボード）や「イメージボード」の意味合いみあいが強つよいものとなっている。

コンテは映画えいが監督かんとくやディレクター、演出えんしゅつ家かが自みずから書かく場合ばあいも多おおい一方いっぽう、絵えコンテを書かくだけのライター、コンテ・マンも存在そんざいする。映画えいがやテレビドラマなどで脚本きゃくほんが存在そんざいする場合ばあいは、脚本きゃくほんが先さきに書かかれた上うえでコンテが書かかれるが、アニメ作品さくひんでは絵えコンテをもとにアフレコ用よう脚本きゃくほんが起おこされる場合ばあいもありうる。例たとえば宮崎駿みやざきはやおや原はら恵一けいいちは脚本きゃくほんは作つくらず、イメージスケッチやシノプシスを用意よういしたうえで、絵えコンテから制作せいさく作業さぎょうに取とりかかる（ストーリーの流ながれは絵えコンテを描えがきながら考かんがえるわけである）。

絵えコンテ作成さくせいを示しめす動詞どうしは「書かく」「描えがく」「切きる」「割わる」などがあり、統一とういつされていない。

アニメーション制作せいさくにおいては絵えコンテは映像えいぞう全体ぜんたいの構成こうせいを決きめる設計せっけい図ずともいえる重要じゅうようなものであり、コンテの存在そんざいなしでは制作せいさく作業さぎょうには入いれない。ただし絵えコンテの段階だんかいでどこまで細部さいぶの作画さくが・演出えんしゅつが決定けっていされるかは、監督かんとくや演出えんしゅつ家かの考かんがえによる。富野とみの由ゆかり悠ゆう季きや今こん石いし洋之ひろゆきのように絵えコンテは演出えんしゅつの大枠おおわくを示しめすものととらえ、細部さいぶは原画げんがマンや担当たんとう演出えんしゅつの自由じゆうな解釈かいしゃくを許ゆるすラフな描えがき方かたをする監督かんとくもいれば、宮崎駿みやざきはやおや今いま敏さとしや芝山しばやま努つとむのように絵えコンテの段階だんかいで画面がめんの細部さいぶまで描えがき込こみ、詳細しょうさいな演出えんしゅつ指示しじがなされた絵えコンテを切きる監督かんとくまでいる。

宮崎駿みやざきはやお、芝山しばやま努つとむ、押井おしい守まもる、今いま敏さとしの監督かんとく作品さくひんに代表だいひょうされるように、芸術げいじゅつ性せいや資料しりょう性せいが高たかいものは本ほんとして出版しゅっぱんされることがある。

SFX・VFXが多用たようされる映像えいぞう制作せいさくで、作業さぎょう中ちゅうに“あたり”を見みるため仮かりの映像えいぞうが欲ほしい場合ばあいなどは、事前じぜんに絵えコンテに基もとづいてアニマティック（プリビジュアライゼーション）と呼よばれる）が制作せいさくされる。作業さぎょうが捗はかどり、スケジュール管理かんり上じょうも有効ゆうこうである。

CMの場合ばあい、スポンサー(広告こうこく主ぬし)に企画きかく案あんをプレゼンする際さいにもコンテは重要じゅうようである。その際さいにより企画きかく内容ないようを分わかり易やすく伝つたえる為ため、CGなどが一切いっさい含ふくまれていない映像えいぞうであっても絵えコンテに基もとづいてビデオコンテ（Vコン）を制作せいさくすることがある。

有名ゆうめいなコンテ・マン[編集へんしゅう]

富野とみの由ゆかり悠ゆう季きは「コンテ千本せんぼん切ぎりの富野とみの」と異名いみょうを取とるほど^[3]^[4]、あらゆる作品さくひんで絵えコンテを切きりまくっていた時期じきがある。とにかく速はやくコンテを上あげるため、助すけっ人と的てきに重宝ちょうほうされていたという^{[要よう出典しゅってん]}。宮崎駿みやざきはやお監督かんとくの『未来みらい少年しょうねんコナン』の絵えコンテを担当たんとうした時ときは、富野とみのの名前なまえはクレジットされたままだったもののその絵えコンテは使つかわれず、宮崎みやざきが自みずからコンテを切きり直なおしたと、同どう作品さくひんの作画さくが監督かんとくである大塚おおつか康生やすおが証言しょうげんしている^{[要よう出典しゅってん]}。もっとも宮崎みやざきは他たの作品さくひんでも、出崎でさき統みつるなどの一部いちぶの例外れいがいを除のぞき、ほとんどコンテを描えがき直なおしていた模様もようである^{[要よう出典しゅってん]}。

映画えいが監督かんとくの黒澤くろさわ明あきらは二科展にかてんに入選にゅうせんするほどの絵えの腕前うでまえであり、絵えコンテにも定評ていひょうがある^[5]。資金しきん難なんで映画えいが「影武者かげむしゃ」の製作せいさくが暗礁あんしょうに乗のり上あげたとき、黒澤くろさわの絵えコンテを見みたフランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカスが感銘かんめいを受うけ、20世紀せいきフォックスに海外かいがい版ばんのプロデューサーを買かって出でたという逸話いつわが残のこされている^{[要よう出典しゅってん]}。

現状げんじょう[編集へんしゅう]

現在げんざい、実写じっしゃ映画えいがやTVドラマなどで絵えコンテが切きられる事ことは多おおくない。ただ、CGの導入どうにゅうによりコンテを切きらざるを得えない状況じょうきょうというのも出でてきている。

別べつの問題もんだいとして、頻繁ひんぱんに変更へんこうや移動いどうが行おこなわれるため、資源しげんが乏とぼしい製作せいさく現場げんばの場合ばあいいろいろと問題もんだいになる。樋口ひぐち真しん嗣はこれに対応たいおうするため『ガメラ3 邪神じゃしん覚醒かくせい』でFileMakerによるコンテの管理かんりを開始かいし、『ローレライ』では映像えいぞう編集へんしゅうシステムであるFinal Cut Proと連動れんどうさせるシステムを導入どうにゅうした。

画面がめんや芝居しばいをいちから構築こうちくし、なおかつ制作せいさく工程こうていにおいて多数たすうの人間にんげんが関かかわるアニメーション作品さくひんにおいては必須ひっすのものである。特とくに日本にっぽんの制作せいさく現場げんばでは「絵えコンテの映像えいぞう化か」がアニメ制作せいさくそのものであると言いっても良よい。そのためコンテはシナリオよりもはるかに重要じゅうよう視しされており、担当たんとうするコンテマンによるシナリオの改変かいへんなどが比較的ひかくてき自由じゆうに行おこなわれている。当然とうぜん好すき勝手かってに描えがき直なおすわけではなく、どの程度ていどまで改変かいへんして良よいかは現場げんばの長ちょうである監督かんとくによって判断はんだんされる。

3DCGアニメにおいてはCGモデルとカメラアングルは個別こべつに変更へんこうできるため、絵えコンテの代かわりにCGモデルを配置はいちしてアングルを確認かくにんし微ほろ調整ちょうせいが行おこなえる。ただしプロ仕様しようの3DCGソフトは操作そうさが難むずかしいため、監督かんとくなどがオペレーターに指示しじする必要ひつようがある。近年きんねんではUnityに代表だいひょうされるパソコンで動作どうさし操作そうさも容易よういながら多数たすうの3Dモデルを配置はいちしてレンダリングが可能かのうなゲームエンジンが登場とうじょうしたことで、画面がめん上じょうでのシミュレーションを行おこなったり^[6]、そのまま動画どうが製作せいさくに移行いこう手法しゅほうも考案こうあんされている^[7]。