舷ふなばた

舷ふなばた（げん）とは、船ふねの側面そくめんのことである。船縁ふなべり（ふなべり）、船端ふなばた（ふなばた）とも言いう。

船首せんしゅに向むかって右みぎ側がわの舷ふなばたを右舷うげん（うげん、みぎげん）と言いい、左ひだり側がわの舷ふなばたを左舷さげん（さげん、ひだりげん）と言いう。「みぎげん」「ひだりげん」という読よみ方かたは、日本にっぽん海軍かいぐん・海上かいじょう自衛隊じえいたいにおいて聞きき間違まちがいを防ふせぐために使つかわれているものである^[1]。英語えいごでは右舷うげんをスターボード（英えい: starboard）、左舷さげんをポート（英えい: port）と言いう。

船ふねは、進行しんこう方向ほうこうが他たの船ふねにわかるようにするために、左舷さげんに赤色あかいろ、右舷うげんに緑色みどりいろの航行こうこう灯とうを点灯てんとうする。慣習かんしゅう的てきに、船ふねは左舷さげん側がわで接岸せつがんし、搭乗とうじょう口こうは左舷さげんに設もうけられることが多おおい。

船ふねでは右舷うげんが上席じょうせきであり左舷さげんは下座げざになる。船長せんちょうは階段かいだんでも右舷うげん側がわを使つかい、船長せんちょう室しつも右舷うげん側がわにあるのが普通ふつうである。また、船倉ふなぐらの番号ばんごうも右舷うげん側がわから1番ばんが始はじまる。

これらの事項じこうは航空機こうくうきにも準用じゅんようされ、機首きしゅに向むかって左側ひだりがわの側面そくめんを左舷さげん、右側みぎがわを右舷うげんという。それぞれの主翼しゅよくの先端せんたんに、左舷さげん側がわは赤あか、右舷うげん側がわは緑みどりの航行こうこう灯とうを設置せっちする。搭乗とうじょう口こうは左舷さげん側がわに設もうけられることが多おおい。

語源ごげん[編集へんしゅう]

スターボード[編集へんしゅう]

スターボード(starboard)という言葉ことばは、古こノルド語ごのstýri（操作そうさする）とborð（舷ふなばた）に基もとづく古こ英語えいごのsteorbordから来きている。これは、初期しょきの船ふねの操舵そうだ方法ほうほうに由来ゆらいする。現在げんざいのような船ふねの中心ちゅうしん線せん上じょうに舵かじが取とり付つけられるより以前いぜん、船ふねの操舵そうだは舵かじ櫂かい（英語えいご版ばん）（舵取かじとり用ようの櫂かい）によって行おこなわれていた。舵かじ櫂かいは船尾せんびにいる漕こぎ手しゅによって操作そうさされるが、左利ひだりききよりも右みぎ利ききの人ひとの方ほうが多おおいため、右みぎ利ききの漕こぎ手しゅが操作そうさしやすいように舵かじ櫂かいは右舷うげんに設置せっちされた。

ポート[編集へんしゅう]

ポート(port)という言葉ことばは、接岸せつがん時ときに舵かじ櫂かいが邪魔じゃまにならないよう、左舷さげんを桟橋さんばしや岸壁がんぺきに着つけたことに由来ゆらいする。

イギリスでは元々もともと左舷さげんをラーボード (英えい: larboard) と言いった。中ちゅう英語えいごのladebordが、16世紀せいきにstarboardに引ひきずられる形かたちでlarboardに転訛てんかした。特とくに風ふうの中なかで叫さけぶときなど、larboardはstarboardと聞きき間違まちがえやすいため^[2] 、他国たこくと同おなじportに置おき換かえられた。

ラーボードという言葉ことばは、1850年代ねんだいの捕鯨ほげい船せんではまだ使つかわれていたが、そのころ商船しょうせんではすでにポートに取とって代かわられていた。イギリス海軍かいぐんでは1844年ねんまで左舷さげんをポートと言いうことを公式こうしきには許容きょようしていなかった。チャールズ・ダーウィンが乗船じょうせんした帆船はんせん「ビーグル」の艦長かんちょうロバート・フィッツロイが、船員せんいんにラーボードの代かわりにポートを使つかうよう教おしえたという。

他たの船ふねに対たいする優先ゆうせん進行しんこう権けん[編集へんしゅう]

詳細しょうさいは「スターボード艇てい優先ゆうせんの原則げんそく」を参照さんしょう

いかなる船ふねも絶対ぜったい的てきな「優先ゆうせん進行しんこう権けん」は持もっていない。あるのは「進路しんろを保たもつ(stand-on)」か「進路しんろを譲ゆずる(give-way)」かである。

2隻せきの船ふねが互たがいに接近せっきんし、衝突しょうとつするおそれがある場合ばあいを考かんがえる。通常つうじょうは、進行しんこう方向ほうこうに対たいして左側ひだりがわの船ふねが進路しんろを譲ゆずる。右側みぎがわの船ふねからは相手あいての右舷うげん（緑みどりの航行こうこう灯とう）が見みえ、左側ひだりがわの船ふねからは相手あいての左舷さげん（赤あかの航行こうこう灯とう）が見みえる。緑みどり灯とうが見みえる船ふねは進路しんろを保たもち、紅灯こうとうが見みえる船ふねは進路しんろを譲ゆずる決きまりになっている。

ただしこれは原則げんそくであり、例たとえば帆船はんせんと動力どうりょく船せん（英語えいご版ばん）の進路しんろが交叉こうさする場合ばあいは、動力どうりょく船せんの方ほうが進路しんろを譲ゆずる。動力どうりょく船せん同士どうしでも、どちらかの船ふねの操船そうせん能力のうりょくに制限せいげんがある場合ばあいは、そうでない方ほうが進路しんろを譲ゆずる。帆船はんせん同士どうしの場合ばあいは、左舷さげんに風ふうを受うけている船ふねが進路しんろを譲ゆずる。即すなわち、緑みどり灯とうが見みえているからと言いって、進すすんでも問題もんだいないということが保証ほしょうされているわけではない。

初期しょきの鉄道てつどう信号しんごうは、海上かいじょうでのこの原則げんそくに従したがって「停止ていし/注意ちゅうい/進行しんこう」が「赤あか/緑みどり/白しろ」であった。後のちに、現在げんざいのような「赤あか/黄き/緑みどり」になった。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

^ “自衛隊じえいたい宮城みやぎ地方ちほう協力きょうりょく本部ほんぶ公式こうしきTwitter” (2014年ねん6月がつ19日にち). 2022年ねん7月がつ17日にち閲覧えつらん。
^ Norie, John William; Hobbs, J. S. (1847) [1840]. Sailing directions for the Bay of Biscay, including the coasts of France and Spain, from Ushant to Cape Finisterre ("A new ed., rev. and considerably improved" ed.). C. Wilson. p. 1. OCLC 41208722 7 February 2010閲覧えつらん. "An order, recently issued by the Lords Commissioners of the Admiralty, states, that in order to prevent mistakes, which frequently occur from the similarity of the words starboard and larboard, in future, the word port is to be substituted for larboard, in all Her Majesty’s ships or vessels."

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

Herreshoff, Halsey, (consulting editor) (1983) The Sailor’s Handbook, Little Brown and Company
Jobson, Gary (1987) Sailing Fundamentals, Simon & Schuster
Maloney, Elbert S., (editor) (1999) Chapman Piloting: Seamanship & Small Boat Handling, Hearst Marine Books, New York
Rousmaniere, John (1999) The Annapolis Book of Seamanship, Simon & Schuster
Seidman, David (1995) The Complete Sailor, International Marine

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

[1] “自衛隊じえいたい宮城みやぎ地方ちほう協力きょうりょく本部ほんぶ公式こうしきTwitter” (2014年ねん6月がつ19日にち). 2022年ねん7月がつ17日にち閲覧えつらん。

[Norie1847-2] Norie, John William; Hobbs, J. S. (1847) [1840]. Sailing directions for the Bay of Biscay, including the coasts of France and Spain, from Ushant to Cape Finisterre ("A new ed., rev. and considerably improved" ed.). C. Wilson. p. 1. OCLC 41208722 7 February 2010閲覧えつらん. "An order, recently issued by the Lords Commissioners of the Admiralty, states, that in order to prevent mistakes, which frequently occur from the similarity of the words starboard and larboard, in future, the word port is to be substituted for larboard, in all Her Majesty’s ships or vessels."

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