色川いろかわ三さん中なか

色川いろかわ 三さん中なか（いろかわ みなか、1801年ねん8月がつ3日にち（享とおる和わ元年がんねん6月24日にち） - 1855年ねん8月がつ5日にち（安政あんせい2年ねん6月23日にち））は、江戸えど時代じだいの国学こくがく者しゃ、商人しょうにん。諱いみなは英明えいめい。幼名ようみょうは桂かつら輔、通称つうしょうは弥三郎やさぶろう、三郎兵衛さぶろべえ。東海とうかい、瑞みず霞かすみ圓えんと号ごうした。

経歴けいれき

常陸ひたち国こく土浦つちうら藩はんの城下じょうか田宿たじゅく町まちに生うまれる。薬種やくしゅ商しょうと醤油じょうゆ製造せいぞう業ぎょうを兼業けんぎょうする色川いろかわ英恵はなえの長男ちょうなん。母ははは富とみ（とみ）、祖父そふは英章ひであき。色川いろかわ家かは元もとは紀伊きい国こく牟婁むろ郡ぐん色川いろかわ村むらの土豪どごうで、後のちに常陸ひたち国こく信太しだ郡ぐん小岩田こいわた村むらに移うつって小田おだ氏しに仕つかえたが、主家しゅか没落ぼつらく後ごは土浦つちうらに住すみ、後のちに薬種やくしゅ業ぎょうを起おこしたとされる。土浦つちうら藩はんでは貞享ていきょう4年ねんに藩主はんしゅとなった土屋つちや政直まさなおが醤油じょうゆ生産せいさんを奨励しょうれいし、色川いろかわ家かでも正徳まさのり・享とおる保ほ年間ねんかんに当主とうしゅ武英たけひでが創業そうぎょうしたと考かんがえられている。宝たから暦れき6年ねんには城下じょうか川口かわぐち町まちに醸造じょうぞう所しょを開設かいせつし、組合くみあい仲間なかまの有力ゆうりょくな一員いちいんとなっている。

文化ぶんか10年ねん（1813年ねん）に江戸えど橘たちばな町まちの商家しょうか大坂おおさか屋やで奉公ほうこうし、文化ぶんか12年ねん8月がつに土浦つちうらに帰郷ききょうする。文政ぶんせい8年ねん（1825年ねん）には父ちちの英恵はなえが死去しきょし、家業かぎょうを継つぐ。三さん中ちゅうの代だいには城下じょうかにおいて醤油じょうゆ醸造じょうぞう業者ぎょうしゃが増加ぞうかして組合くみあい仲間なかまの権益けんえきが脅おびやかされていたが家運かうん再興さいこうに尽力じんりょくし、天保てんぽう2年ねん（1831年ねん）頃ごろまでには不振ふしんであった家業かぎょうを安定あんていさせることに成功せいこうする。弟おとうとの美び年ねん（みとし）に本店ほんてんを譲ゆずり薬種やくしゅ商しょうを任まかせ、三さん中ちゅうは川口かわぐち町まちの支店してんにおいて醤油じょうゆ醸造じょうぞう業ごうに専念せんねんした。この頃ころには江戸城えどじょう本丸ほんまる西丸にしまるの醤油じょうゆ御用ごようを命めいぜられ、川口かわぐち河岸かわぎしから御ご用船ようせんで積つみ出だした。

一方いっぽう、幼おさない頃ころから好学こうがくで書物しょもつを精読せいどくしており、和歌わかや国学こくがくに興味きょうみを抱いだき、休暇きゅうかを確保かくほしては学究がっきゅうに努つとめ、歌会うたかいにも出席しゅっせきしていた。また、天保てんぽう5年ねん（1834年ねん）に平田ひらた篤胤あつたね、天保てんぽう7年ねん（1836年ねん）に橘たちばな守部もるべに入門にゅうもんして、彼かれらから啓蒙けいもうを受うけた。古典こてんの研究けんきゅうにも勤いそしみ、古文書こもんじょの蒐集しゅうしゅうや古代こだいの制度せいど、とりわけ度量衡どりょうこうや田た令れいの分析ぶんせきにも尽力じんりょくし、半なかば散逸さんいつしていた中山なかやま信しん名めいの著述ちょじゅつを回収かいしゅうして纏まとめ上あげるなどした。黒川くろかわ春はる村むら、山崎やまざき知雄ともおらと交流こうりゅうがあり、佐久良さくら東ひがし雄ゆうとは義兄弟ぎきょうだい、また伊能いのう穎則、久米くめ幹みき文ぶんらに影響えいきょうを与あたえている。主おもな著作ちょさくに『田た令れい図解ずかい抄しょう』『度量衡どりょうこう考こう』『瑞みず霞かすみ園えん筆記ひっき』『家事かじ誌し』がある。

安政あんせい2年ねん（1855年ねん）に没ぼっし、土浦つちうらの神かみ龍りゅう寺てらに葬ほうむられ、境内けいだいには記念きねん碑ひが建たつ。人物じんぶつは温厚おんこう篤実とくじつ、敬神けいしん尊皇そんのうの念ねんとりわけ深ふかく、大正たいしょう期きに入はいり特旨とくしを以って正せい五ご位いに叙じょせられた。

家族かぞく

• 父ちちの英恵はなえは筑波つくば郡ぐん矢田部やたべ村むらの今川いまがわ伝でん左衛門さえもんの三男さんなんで、土浦つちうらの色川いろかわ章あきら英えいの娘むすめの婿養子むこようし。
• 母ははの富とみ（のち門もん）は色川いろかわ章あきら英えいの長女ちょうじょ。
• 妻つまは4人にん迎むかえた。
  • 養嗣子ようししに従弟じゅうていの木村きむら政吉まさきちを迎むかえ、三さん中ちゅうの娘むすめ婿むこの身内みうちを妻つまとした。政吉まさきちは三さん中ちゅう没後ぼつご家督かとくを継つぎ、色川いろかわ三郎兵衛さぶろべえ（貞さだ興きょう）を襲名しゅうめい、醤油じょうゆ業ぎょうに従事じゅうじした。
  • 養やしなえ孫まごに代議士だいぎし・色川いろかわ三郎兵衛さぶろべえ英俊えいしゅん(旧名きゅうめい・幸さいわい八郎はちろう。政吉まさきちの娘むすめ婿むこ)。その娘むすめ婿むこに湯本ゆもと武比古たけひこ、伊沢いさわ多喜男たきお。伊沢いさわの子こに飯沢いいざわ匡ただしがいる。
• 次じ弟おとうとの色川いろかわ美よし年ねんは三さん中ちゅうが分家ぶんけし醤油じょうゆ業ぎょうを引ひき継ついだ際さいに、本家ほんけの薬種やくしゅ業ぎょうを引ひき継つぎ、徳とく右みぎ衛門えもんを名乗なのり、田宿たじゅく町まちで製薬せいやく・歯磨はみがき製造せいぞう販売はんばいに従事じゅうじした。
  • 美び年ねんの家いえは次男じなんが徳とく右みぎ衛門えもんを襲名しゅうめい、その長男ちょうなんは美び年ねんの弟おとうと・御蔭おかげの家いえの嗣子ししに入はいり、次男じなん恵一けいいちが家督かとくを継つぎ薬剤師やくざいしとなった。
• 三さん弟おとうとの色川いろかわ御蔭おかげ（旧名きゅうめい・忠三郎ちゅうざぶろう、1815-1873）は旗本はたもと牧野ぼくや家かに勤つとむ仕つかまつののち三さん中ちゅうの醤油じょうゆ業ぎょうを手伝てつだったが、商売しょうばいを嫌きらい、江戸えど矢来やらい町まちに一家いっかで転居てんきょ。度重たびかさなる霞ケ浦かすみがうらの洪水こうずいを憂うれい、『防ぼう逆水さかみず私議しぎ』を著あらわした文人ぶんじんであった。
  • 御蔭おかげの三男さんなんに富士ふじ製紙せいし常務じょうむの色川いろかわ誠一せいいち。誠一せいいちの子こに海軍かいぐん大佐たいさの色川いろかわ武夫たけお、安田信託銀行やすだしんたくぎんこう幹部かんぶとなった色川いろかわ干城かんじょう（1887年生ねんせい、東大とうだい卒そつ）、沼田ぬまた恵めぐみ範はんの妻つまとなった倭文子しずこ（1908年生ねんせい）がおり、武夫たけおの子こに色川いろかわ武たけし大だいがいる。家督かとくは美び年ねんの孫まご・徳太郎とくたろうが養嗣子ようししとして継ついだ。干城かんじょうの岳父がくふ・桑折くわおり城しろ方かたは伊達だて宗城むねなりの家臣かしんで娘むすめ婿むこ。

参考さんこう文献ぶんけん

• 石山いしやま洋ひろし 他た編へん『江戸えど文人ぶんじん辞典じてん 国学こくがく者しゃ・漢学かんがく者しゃ・洋学ようがく者しゃ』（東京とうきょう堂どう出版しゅっぱん、1996年ねん） ISBN 978-4-490-10427-1
• 鈴木すずき暎一「色いろ中ちゅう三さん中ちゅう」（『国史こくし大だい辞典じてん 1』（吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1979年ねん） ISBN 978-4-642-00501-2）
• 鈴木すずき暎一「色いろ中ちゅう三さん中ちゅう」（『日本にっぽん史し大だい事典じてん 1』（平凡社へいぼんしゃ、1992年ねん）ISBN 978-4-582-13101-7）
• 鈴木すずき暎一「色いろ中ちゅう三さん中ちゅう」（『平安へいあん時代じだい史し事典じてん』（角川書店かどかわしょてん、1994年ねん） ISBN 978-4-04-031700-7）
• 小松こまつ徳いさお年ねん「色いろ中ちゅう三さん中ちゅう」（『日本にっぽん歴史れきし大だい事典じてん 1』（小学館しょうがくかん、2000年ねん） ISBN 978-4-095-23001-6）