華陽かよう国こく志こころざし

『華陽かよう国こく志こころざし』（かようこくし）は、中国ちゅうごく東あずま晋すすむの永和えいわ11年ねん（355年ねん）に常つね璩によって編纂へんさんされた地誌ちし。「華陽かよう」とは巴ともえ・蜀しょく・漢かん中ちゅうを意味いみする。

古代こだいから晋すすむへの歴史れきしが断片だんぺん的てきに書かかれており、さらに地理ちりの沿革えんかく・物産ぶっさんの状況じょうきょうを伝つたえている。字数じすう約やく九きゅう万まん、全ぜん十じゅう二に巻かんだが原本げんぽんが現存げんそんしないため異説いせつもある。

概要がいよう

古代こだいの巴ともえと蜀しょくの地方ちほうについての詳くわしい記述きじゅつは、黄河こうが文明ぶんめい中心ちゅうしん史観しかんの時代じだいにあっては、突飛とっぴな記述きじゅつからこれらの文献ぶんけんは想像そうぞうの産物さんぶつだと思おもわれていた。例たとえば、初代しょだいの古こ蜀しょく王おう蚕かいこ叢くさむらは縦たて目めだとする記述きじゅつなどである。それが、三星みつぼし堆うずたか遺跡いせきから青銅せいどう縦たて目め仮面かめんと名付なづけられた巨大きょだいな縦たて目めの仮面かめんが出土しゅつどするなど、記述きじゅつと完全かんぜんに合致がっちする遺物いぶつが発見はっけんされると一躍いちやく現実味げんじつみを帯おびたものとなった。黄河こうが文明ぶんめいに平行へいこうして古こ蜀しょく文化ぶんか（長江ながえ文明ふみあき）が存在そんざいしている事ことが明あきらかになった。

洪ひろし亮吉りょうきちは、『越こし絶ぜっ書しょ』と共ともに中国ちゅうごくに現存げんそんする最もっとも古ふるい地方ちほう志こころざしであるとしている。記録きろくに残のこる最古さいこの刊本かんぽんは宋そうの元げん豊ゆたか元年がんねん（1078年ねん）のもので原本げんぽんは現存げんそんしないが、『後こう漢書かんしょ』の章あきら懐ふところ注ちゅうや正史せいし『三国志さんごくし』の裴注で頻繁ひんぱんに引ひかれている。現行げんこうの校訂こうてい本ほんとしては任にん乃強『華陽かよう国こく志こころざし校こう補ほ図ず注ちゅう』（上海しゃんはい古こ籍せき出版しゅっぱん社しゃ 1987）が注釈ちゅうしゃくも充実じゅうじつしており広ひろく流通りゅうつうしている。日本語にほんご訳やくとしては谷口たにぐち房男ふさおが全訳ぜんやくを論文ろんぶん発表はっぴょうしている。また中林なかばやし史朗しろうの抄訳しょうやく・完訳かんやくが刊行かんこうされている。

内容ないよう

• 巻まき1 巴ともえ志こころざし
• 巻まき2 漢かん中ちゅう志こころざし
• 巻まき3 蜀しょく志こころざし（古こ蜀しょく含ふくむ）
• 巻まき4 南中なんちゅう志こころざし
• 巻まき5 公孫こうそん述じゅつ劉りゅう二に牧志まきし（公孫こうそん述じゅつ・劉りゅう焉・劉りゅう璋あきら）
• 巻まき6 劉りゅう先さき主しゅ志こころざし（劉りゅう備）
• 巻まき7 劉りゅう後ご主しゅ志こころざし（劉りゅう禅ぜん）
• 巻まき8 大だい同志どうし（三さん国こく末すえ西にし晋すすむ初はつの記録きろく）
• 巻まき9 李り特とく雄ゆう期き寿ことぶき勢ぜい志こころざし（李り特とく・李り雄つよし・李り期き・李り寿ひさし・李り勢ぜい）
• 巻まき10 先賢せんけん士し女おんな総そう讃さん論ろん（晋すすむ以前いぜんの賢人けんじん）
• 巻まき11 後こう賢志けんじ（晋すすむの著名ちょめい人じん）
• 巻まき12 序じょ志こころざし（序文じょぶんと目録もくろく）

参考さんこう文献ぶんけん

• 「華陽かよう国こく志こころざし訳注やくちゅう稿こう」（船木ふなき勝馬かつま、谷口たにぐち房男ふさお、飯塚いいづか勝重かつしげ／他た訳やく、『アジア・アフリカ文化ぶんか研究所けんきゅうじょ研究けんきゅう年報ねんぽう』、1975年ねん～78年ねん、1982年ねん～98年ねん）
• 『華陽かよう国こく志こころざし(中国ちゅうごく古典こてん新書しんしょ続編ぞくへん)』（中林なかばやし史朗しろう、明徳めいとく出版しゅっぱん社しゃ、1995年ねん）
• 『完訳かんやく 華陽かよう国こく志こころざし』（中林なかばやし史朗しろう、志学しがく社しゃ、2023年ねん）