裴度

裴度
各種かくしゅ表記ひょうき

裴度

裴 度ど（はい ど、765年ねん - 839年ねん）は、中国ちゅうごく唐とう代だいの政治せいじ家かで宰相さいしょうを務つとめた。字じは中立ちゅうりつ。

略伝りゃくでん

河東かとう郡ぐん聞喜県けん（現在げんざいの山西さんせい省しょう運うん城市じょうし聞喜県けん）の名門めいもんの河東かわとう裴氏の出身しゅっしん。789年ねんに進士しんしに及第きゅうだいし宏ひろし詞し科かに登のぼり、制せい挙きょに応おうじて対策たいさく高等こうとう・河陰かいん県けん尉じょうを授さづけられる。監かん察御史しに遷り、一時いちじは河南かなん府ふ功こう曹に左遷させんされるが、811年ねんに司つかさ封ふう員いん外郎ういろう知ち制せい誥より本もと司郎しろう中ちゅうになり、中書ちゅうしょ舎人とねり・御ご史し中ちゅう丞すすむ・門下もんか侍さむらい郎ろう・同どう中書ちゅうしょ門もん下平しもだいら章あきら事ごとと累進るいしんを重かさねた。当時とうじは淮南ワイナン西道さいどう節度せつど使しの呉ご元もと済すみが横暴おうぼうを極きめ蔡州を占拠せんきょして反抗はんこうを続つづけており、憲けん宗むねは軍ぐんを派遣はけんしたが鎮圧ちんあつに失敗しっぱいしていた。群臣ぐんしんの多おおくは撤兵てっぺいを進言しんげんしたが、裴度だけは断固だんこ討伐とうばつすべきであることを論ろんじ、自みずから督戦とくせんすることを請願せいがんして許ゆるされ、817年ねん8月がつからの裴度の処置しょちにより10月がつには乱らんが鎮定ちんていされた。この功績こうせきにより金きむ紫むらさき光こう禄ろく大夫たいふ・弘文こうぶん館かん大学だいがく士しに加くわえられ、上うえ柱ばしら国こくを賜たまい晋すすむ国こく公おおやけに封ふうぜられた。韓かん愈いよいよは行軍こうぐん司馬しばとして、この呉ご元もと済すみの乱らんを鎮圧ちんあつする軍ぐんに従したがっていたために、詔みことのりを受うけて「平ひら淮西碑ひ」の文ぶんを撰述せんじゅつし、裴度を称となえている。

その後ご、姦臣かんしんの程ほど异や皇すめらぎ甫はじめ鎛と対立たいりつして819年ねんに河東かわとう節度せつど使しに左遷させんされたが、穆きよし宗むね即位そくい後ごの821年ねん秋あきに幽かそけ州しゅう・鎮州に反乱はんらんが起おこり、さらに朱しゅ克かつ融とおる・王おう廷湊が河かわ朔ついたちに乱らんを起おこすと、鎮州四面行営招討使に任命にんめいされ寝食しんしょくを忘わすれて任務にんむにあたり、穆きよし宗むねにその忠誠ちゅうせいを嘉よしみされ中書ちゅうしょ侍さむらい郎ろう・同どう中書ちゅうしょ門もん下平しもだいら章あきら事ごととされた。しかし、李り逢吉との争あらそいから山南さんなん西道さいどう節度せつど使しに出だされて、826年ねんに中央ちゅうおうに復帰ふっきし、今度こんどは李り逢吉・牛うし僧そう孺らを追おいやった。文ぶん宗むねが即位そくいした後のち、李り徳いさお裕ひろしを宰相さいしょうに推薦すいせんするが、李り宗はじめ閔によって反対はんたいされて頓挫とんざし、裴度自身じしんも宰相さいしょうを辞やめて襄じょう陽ひ節度せつど使しとなって出向しゅっこうし、834年ねんには東都とうと（洛陽らくよう）留守るすに遷った。

この頃ころに邸宅ていたくを洛陽らくようの集しゅう賢けん里さとに建たて、午うま橋きょうには別荘べっそうとして緑野りょくや堂どうを造つくり、詩人しじんの白しろ居きょ易えき・劉りゅう禹錫と詠唱えいしょうし詩し酒しゅ琴きん書しょを楽たのしみ、当時とうじの名士めいしが彼かれのもとに多おおく訪問ほうもんするようになった。文ぶん宗むねは洛陽らくようから長安ながやすに至いたる人士じんしがあれば必かならず裴度の安否あんぴを尋たずねたという。839年ねんに中書ちゅうしょ令れいを拝命はいめいし、その年としに75歳さいで没ぼっする。太ふとし傅でんを追贈ついぞうされ、文忠ふみただと諡おくりなされる。841年ねんには太ふとし師しの位いを加くわえられ、宣せん宗むねの代だいには憲けん宗むねの廟びょうに埋葬まいそうされた。

評価ひょうか

裴度は風貌ふうぼう俊しゅん爽とし雄弁ゆうべんであり名めい臣しんとして異国いこくにもその名なが聞きこえ、周辺しゅうへん民族みんぞくの君主くんしゅ・族長ぞくちょうは唐とうの使者ししゃが来くると裴度の年齢ねんれいと容貌ようぼうを問とうたという。「四よん朝あさに歴へ事ごとし、全徳ぜんとくを以もって終始しゅうしした」と史書ししょで評ひょうされる。

王おう夫おっと之のは『読通鑑かん論ろん』で、裴度が憲けん宗むねに願ねがって宰相さいしょうが私邸していで説せつ客きゃくと談論だんろんすることを許可きょかされるようにしたことについて、情報じょうほうや良策りょうさくを集あつめる善よい方法ほうほうであったが元もと稹や白しろ居きょ易えきのような文人ぶんじんの言論げんろんが国益こくえきにかなうことは少すくなかったのではないか、として危あやぶみ、さらに裴度は重おもく用もちいられたが皇帝こうていに深ふかく信任しんにんされず宦官かんがんの跋扈ばっこを許ゆるし、裴度に推挙すいきょされた士しは彼かれを旗頭はたがしらとして党とうを組くんで姦臣かんしんと争あらそうことにより、朋党ほうとうの禍わざわいを招まねいたことを惜おしんでいる。

裴度は文章ぶんしょうにも一家言いっかげんあり、当時とうじ韓かん愈いよいよが唱となえていた「古文こぶん」への復帰ふっきに対たいし、「文ぶんの善よし悪あしは気品きひんの高下こうげ、思おもいの深浅しんせんによって異ことなるのであり、章句しょうくの技巧ぎこうとは関かかわりない」という意見いけんを残のこしている（『寄よせ李り翺書』）。

溪けい居きょ
門もん徑みち俯淸溪けい	門もん徑みちは淸せい溪けいに俯す
茆檐古木ふるき齊ひとし	茆檐は古木ふるきにひとし
紅べに塵ちり飛ひ不ふ到いた	紅べに塵ちり飛とび到いたらず
時どき有水ありみず禽啼	時ときに水禽すいきんの啼なくあり

伝記でんき資料しりょう

• 『旧きゅう唐とう書しょ』巻まき170裴度伝でん
• 『新しん唐とう書しょ』巻まき173裴度伝でん

参考さんこう文献ぶんけん

• 市原いちはら亨吉こうきち「東都とうと留守るす時代じだいの裴度の生活せいかつ」（『東方とうほう学がく報ほう（京都きょうと）』36、1964年ねん）