記憶きおく

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記憶きおくりょくから転送てんそう

記憶きおく(きおく)とは、

  • ものごとをわすれずにおぼえていること[1]。またおぼえておくこと[1]
  • 心理しんりがく過去かこ経験けいけん内容ないよう保持ほじし、あとでそれをおもすこと[1]
  • 心理しんりがく将来しょうらい必要ひつよう情報じょうほうをそのときまで保持ほじすること[1]
  • 生物せいぶつがく生物せいぶつ過去かこ影響えいきょうなんらかのかたちのこること[1]
  • (コンピュータ)必要ひつよう情報じょうほう保持ほじしておくこと[1]メモリ (曖昧あいまい回避かいひ)かく記事きじ参照さんしょうのこと。

この記事きじではしゅとして人間にんげんヒト)の記憶きおくについて説明せつめいする。

概説がいせつ[編集へんしゅう]

人間にんげん記憶きおく分類ぶんるいほうはさまざまである。よって、ここではスクワイアの記憶きおく分類ぶんるいもとにしたモデルについてべる(分類ぶんるい提唱ていしょうされている)。記憶きおく感覚かんかく記憶きおく短期たんき記憶きおく長期ちょうき記憶きおくの3つにおおきく分類ぶんるいされる。自伝じでんてき記憶きおく展望てんぼうてき記憶きおくという概念がいねん提唱ていしょうする学者がくしゃもいる[2]大脳だいのうえんけい海馬かいばという部分ぶぶんで、記憶きおくつくられる。

感覚かんかく記憶きおく[編集へんしゅう]

感覚かんかく記憶きおくsensory memory)とは、外部がいぶからの刺激しげきあたえたときこる、最大さいだい1~2びょうほどのもっと保持ほじ期間きかんみじか記憶きおくである。かく感覚かんかく器官きかん特有とくゆう存在そんざいし、瞬間しゅんかんてき保持ほじされるのみで意識いしきされない。外部がいぶからの刺激しげきあたえたとき情報じょうほうは、まず感覚かんかく記憶きおくとして保持ほじされ、そのうち注意ちゅういけられた情報じょうほうだけが短期たんき記憶きおくとして保持ほじされる。

短期たんき記憶きおく[編集へんしゅう]

短期たんき記憶きおくshort-term memory, STM)とは、記憶きおくじゅう貯蔵ちょぞうモデルにおいて提唱ていしょうされた記憶きおく区分くぶんひとつであり、情報じょうほう短時間たんじかん保持ほじする貯蔵ちょぞうシステムである。一般いっぱん成人せいじんにおける短期たんき記憶きおく容量ようりょうは、7±2(5から9まで)程度ていどわれている[3]。この仮説かせつ心理しんり学者がくしゃジョージ・ミラー提示ていじしたものであり、7±2というかずマジカルナンバー(magical number)とう。このマジカルナンバーは、まとまりのある意味いみのかたまりである「チャンク」という単位たんいしめされる[4]

短期たんき記憶きおく情報じょうほう時間じかん経過けいかとともに忘却ぼうきゃくされるが、維持いじリハーサルによって情報じょうほう保持ほじ時間じかんばすことができる。リハーサルがさまたげられた場合ばあいすうびょうからじゅうすうびょう情報じょうほう忘却ぼうきゃくされる[3]のう科学かがくしゃ短期たんき記憶きおく忘却ぼうきゃく使用しよう記憶きおくのうからのぞき、よりあたらしく、より有用ゆうよう記憶きおくみちゆずるので、むしろ人間にんげんにとって有益ゆうえきであるとかんがえている[5]

また短期たんき記憶きおく情報じょうほうリハーサルにより長期ちょうき記憶きおく転送てんそうされる[6]われている。

短期たんき記憶きおくかりやすれいであると、感情かんじょうがこもっているかこもっていないかで簡単かんたんけられる。長期ちょうき記憶きおく場合ばあいは、自分じぶんかんじた感情かんじょうつよければつよほどおぼえる。反対はんたい自分じぶんかんじた感情かんじょうよわほどおぼえていないのが短期たんき記憶きおくである。

おおくの研究けんきゅうによると、うしきにあるいたり、うしきにあるいていると想像そうぞうしたり、うしきにあるいているビデオをたりしたひとは、うしきにあるくことはあなたの短期たんき記憶きおく後押あとおしするのに役立やくだつかもしれないと示唆しさした。虚偽きょぎ記憶きおく誘発ゆうはつすることなく、できるだけ正確せいかく情報じょうほう入手にゅうしゅできる。うしきにあるいたひとは、年齢ねんれいやその要因よういん関係かんけいなく、よりおおくの目撃もくげきかんする質問しつもんただしくこたえる可能かのうせい非常ひじょうたかいことを発見はっけんした。

ハーバード大学だいがくこころ理学部りがくぶは、たとえば犯罪はんざい目撃もくげきした場合ばあいなど、最近さいきん出来事できごと詳細しょうさいおもすのに役立やくだつとべてる。人々ひとびと前進ぜんしんしたときよりも後退こうたいしたときのほう短期たんき記憶きおくすぐれている[7]

ワーキングメモリ[編集へんしゅう]

短期たんき記憶きおく発展はってんさせた作動さどう記憶きおくという概念がいねん提唱ていしょうされている。ワーキングメモリは短期たんきてき情報じょうほう保存ほぞんだけでなく、認知にんちてき情報処理じょうほうしょりふくめた概念がいねんである。容量ようりょうには個人こじんがあり、その容量ようりょうがある課題かだいでの個人こじんのパフォーマンスに影響えいきょうあたえているとわれている。ワーキングメモリは中央ちゅうおう制御せいぎょけい音韻おんいんループ、空間くうかんスケッチパッドからなる。

中央ちゅうおう制御せいぎょけい
音韻おんいんループと空間くうかんスケッチパッドを制御せいぎょし、長期ちょうき記憶きおく情報じょうほうをやりとりするシステムである。
音韻おんいんループ
言語げんご理解りかいしたり、推論すいろんおこなうための音韻おんいん情報じょうほう保存ほぞんするシステムである。
空間くうかんスケッチパッド
視覚しかくてき空間くうかんてきなイメージを操作そうさしたり、保存ほぞんしたりするシステムである。

長期ちょうき記憶きおく[編集へんしゅう]

長期ちょうき記憶きおくlong-term memory, LTM)とは、記憶きおくじゅう貯蔵ちょぞうモデルにおいて提唱ていしょうされた記憶きおく区分くぶんひとつであり、だい容量ようりょう情報じょうほう保持ほじする貯蔵ちょぞうシステムである。じゅう貯蔵ちょぞうモデルにおいては、一旦いったん長期ちょうき記憶きおくはいった情報じょうほうえることはないとされた[6]

長期ちょうき記憶きおく忘却ぼうきゃく原因げんいんについては、減衰げんすいせつ干渉かんしょうせつ、さらに検索けんさく失敗しっぱいせつ存在そんざいする。減衰げんすいせつとは、時間じかん経過けいかとともに記憶きおくうしなわれていくというせつである。干渉かんしょうせつとは、ある記憶きおく記憶きおく干渉かんしょうこすことによって記憶きおくえるというせつである。検索けんさく失敗しっぱいせつとは、想起そうき失敗しっぱい記憶きおくされた情報じょうほう自体じたい消失しょうしつしているのではなく、適切てきせつ検索けんさくがかりがつからないため、記憶きおくない情報じょうほうにアクセスできないというせつである。 βべーたエンドルフィン(=のうないホルモンのひとつ)が分泌ぶんぴつされたり、A10神経しんけい活性かっせいすると、海馬かいばにおける長期ちょうき記憶きおく増強ぞうきょうする。

長期ちょうき記憶きおく陳述ちんじゅつ記憶きおく陳述ちんじゅつ記憶きおくの2つに分類ぶんるいされる。長期ちょうき記憶きおく近時きんじ記憶きおく遠隔えんかく記憶きおくの2つに分類ぶんるいするせつ存在そんざいする。

陳述ちんじゅつ記憶きおく[編集へんしゅう]

言葉ことば表現ひょうげんできる記憶きおくである。宣言せんげんてき記憶きおく顕在けんざい記憶きおくともばれる。陳述ちんじゅつ記憶きおく意味いみ記憶きおくとエピソード記憶きおく[6]ることができる。

意味いみ記憶きおく[編集へんしゅう]

意味いみ記憶きおくとは事物じぶつ事象じしょう一般いっぱんてき知識ちしき言葉ことば意味いみについての記憶きおくである。1966ねん心理しんり学者がくしゃマックス・キリアン提唱ていしょうした。意味いみ記憶きおく構造こうぞうは、(コリンズとキリアンによって)意味いみネットワークというかたちでモデルされている。ほかにも、意味いみ記憶きおくあらわおおくのモデルがある。

エピソード記憶きおく[編集へんしゅう]

個人こじんてき体験たいけん出来事できごとについての記憶きおくである。1972ねん心理しんり学者がくしゃタルヴィングが、意味いみ記憶きおくたいになるものとして提唱ていしょうした。

陳述ちんじゅつ記憶きおく[編集へんしゅう]

陳述ちんじゅつ記憶きおくとは、言葉ことば表現ひょうげんできない記憶きおくである。宣言せんげんてき記憶きおく潜在せんざい記憶きおくともよびう。陳述ちんじゅつ記憶きおくには手続てつづ記憶きおく、プライミング、古典こてんてき条件じょうけんづけなどがふくまれる。

手続てつづ記憶きおく[編集へんしゅう]

物事ものごとおこなうときの手続てつづきについての記憶きおくである。いわゆる「からだおぼえる」記憶きおくがこれにあたる。

プライミング[編集へんしゅう]

先行せんこうする事柄ことがら後続こうぞくする事柄ことがらに、影響えいきょうあたえる状況じょうきょうして「プライミングの効果こうか(または“プライミング効果こうか”)があった」とわれる。そのような状況じょうきょうにおける「先行せんこうする事柄ことがら」をプライムとしょうす。先行せんこうする事柄ことがらには、単語たんごおとなどがありうる。たとえば「医者いしゃ」という言葉ことばくと、その看護かんご」という言葉ことばみが「富士山ふじさん」という言葉ことばみよりもはやくなるのはプライミング効果こうかがあったこととなる。

おおくの場合ばあい、その効果こうか無意識むいしきてきであるてん、およびかなりの長期間ちょうきかんたとえば1年間ねんかん)にわたり効果こうか持続じぞくするてん記憶きおく障害しょうがいけたものにも無意識むいしきてきなプライミング効果こうかそこなわれずにある(機能きのうつづけている)てんに、この現象げんしょう面白おもしろさがある。

自伝じでんてき記憶きおく[編集へんしゅう]

自分じぶん自身じしんかんする事柄ことがらについての記憶きおくである。ある個人こじんのなかにある自分じぶんかんする記憶きおく体系たいけいてき説明せつめいするひとつの記憶きおくモデルであり、エピソード記憶きおく意味いみ記憶きおくによって構成こうせいされる[8]

展望てんぼうてき記憶きおく[編集へんしゅう]

将来しょうらいおこな行動こうどうについての記憶きおくである。これにたいして、過去かこ出来事できごとについての記憶きおく回想かいそうてき記憶きおくばれる。一般いっぱん記憶きおく内容ないようは「過去かこ」の事柄ことがらだとおもわれているのにたいし、展望てんぼうてき記憶きおく未来みらい将来しょうらい)にかかわるものであるため、そのてんでユニークな記憶きおくであるとされる。スケジュールちょう、PDAなどの予定よてい管理かんりする機器ききるい使用しよう方法ほうほう使用しよう行動こうどうからめて研究けんきゅうされることもおおい。

記憶きおく階層かいそう[編集へんしゅう]

記憶きおく階層かいそうについては、心理しんり学者がくしゃタルヴィングによってかんがえられた記憶きおくシステムろんというモデルがある。これによると、

手続てつづ記憶きおく、プライミング記憶きおく意味いみ記憶きおく短期たんき記憶きおく、エピソード記憶きおく

じゅんに、ひだり記憶きおくほど原始げんしてきで、生命せいめい維持いじ直接ちょくせつかかわり、みぎ記憶きおくほど高度こうど記憶きおくになる。

記憶きおく過程かてい[編集へんしゅう]

記憶きおく過程かていめい保持ほじ想起そうき再生さいせい再認さいにんさい構成こうせい)、忘却ぼうきゃくというながれになっている。

めい符号ふごう[編集へんしゅう]

情報じょうほうおぼえこむことをめいという。情報じょうほう人間にんげん記憶きおくりこめる形式けいしきえるという情報じょうほう科学かがくてき視点してんから符号ふごうばれることがおおい。

保持ほじ貯蔵ちょぞう[編集へんしゅう]

情報じょうほう保存ほぞんしておくことを保持ほじという。情報じょうほう科学かがくてき視点してんから貯蔵ちょぞうばれることがおおい。

想起そうきおこり憶(検索けんさく[編集へんしゅう]

情報じょうほうおもすことを想起そうきおこり憶という。情報じょうほう科学かがくてき視点してんから検索けんさくばれることがおおい。想起そうきのしかたには以前いぜん経験けいけん再現さいげんする再生さいせい以前いぜん経験けいけんしたこととおな経験けいけんをそれと確認かくにんできる再認さいにん以前いぜん経験けいけんをその要素ようそわせて再現さいげんするさい構成こうせいなどがある。

忘却ぼうきゃく[編集へんしゅう]

記憶きおくされていたことを想起そうきできなくなることを忘却ぼうきゃく(ぼうきゃく)という。

東京大学とうきょうだいがく研究けんきゅうチームは、のうにおける軽微けいび忘却ぼうきゃく運動うんどう制御せいぎょ指令しれい最適さいてき有効ゆうこうであることを理論りろんてきはじめて証明しょうめいした、と発表はっぴょう[9]

わすれることは、とき学習がくしゅうにとっていことである[10]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d e f 広辞苑こうじえんだいはん p.626
  2. ^ 榎本えのもと博明ひろあき記憶きおく整理せいりじゅつ』PHP研究所けんきゅうじょ 2011ねん ISBN 978-4569796680。85ぺーじ、91ぺーじ
  3. ^ a b 子安こやすぞうせい田中たなか俊也としや南風原はえばるちょう伊東いとう裕司ゆうじ 1992 ベーシック現代げんだい心理しんりがく6 教育きょういく心理しんりがく 新版しんぱん 有斐閣ゆうひかく
  4. ^ 太田おおた信夫しのぶへん)2006 記憶きおく心理しんりがく現代げんだい社会しゃかい 有斐閣ゆうひかく
  5. ^ Forgetfulness — 7 types of normal memory problems - Harvard Health Publishing” (英語えいご). Harvard Health (2012ねん4がつ3にち). 2021ねん12月8にち閲覧えつらん
  6. ^ a b c 箱田はこだ裕司ゆうじ都築つづきほまれ川畑かわはた秀明ひであき萩原はぎはらしげる 2010 認知にんち心理しんりがく 有斐閣ゆうひかく
  7. ^ Publishing, Harvard Health. “Can you boost your memory by walking backward?”. Harvard Health. 2021ねん3がつ9にち閲覧えつらん
  8. ^ 自伝じでんてき記憶きおく(2012ねん5がつ19にち時点じてんアーカイブ自伝じでんてき記憶きおくテスト
  9. ^ 忘却ぼうきゃくがもたらすおどろくべき効果こうか-軽微けいび忘却ぼうきゃくは、運動うんどう指令しれい最適さいてきすることを理論りろんてき証明しょうめい-東京大学とうきょうだいがく大学院だいがくいん教育きょういくがく研究けんきゅう2012ねん7がつ13にち閲覧えつらん
  10. ^ Uncommon Sense Teaching: Part 2, Building Community and Habits of Learning”. Coursera. 2022ねん6がつ6にち閲覧えつらん

記憶きおくがテーマとなっている競技きょうぎ[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]