誘導ゆうどう障害しょうがい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

誘導ゆうどう障害しょうがい(ゆうどうしょうがい、英語えいご: inductive interference)とは、送電そうでんせんながれる電流でんりゅう電磁でんじ誘導ゆうどうや、送電そうでんせんとのしずかでん誘導ゆうどうにより、送電そうでんせん通信つうしん回線かいせん電流でんりゅうながれてひと危害きがいあたえたり通信つうしん障害しょうがいこしたりする現象げんしょうである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

近接きんせつした導体どうたいせんあいだにはしずかでん容量ようりょうがあり、一種いっしゅコンデンサになるため、一方いっぽう導体どうたいせん電荷でんかがあると、せん直接ちょくせつ接続せつぞくされていなくても電荷でんか誘導ゆうどうされてもう一方いっぽう導体どうたいせんにも電荷でんかかたよりがしょうじる。もう一方いっぽう導体どうたい発生はっせいする電圧でんあつおおきさは、相互そうごせいでん容量ようりょう導体どうたいせん電圧でんあつによって決定けっていされる。

また、一方いっぽう導体どうたいせん電流でんりゅうによって発生はっせいする変動へんどう磁界じかいがもう一方いっぽう導体どうたいせんくさりかわすると、電磁でんじ誘導ゆうどうによりもう一方いっぽう導体どうたいせんさそえ起電きでんあつ発生はっせいする。このおおきさは導体どうたいせんあいだ相互そうごインダクタンス電流でんりゅう平行へいこう路線ろせんちょうによって決定けっていされる。

このようにして発生はっせいした電圧でんあつは、本来ほんらい電流でんりゅうながれていないはずの場所ばしょ電流でんりゅうながれてひと危害きがいあたえたり、通信つうしん回線かいせんにノイズとなって影響えいきょうあたえたりする。このため様々さまざま手段しゅだんによって対策たいさくこうじられるとともに、規格きかく許容きょようされる誘導ゆうどう障害しょうがい制限せいげんされている。

しずかでん誘導ゆうどうによる誘導ゆうどう障害しょうがい[編集へんしゅう]

しずかでん誘導ゆうどうによる誘導ゆうどう障害しょうがいは、おもこうあつ送電そうでんせんしたとおりかかったひと刺激しげきけたり、付近ふきん回線かいせん異常いじょう電流でんりゅうながれたりするかたちあらわれる。このことから高圧こうあつ送電そうでんせん直下ちょっかでは電界でんかいつよさが3kV/mえないように規制きせいされている。また、通信つうしんせんたいしては電圧でんあつ60kV以下いかでは12kmあたり2mA、60kVちょうでは40kmあたり3mAをえないことと規定きていされている。

対策たいさくとしては、送電そうでんせんたかさをたかくして地上ちじょうにおける電界でんかいつよさを一定いってい以下いかおさえることが基本きほんである。このため電圧でんあつたか送電そうでんせんほどたか位置いち設置せっちされる。また、送電そうでんせんが2系統けいとうならんでいるところでは、双方そうほうあい配列はいれつぎゃくならべるぎゃくしょう配列はいれつ採用さいようされる。しずかでんシールドのような適切てきせつ遮蔽しゃへい接地せっち有効ゆうこうである。

電磁でんじ誘導ゆうどうによる誘導ゆうどう障害しょうがい[編集へんしゅう]

さんそう交流こうりゅう完全かんぜん平衡へいこうれている場合ばあいには電磁でんじ誘導ゆうどうによる障害しょうがいはほとんど発生はっせいしないが、からまなどの事故じこ発生はっせいあいあいだ平衡へいこうがある場合ばあい電流でんりゅう高調こうちょう成分せいぶんふくまれている場合ばあいには、近隣きんりん通信つうしん回線かいせんなどに電磁でんじ誘導ゆうどうにより障害しょうがい発生はっせいする。このことから、送電そうでんせん落雷らくらいがあるなどのからま事故じこあいあいだ短絡たんらく事故じこ発生はっせいしたさいには迅速じんそくにこれを検出けんしゅつして遮断しゃだんなどにより除去じょきょおこなわれる。また負荷ふかのバランスをとってれいそう電流でんりゅうができるだけながれないようにする。送電そうでんせん各相かくしょう位置いち固定こていされていると平衡へいこうになりがちであるので、一定いってい間隔かんかくごとにそう位置いちえるひね(ねんが)をおこなう。通信つうしん回線かいせんがわでは、こうあつ送電そうでんせんとできるだけ距離きょりいた配線はいせんおこなうことや、遮蔽しゃへいケーブルや保安ほあん設置せっちなどの対策たいさくがある。

鉄道てつどうにおける誘導ゆうどう障害しょうがい[編集へんしゅう]

鉄道てつどうでは、直流ちょくりゅう電化でんか鉄道てつどうでは変電へんでんしょで、交流こうりゅう電化でんか鉄道てつどうではくるまじょう整流せいりゅう交流こうりゅう直流ちょくりゅう変換へんかんするさいや、インバータなどの制御せいぎょ電力でんりょく変換へんかんおこなさい高調こうちょうのノイズが発生はっせいすることが誘導ゆうどう障害しょうがい原因げんいんとなっている。

日本にっぽん最初さいしょ鉄道てつどうによる誘導ゆうどう障害しょうがい観測かんそくされたのは1925ねん大正たいしょう14ねん)の豊川とよかわ鉄道てつどう水銀すいぎん整流せいりゅうであり、フィルタの挿入そうにゅうなどの対策たいさくおこなわれている[1]交流こうりゅう電化でんか区間くかんにおいては通信つうしんへの障害しょうがい抑制よくせいするためにBT饋電方式ほうしきAT饋電方式ほうしきなどの饋電方式ほうしき工夫くふうされている。

鉄道てつどうでは信号しんごう保安ほあんシステムや踏切ふみきり制御せいぎょシステムへあたえる影響えいきょうおおきな問題もんだいである。信号しんごう保安ほあんシステムや踏切ふみきり制御せいぎょシステムは安全あんぜん根幹こんかんささえており、かり誘導ゆうどう障害しょうがいによりこれらのシステムの動作どうさ不具合ふぐあいこすと事故じこにつながりかねない状況じょうきょうになる。

PWM制御せいぎょ導入どうにゅうされるようになったころから、制御せいぎょ装置そうちから高調こうちょうのノイズが信号しんごう保安ほあんシステムや踏切ふみきり制御せいぎょシステムへあたえる影響えいきょう問題もんだいしてきた。とく軌道きどう回路かいろ車両しゃりょう位置いち検知けんちするためにもちいている信号しんごう電流でんりゅうにノイズがはいって妨害ぼうがいされると、信号しんごう保安ほあんシステムや踏切ふみきり制御せいぎょシステムの誤動作ごどうさまねおそれがあり、軌道きどう回路かいろ信号しんごう電流でんりゅう周波数しゅうはすうとの関係かんけい慎重しんちょう試験しけんして対策たいさくほどこ必要ひつようがある。車両しゃりょうがわでは制御せいぎょ筐体きょうたい接地せっち遮蔽しゃへいなど、地上ちじょうがわではHMCR装置そうち(higher harmonic resonance suppressor with CR equipment)により特性とくせいインピーダンスにひとしい抵抗ていこう回路かいろ短絡たんらくするといった対策たいさくおこなわれている。

このために新型しんがた車両しゃりょう深夜しんやなどの営業えいぎょう時間じかんがい入念にゅうねん試運転しうんてんおこなったうえで、営業えいぎょう運転うんてんはいることが一般いっぱんてきである。

鉄道てつどうにおける電磁でんじ両立りょうりつせい(EMC)は、ヨーロッパ規格きかくEN 50122シリーズをもとに制定せいていされた国際こくさい規格きかくIEC 62236で基準きじゅんさだめられている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 電気でんき鉄道てつどうハンドブック』p.375

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]