贈与ぞうよ論ろん

贈与ぞうよ論ろん Essai sur le don
著者ちょしゃ	マルセル・モース
訳者やくしゃ	山田やまだ吉彦よしひこ（1943）、有ゆう地ち亨とおる（2008）、吉田よしだ禎ただし吾われ・江川えがわ純一じゅんいち（2009）、森山もりやま工たくみ（2014）
発行はっこう日び	1925年ねん 1943年ねん、2008年ねん、2009年ねん、2014年ねん
ジャンル	社会しゃかい学がく、文化ぶんか人類じんるい学がく
国くに	フランス
言語げんご	フランス語ふらんすご
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『贈与ぞうよ論ろんーアルカイックな社会しゃかいにおける交換こうかんの形態けいたいと理由りゆう』 ( ぞうよろん、Essai sur le don: forme et raison de l'échange dans les sociétés archaïques ) は、フランス出身しゅっしんの社会しゃかい学者がくしゃ、文化ぶんか人類じんるい学がく者ものであるマルセル・モースによる社会しゃかい学がく、文化ぶんか人類じんるい学がくの書籍しょせき。

モースは本書ほんしょにおいて、贈与ぞうよの仕組しくみと、贈与ぞうよによって社会しゃかい制度せいどを活性かっせい化かさせる方法ほうほうを論ろんじた。モースは社会しゃかい学者がくしゃのエミール・デュルケームが1898年ねんに創刊そうかんをした『社会しゃかい学がく年報ねんぽう』に当初とうしょから協力きょうりょくし、デュルケームやアンリ・ユベールと共著きょうちょ論文ろんぶんを発表はっぴょうし、多数たすうの論考ろんこうを執筆しっぴつした。また、同誌どうしに関与かんよしたジョルジュ・ダヴィは契約けいやくの起原きげんの研究けんきゅうを通とおしてモースと関心かんしんを共有きょうゆうし、モースは本書ほんしょでも論ろんじている全体ぜんたい的てき給付きゅうふの研究けんきゅうを進すすめる。第だい1次じ大戦たいせん末期まっきにデュルケームが没ぼっしたのち、モースは同誌どうしを主導しゅどうするなどフランス社会しゃかい学派がくはの中核ちゅうかく的てき存在そんざいとなった。一方いっぽうで、人類じんるい学者がくしゃのブロニスワフ・マリノフスキは著書ちょしょ『西太平洋にしたいへいようの遠洋えんよう航海こうかい者しゃ』で贈与ぞうよにもとづく経済けいざい制度せいどを提示ていじし、当時とうじの西欧せいおうで考かんがえられていた原始げんし経済けいざい観かんを批判ひはんした。こうした状況じょうきょうの中なかで本書ほんしょは執筆しっぴつされた。

目次もくじ

序論じょろん　贈与ぞうよについて、とりわけ、贈おくり物ものに対たいしてお返かえしをする義務ぎむについて

第だい1章しょう　贈おくり物ものを交換こうかんすること、および、贈おくり物ものに対たいしてお返かえしをする義務ぎむ

1. 全体ぜんたい的てき給付きゅうふ、男おとこの財ざい、女おんなの財ざい
2. 与あたえられた物ものの霊れい
3. その他たの主題しゅだい / 備考びこう

第だい2章しょう　この体型たいけいの広ひろがり。気前きまえの良よさ、名誉めいよ、貨幣かへい

1. 寛大かんだいさに関かんする諸しょ規則きそく
2. 贈おくり物ものの交換こうかんの原理げんりと理由りゆうと強度きょうど
3. アメリカ北西ほくせい部ぶ

第だい3章しょう　こうした諸しょ原理げんりの古代こだい法ほうおよび古代こだい経済けいざいにおける残存ざんそん

1. 人ひとの法ほうと物ものの法ほう
2. 古典こてんヒンドゥー法ほう
3. ゲルマン法ほう

第だい4章しょう　結論けつろん

1. 倫理りんりに関かんする結論けつろん
2. 経済けいざい社会しゃかい学がくならびに政治せいじ経済けいざい学がく上じょうの結論けつろん
3. 一般いっぱん社会しゃかい学がくならびに倫理りんり上じょうの結論けつろん

内容ないよう

全体ぜんたい的てき社会しゃかい的てき現象げんしょう

モースは本書ほんしょで「全体ぜんたい的てき社会しゃかい的てき現象げんしょう」をテーマとした。全体ぜんたい的てき社会しゃかい的てき現象げんしょうとは、社会しゃかい集団しゅうだんの宗教しゅうきょう的てき、法的ほうてき、倫理りんり的てき、審美しんび的てき、政治せいじ的てき、経済けいざい的てきな側面そくめんが一気いっきに表あらわれる現象げんしょうで、いずれか1つには還元かんげんできない。そうした全体ぜんたい的てき社会しゃかい的てき現象げんしょうとして、モースは贈与ぞうよと交換こうかんによる全体ぜんたい的てき給付きゅうふの体系たいけいを取とり上あげた。本書ほんしょの結論けつろんにあるように、モースは全体ぜんたい的てき社会しゃかい的てき現象げんしょうが社会しゃかい制度せいどを活性かっせい化かさせると考かんがえた。

贈与ぞうよと交換こうかんの主おもな事例じれいについて、モースは民族みんぞく誌し学がくの資料しりょうからはポリネシア、メラネシア、アメリカ北西ほくせい部ぶを選えらび、古代こだい法ほうからはローマ法ほう、ヒンドゥー法ほう、ゲルマン法ほうを選えらんだ。中なかでもアメリカ北西ほくせい部ぶの儀式ぎしきであるポトラッチに注目ちゅうもくし、競きおい覇は型がたの全体ぜんたい的てき給付きゅうふと呼よんでいる。マリノフスキが研究けんきゅうしたトロブリアンド諸島しょとうの交易こうえきであるクラのほかに、ラドクリフ＝ブラウンのアンダマン諸島しょとう研究けんきゅう、フランツ・ボアズのアメリカ先住民せんじゅうみん研究けんきゅうなどを援用えんようした。

贈与ぞうよの義務ぎむ

贈与ぞうよと交換こうかんについて、いかなる規則きそくによって贈おくり物ものを受うけ取とるとお返かえしをする義務ぎむが生しょうじるのか、また、贈おくり物ものにはいかなる力ちからがあって受うけ手てにお返かえしをするように仕向しむけるのかを特とくに論ろんじた。

物ものを与あたえ、返かえすのは、互たがいに敬意けいいを与あたえ合あうためである。人ひとは自分じぶん自身じしんや自分じぶんの財ざいを他者たしゃに負おっており、何なにかを与あたえるのは自分じぶん自身じしんを与あたえることにつながる。贈与ぞうよは双方そうほう的てきなつながりを作つくって他者たしゃを受うけ入いれることにつながり、集団しゅうだん間あいだの戦たたかいを防ふせぐ。また、集団しゅうだん間あいだの贈与ぞうよで獲得かくとくした財ざいは構成こうせい員いんに再さい配分はいぶんされる。このため、贈おくり物ものは与あたえなくてはならず、受うけ取とらなくてはならず、しかも受うけ取とると危険きけんなものになり得える。モースは贈与ぞうよを構成こうせいする3つの義務ぎむとして、与あたえる義務ぎむ、受うけ取とる義務ぎむ、返礼へんれいの義務ぎむをあげた。

1. 与あたえる義務ぎむ：与あたえるのを拒こばんだり、招待しょうたいをしないのは、戦たたかいを宣せんするに等ひとしい。ヨーロッパの伝承でんしょうにもあるように、招待しょうたいを忘わすれると致命ちめい的てきな結果けっかとなる。
2. 受うけ取とる義務ぎむ：贈おくり物ものを受うけ取とらなかったり、結婚けっこんによって連盟れんめい関係かんけいを取とり結むすばない、といったことはできない。受うけ取とりを拒こばむのは、返礼へんれいを恐おそれているのを表明ひょうめいすることにもつながる。
3. 返礼へんれいの義務ぎむ：この義務ぎむを果はたさないと、権威けんいや社会しゃかい的てきな地位ちいを失うしなう。権威けんいや社会しゃかい的てき地位ちいが財ざいや富とみに直結ちょっけつする社会しゃかいでは、返礼へんれいが激はげしい競争きょうそうをもたらす場合ばあいがある。

贈与ぞうよと霊的れいてきな力ちから

モースは、贈おくり物ものは人ひとに対たいしてでありつつも、神かみ々や霊れい、自然しぜんの存在そんざいを念頭ねんとうになされている点てんを指摘してきした。この世よにある物ものの真しんの所有しょゆう者しゃは神かみ々や霊れいであり、したがって交換こうかんが必要ひつような相手あいて、交換こうかんが危険きけんな相手あいて、そして交換こうかんが容易よういな相手あいても彼かれらだという思想しそうにもとづく。モースはこの点てんを契約けいやく＝供きょう儀ぎにつなげて考察こうさつし、アラビア語ごのサダカ、ヘブライ語ごのツェダカ( zed aqua )などの施ほどこしの体系たいけい化かに通つうじるとした。

贈おくり物ものには霊的れいてきな力ちからが宿やどっており、贈おくり物ものはもとの所有しょゆう者しゃや聖ひじり所しょに戻もどりたがるという性質せいしつも持もつ。贈おくり物ものと霊的れいてきな力ちからの関係かんけいについて、メラネシアのマナ、ポリネシアのマオリ族ぞくのハウ、ローマ法ほうのレス( res )、サンスクリットのラー( rah )やラティー( rath )の語かたりを用もちいて説明せつめいしている。

現代げんだいとの関係かんけい

最さい終章しゅうしょうの第だい4章しょうにおいて、モースは全体ぜんたい的てき給付きゅうふを現代げんだいに活いかす意義いぎについて考察こうさつしている。モースは全体ぜんたい的てき社会しゃかい的てき現象げんしょうが社会しゃかい制度せいどを活性かっせい化かさせると考かんがえた。社会しゃかい保険ほけん、相互そうご扶助ふじょ組織そしき、職業しょくぎょう団体だんたい、贈与ぞうよの経済けいざいと功利こうり性せいを追求ついきゅうする経済けいざいの対比たいひ、戦争せんそう・孤絶こぜつ・停滞ていたいに対たいする連盟れんめい・贈与ぞうよ・交際こうさいなど、現代げんだいの問題もんだいが語かたられている。

『贈与ぞうよ論ろん』以外いがいの論文ろんぶん

モースは本書ほんしょの他ほかにも、「トラキア人じんにおける古代こだい的てきな社会しゃかい形態けいたい」 (1921年ねん) 、「ギフト、ギフト」 (1924年ねん) などで全体ぜんたい的てき給付きゅうふを論ろんじた。「トラキア人じんにおける古代こだい的てきな社会しゃかい形態けいたい」では古代こだいギリシア北部ほくぶのトラキアの習慣しゅうかんが主題しゅだいとなる。「ギフト、ギフト」ではゲルマン語ご派はの語かたりであるギフト( gift )が「贈おくり物もの」と「毒どく」の2つの意味いみを持もつ点てんに注目ちゅうもくしている。

評価ひょうかと影響えいきょう

クロード・レヴィ＝ストロースの構造こうぞう人類じんるい学がくをはじめとして、社会しゃかい学がく、人類じんるい学がく、民族みんぞく学がくなどの人文じんぶん科学かがくに広範こうはんな影響えいきょうを与あたえた。ジョルジュ・バタイユ、ジャック・デリダらの思想家しそうかにも影響えいきょうを及およぼしている。

書誌しょし情報じょうほう

原書げんしょ

• Essai sur le don: forme et raison de l'échange dans les sociétés archaïques (1925)

主おもな日本語にほんご訳やく

• 『太平洋たいへいよう民族みんぞくの原始げんし経済けいざい』 山田やまだ吉彦よしひこ訳わけ、日光にっこう書院しょいん、1943年ねん
• 『贈与ぞうよ論ろん』 有ゆう地ち亨とおる訳わけ、勁草書房しょぼう、新装しんそう版ばん2008年ねん
• 『贈与ぞうよ論ろん』 吉田よしだ禎ただし吾われ・江川えがわ純一じゅんいち訳わけ、筑摩書房ちくましょぼう〈ちくま学芸がくげい文庫ぶんこ〉、2009年ねん
• 『贈与ぞうよ論ろん 他た二に篇へん』 森山もりやま工たくみ訳わけ、岩波書店いわなみしょてん〈岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、2014年ねん

他たは「トラキア人じんにおける古代こだい的てきな社会しゃかい形態けいたい」、「ギフト、ギフト」

参考さんこう文献ぶんけん

• モース研究けんきゅう会かい 編へん、足立あだち和浩かずひろ他た 訳やく『マルセル・モースの世界せかい』平凡社へいぼんしゃ〈平凡社へいぼんしゃ新書しんしょ〉、2011年ねん。 
  • 佐久間さくま寛ひろし『交換こうかん、所有しょゆう、生産せいさん』。 
• マルセル・モース 著ちょ、森山もりやま工こう 訳やく『贈与ぞうよ論ろん 他た二に篇へん』岩波書店いわなみしょてん〈岩波いわなみ文庫ぶんこ〉、2014年ねん。 （原書げんしょ Mauss, Marcel (1925), Essai sur le don: forme et raison de l'échange dans les sociétés archaïques ）
• アルク誌し 編へん、足立あだち和浩かずひろ他た 訳やく『マルセル・モースの世界せかい』みすず書房しょぼう、1967年ねん。 
  • クロード・レヴィ＝ストロース 著ちょ、清水しみず昭俊あきとし, 菅野かんの盾たて樹じゅ 訳わけ『マルセル・モースの業績ぎょうせき解題かいだい(『社会しゃかい学がくと人類じんるい学がく』への序文じょぶん)』。 

関連かんれん文献ぶんけん

• 岩野いわの卓司たくし『贈与ぞうよ論ろん　資本しほん主義しゅぎを突つき抜ぬけるための哲学てつがく』青土おうづち社しゃ、2019年ねん
• モーリス・ゴドリエ『贈与ぞうよの謎なぞ』、山内やまうち昶あきら訳わけ、法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく〈叢書そうしょウニベルシタス〉、2014年ねん
• 山田やまだ広昭ひろあき『可能かのうなるアナキズム　マルセル・モースと贈与ぞうよのモラル』インスクリプト、2020年ねん
• クロード・レヴィ＝ストロース『親族しんぞくの基本きほん構造こうぞう』、福井ふくい和美かずみ訳やく、青あお弓ゆみ社しゃ、2000年ねん

関連かんれん項目こうもく

• 互酬
• 悲かなしき熱帯ねったい