遅咲おそざき

遅咲おそざき（おそざき）は、成功せいこう・有名ゆうめいになるまでに長ながい期間きかんを要ようすること、またはその人ひと。

原義げんぎは開花かいか時期じきの遅おそい花はな（主おもに桜さくら）。

概要がいよう

多おおくの職業しょくぎょう・スポーツ・カルチャーにおいて大成たいせいした人物じんぶつについて言いえば、比較的ひかくてき早はやい時期じきから台頭たいとうする人物じんぶつや、長ながい期間きかんを掛かけて頭角とうかくを顕あらわす人物じんぶつなど、その才能さいのうが開花かいかし活躍かつやくする時期じきは様々さまざまである。

その中なかでも、特とくに「遅咲おそざき」と呼よばれる人物じんぶつのタイプには大別たいべつして、

1. デビューそのものが遅おそい
2. デビューは決けっして遅おそくないが、デビュー当初とうしょは不振ふしんあるいは不遇ふぐうで、売うれ出だすまでに時間じかんがかかる
3. デビューの時期じきにかかわらず、高たかい年齢ねんれいの時ときに華々はなばなしい活躍かつやくをする

の3種類しゅるいに分わけられる。

一般いっぱん的てきにアスリートやモデルは肉体にくたい的てきな若わかさが重要じゅうようとなるためデビューが早はやく、これらの職種しょくしゅにおいては20代だい半なかばに達たっしてからのデビューは「遅咲おそざき」と言いわれることになる。

一方いっぽうで小説しょうせつ家かなどでは高齢こうれいでのデビューも多おおく、1990年代ねんだい以前いぜんにおけるライトノベルの様ような新興しんこうジャンルを別べつにすれば40代だいや50代だいでのデビューでも遅咲おそざきとは言いえない。

漫画まんが家か

出版しゅっぱん流通りゅうつうに乗のる漫画まんが雑誌ざっしにおける漫画まんが家かは一般いっぱん的てきに20代だいでのデビューが多おおく、少年しょうねん漫画まんが・少女しょうじょ漫画まんがでは、30歳さいを過すぎてデビューした漫画まんが家かは遅咲おそざきと言いえる。ただし近年きんねんは同人どうじん活動かつどうのキャリアが長ながい者ものや、アシスタントやイラストレーターを長ながく続つづけたあと漫画まんがの執筆しっぴつに乗のり出だす例れいも多おおくなり、青年せいねん漫画まんがや女性じょせい漫画まんがでは30歳さい過すぎの漫画まんが雑誌ざっしへのデビューも一般いっぱん的てきになっている。

デビューそれ自体じたいが遅おそかった漫画まんが家かとしては、青木あおき雄二ゆうじ（デザイン会社かいしゃ経営けいえいを経へて45歳さいでデビュー）が挙あげられ、売うれたのが遅おそかった漫画まんが家かとしては、水木みずきしげる（紙芝居かみしばい作家さっか、貸本かしほん漫画まんが家かとしての不遇ふぐうの時代じだいが長ながく、ヒット作さくを出だしたのは40歳さいを過すぎてからである）ややなせたかし（漫画まんがが本業ほんぎょうだったが詩人しじんとして先さきに名なを知しられ、『アンパンマン』が売うれ出だした時点じてんで60歳さい近ちかかった）などのケースがある。

なお、漫画まんが原作げんさく者しゃについては、漫画まんが家かや編集へんしゅう者しゃからの転向てんこう、もしくは他た分野ぶんやからの転身てんしんが多おおく、構成こうせい力りょくや資料しりょうの収集しゅうしゅう・分析ぶんせきなどの経験けいけんと能力のうりょくが求もとめられるため、デビューが遅おそいことが恒常こうじょう的てきで、10代など若年じゃくねんでのデビューは少すくない。

アスリート

一般いっぱん的てきなスポーツのアスリートはそのピーク時期じきには限かぎりがあるため、遅咲おそざきのアスリートは活躍かつやく期間きかんが短みじかくなる傾向けいこうがある。その分ぶん、太ふとく短みじかいが鮮烈せんれつな印象いんしょうを残のこすことが多おおい。

競技きょうぎにもよるが、スポーツ選手せんしゅは概おおむね20代だい半なかばから30代だい前半ぜんはんのあたりで選手せんしゅとしての能力のうりょくのピークを迎むかえることが多おおいが、その競技きょうぎで平均へいきん的てきな範囲はんいよりも高たかい年齢ねんれいで競技きょうぎ成績せいせきがピークに到達とうたつしたり、その年齢ねんれいになって初はじめて全国ぜんこく大会たいかいや国際こくさい大会たいかいなど最さい上位じょういクラスの大会たいかいへの出場しゅつじょうを果はたせる様ようになった選手せんしゅは「遅咲おそざき」と評ひょうされやすい傾向けいこうにある。また、たとえ選手せんしゅとしての旬しゅんが多少たしょう早はやくとも、才能さいのうの発掘はっくつが遅おくれたり、そもそも競技きょうぎを始はじめた年齢ねんれいが比較的ひかくてき遅おそい人物じんぶつを指さしても「遅咲おそざき」という表現ひょうげんが使つかわれる場合ばあいもある。

ただ、「遅咲おそざき」という表現ひょうげんが使つかわれる対象たいしょうは競技きょうぎによって異ことなり、フィギュアスケート・新体操しんたいそうのように選手せんしゅとして大成たいせいしてもピーク年齢ねんれいが総そうじて早はやい種目しゅもく、大相撲おおずもう・プロ野球やきゅう・サッカーのようにプロカテゴリでの淘汰とうたは激はげしいが大成たいせいした者ものの多おおくがある程度ていどの年齢ねんれいまでトップカテゴリで選手せんしゅ活動かつどうを継続けいぞくできる種目しゅもく、モータースポーツのように少すくなからぬ選手せんしゅが限界げんかい年齢ねんれいまで競技きょうぎへの継続けいぞく参戦さんせんが可能かのうな種目しゅもくで、それぞれ「早熟そうじゅく」「遅咲おそざき」と呼よばれる年齢ねんれい層そうは異ことなる。また、アメリカンフットボールの様ように社会しゃかい人じんチーム・プロチームに入はいる選手せんしゅの大半たいはんが大学だいがく卒そつ（ないし大学だいがく中退ちゅうたい）という特性とくせいを持もつ種目しゅもくや、ゴルフ・射撃しゃげきのように多おおくの中年ちゅうねん選手せんしゅが第だい一線いっせんで活躍かつやくしている種目しゅもく、日本にっぽんにおけるゲートボールのように「高齢こうれい者しゃのスポーツ」というイメージが定着ていちゃくしている種目しゅもくにおいては、そもそも「遅咲おそざき」の語彙ごい自体じたいが異ことなってくる。

一方いっぽう、競技きょうぎジャンルによっては「遅咲おそざき」が示しめす年齢ねんれいが年代ねんだいとともに変遷へんせんする場合ばあいもある。その典型てんけい例れいがモータースポーツ（特とくに4輪りん）である。かつて庶民しょみんにとって自動車じどうしゃが高嶺たかねの花はなであった時代じだいには、富裕ふゆう層そうの子弟していという出自しゅつじの人物じんぶつを別べつにすれば、まず社会しゃかいに出でて働はたらき、運転うんてんに必要ひつような資格しかく（免許めんきょやライセンス）を取得しゅとくし、その後ごにモータースポーツの世界せかいに足あしを踏ふみ入いれる者ものが一般いっぱん的てきであった。対たいして、現在げんざいでは幼少ようしょう期きから親おやの物心ぶっしん両面りょうめんの支援しえんの下したでカートに参戦さんせんしフォーミュラ1などのトップカテゴリを目指めざすのが主流しゅりゅうとなっている。2000年代ねんだい以降いこうのトップカテゴリのレーサーにあっては自国じこくの運転うんてん免許めんきょの取得しゅとく可能かのう年齢ねんれいに到達とうたつする前まえに既すでに下位かいカテゴリで事実じじつ上じょうのプロレーサーとして活動かつどうしていた者ものも少すくなくなく、今日きょうにおいては運転うんてん免許めんきょ取得しゅとく後ご、さらにいえば社会しゃかい人じんになって独力どくりょくで運転うんてん免許めんきょを取得しゅとくしてから初はじめてモータースポーツの世界せかいに足あしを踏ふみ入いれてその後ごプロレーサーとしてトップカテゴリに上のぼり詰つめる様ような選手せんしゅは、むしろ「遅咲おそざき」の範疇はんちゅうとなる。

また、元々もともと活躍かつやくしていた人物じんぶつが指導しどう者しゃとしても活動かつどうする様ようなベテランとなった年齢ねんれいになって改あらためて高たかい結果けっかを出だした場合ばあいも、「遅咲おそざき」という表現ひょうげんが使つかわれることがある。例れいとして山本やまもと博ひろしは41歳さいにしてオリンピックで銀ぎんメダルを獲得かくとくし「中年ちゅうねんの星ほし」と賞賛しょうさんされたが、そもそも山本やまもとは21歳さいのときにオリンピックで銅どうメダルを獲得かくとくした経歴けいれきの持もち主ぬしであり、以降いこう20年ねん後ごにメダルを再さい獲得かくとくするまで常つねに日本にっぽん国内こくないの一線いっせん級きゅうの選手せんしゅとして活躍かつやくしていた。

国籍こくせきによっては、自国じこくに徴兵ちょうへい制度せいどがあるため、選手せんしゅとしての養成ようせいを少年しょうねん期きから受うけていても、所定しょてい期間きかんの兵役へいえきの義務ぎむを終おえてからでなければ本格ほんかく的てきな競技きょうぎ活動かつどうに入はいりにくい、あるいは兵役へいえきに付つくため競技きょうぎ活動かつどうを中断ちゅうだんしなければならないという場合ばあいも見みられ、結果けっかとして全体ぜんたい的てきに遅咲おそざき傾向けいこうになる場合ばあいもある。

芸能人げいのうじん

かつての演芸えんげいの世界せかいの人材じんざい育成いくせいは徒弟とてい制度せいどそのものであり、お笑わらい芸人げいにんを目指めざす者ものは付つき人びととして目上めうえの芸人げいにんの下したで長期間ちょうきかんの下積したづみ経験けいけんと修業しゅうぎょうを重かさねるのが当然とうぜんであるかの如ごとき風潮ふうちょうが存在そんざいした。そういう点てんでは遅咲おそざきの方ほうが一般いっぱん的てきで、下積したづみや付つき人びとの経験けいけんがほとんどないまま若わかくして売うれっ子こになる早咲はやざきの人物じんぶつは相当そうとうの異才いさいであったといえる。また、前座ぜんざとしての初舞台はつぶたいそのものは早はやくても、一線いっせん級きゅうのタレントとして扱あつかわれる様ようになるまでに長期間ちょうきかんを要ようした人物じんぶつも枚挙まいきょに暇ひまがない。

しかし、1980年代ねんだい以降いこう、若わかくしてレギュラー番組ばんぐみを持もつようになったとんねるずやダウンタウン、近年きんねんではキングコングやオリエンタルラジオ等ひとしの登場とうじょうや、従来じゅうらいの徒弟とてい制度せいどからは基本きほん的てきに切きり離はなされた養成ようせい所しょという形かたちで即そく戦力せんりょくを育成いくせいすることを目的もくてきにした吉本よしもと総合そうごう芸能げいのう学院がくいんの出身しゅっしん者しゃが業界ぎょうかいを席巻せっけんしたことによりその概念がいねんも薄うすれつつある。また、近年きんねんのお笑わらいブームにおいては、お笑わらい芸人げいにんにおいても笑わらいとルックスが同時どうじに求もとめられる傾向けいこうが強つよまり、吉本よしもと系けいのみならずとも尚なお更さらに前記ぜんきのような現象げんしょうに拍車はくしゃをかけている。他方たほうで、遅咲おそざきの異才いさいの例れいとしては、九州きゅうしゅうで複数ふくすうの職業しょくぎょうを転々てんてんとし、山下やました洋輔ようすけや赤塚あかつか不二夫ふじおらに見出みいだされて30歳さいで芸能げいのう界かいに足あしを踏ふみ入いれたタモリが知しられている。

アイドル歌手かしゅ全盛期ぜんせいきのアイドルタレントは遅咲おそざきとは逆ぎゃくにトップに躍おどり出でるまでの期間きかんの短みじかさが重要じゅうよう視しされた。この場合ばあいは「鮮度せんど」、すなわち歌手かしゅデビュー（=芸能げいのう界かいデビュー）からランキング歌うた番組ばんぐみの上位じょういの常連じょうれんとなるまでの期間きかんの短みじかさ・発売はつばいしたシングル曲きょくの少すくなさが成功せいこうのための鍵かぎであるとされていたが、アイドル全盛期ぜんせいきの柏原かしわばら芳恵よしえは初はつのベスト10入いりするまでに7曲きょく、同様どうように石川いしかわひとみは10曲きょくを要ようしている。

ミュージシャンにおいては女性じょせいソロアーティストのメジャーデビューは10代後半こうはんだが、演奏えんそう技術ぎじゅつに一定いっていの完成かんせい度どが求もとめられるロックグループは20代だい前半ぜんはんが最もっとも多おおい。それ以降いこうは比較的ひかくてき遅咲おそざきと目めされることが多おおい。もっとも、60年代ねんだいから70年代ねんだいの欧米おうべいのロックグループのメンバーの平均へいきんデビュー年齢ねんれいは23.5歳さいであるが、ストラングラーズのジェット・ブラック（デビュー時じ37歳さい）のような遅咲おそざきのロックミュージャンは1970年代ねんだいから存在そんざいした。また、欧米おうべいでも日本にっぽんでもロックの若者わかもの文化ぶんかとしての性格せいかくが薄うすれていった1990年代ねんだい以降いこうは、その才能さいのう次第しだいではあるが、三さん十じゅう代目だいめ前まえあるいは三さん十じゅう代だい入いりして、ようやくプロミュージシャンとして一本立いっぽんだちできる者ものや、メジャーレーベルとの初はつ契約けいやくが成なるという者ものもそれほど珍めずらしいものとはいえなくなっている。ただし、CD不ふ況きょう以降いこうはメジャーレーベルとインディーズ、さらにい換いかえれば音楽おんがく一本いっぽんで生計せいけいを立たてているプロと音楽おんがく以外いがいにも生計せいけいを立たてる為ための収入しゅうにゅうを持もつセミプロの境界きょうかい線せんが曖昧あいまいになってきている一いち面めんもあり、そもそもプロミュージシャンという概念がいねん自体じたいについて一概いちがいな事ことは言いいにくくなっている面めんがある。

遅咲おそざきの俳優はいゆうは演技えんぎ力りょくに優すぐれている場合ばあいが多おおいとされているがそうでない場合ばあいもある。逆ぎゃくに演技えんぎ力りょくとはまた別べつの形かたちで年齢ねんれいと共ともに固有こゆうのキャラクター性せいに対たいする評価ひょうかが得えられ、個性こせい派はの俳優はいゆうやタレントとして才能さいのうが開花かいかする場合ばあいもある。極端きょくたんな例れいとしては1980年代ねんだいに、それまで半はん世紀せいき以上いじょうを脇役わきやくとして過すごしていたところ、80歳さいを超こえてから突然とつぜんに「おばあちゃんアイドル」としてバラエティ番組ばんぐみを中心ちゅうしんに人気にんきを博はくした浦辺うらべ粂子くめこが挙あげられる。

テレビアニメ・洋画ようがの吹ふき替かえなどで声こえを当あてている声優せいゆうについては、一般いっぱん的てきには高校こうこうや大学だいがくの卒業そつぎょう後ごにさらに声優せいゆう養成ようせい所しょに通かよい卒業そつぎょうしてから事務所じむしょに所属しょぞくし、幾いくつもの番組ばんぐみのオーディションを受うけてその中なかで採用さいようされての出演しゅつえんであり、その様ような経緯けいいを辿たどった人物じんぶつはほとんどが20代だいでのデビューとなる。デビュー後ごの数すう年間ねんかんは脇役わきやくやがやとして下積したづみのキャリアを積つむことも多おおく、多おおくは初はじめてテレビアニメで主役しゅやく級きゅう・準じゅん主役しゅやく級きゅうのキャラクターを配役はいやくされサブカルチャーの分野ぶんやで知名度ちめいどが大おおきく伸のび始はじめた時点じてんで20代だい半なかばから後半こうはん、場合ばあいによっては30代だいに入はいってからとなるなど、本質ほんしつ的てきに遅咲おそざきの業界ぎょうかい体質たいしつということがいえる。さらには、若本わかもと規夫のりおの様ように30歳さい目前もくぜんに声優せいゆうとなったが長ながく雌伏しふくの時期じきを過すごし、50代だいも半なかばになってから突然とつぜん個性こせいが評価ひょうかされて人気にんきとなり急激きゅうげきに出演しゅつえんが増ふえた例れいもある。児童じどう劇団げきだん所属しょぞくや子役こやくから声優せいゆう業ぎょうに転てんじた者もの、「ジュニア声優せいゆう部門ぶもん」など声優せいゆう事務所じむしょが十じゅう代だい前半ぜんはんの者ものを対象たいしょうに開講かいこうしている養成ようせい部門ぶもんの在籍ざいせき中ちゅうに抜擢ばってきを受うけた者もの、メディアミックス関連かんれん企業きぎょうが主催しゅさいする公開こうかいオーディションイベントの上位じょうい入賞にゅうしょうなどといった経緯けいいで声優せいゆう業界ぎょうかいに入はいった者ものなどには、十じゅう代だいから主役しゅやく級きゅうの役やくを得えて活躍かつやくする「早咲はやざき」となる者ものも見みられるものの少数しょうすう例れいの範疇はんちゅうである。

類義語るいぎご・対義語たいぎご

• 蛍雪けいせつの功こう …遅咲おそざきを示しめす故事こじ
• 大器晩成たいきばんせい・晩生ばんせい
• 早熟そうじゅく・早生わせ・早さ成なり