付つき人びと

付つき人びと（つきびと）とは、一般いっぱん的てきに、徒弟とてい制度せいどやその流ながれを汲くむ育成いくせいシステムが存在そんざいする組織そしきの中なかにあって、序列じょれつ・位い・格かくなどでより上位じょういの者ものの側がわに付ついて、その雑務ざつむなどを務つとめる者もののことである。

付つけ人びと（つけびと。大相撲おおずもうではこの表記ひょうきが一般いっぱん的てき）や内弟子うちでし（うちでし）とも呼よばれ、いわゆる「かばん持もち」などがこれにあたる。

概要がいよう

徒弟とてい制度せいどで人材じんざい育成いくせいが行おこなわれている職種しょくしゅの多おおくにおいては、“師匠ししょう”“先輩せんぱい”“上司じょうし”などの上位じょういの立場たちばにある人間にんげんが、“弟子でし”（直弟子じきでし、孫弟子まごでし、弟弟子おとうとでし、練習れんしゅう生せい）または“部下ぶか”などの後進こうしんの育成いくせいを行おこない、“弟子でし”は付つき人びととして“師匠ししょう”の仕事しごとの補助ほじょや身みの回まわりの世話せわをしながら、その仕事しごとの手順てじゅん・技法ぎほう・作法さほう・慣習かんしゅうなどといったものを習得しゅうとくし、師弟してい関係かんけいをき上ずきあげてゆく。また、“師匠ししょう”が所用しょようで外出がいしゅつしたりそもそも外そとを回まわる仕事しごとでは、“弟子でし”もそれに付ついてゆき、現地げんちでも雑用ざつようや下働したばたらきなどをこなす。

付つき人びとの仕事しごとについては職種しょくしゅによって大おおきく異ことなるが、仕事しごと中ちゅうの一般いっぱん的てきな業務ぎょうむ補助ほじょから私的してきな小間使こまづかいや雑用ざつよう、移動いどう時じの自動車じどうしゃの運転うんてん手しゅ、ごく簡単かんたんなレベルの身辺しんぺん警護けいご、自宅じたくに住すみ込こんでの身みの回まわりの世話せわなど多岐たきにわたる。

地位ちい

多おおくの場合ばあい、付つけ人びと修業しゅうぎょうについては修業しゅうぎょうに入はいった者ものが最初さいしょ期きの段階だんかいで行おこなうものとされ、雑用ざつようや下働したばたらきを通つうじて入門にゅうもん者しゃの根性こんじょう・熱意ねつい・人間にんげん性せいを見極みきわめるため、自身じしんが働はたらこうとする業界ぎょうかいの慣習かんしゅうを学まなぶため、などという理由りゆうが付つけられる。逆ぎゃくに徒弟とてい制度せいどの影響えいきょうが無ない、あるいは人材じんざい育成いくせいシステムの近代きんだい化かなどにより徒弟とてい制度せいどを撤廃てっぱいした組織そしきには存在そんざいしない慣習かんしゅうである。

各かく業界ぎょうかいにおいてこのような役割やくわりの人々ひとびとが存在そんざいするが、徒弟とてい制度せいどの人間にんげん関係かんけいや給与きゅうよの序列じょれつで見みた場合ばあい、付つき人びとの多おおくは最下さいか層そうかそれに近ちかい低ひくい立場たちばである。また、“正式せいしきな弟子入でしいりの前ぜん段階だんかい”“師匠ししょうの好意こういで側がわにつけられて修業しゅぎょうしている”などという解釈かいしゃくから、付つけ人びとについて上位じょういの人物じんぶつやその所属しょぞく会社かいしゃ・団体だんたいとの労働ろうどう契約けいやく自体じたいがなされていなかったり、そもそも無給むきゅう（若干じゃっかんの報酬ほうしゅうがあっても“師匠ししょうからの小遣こづかい”という形かたちで随時ずいじ処理しょりされている）など地位ちい的てきに不安定ふあんていなケースもあり、たとえば仕事しごと中ちゅうの“師匠ししょう”の「かばん持もち」として自動車じどうしゃに同乗どうじょう中ちゅうに交通こうつう事故じこに遭あうなど、本来ほんらいならば労働ろうどう災害さいがいに該当がいとうする事故じこに労働ろうどう契約けいやくが無ない付つき人びとが巻まき込こまれたことで問題もんだいになるケースもある。

大相撲おおずもう

大相撲おおずもうにおいては、付つき人びとではなく付つけ人びとと呼よばれる。親方おやかたが部屋へやの若わかい衆しゅ（幕下まくした以下いかの力士りきし）を関取せきとりに付つけるためである。

関取せきとりの本場ほんば本場所ほんばしょや稽古けいこ場じょうでの補助ほじょや日常にちじょう生活せいかつにおいても身みの回まわりの世話せわなどをする人ひととして、1人ひとりの関取せきとりに幕下まくした以下いかの複数ふくすうの力士りきしが付つけ人びととして付つく。荷物にもつ持もちや買かい物ものなど関取せきとりの身みの回まわりの世話せわや、稽古けいこ場じょうでタオルを持もち関取せきとりの汗あせを拭ふいたり、本場所ほんばしょで座布団ざぶとんを運はこんだり、観客かんきゃくや報道陣ほうどうじんが群むらがっている時ときにこれを遠とおざける警備けいび、取組とりくみ前まえに稽古けいこ相手あいてなどを務つとめる姿すがたが見受みうけられる。

付つけ人びとの員数いんずうは特とくに定さだめはないが、十じゅう両りょうには1人ひとり～2人にん、幕内まくうちには2人ふたり～3人にん、大関おおぜきには3人にん～4人にん、横綱よこづなには7人にん～10人にんとされる。横綱よこづなに付つけ人びとの数かずが多おおいのは、綱つな締じめに人手ひとでが必要ひつようであるうえ、土俵入どひょういりで用もちいるまわしが露払つゆはらいと太刀持たちもちの分ぶんも含ふくめ3人にん分ぶん用意よういしなければならず、これらや綱つなを入いれるための明あかり荷にが大関おおぜき以下いかは1つに対たいして横綱よこづなは3つとされるので、人員じんいんを要ようするためである。小規模しょうきぼな部屋へやから関取せきとりが出でた、あるいは大おおきな部屋へやでも関取せきとりの人数にんずうが非常ひじょうに多おおい場合ばあい、必要ひつような人数にんずうが足たりずに同おなじ一門いちもんの部屋へやから借かりてくる場合ばあいがある。付つけ人びとが複数ふくすういる場合ばあい、付つけ人びとのリーダーのことは付つけ人頭じんとうと呼称こしょうされる。

どの関取せきとりにどの力士りきしが付つけ人びとに付つくかは当該とうがい部屋へやの師匠ししょうが決定けっていし、定期ていき的てきに組くみ合あわせを変かえる部屋へやと昇進しょうしん・陥落かんらくがない限かぎり組くみ合あわせを固定こていする部屋へやとがある。将来しょうらい関取せきとり昇進しょうしんが見込みこめる有望ゆうぼう力士りきしは師匠ししょうや部屋へやの看板かんばん力士りきしの付つけ人びとにして英才えいさい教育きょういくを施ほどこすケースも多おおい（第だい71代だい横綱よこづな・鶴つる竜りゅう力りょく三郎さぶろうは入門にゅうもん当初とうしょ、現役げんえき末期まっきの寺尾てらお常つね史しの付つき人びとを務つとめていたことがあった）。

関取せきとり経験けいけん者しゃは幕下まくしたに陥落かんらくしても付つけ人びとにならないのが慣例かんれいであるが、付つけ人びとの員数いんずうが足たりずに指名しめいされたり、叱咤しった激励げきれいの意味いみで敢あえて指名しめいされることや、自みずから志願しがんして付つけ人びとになることもある。かつての付つけ人びとが関取せきとりになる一方いっぽう、関取せきとりが幕下まくしたに陥落かんらくして付つけ人びとに指名しめいされたため、関取せきとりと付つけ人びとの立場たちばが入いれ替かわった例れいも多数たすう存在そんざいする。小規模しょうきぼな相撲すもう部屋へやでは関取せきとりに昇進しょうしんしても雑用ざつようや家事かじを関取せきとりが自みずからこなす場合ばあいも少すくなくなく、鏡山かがみやま部屋へやの鏡かがみ桜さくらは自身じしんと師匠ししょうの鏡山かがみやまの実子じっしである竜りゅう勢ぜいの2人にんしか部屋へやに所属しょぞく力士りきしがいないため、十両じゅうりょう昇進しょうしん後ごからしばらくの間あいだは家事かじの一部いちぶを自身じしんで行おこなっていた。

関取せきとり以外いがいでは、部屋へやの師匠ししょうや立たて行司ぎょうじに付つく付つけ人びとも存在そんざいする。横綱よこづな栃とち錦にしきは取的とりてき時代じだいに師匠ししょうである春日野かすがの親方おやかた（元もと横綱よこづな栃木とちぎ山さん）の付つけ人びとを務つとめていた（最初さいしょ、付つけ人びとに付ついた関取せきとりの扱あつかいを師匠ししょうがかわいそうに思おもって自分じぶんに付つけたという。栃とち錦にしき清隆きよたかを参照さんしょう。）。また、栃とち錦にしきの春日野かすがの親方おやかたの晩年ばんねんにも、「サーカス相撲すもう」で知しられた元もと関脇せきわけで幕下まくしたに陥落かんらくしていた栃とち赤城せきじょうが、事実じじつ上じょうの専属せんぞくの付つけ人びととして身みの回まわりの世話せわを務つとめていた。

なお、相撲すもう界かいにおける「内弟子うちでし」とは、現役げんえき力士りきしや部屋へやつき親方おやかたが独立どくりつして自分じぶんで部屋へやを興おこすときに連つれて行いく予定よていで、とりあえずその部屋へやに所属しょぞくしている者ものを指さす（例たとえば、横綱よこづな大だい乃国は大関おおぜき魁さきがけ傑すぐるの弟子でしであるが、魁さきがけ傑すぐるが放ひ駒こま部屋へやを興おこすまでは魁さきがけ傑すぐるの所属しょぞく部屋へやである花はな籠かご部屋へやに所属しょぞくしていた）。このとき、内弟子うちでしの素質そしつを見込みこんだ所属しょぞく部屋へやと独立どくりつに関かんしてトラブルが起おきることもある（片男波かたおなみ部屋へやを参照さんしょう）。

2018年ねん、日本にっぽん相撲すもう協会きょうかいは貴たかノ岩いわが付つけ人びとに暴力ぼうりょくを振ふるった事件じけんを受うけて、関取せきとりを対象たいしょうに「付つけ人びとは関取せきとりの小間使こまづかいではない」、「互たがいに感謝かんしゃの気持きもちをもって接せっする」ことを認識にんしきさせる特別とくべつ研修けんしゅうを組くんだ。

プロレス

日本にっぽんのプロレス団体だんたいでは、入団にゅうだんからデビューするまでの選手せんしゅを練習れんしゅう生せいと呼よび、師匠ししょうであるプロレスラーの付つき人びととして身みの回まわりの世話せわを行おこなう（相撲すもう出身しゅっしんの力道山りきどうざんが日本にっぽんプロレス界かいの基礎きそを築きずく過程かていで、相撲すもう界かいの習慣しゅうかんからこのシステムが行おこなわれている）。次期じきエース候補こうほとして注目ちゅうもくを集あつめる有望ゆうぼう株かぶの若手わかてを団体だんたいの現げんエースや代表だいひょう者しゃの付つき人びとに付つけ、その傍かたわらでトップレスラーとしての立たち居振いふる舞まいなどを学まなばせることが多おおかった。アントニオ猪木いのき - 藤波ふじなみ辰たつ爾なんじ、ジャイアント馬場ばば - ジャンボ鶴田つるた、ジャンボ鶴田つるた - 三沢みさわ光晴みつはる、三沢みさわ光晴みつはる - 丸まる藤ふじ正道せいどう、ジャッキー佐藤さとう - ジャガー横田よこた、長与ながよ千種ちぐさ - 北斗ほくと晶あきらなど、この関係かんけいはデビュー後ごも数すう年ねん続つづき、師弟していでタッグを組くむもしくは世代せだい間あいだ抗こう争そうを掲かかげて対決たいけつをするなど、アングル展開てんかいの一翼いちよくを担になう。

選手せんしゅ以外いがいの関係かんけい者しゃが付つき人びととして付つく場合ばあいもある。ジャイアント馬場ばばには、1999年ねんに死去しきょするまで練習れんしゅう生せい及および若手わかて選手せんしゅのほか、レフェリーの和田わだ京平きょうへいやリングアナウンサーの仲田なかた龍りゅうが10年ねんに渡わたって付ついていた。

全日本ぜんにほんプロレス、プロレスリング・ノアでは現在げんざいも付つき人びと制度せいどが継続けいぞくされているが、新しん日本にっぽんプロレスでは2000年ねん以降いこう付つき人びと制度せいどが廃止はいしされている。また、インディでは付つき人びと制度せいど自体じたいがない団体だんたいが多おおい。メキシコの養成ようせい所しょを源流げんりゅうとするDRAGON GATEは元々もともと付つき人びと制度せいどはなかったが、2005年ねんに天龍てんりゅう源一郎げんいちろうが最高さいこう顧問こもんに就任しゅうにんした際さいに付つき人びとを付つけた（当時とうじ、所属しょぞく選手せんしゅであったマグナムTOKYOはプロレスデビュー前まえにWARで天龍てんりゅうの付つき人びとをしていた）。一方いっぽう、女子じょしプロレスではJWP女子じょしプロレスで付つき人びと制度せいどが残のこされている他ほか、長与ながよが2016年ねんに旗揚はたあげしたMarvelousでも採用さいようしている。

芸能げいのう界かい

芸能げいのう界かい（特とくに伝統でんとう芸能げいのう、演芸えんげい）の世界せかいにおいては、ある師匠ししょうの下したに弟子でし入いりした者ものは、付つき人びととして先輩せんぱいの芸人げいにんやあるいは師匠ししょうの周まわりで細々こまごまとした雑務ざつむに励はげみながら、自分じぶんの芸げいを磨みがいていく慣習かんしゅうがある。

なお、吉本よしもと総合そうごう芸能げいのう学院がくいん（NSC）は師弟していの旧慣きゅうかんが停滞ていたいしていた中なかで1980年代ねんだい前半ぜんはんの大阪おおさかで開校かいこうし、開校かいこう当初とうしょは旧来きゅうらいの師弟していのしきたりを重おもんじる芸人げいにんがNSC出身しゅっしん者しゃを毛嫌けぎらいしたことがあったという（当該とうがい記事きじ参照さんしょう）。

伝統でんとう工芸こうげい

伝統でんとう工芸こうげいの世界せかいにおいては、人間にんげん国宝こくほうなどに指定していされるほどの名工めいこうの門下もんかに入はいることを目指めざす場合ばあいなどに、基礎きそ技術ぎじゅつの習得しゅうとくなどの一般いっぱん的てきな修行しゅぎょうに入はいる前ぜん段階だんかいにおいて、仕事場しごとばの日々ひびの雑用ざつようや師匠ししょうの外出がいしゅつ時じのかばんもちなどを数すう年間ねんかん、務つとめなければならないことがある。

囲碁いご・将棋しょうぎ

将棋しょうぎ界かいや囲碁いご界かいにおいては、正式せいしきなプロ（囲碁いごの場合ばあい初段しょだん、将棋しょうぎの場合ばあい四よん段だん）になる前まえの修行しゅぎょう時代じだいに、師匠ししょうの家いえに住すみ込こむ弟子でしを「内弟子うちでし」（うちでし）、通かよいの弟子でしを「外そと弟子でし」（そとでし）と呼よんだ。内弟子うちでしは「食しょく住じゅう」を保障ほしょうされるかわりに、師匠ししょうの家いえの雑用ざつようなども行おこなった。

かつては多おおくの弟子でしが「内弟子うちでし」であったが、現在げんざいは住環境じゅうかんきょうなどの変化へんかもあり、ほとんど例れいがない。将棋しょうぎ界かいでは羽生はぶ世代せだいの先崎まっさき学がくは、師匠ししょうである米長よねなが邦雄くにおのもとで内弟子うちでし経験けいけんがあるが、羽生はぶ世代せだい以降いこうで内弟子うちでし経験けいけんがある人物じんぶつは山崎やまざき隆之たかゆきなどごく少数しょうすうである。

また類似るいじの制度せいどとして、将棋しょうぎ界かいでは1980年ねん頃ごろまで、師匠ししょうの家いえではなく東京とうきょう・大阪おおさかの将棋しょうぎ会館かいかんに住すみ込こんで将棋しょうぎの修行しゅぎょうを行おこなう「塾生じゅくせい」制度せいどが存在そんざいした。食しょく住じゅうを保証ほしょうされるだけでなく月給げっきゅうもあり、武者むしゃ野の勝巳かつみによれば1972年ねん当時とうじで月給げっきゅう6,000円えんだったが、一方いっぽうで会館かいかんで対局たいきょくを行おこなうプロ棋士きしの食事しょくじの手配てはいやお茶ちゃ出だし、対局たいきょく場じょうのセッティングなど多おおくの雑用ざつようをこなす必要ひつようがあった。しかし同どう制度せいども後のちに廃止はいしされている。

関連かんれん項目こうもく

• 師弟してい
• 秘書ひしょ
• 出で待まち
• 追おっかけ
• マネージャー
• ローディー
• バレット
• 部屋へや子こ - 破門はもん
• 御ご附ふ家老がろう