タニマチ

タニマチ（谷町たにまち）は、相撲すもう界かいの隠語いんごで、ひいきにしてくれる客きゃく、または後援こうえんしてくれる人ひと、無償むしょうスポンサーのこと。プロレス界かいなどといった他ほかのスポーツ、また歌舞伎かぶき界かいや演歌えんか界かい、宝塚歌劇団たからづかかげきだんを中心ちゅうしんに芸能げいのう界さかいでも幅広はばひろく使つかわれる。

概要がいよう

主おもにひいきにしている力士りきしやスポーツ選手せんしゅ、歌手かしゅなどの芸能人げいのうじんに多額たがくの援助えんじょという形かたちで後援こうえんし、後見人こうけんにん的てき立場たちばとなっている人物じんぶつのこと。援助えんじょの形態けいたいとしては繁華はんか街がい等とうでの豪遊ごうゆうにおける金銭きんせん負担ふたんから、本業ほんぎょうにおける多人数たにんずう分ぶんのチケット費ひ負担ふたん及および人数にんずう動員どういんによる客きゃく集あつめ、私生活しせいかつでの金銭きんせん援助えんじょや副業ふくぎょうへの協力きょうりょく、異性いせい問題もんだい等とうの不祥事ふしょうじ処理しょりなど多岐たきにわたる。その見返みかえりに一緒いっしょに食事しょくじをしたり結婚けっこん相手あいての推薦すいせんや評価ひょうかをした上うえで結婚式けっこんしきの仲人なこうどを務つとめたりする等ひとして、有名人ゆうめいじんと特とくに親したしい仲なかであることを周囲しゅういにアピールできる。また、相撲すもう界かいではタニマチから提供ていきょうされるものは相手あいてを精査せいさせずに何なんでも頂いただく「ごっつあん体質たいしつ」が存在そんざいする。

特とくに近年きんねんでは個人こじん後援こうえん会かいやファンクラブなどの組織そしきが多おおく普及ふきゅうしている。昨今さっこんの経済けいざい情勢じょうせいからか、個人こじん後援こうえん会かいやファンクラブの多数たすう台頭たいとうに伴ともない、慣例かんれいのタニマチ的てき行為こういは少すくなくなっている。

一方いっぽうの野球やきゅう界かいでは、選手せんしゅに夜よるの遊あそびを教おしえたり甘あまやかして練習れんしゅうを疎おろかにさせたり、トラブルに巻まき込こませるパターンが問題もんだいになっており、阪神はんしんタイガースでは当時とうじの関係かんけい者しゃである野村のむら克也かつやや星野ほしの仙せん一いちが著書ちょしょやインタビューにて何なん度どか苦言くげんをしている。

語源ごげん

「タニマチ」の語源ごげんは諸説しょせつあるが、有名ゆうめいなのが、1889年ねん（明治めいじ22年ねん）に大阪おおさか市し南みなみ区く（現げん中央ちゅうおう区く）谷町たにまち6丁目ちょうめで外科げか「薄うす病院びょういん」を開業かいぎょうした薄うす恕じょ一いち（すすき・じょいち 1866 - 1956年ねん）。幕下まくした力士りきしのために、病院びょういん内ないに土俵どひょうを設もうけるほどの好角家こうかくかで、幕下まくした力士りきしを無料むりょうで治療ちりょうしたり、小遣こづかいを与あたえ、「貧乏人びんぼうにんは無料むりょう、生活せいかつできる人ひとは薬代くすりだい一いち日にち四よん銭せん、金持かねもちは二に倍ばいでも三さん倍ばいでも払はらってくれ」と言いう方針ほうしんを貫つらぬいたと伝つたえられている。

ほかにも、明治めいじ初期しょきに谷町たにまち7丁目ちょうめの医師いしが同おなじく相撲すもう好すきで、力士りきしから治療ちりょう費ひを受うけ取とらなかったことから来きている、という話はなしがあり、平成へいせいになって、この医師いし・萩谷はぎや義則よしのり（1847 - 1902年ねん）の孫まごで国文学こくぶんがく者しゃの萩谷はぎや朴ほおが著書ちょしょで名乗なのり出でたことにより、話題わだいとなった。谷町たにまちで1887年ねんに所得しょとく税ぜいを納税のうぜいし、選挙せんきょ権けん・被選挙権ひせんきょけんを有ゆうしていたのは、萩谷はぎやのみであったという。

この薄うす恕じょ一いちと、萩谷はぎや義則よしのりの婿養子むこようし・萩谷はぎや理平りへい治ち（1870年ねん - 1949年ねん）とで、「大阪おおさか市し醫師いし會かいの紛擾ふんじょう」収拾しゅうしゅうのため「南みなみ区く谷町たにまち松屋まつや町まちを中心ちゅうしんとして医師いし萩谷はぎや理平りへい治おさむ氏し、医学いがく士し薄うす恕じょ一いち氏し、医師いし長山ながやま泰やすし春はる氏し外がい百ひゃく五ご十じゅう七なな名めい」とともに連判れんばん状じょうを提出ていしゅつしたといい、「報知ほうち新聞しんぶん」（大阪おおさか版ばん）（大正たいしょう3年ねん12月19日にち）に掲載けいさいされているという[1]。

ほかにも、谷町たにまちの大手おおて呉服ごふく問屋とんやの主あるじが相撲すもう好すきで、何なにかと力士りきしを支援しえんしたからという話はなしもあるという。ただし、この語源ごげん説せつが出だされる以前いぜん、先さきに「タニマチ」という言葉ことばがあって後ごからこうした美談びだんが創作そうさくされたと見みる説せつもある。

実際じっさい、かつて春場所はるばしょにおいて相撲すもう部屋へやが多おおく谷町たにまちの界隈かいわいに宿舎しゅくしゃを構かまえたのは事実じじつである。ただ、土俵どひょうが減へったこともあり、現在げんざいでは多おおくの部屋へやが大阪おおさか府内ふないの堺さかい市し、東大阪ひがしおおさか市し、岸和田きしわだ市しに宿舎しゅくしゃを置おき、特とくに貴乃花たかのはな部屋へやは京都きょうと府ふ、田子たつこノ浦うら部屋へやは和歌山わかやま県けんに宿舎しゅくしゃを置おくなど、分散ぶんさんが進すすんでいる。

実在じつざいのはっきりしている「タニマチ」としては、愛知あいち県けん一宮いちのみや市しの森もり家かがある。江戸えど時代じだいから力士りきしによくつかわれた膏薬こうやく「浅井あさい万金まんきん膏あぶら」の販売元はんばいもとであり、昭和しょうわの半なかば頃ごろまで大相撲おおずもうの力士りきしの怪我けがの治療ちりょうには何なにかと便宜べんぎをはかった。相撲すもう協会きょうかいでも、一時期いちじき国技こくぎ館かんの升席ますせきを森もり家かとその縁者えんじゃのために無料むりょう開放かいほうして、この恩おんに報むくいていた。

生國しょうごく魂たましい（いくたま）神社じんじゃの周まわりのお寺てらはかつて、相撲すもう部屋へやが林立りんりつ。贔屓ひいき筋すじの事ことをタニマチと呼よぶのはこの周まわりの地名ちめい＝谷町たにまちから。昭和しょうわ30年代ねんだい、初代しょだい若乃花わかのはなは、銀山ぎんざん寺てらに部屋へやを取とって稽古けいこ場じょうに。初代しょだい朝あさ潮しおの稽古けいこ場じょうは、現在げんざい生國しょうごく魂たましい神社じんじゃ向むかいの公園こうえんの中なかに土俵どひょうを作つくっていたように記憶きおくする。公園こうえんはその昔むかしは池いけでありアメリカザリガニやミジンコなどをよく獲えりに行いった。大阪おおさか場所ばしょが始はじまると拙宅せったく（旧きゅう南みなみ区く高津たかつ町まち）周まわりのお風呂ふろ屋やさん（黒門くろもん市場いちば周まわりには歩あるいて5分ふん以内いないに7軒けんのお風呂ふろ屋やさんが在あった）は力士りきしで溢あふれていた。関取せきとりはフンドシかつぎ(弟子でし)と浴衣ゆかた姿すがたのママ歩あるいて大阪おおさか府立ふりつ体育たいいく会館かいかんへ。すなわち、寺てらには土俵どひょうを作つくって稽古けいこする広ひろい場所ばしょがあり、宿泊しゅくはくも可能かのうであり、風呂ふろ屋やも近ちかく、会場かいじょうにも近ちかいと言いったすべての条件じょうけんを満みたしていた為ためこの界隈かいわい＝谷町たにまち筋すじのお寺てらに角界かくかいの部屋へやが林立りんりつしていたことに由来ゆらいする。一いち名めいの医者いしゃ説せつもうなづけるが、谷町たにまち界隈かいわいに在あった多数たすうの寺てらが贔屓ひいき筋すじであったと言いう訳わけだ。ちなみに現在げんざいの谷町たにまち筋すじは、昭和しょうわ45年ねん(1970年ねん)に拡張かくちょうされ寺てらの数かずも敷地しきちも減へって来きた為ため、稽古けいこ場じょうは次第しだいに別べつの場所ばしょに移うつっていった。しかしタニマチの名前なまえだけは現在げんざいも贔屓ひいき筋すじの事ことを指さして言いうように残のこっていった。

有名ゆうめいなタニマチ

• 佐川さがわ清きよし
• 渡辺わたなべ広ひろ康やすし
• 佐治さじ敬三けいぞう
• 泉井いずみい純一じゅんいち
• 浅田あさだ満みつる
• 橋本はしもと成一郎せいいちろう
• 細木さいき数子かずこ
• 野口のぐち美佳みか
• 高須たかす克かつ弥わたる
• 斎藤さいとう智恵子ちえこ

関連かんれん項目こうもく

• パトロン
• メセナ