式しき守もり伊之助いのすけ

式しき守もり伊之助いのすけ（しきもりいのすけ）は、大相撲おおずもうの立たて行司ぎょうじの名前なまえ。行司ぎょうじとしては木村きむら庄しょう之の助すけに次つぐ二に番目ばんめの地位ちいで、番付ばんづけの西にし正ただし位い横綱よこづなに相当そうとうする。令れい和わ6年ねん1月がつ場所ばしょより41代だい式しき守もり伊之助いのすけが38代だい木村きむら庄しょう之の助すけに昇格しょうかくし、以降いこうは空位くういとなっている。

解説かいせつ[編集へんしゅう]

この名跡みょうせきは代々だいだい三さん役やく格かくから立たて行司ぎょうじに昇格しょうかくする行司ぎょうじが襲名しゅうめいしており、軍配ぐんばいに紫むらさき白しろの房ぼう、装束しょうぞくに紫むらさき白しろの菊きく綴ていじを着用ちゃくようし^{[注釈ちゅうしゃく 1]}、庄しょう之の助じょ同様どうように軍配ぐんばいを差さし違ちがえた際さいに切腹せっぷくする覚悟かくごを意味いみする短刀たんとうを左ひだり腰こしに帯刀たいとうし、右みぎ腰こしに印籠いんろうを下さげる。本場所ほんばしょの本ほん割わりでは一いち日にちに三さん役やく格かく以下いか十じゅう両りょう格かくまでと同様どうように二に番ばんを合あわせる。優勝ゆうしょう決定けってい戦せんにおいては、幕内まくうち最高さいこう優勝ゆうしょうの決定けってい戦せんで、出場しゅつじょう力士りきしの最高さいこう位いが横綱よこづな・大関おおぜきの場合ばあいに立たて行司ぎょうじが裁さばくが、現在げんざいはその場合ばあい、庄しょう之の助すけと伊之助いのすけのどちらが裁さばくかは事前じぜんに定さだめてもう一方いっぽうが控ひかえとなる。

初代しょだいが明和めいわ年間ねんかんより寛政かんせい年間ねんかんにかけて使用しようした軍配ぐんばいは「ゆずり団扇うちわ」とも呼よばれて現在げんざいも継承けいしょうされ、記しるされる文字もじの読よみ下くだしは不明ふめいだが、裏面りめんの和歌わかは「いにしへのことりつかひのおもかけを今いまここに見みる御世みよそめてたき」と読よむことができる。1882年ねんの相撲すもう錦絵にしきえにすでに登場とうじょうしているが、20代だい伊之助いのすけ時代じだいの1960年ねん5月から伊之助いのすけのゆずり団扇うちわとなった。

行司ぎょうじ停年ていねん制せい実施じっし前まえの1958年ねん限かぎりで庄しょう之の助じょ同様どうように年寄としより名跡みょうせきより除のぞかれた。それ以前いぜんには歴史れきし上じょう相撲すもう部屋へやとして「式しき守もり伊之助いのすけ部屋へや」が存在そんざいしたこともあった。現存げんそんする行司ぎょうじ2家いえのうち式しき守もり家かは初代しょだい伊之助いのすけが式しき守もり姓せいを名乗なのったことに由来ゆらいするといわれる。

明治めいじ年間ねんかんに本場所ほんばしょで勧進かんじん元もとを務つとめた伊之助いのすけが開催かいさい直前ちょくぜんに亡なくなり、いわゆる「位牌いはい勧進元かんじんもと」が続つづいた。5代だい、6代だい、7代だい、8代だい、9代だいと5人にん続つづけて現役げんえきで亡なくなり、14代だいは1926年ねん1月がつ場所ばしょから襲名しゅうめいとなるが伊之助いのすけとして土俵どひょうに上あがることなく前年ぜんねん暮くれに亡なくなった。1926年ねん1月がつ場所ばしょの番付ばんづけは14代だいとして「式しき守もり伊之助いのすけ」と書かかれている。のちに「伊之助いのすけの祟たたり」とも喧伝けんでんされて恐おそれられた。またその前後ぜんごで伊之助いのすけを襲名しゅうめいした13代だいと15代だいもそれぞれ19代だいと20代だいの木村きむら庄しょう之の助すけを襲名しゅうめいした後のちにやはり庄しょう之の助すけのまま現役げんえきで亡なくなっている。一方いっぽうで、15代だい（20代だい庄しょう之の助すけ）を最後さいごに立たて行司ぎょうじが現役げんえき中ちゅうに亡なくなった例れいはない。

10代以降いこうは伊之助いのすけから庄しょう之の助すけを襲名しゅうめいすることが可能かのうとなったため、以後いご29人にん中ちゅう17人にんが庄しょう之の助すけを襲名しゅうめいしている。現在げんざいの制度せいどではもちろん庄しょう之の助すけに次つぐ地位ちいであり、江戸えど時代じだい～明治めいじ時代じだいをみても基本きほん的てきにそうであったが、6代だいと8代だいの2人ふたりは例外れいがい的てきに庄しょう之の助すけの上位じょういに位置いちされたことがある。ただし、8代だいは死し跡あとであったため庄しょう之の助すけより上位じょういとして土俵どひょうに上あがった伊之助いのすけは6代だい1人にんだけである。

伊之助いのすけから庄しょう之の助すけを襲名しゅうめいすることが可能かのうとなって以降いこうは、18代だい庄しょう之の助すけと23代だい庄しょう之の助すけが伊之助いのすけを経験けいけんせず庄しょう之の助すけを襲名しゅうめいしているが、23代だい庄しょう之の助すけが昇進しょうしんするきっかけとなった1959年ねんの行司ぎょうじの65歳さい停年ていねん制せいの導入どうにゅう後ごは伊之助いのすけ襲名しゅうめいを経へていることが庄しょう之の助じょ襲名しゅうめいの必須ひっす条件じょうけんとして定着ていちゃくした。

立たて行司ぎょうじが庄しょう之の助じょ、伊之助いのすけ、のちに副ふく立たて行司ぎょうじに降格こうかくされた玉之助たまのすけ、と3人にん制せい時代じだいは、17代だいと18代だいの2人ふたりのみが木村きむら玉之助たまのすけから昇格しょうかくして伊之助いのすけを襲名しゅうめいした。

番付ばんづけ上庄かみしょう之の助すけと伊之助いのすけが揃そろっている状態じょうたいからそのどちらかが引退いんたいしたり、あるいは庄しょう之の助じょ空位くういの状態じょうたいから伊之助いのすけが庄しょう之の助すけに昇格しょうかくするなどしても、必かならずしも自動的じどうてきに次つぎの格かくの三さん役やく格かく行司ぎょうじが即そく伊之助いのすけに昇格しょうかくできるとは限かぎらず、行司ぎょうじとしての実績じっせきや年齢ねんれいなどの要素ようそによっては、伊之助いのすけが空位くういの場所ばしょが発生はっせいすることもある。

記録きろく[編集へんしゅう]

定年ていねん間近まぢかで襲名しゅうめいする者ものが多おおく、27代だい、30代だい、34代だいが64歳さい、26代だいが63歳さいで襲名しゅうめいしている。

若年じゃくねんの襲名しゅうめいは6代だいと8代だいが40歳さい、23代だいが48歳さい、40代だいは53歳さいで襲名しゅうめいしている。

35代だいは伊之助いのすけ在位ざいい1場所ばしょで庄しょう之の助すけを襲名しゅうめいした唯一ゆいいつの事例じれいである。36代だいは2005年ねん9月場所ばしょに三さん役やく格かくへ昇格しょうかくして4場所ばしょ後ごの2006年ねん5月場所ばしょに伊之助いのすけを襲名しゅうめいし、三さん役やく格かくから立たて行司ぎょうじへ史上しじょう最短さいたんで昇格しょうかくした。

エピソード[編集へんしゅう]

2008年ねん5月場所ばしょから10代式しき守もり勘かん太夫たゆうが38代だいを襲名しゅうめいした。2011年ねん11月場所ばしょから38代だいが庄しょう之の助すけを襲名しゅうめいし、16代だい木村きむら玉たま光こうが39代だいを襲名しゅうめいするはずだったが健康けんこう問題もんだいを理由りゆうに辞退じたいし、伊之助いのすけはしばらく空位くういとなった。2012年ねん11月場所ばしょから10代木村きむら庄三郎しょうざぶろうが39代だいを襲名しゅうめいした。2013年ねん11月場所ばしょから39代だいが庄しょう之の助すけを襲名しゅうめいし、16代だい木村きむら玉たま光こうに1度どは打診だしんがあるも再さい辞退じたいした為ため、11代だい式しき守もり錦にしき太夫たゆうが40代だいを襲名しゅうめいした。

2017年ねん、40代だいが巡業じゅんぎょう先さきの宿泊しゅくはく先さきで未成年みせいねん行司ぎょうじにセクシャルハラスメント行為こういを行おこなった。これにより、日本にっぽん相撲すもう協会きょうかいより翌年よくねん初場所はつばしょから3場所ばしょの出場しゅつじょう停止ていし処分しょぶんを受うけた。40代だいは辞職じしょく願ねがいを出だしており、処分しょぶん解除かいじょ後ごの2018年ねん5月がつ31日にち付づけで受理じゅりされ、退職たいしょくした^[1]^[2]^[3]。

2018年ねん9月27日にちの理事りじ会かいで11代だい式しき守もり勘かん太夫たゆうが12月25日にち付づけで立たて行司ぎょうじに昇格しょうかくして41代だい式しき守もり伊之助いのすけを襲名しゅうめいすることが決定けってい、2019年ねん（平成へいせい31年ねん）1月がつ場所ばしょより41代だい伊之助いのすけが土俵どひょうを務つとめている。

41代だい式しき守もり伊之助いのすけが2024年ねん1月がつ場所ばしょより38代だい木村きむら庄しょう之の助すけに昇格しょうかくし、式しき守もり伊之助いのすけは空位くういとなった。日本にっぽん相撲すもう協会きょうかいは、裁さばきが安定あんていしない行司ぎょうじを立たて行司ぎょうじに昇格しょうかくさせてしまった反省はんせいから、次代じだいの式しき守もり伊之助いのすけは1年間ねんかんかけて4人にんの三さん役やく格かく行司ぎょうじの中なかから見定みさだめる方針ほうしんとしている^[4]。