塚田つかだスペシャル

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塚田つかだスペシャル（つかだスペシャル）は、将棋しょうぎの戦法せんぽうの一ひとつ。1986年ねんに塚田つかだ泰明やすあきが考案こうあんした、相あい掛かかりの先手せんてから仕掛しかける超ちょう急戦きゅうせんである。この戦法せんぽうによって塚田つかだは2015年ねんに将棋しょうぎ大賞たいしょうの「升田ますだ幸三こうぞう賞しょう特別とくべつ賞しょう」を受賞じゅしょうしている。

△持駒もちごま なし

9	8	7	6	5	4	3	2	1
香こう	桂かつら		金きむ	王おう		銀ぎん	桂かつら	香こう	一いち
	飛ひ		銀ぎん			金きむ	角かく		二に
歩ふ		歩ふ		歩ふ	歩ふ	歩ふ	歩ふ		三さん
			歩ふ				歩ふ	歩ふ	四よん
	歩ふ								五ご
							飛ひ	歩ふ	六ろく
歩ふ	歩ふ	歩ふ	歩ふ	歩ふ	歩ふ	歩ふ			七なな
	角かく	金きむ				銀ぎん			八はち
香こう	桂かつら	銀ぎん		玉たま	金きむ		桂かつら	香こう	九きゅう

▲持駒もちごま なし
塚田つかだスペシャル
(仕掛しかけ始はじめ)

背景はいけい

飛車ひしゃ先さきを切きった相あい掛かかりで、後手ごてが飛車ひしゃ先さきを切きりに来きた瞬間しゅんかんに後手ごての横よこ歩ふ、△3四よん歩ほや6四よん歩ほを取とりに先手せんてが再度さいど▲2四よん歩ほと合あわせていく指さし方かたや、1筋すじの歩ふの付つき合あいで1歩ほ持駒もちごまにしてから▲1五ご歩ほ△同どう歩ふ▲1三さん歩ほという攻せめを敢行かんこうする順じゅんは、1982年ねん（昭和しょうわ57年ねん）ごろから吉田よしだ利勝としかつらが試こころみていた。

△ 佐藤さとう 持駒もちごま　歩ふ2 9 8 7 6 5 4 3 2 1   香こう 桂かつら   金きむ 王おう   銀ぎん 桂かつら 香こう 一いち       銀ぎん     金きむ 角かく   二に 歩ふ   歩ふ   歩ふ 歩ふ 歩ふ 歩ふ 歩ふ 三さん       歩ふ           四よん                 歩ふ 五ご 歩ふ 飛ひ 歩ふ         飛ひ   六ろく       歩ふ 歩ふ 歩ふ 歩ふ     七なな   角かく 金きむ             八はち 香こう 桂かつら 銀ぎん   玉たま 金きむ 銀ぎん 桂かつら 香こう 九きゅう ▲ 吉田よしだ 持駒もちごま　歩ふ 図ずは▲1三さん歩ほまで 図ず1　吉田よしだ対たい佐藤さとう戦せん

△ 加藤かとう 持駒もちごま　歩ふ 9 8 7 6 5 4 3 2 1   香こう 桂かつら   金きむ 王おう   銀ぎん 桂かつら 香こう 一いち       銀ぎん     金きむ 角かく   二に 歩ふ   歩ふ 歩ふ 歩ふ 歩ふ   歩ふ   三さん             歩ふ 歩ふ 歩ふ 四よん                   五ご   飛ひ 歩ふ         飛ひ 歩ふ 六ろく 歩ふ     歩ふ 歩ふ 歩ふ 歩ふ     七なな   角かく 金きむ       銀ぎん     八はち 香こう 桂かつら 銀ぎん   玉たま 金きむ   桂かつら 香こう 九きゅう ▲ 神谷かみや 持駒もちごま　歩ふ 図ずは▲2四よん歩ほまで 図ず2　神谷かみや対たい加藤かとう戦せん

図ず1は1982年ねん1月がつ、吉田よしだ利勝としかつ vs.後手ごて佐藤さとう義則よしのり戦せん。先手せんての狙ねらいは△1三さん同どう香こうに▲2四よん歩ほ △同どう歩ふ ▲同どう飛ひ △2三さん歩ほに▲6四よん飛ひから▲1四よん歩ほで、9六ろく歩ほ型がたなので▲6四よん飛ひのとき△8八はち飛ひ成なり▲同どう銀ぎん△8六ろく角かくの筋すじがない。実戦じっせん進行しんこうは、△3四よん歩ほ▲1五ご香こう△8八角やすみ成しげる▲同どう銀ぎん△3三さん角かく▲7七なな角かく△8五ご飛ひ▲1六ろく飛ひとなる。△3四よん歩ほはご多分たぶんにもれず疑問ぎもん手しゅで実戦じっせんの進行しんこうとなってはすでに後手ごて敗勢はいせいとなっている。3四よん歩ほでは△1三さん同どう香こうと取とり、▲2四よん歩ほ△同どう歩ふ▲同どう飛ひ△2三さん歩ほ▲6四よん飛ひ△6三さん歩ほ▲6五ご飛ひなら互角ごかくだったという。これは第だい一いち感かんで浮うかぶ平凡へいぼんな順じゅんである。なぜ、やさしいこの手順てじゅんを指ささなかったかは、実戦じっせん心理しんりのなせるわざというしかないとみられていた。結局けっきょくわずか51手てで先手せんてが快勝かいしょう。吉田よしだはその後ご同一どういつ局面きょくめんを第だい8期き棋王きおう戦せん予選よせんで対たい滝たき誠一郎せいいちろう戦せんでも試こころみ、後手ごての滝たきは先手せんての▲6四よん飛ひまでの順じゅんで△6三さん歩ほとせず△8八はち飛ひ成なりとし、先手せんても▲6ニ飛ひ成なりとなって乱戦らんせんとなっている（結果けっかは先手せんて勝がち）。

また、図ず2は1982年ねん9月がつ22日にち 全日本ぜんにほんプロトーナメント（朝日あさひ杯はいの前身ぜんしん）、先手せんて神谷かみや広志ひろし vs. 後手ごて加藤かとう一二三ひふみ戦たたかえ（当時とうじは名人めいじん位い）。以下いか△2四よん同どう歩ふ▲同どう飛ひに後手ごて加藤かとうは△8五ご飛ひとした。類似るいじの局面きょくめんは1982年ねん4月がつ20日はつか、第だい8期き棋王きおう戦せん本戦ほんせんトーナメント、先手せんて吉田よしだ利勝としかつ vs.後手ごて田丸たまる昇のぼる 戦せんや、1983年ねん3月がつ18日にち、棋聖きせい戦せん予選よせん本戦ほんせん、先手せんて吉田よしだ利勝としかつ vs.後手ごて米長よねなが邦雄くにお（当時とうじ二に冠かん）があった。田丸たまるは△2四よん同どう歩ふ▲同どう飛ひに△4四よん歩ほ、米長よねながは△7六ろく飛ひとしたが、いずれも先手せんてが快勝かいしょう。特とくに吉田よしだ対たい米べい長ちょう戦せんでは、先手せんての吉田よしだが67手て、持もち時間じかんわずか36分ぶんの消費しょうひで圧勝あっしょうした。吉田よしだの解説かいせつでは、もし△8四よん飛ひであると ▲2二に角かく成しげる △同どう銀ぎん ▲6六ろく角かくが生しょうじ、以下いか △8九きゅう飛ひ成なり ▲2二に角かく成しげる △同どう金かね ▲同どう飛ひ成なり △7九きゅう龍りゅう ▲6九きゅう金きんで、後手ごて玉だまに詰つみが生しょうじている。

その後ご、後手ごての△3四よん歩ほや6四よん歩ほは、先手せんてが▲1七なな歩ほ-3八はち銀ぎん型がたでは、▲2四よん歩ほ △同どう歩ふ ▲同どう飛ひ に△1四よん歩ほとすれば、先手せんての3四よん歩ほや6四よん歩ほは△2八はち歩ほが生しょうじるが、一方いっぽうで▲1七なな歩ほ-3九きゅう銀ぎん型がたや▲1六ろく歩ほ-3八はち銀ぎん型がたでは△2八はち歩ほが利きかないので、先手せんての再度さいど▲2四よん歩ほあわせからの横よこ歩ふ取とりは成立せいりつするなど、『将棋しょうぎ世界せかい』1984年ねん（昭和しょうわ59年ねん）4月がつ号ごう付録ふろく『序盤じょばんのテクニック』において中村なかむら修おさむが、後手ごて陣じんの横よこ歩ふを取とりにいく際さいの陣形じんけい条件じょうけん等とうについて整理せいりし、発表はっぴょうしていた。

概要がいよう

先手せんては飛車ひしゃ先さきの歩ふ交換こうかん後ごの飛車ひしゃの位置いちは▲2六ろく飛ひと浮うわき飛車ひしゃに構かまえ、駒こま組ぐみを始はじめるか否ひかのところで仕掛しかける。△6四よん歩ほ▲3八はち銀ぎんに後手ごてが△6二に銀ぎんとしたところで、1筋すじの歩ふを突つき合あって再度さいど▲2四よん歩ほと合あわせる。△同どう歩ふ▲同どう飛ひと進すすみ、6四よんの歩ふ取とりと端はし攻ぜめを狙ねらう。

▲6四よん飛ひと6筋すじの歩ふを取とった状態じょうたいで先手せんてが角かく道みちを開あけた後のち、後手ごての飛車ひしゃ先さき交換こうかんが入はいると、後手ごてが飛車ひしゃ角かく交換こうかんを仕掛しかけて王手おうて飛車ひしゃ取とりを狙ねらう筋すじが映うつるが、強襲きょうしゅうとして飛車ひしゃを切きって銀ぎんを取とる手てがあり難解なんかい。一躍いちやくブームの戦法せんぽうとなり、様々さまざまな研究けんきゅうがなされ進化しんかしていく（先手せんての6筋すじの飛車ひしゃを切きらせないようにするため△7二に銀ぎん・△6一いち金きんの形かたちにするなど）。この戦法せんぽうで塚田つかだは公式こうしき戦せん22連勝れんしょうという当時とうじの新しん記録きろくを打うち立たてるなど、勢いきおいに乗のった。

△持駒もちごま 歩ふ 9 8 7 6 5 4 3 2 1   香こう 桂かつら   金きむ 王おう   銀ぎん 桂かつら 香こう 一いち   飛ひ   銀ぎん     金きむ 角かく   二に 歩ふ   歩ふ   歩ふ 歩ふ 歩ふ     三さん       歩ふ       飛ひ 歩ふ 四よん                 歩ふ 五ご     歩ふ             六ろく 歩ふ 歩ふ   歩ふ 歩ふ 歩ふ 歩ふ     七なな   角かく 金きむ       銀ぎん     八はち 香こう 桂かつら 銀ぎん   玉たま 金きむ   桂かつら 香こう 九きゅう ▲持駒もちごま 歩ふ 塚田つかだスペシャル (端はし攻ぜめを絡からめた例れい)

△持駒もちごま 歩ふ二に 9 8 7 6 5 4 3 2 1   香こう 桂かつら   金きむ 王おう   銀ぎん 桂かつら 香こう 一いち   飛ひ 銀ぎん       金きむ 角かく   二に 歩ふ   歩ふ   歩ふ 歩ふ       三さん       飛ひ     歩ふ   歩ふ 四よん                   五ご     歩ふ           歩ふ 六ろく 歩ふ     歩ふ 歩ふ 歩ふ 歩ふ     七なな   角かく 金きむ       銀ぎん     八はち 香こう 桂かつら 銀ぎん   玉たま 金きむ   桂かつら 香こう 九きゅう ▲持駒もちごま　歩ふ三さん 谷川たにがわによる塚田つかだスペシャル破やぶり 米長よねなが-谷川たにがわ戦せん △3四よん歩ほまで

△持駒もちごま 角かく歩ふ二に 9 8 7 6 5 4 3 2 1   香こう 桂かつら   銀ぎん 王おう   銀ぎん 桂かつら 香こう 一いち   飛ひ         金きむ 角かく   二に 歩ふ   歩ふ   歩ふ 歩ふ 歩ふ     三さん                 歩ふ 四よん                   五ご     歩ふ           歩ふ 六ろく 歩ふ     歩ふ 歩ふ 歩ふ 歩ふ     七なな   銀ぎん 金きむ       銀ぎん     八はち 香こう 桂かつら     玉たま 金きむ   桂かつら 香こう 九きゅう ▲持駒もちごま　飛ひ金きん歩ふ三さん 谷川たにがわによる塚田つかだスペシャル破やぶり 塚田つかだ-谷川たにがわ戦せん △8二に飛ひまで

しかし1987年ねんの米長よねなが邦雄くにお対たい谷川たにがわ浩司こうじ戦せんで対抗たいこう策さくが出でた。今いまでは塚田つかだスペシャル対策たいさくの常套じょうとう手しゅとなった△7二に銀ぎん型がたから、6四よんの歩ふを取とったときの△3四よん歩ほが決きめ手てとなった。この△3四よん歩ほは直接的ちょくせつてきには角かく交換こうかんからの王手おうて飛車ひしゃ取とりを狙ねらう手てである。また、▲3四よん飛ひと歩ふを取とると、6筋すじまたは2筋すじへの歩ふ打うちからの攻せめに対応たいおうできなくなる。これは決定けってい版ばんとまで言いわれ、塚田つかだ以外いがいの棋士きしは指ささなくなってしまった。

それでも指さし続つづける塚田つかだは、早はやいうちに左側ひだりがわの端歩はしふを突つくなどの新あらたな工夫くふうを加くわえて指さしていたが、1991年ねんのA級きゅう順位じゅんい戦せん対たい谷川たにがわ戦せんにおいて谷川たにがわが塚田つかだスペシャル破やぶりの絶妙ぜつみょう手しゅ（互たがいに飛車ひしゃを切きりあった直後ちょくごの自陣じじん飛車ひしゃ）を繰くり出だし、塚田つかだスペシャルの息いきの根ねを止とめた。

1986年ねんに指さされてからたった1年ねんで決定的けっていてきな対策たいさくが出でてしまい廃すたれたが、その構想こうそうはひねり飛車ひしゃに受うけ継つがれ、ひねり飛車ひしゃの流行りゅうこうへと繋つながった。

塚田つかだ泰明やすあきの解説かいせつ

『消きえた戦法せんぽうの謎なぞ』において行おこなわれたインタビューでは、「まさかここまで深ふかい戦法せんぽうだとは思おもっていなかった」、「本当ほんとうの元祖がんそは中村なかむら（修おさむ）さんである」などのほか、塚田つかだスペシャルを仕掛しかけようとしても相手あいてが乗のってくれない、「みんな冷つめたいんです」、とも語かたっている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 勝又かつまた清和きよかず 『消きえた戦法せんぽうの謎なぞ』文庫ぶんこ版ばん 毎日まいにちコミュニケーションズ 2003年ねん5月14日にち ISBN 4-8399-1091-X p.175-p.187

関連かんれん項目こうもく

• 横よこ歩ふ取とり
• ひねり飛車ひしゃ