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遺伝子いでんしターゲティング

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毛色けいろめるagouti遺伝子いでんし遺伝子いでんしターゲティングによる改変かいへんおこなわれたキメラ マウスとその

遺伝子いでんしターゲティング(いでんしターゲティング、ジーンターゲティング、gene targeting;またあいどうくみえによる塩基えんき置換ちかん戦略せんりゃく)は、内在ないざいせい遺伝子いでんし改変かいへんあいどうくみもちいる遺伝子いでんし工学こうがくてき手法しゅほうである。この方法ほうほう遺伝子いでんし削除さくじょエキソン除去じょきょ遺伝子いでんし導入どうにゅうてん変異へんい導入どうにゅうなどにもちいることができる。遺伝子いでんしターゲティングの効果こうかには恒久こうきゅうてきなものと、限定げんていてきなものとがありる。限定げんていてき効果こうかとは、標的ひょうてきとなる生物せいぶつ特定とくてい成長せいちょう段階だんかい生涯しょうがいなか特定とくてい時期じき、また特定とくてい組織そしきにおける効果こうかなどをす。遺伝子いでんしターゲティングでは対象たいしょうとなる遺伝子いでんしおうじて個別こべつベクター作成さくせいする必要ひつようがある一方いっぽうで、転写てんしゃ活性かっせい遺伝子いでんしサイズにかかわらずどんな遺伝子いでんしにも応用おうよう可能かのうである。

方法ほうほう

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遺伝子いでんしターゲティングの手法しゅほうはいくつかのモデル生物せいぶつたいして確立かくりつされており、対象たいしょうとなるしゅによってことなる場合ばあいもある。一般いっぱんてきにターゲティングコンストラクトは細菌さいきんなかつくられ、おおくは標的ひょうてき遺伝子いでんし一部いちぶ、レポーター遺伝子いでんし、そして(優性ゆうせいの)選択せんたくマーカーをふくむ。

マウス遺伝子いでんし標的ひょうてきとする場合ばあい、コンストラクトは培養ばいようのマウスみき細胞さいぼう導入どうにゅうされる。コンストラクトがただしく挿入そうにゅうされた細胞さいぼうえらんではい注入ちゅうにゅうし、その一部いちぶとして発生はっせいさせる。最後さいごに、改変かいへん細胞さいぼう生殖せいしょく器官きかん形成けいせいしたキメラ個体こたい交配こうはいによって選抜せんばつする。この後代こうだいは、全身ぜんしん最初さいしょ選抜せんばつしたみき細胞さいぼう由来ゆらいになっている。

ヒメツリガネゴケもちいる場合ばあいは、りたてのプロトプラストとコンストラクトを、ポリエチレングリコール存在そんざい混合こんごうする。コケの配偶はいぐうたい半数はんすうたいであることから、プロトプラストから発生はっせいさせたはらいとたい抗生こうせい物質ぶっしつまたはPCRによって直接ちょくせつスクリーニングにかけることができる。コケは植物しょくぶつなかでは例外れいがいてきに、遺伝子いでんしターゲティングによるぎゃく遺伝いでんがくてき手法しゅほうこう効率こうりつ使つかうことができる。手法しゅほう改変かいへんくわえられ、遺伝子いでんしターゲティングはうしひつじぶたおおくの菌類きんるいでも成功せいこうしている。

ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)[1]ホーミングエンドヌクレアーゼ[2]転写てんしゃ活性かっせい因子いんしさまエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)[3]などの人工じんこうヌクレアーゼ利用りようにより、遺伝子いでんしターゲティングの効率こうりつげることができる。今日きょうまでに、これらの手法しゅほうショウジョウバエ[1]タバコ[4][5]トウモロコシ[6]ヒト細胞さいぼう[7]、マウス[8]ラット[8]などで応用おうようされている。

ジーントラップほうとのちが

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遺伝子いでんしターゲティングは特定とくてい遺伝子いでんし標的ひょうてきにするのにたいし、ジーントラップほうでは遺伝子いでんしカセットのランダムな挿入そうにゅう利用りようする。ジーントラップほうではひとつのカセットをさまざまな標的ひょうてき配列はいれつへの挿入そうにゅうもちいることができるが、遺伝子いでんしターゲティングは標的ひょうてき配列はいれつとのあい同性どうせい利用りようしてDNA配列はいれつむため、目的もくてき標的ひょうてき配列はいれつおうじて配列はいれつえる必要ひつようがある。このため、ジーントラップほうほうがラージスケールに応用おうようしやすい。一方いっぽうで、遺伝子いでんしターゲティングはトラップスクリーニングでは検出けんしゅつできないてい発現はつげんりょう遺伝子いでんしにももちいることができる。また、ジーントラップほう成功せいこうりつイントロンながほうたかくなるが、遺伝子いでんしターゲティングではコンパクトな遺伝子いでんしでも簡単かんたん改変かいへんすることができる。

応用おうよう

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遺伝子いでんしターゲティングは、さまざまなモデルにたいして遺伝子いでんしのぞいたり(ノックアウトくわえたり(ノックイン特定とくてい変異へんいれたりすることで、ヒトの遺伝いでんびょう研究けんきゅうひろ使つかわれてきた。かつてはラット細胞さいぼうのモデルの作出さくしゅつ使つかわれていたが、遺伝子いでんしターゲティングの進歩しんぽ同系どうけいヒト疾患しっかんモデルのあたらしいなみ到来とうらい可能かのうにした。このモデルはいま現在げんざい研究けんきゅうしゃ利用りよう可能かのうなもののなかもっと正確せいかくなin vitroのモデルであり、とくにがん研究けんきゅう分野ぶんやにおいて、新規しんき個人こじんよう治療ちりょうやく診断しんだん開発かいはつ促進そくしんしている[9]

作物さくもつ育種いくしゅへの応用おうよう研究けんきゅうすすんでいる。目的もくてき遺伝子いでんしがゲノムじょうのランダムな位置いち挿入そうにゅうされる従来じゅうらい遺伝子いでんしぐみ作物さくもつ作出さくしゅつ技術ぎじゅつたいして、遺伝子いでんしターゲティングではゲノムじょうねらった位置いち遺伝子いでんし導入どうにゅうすることができ、位置いち効果こうか(position effect)をけることができる[10]

ノーベルしょう

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2007ねん、「はいせいみき細胞さいぼう(ES細胞さいぼう)をもちいてマウスの特定とくてい遺伝子いでんし改変かいへんする原理げんり発見はっけん」にたいしてマリオ・カペッキマーティン・エバンスオリバー・スミシーズの3めいノーベル生理学せいりがく医学いがくしょう受賞じゅしょうした [11] [12]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b Bibikova, M. (2003). “Enhancing Gene Targeting with Designed Zinc Finger Nucleases”. Science 300 (5620): 764–764. doi:10.1126/science.1079512. ISSN 00368075. 
  2. ^ Grizot, Sylvestre; Smith, Julianne; Daboussi, Fayza; Prieto, Jesús; Redondo, Pilar; Merino, Nekane; Villate, Maider; Thomas, Séverine et al. (2009). “Efficient targeting of a SCID gene by an engineered single-chain homing endonuclease”. Nucleic Acids Research 37 (16): 5405–5419. doi:10.1093/nar/gkp548. ISSN 1362-4962. 
  3. ^ Miller, Jeffrey C; Tan, Siyuan; Qiao, Guijuan; Barlow, Kyle A; Wang, Jianbin; Xia, Danny F; Meng, Xiangdong; Paschon, David E et al. (2010). “A TALE nuclease architecture for efficient genome editing”. Nature Biotechnology 29 (2): 143–148. doi:10.1038/nbt.1755. ISSN 1087-0156. 
  4. ^ Cai, Charles Q.; Doyon, Yannick; Ainley, W. Michael; Miller, Jeffrey C.; DeKelver, Russell C.; Moehle, Erica A.; Rock, Jeremy M.; Lee, Ya-Li et al. (2008). “Targeted transgene integration in plant cells using designed zinc finger nucleases”. Plant Molecular Biology 69 (6): 699–709. doi:10.1007/s11103-008-9449-7. ISSN 0167-4412. 
  5. ^ Townsend, Jeffrey A.; Wright, David A.; Winfrey, Ronnie J.; Fu, Fengli; Maeder, Morgan L.; Joung, J. Keith; Voytas, Daniel F. (2009). “High-frequency modification of plant genes using engineered zinc-finger nucleases”. Nature 459 (7245): 442–445. doi:10.1038/nature07845. ISSN 0028-0836. 
  6. ^ Shukla, Vipula K.; Doyon, Yannick; Miller, Jeffrey C.; DeKelver, Russell C.; Moehle, Erica A.; Worden, Sarah E.; Mitchell, Jon C.; Arnold, Nicole L. et al. (2009). “Precise genome modification in the crop species Zea mays using zinc-finger nucleases”. Nature 459 (7245): 437–441. doi:10.1038/nature07992. ISSN 0028-0836. 
  7. ^ Urnov, Fyodor D.; Miller, Jeffrey C.; Lee, Ya-Li; Beausejour, Christian M.; Rock, Jeremy M.; Augustus, Sheldon; Jamieson, Andrew C.; Porteus, Matthew H. et al. (2005). “Highly efficient endogenous human gene correction using designed zinc-finger nucleases”. Nature 435 (7042): 646–651. doi:10.1038/nature03556. ISSN 0028-0836. 
  8. ^ a b Cui, Xiaoxia; Ji, Diana; Fisher, Daniel A; Wu, Yumei; Briner, David M; Weinstein, Edward J (2010). “Targeted integration in rat and mouse embryos with zinc-finger nucleases”. Nature Biotechnology 29 (1): 64–67. doi:10.1038/nbt.1731. ISSN 1087-0156. 
  9. ^ A Panel of Isogenic Human Cancer Cells Suggests a Therapeutic Approach for Cancers with Inactivated p53 Proc Natl Acad Sci U S A Printed online at www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.0813333106
  10. ^ M. Lusser, C. Parisi, D. Plan and E. R. Cerezo (2012). “Deployment of new biotechnologies in plant breeding”. Nature Biotechnology 30: 231-239. doi:10.1038/nbt.2142. 
  11. ^ 2007ねんノーベル医学いがく生理学せいりがくしょうかんする記事きじ”. 2013ねん11がつ10日とおか閲覧えつらん
  12. ^ Press Release: The 2007 Nobel Prize in Physiology or Medicine”. 2007ねん10がつ8にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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