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3E戦略せんりゃく

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

3E戦略せんりゃく(さんイーせんりゃく)とは、ひろ使つかわれている標準ひょうじゅんかかわる製品せいひん投入とうにゅうし、その標準ひょうじゅんプロプライエタリ機能きのう追加ついかして拡張かくちょうし、その拡張かくちょう部分ぶぶんによって競合きょうごう製品せいひんつというマイクロソフト戦略せんりゃくである。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく司法省しほうしょうがマイクロソフト内部ないぶ使つかわれている "Embrace, extend and extinguish" (み、拡張かくちょうし、抹殺まっさつする)[1]または "Embrace, extend, and exterminate" (み、拡張かくちょうし、根絶ねだやしにする)[2]という言葉ことば発見はっけんした[3]ことを起源きげんとする[4]

起源きげん

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この戦略せんりゃくと "embrace and extend" という言葉ことばがマイクロソフト社外しゃがいはじめて解説かいせつされたのは1996ねんニューヨーク・タイムズかみの "Microsoft Trying to Dominate the Internet" (マイクロソフトはインターネットを支配しはいしようとしている)という記事きじでのことである[5]。この記事きじいた John Markoff は「たんにインターネットをんで拡張かくちょうするのではなく、マイクロソフトはそれをむつもりではないかと、同社どうしゃ批判ひはんてき人々ひとびとおそれている」といている。"embrace and extend" という言葉ことばはマイクロソフト従業じゅうぎょういん Dean Ballard のつくったじゃにもてくるし[6]、ニューヨーク・タイムズおこなったスティーブ・バルマーのインタビューでも使つかわれた[7]

そして、そこから派生はせいしよくられるようになった "embrace, extend and extinguish" という言葉ことばは、マイクロソフトが司法省しほうしょうからはんトラストほう違反いはんうったえられた法廷ほうていで、インテルふく社長しゃちょう Steven McGeady が証人しょうにんとして[8]、1995ねんにマイクロソフトとインテルでおこなった会議かいぎせきでマイクロソフトのふく社長しゃちょう Paul Maritz がNetscapeJavaインターネットたいする同社どうしゃ戦略せんりゃく説明せつめいする言葉ことばとしてはっしたと証言しょうげんしたのが初出しょしゅつである[9]。このフレーズは McGeady の証言しょうげんにもあるようにマイクロソフトの戦略せんりゃく最終さいしゅう段階だんかい強調きょうちょうするものであり、それは競合きょうごうするものから顧客こきゃくうばうことにならない。

ふるかたち派生はせいとして "embrace, extend then innovate" という言葉ことばもある。これはマイクロソフトの J Allard が1994ねん、Paul Maritz のマイクロソフト経営けいえいじんてたメモ "Windows: The Next Killer Application on the Internet" のなか使つかわれていた。このメモはまずインターネットの背景はいけい全般ぜんぱん説明せつめいし、Windowsをインターネットにおけるつぎの「キラーアプリ」とするための戦略せんりゃく提案ていあんしたものである。

インターネットコミュニティない必要ひつよう敬意けいいきずき、マインドシェアを獲得かくとくするには、これまで我々われわれがTCP/IPにかんしてった努力どりょくとはことなる処方しょほう推奨すいしょうされる。それは、み、拡張かくちょうし、革新かくしんするというものである。
  • だい1段階だんかいみ、embrace): 関係かんけいしゃ全員ぜんいん情報じょうほう構造こうぞうとコミュニティを確実かくじつ理解りかいする必要ひつようがあり、それによってユーザーベースのニーズとトレンドが把握はあくできる。そのときはじめて、我々われわれはマイクロソフトのシステム製品せいひんをインターネットシステムとすることが可能かのうになる。
  • だい2段階だんかい拡張かくちょう、extend): 適切てきせつ組織そしき我々われわれとよく目標もくひょう会社かいしゃとの関係かんけいきずく。インターネットコミュニティが開発かいはつした確立かくりつされたポピュラーな標準ひょうじゅん準拠じゅんきょしたツールやサービスを提供ていきょうする。
  • だい3段階だんかい革新かくしん、innovate): あらたな適当てきとうなインターネット標準ひょうじゅん策定さくていでリーダーシップを確立かくりつし、標準ひょうじゅん既製きせいタイトルをインターネット対応たいおうにする。
ルールをえる: Windowsが次世代じせだいのインターネットツールになる。

戦略せんりゃく

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3E戦略せんりゃくの3つの段階だんかいつぎとおりである[10]

  1. む (Embrace): 競合きょうごうする製品せいひん事実じじつじょう互換ごかんなソフトウェアを開発かいはつする。または公開こうかいされた標準ひょうじゅん実装じっそうしたソフトウェアを開発かいはつする。
  2. 拡張かくちょう (Extend): 競合きょうごう製品せいひん標準ひょうじゅんにはない機能きのう追加ついか推進すいしんし、顧客こきゃく本来ほんらい単純たんじゅん標準ひょうじゅん使つかおうとしたときに相互そうご運用うんようせい問題もんだいしょうじるようにする。
  3. 抹殺まっさつ (Extinguish): 市場いちば独占どくせんすることで拡張かくちょう部分ぶぶん「デファクト」スタンダードとなったとき、あらたな拡張かくちょうをサポートしない(できない)競合きょうごう他社たしゃのこされる。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく司法省しほうしょう、マイクロソフトを批判ひはんする人々ひとびと、コンピュータ業界ぎょうかいのジャーナリストは[1][11][12]、3E戦略せんりゃくくところは製品せいひんカテゴリの独占どくせんならないと指摘してきする。そのような戦略せんりゃくは、J Allard が元々もともと提案ていあんした embrace, extend then innovate という戦略せんりゃくとは、内容ないようてきにも段階だんかいてきにもことなる。マイクロソフトは、元々もともと戦略せんりゃくはん競争きょうそうてきなものではなく、むしろ顧客こきゃくのぞんでいる(とかれらがしんじている)機能きのう実装じっそうする自由じゆう裁量さいりょうけん行使こうしだと主張しゅちょうする[13]

ブラウザの互換ごかん
はんトラストほう裁判さいばん原告げんこくは、マイクロソフトが Internet ExplorerActiveX サポートを追加ついかすることで、プラグインシステムでJavaをベースとしたコンポーネントを使つかっている Netscape Navigator との互換ごかんしょうじさせたと主張しゅちょうした。
Javaの移植いしょくせい破壊はかい
はんトラストほう裁判さいばん原告げんこくはまた、マイクロソフトがJavaプラットフォームについても同様どうよう戦略せんりゃく採用さいようしていると非難ひなんした。Javaは、Windows、Mac、Linuxなど任意にんいオペレーティングシステム動作どうさ可能かのうなプログラムがけることを目標もくひょうとしている。しかしマイクロソフトはJavaプラットフォームの実装じっそうから Java Native Interfaceのぞき、わりに J/Direct用意よういした。すなわち、マイクロソフトはWindowsじょうのJavaプログラムを意図いとてきにプラットフォーム依存いぞんにし、LinuxやMacで使つかえなくした。マイクロソフトの内部ないぶ文書ぶんしょによれば、同社どうしゃはJavaのクロスプラットフォーム機能きのう軽視けいしし、「たんなる最新さいしん最良さいりょうのWindowsアプリケーション作成さくせいよう言語げんご」にしようとしていた[14]2001ねん1がつ、マイクロソフトはこれについて契約けいやく違反いはんみとめ、サンにたいして2000まんドルを支払しはらった[15]
ネットワーク
2000ねん、インターネット標準ひょうじゅんの1つであるケルベロス認証にんしょうプロトコルの独自どくじ拡張かくちょうが Windows 2000 に実装じっそうされた。このため、ケルベロスを使つかって Windows 2000 Server にアクセスしようとした場合ばあい、マイクロソフト製品せいひん以外いがいはアクセスできない事態じたい発生はっせいした[16]拡張かくちょう部分ぶぶん仕様しよう秘密ひみつ保持ほじ契約けいやく (NDA) に合意ごういしないと開示かいじされず、サードパーティ(とくオープンソース)の実装じっそう不可能ふかのうにしていた。NDA契約けいやくむすばずにこのしん機能きのう実装じっそうできるようにするため、スラッシュドットにNDAを無視むしして文書ぶんしょ投稿とうこうされ、NDA契約けいやくむすばずに仕様しようにアクセスできるようになった。マイクロソフトはスラッシュドットに文書ぶんしょ削除さくじょ依頼いらいした[17]。Windows 2000 ではバイナリ形式けいしき導入どうにゅうしたケルベロスの「拡張かくちょう」だが、のちRFC 3244RFC 4757記載きさいされ、さらにマイクロソフトの Open Specification Promise (OSP) にふくまれることになった。OSPは「マイクロソフトが所有しょゆうまたは管理かんりする特許とっきょがないと実装じっそうできない」技術ぎじゅつ一覧いちらんふく文書ぶんしょで、それらの自由じゆう実装じっそうをマイクロソフトが無条件むじょうけん許諾きょだくすることを約束やくそくしたものである。同様どうようなマイクロソフトの知的ちてき資産しさんとしては Kerberos Network Authentication Service v5 (RFC 1510RFC 1964)がある[18]
インスタントメッセージ
2001ねんCNETの News.com でマイクロソフトのインスタントメッセージについての3E戦略せんりゃくれい解説かいせつされた[11]
アドビの懸念けねん
アドビシステムズMicrosoft OfficePDFサポートをみたいというマイクロソフトの要望ようぼう拒絶きょぜつした。これは3E戦略せんりゃく餌食えじきになることをアドビがおそれたためとわれている[19]現在げんざいの Microsoft Office にはPDFサポートがまれているし、のISO標準ひょうじゅんもいくつかサポートされている[20][21][22]
従業じゅうぎょういん宣誓せんせい証言しょうげん
2007ねん、マイクロソフト従業じゅうぎょういん Ronald Alepin は Comes v. Microsoft裁判さいばん原告げんこくがわ証人しょうにんとして、マイクロソフトの内部ないぶ電子でんしメールにあった "Embrace, Extend, Extinguish" というフレーズについて説明せつめいした[23]
さらなるブラウザ互換ごかん
Netscape関連かんれんはんトラストほう裁判さいばんからやく10ねん今度こんどオペラ・ソフトウェア欧州おうしゅう連合れんごうともにマイクロソフトをはんトラストほう違反いはんうったえ、「有名ゆうめいな3E戦略せんりゃく標準ひょうじゅん窒息ちっそくさせるのではなく、標準ひょうじゅんをサポートすることをマイクロソフトにもとめた」[24]
ODFスプレッドシートとの互換ごかん
2009ねん、マイクロソフトは Office 2007 SP2 でODFをサポートした。しかし、Excelが生成せいせいした単純たんじゅんなファイルですらのアプリケーションと相互そうご運用うんようできないことが判明はんめいした[25][26][27][28]

マイクロソフト以外いがい企業きぎょうでのれい

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ブラウザ戦争せんそうさいには、マイクロソフト以外いがい企業きぎょう標準ひょうじゅん互換ごかんせいのない独自どくじ拡張かくちょう導入どうにゅうしたことがある。たとえば1995ねん、Netscape は "font" タグをHTML拡張かくちょうとして導入どうにゅうしたが、この拡張かくちょう標準ひょうじゅん団体だんたいらせてレビューしてもらったわけではない。Internet Explorer のシェアがえるとともに、両社りょうしゃ標準ひょうじゅん準拠じゅんきょしない機能きのう実装じっそうしあい、デッドヒートをえんじた[29]

2004ねん、ブラウザ戦争せんそうかえすのをふせ標準ひょうじゅん同士どうし衝突しょうとつ解決かいけつするため、AppleSafari)、Mozilla FoundationFirefox)、オペラ・ソフトウェアOpera)は World Wide Web Consortium補完ほかんするオープン標準ひょうじゅん策定さくていする Web Hypertext Application Technology Working Group結成けっせいした[30]。マイクロソフトはどうグループが特許とっきょあつかいをめていないてん難色なんしょくしめし、参加さんかしていない[31]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b “Deadly embrace”. The Economist. (2000ねん3がつ30にち). http://www.economist.com/displayStory.cfm?Story_ID=298112 2006ねん3がつ31にち閲覧えつらん 
  2. ^ Microsoft limits XML in Office 2003”. 2006ねん3がつ31にち閲覧えつらん
  3. ^ US Department of Justice Proposed Findings of Fact - Revised”. 2009ねん9がつ20日はつか閲覧えつらん
  4. ^ US Department of Justice Proposed Findings of Fact”. 2009ねん9がつ20日はつか閲覧えつらん
  5. ^ John Markoff (July 16, 1996). “Microsoft Trying to Dominate the Internet”. New York Times 
  6. ^ Rebello, Kathy (1996ねん7がつ15にち). “INSIDE MICROSOFT (Part 1)”. Business Week. http://www.businessweek.com/1996/29/b34841.htm 2006ねん3がつ31にち閲覧えつらん 
  7. ^ Steve Lohr, "Preaching from the Ballmer Pulpit." New York Times, Sunday, January 28, 2007. pp. 3-1, 3-8, 3-9.
  8. ^ Steven McGeady court testimony”. 2006ねん3がつ31にち閲覧えつらん DOC形式けいしき
  9. ^ United States v. Microsoft: Trial Summaries (page 2)”. 2006ねん3がつ31にち閲覧えつらん
  10. ^ Embrace, Extend, Extinguish (IT Vendor Strategies)”. 2007ねん10がつ14にち閲覧えつらん
  11. ^ a b Jim Hu (2001ねん6がつ7にち). “Microsoft messaging tactics recall browser wars”. CNet News.com. 2012ねん5がつ27にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2009ねん9がつ20日はつか閲覧えつらん
  12. ^ Embrace, Extend, Extinguish: Three Strikes And You're Out”. 2006ねん3がつ31にち閲覧えつらん
  13. ^ U.S. v. Microsoft: We're Defending Our Right to Innovate”. 2006ねん3がつ31にち閲覧えつらん
  14. ^ Matt Richtel (1998ねん10がつ22にち). “Memos Released in Sun-Microsoft Suit”. The New York Times. http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9C02EEDE103DF931A15753C1A96E958260&sec=&spon=&partner=permalink&exprod=permalink 2008ねん2がつ22にち閲覧えつらん. "The court documents state that in April 1997, Ben Slivka, the Microsoft manager responsible for executing the Java strategy, sent an E-mail to Microsoft's chairman, William H. Gates, noting "When I met with you last, you had a lot of pretty pointed questions about Java, so I want to make sure I understand your issues and concerns." Mr. Slivka goes on to ask if Mr. Gates's concerns included "How do we wrest control of Java away from Sun?" and "How we turn Java into just the latest, best way to write Windows applications?" 
  15. ^ Sun, Microsoft settle Java suit”. 2012ねん5がつ27にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2001ねん1がつ23にち閲覧えつらん
  16. ^ Microsoft's Kerberos shuck and jive” (2000ねん5がつ11にち). 2009ねん9がつ20日はつか閲覧えつらん
  17. ^ Microsoft Asks Slashdot To Remove Readers' Posts”. 2009ねん9がつ20日はつか閲覧えつらん
  18. ^ Microsoft Open Specification Promise”. 2007ねん11月2にち閲覧えつらん
  19. ^ CIO: Adobe Speaks Out on Microsoft PDF Battle
  20. ^ Office Service Pack 2 A Significant Stability, Performance and Interoperability Upgrade Microsoft PressPass、2009ねん4がつ28にち
  21. ^ Microsoft Expands List of Formats Supported in Microsoft Office Microsoft PressPass、2008ねん5がつ21にち
  22. ^ Office 2007 SP2 and PDF version support Gray Matter、2009ねん5がつ4にち
  23. ^ Expert Testimony of Ronald Alepin in Comes v. Microsoft - Embrace, Extend, Extinguish, Groklaw, January 8, 2007.
  24. ^ Opera files antitrust complaint with the EU
  25. ^ Update on ODF Spreadsheet Interoperability
  26. ^ A follow-up on Excel 2007 SP2's ODF support A follow-up on Excel 2007 SP2's ODF support
  27. ^ Allison, Jeremy (2009ねん5がつ19にち). “In Office SP2, Microsoft manages to reduce interoperability”. ZDNet. 2009ねん5がつ23にち閲覧えつらん
  28. ^ Walker-Morgan, DJ (6 May 2009). “Disputes over ODF spreadsheet interoperability”. 2009ねん7がつ3にち閲覧えつらん
  29. ^ The Problem with Standards”. 2006ねん11月7にち閲覧えつらん
  30. ^ What is the WHATWG and why did it form?”. 2007ねん8がつ25にち閲覧えつらん
  31. ^ MSConversations”. 2009ねん7がつ28にち閲覧えつらん (Dead link)

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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