死し点てん

死し点てん（してん、dead center）とは、クランク機構きこうで回転かいてん力りょくが発生はっせいしない地点ちてんを示しめし、最もっとも高たかい位置いちを上うえ死し点てん(じょうしてん、top dead center/TDC)、最もっとも低ひくい位置いちを下した死し点てん(かしてん、bottom dead center/BDC)と呼よぶ。

死し点てんという用語ようごは様々さまざまなクランクを用もちいる機器きき、例たとえば人力じんりきで動うごく一輪車いちりんしゃ、自転車じてんしゃ、三輪車さんりんしゃ、蒸気じょうき機関きかんを用もちいる機関きかん車しゃでも、「回転かいてん力りょくが発生はっせいしない点てん」を示しめす意味いみで用もちいられる。クランクを持もつ機器ききはこの回転かいてん力りょくが発生はっせいしなくなる死し点てんに打うち勝かつために、フライホイールの慣性かんせい力りょくを用もちいるか、マルチシリンダーエンジンのようにクランクに上下じょうげ運動うんどうを伝つたえる動力どうりょくを複数ふくすう設もうけて各かく動力どうりょくの死し点てんの位相いそうを相互そうごにずらす設計せっけいを用もちいて、死し点てんによって回転かいてん力りょくが停止ていしする事態じたいが起おこらないようにしている。

足踏あしぶみミシンや自転車じてんしゃのクランクには、12時じ方向ほうこうと6時じ方向ほうこうの2カ所かしょの死し点てんが存在そんざいする。足踏あしぶみミシンの場合ばあいは、手てでフライホイールを回まわして死し点てんから動作どうさを始はじめることができる。自転車じてんしゃの乗のり手ては両足りょうあしを用もちいて交互こうごに12時じ方向ほうこうの死し点てんに達たっしたペダルを踏ふみ続つづけることで、クランクの回転かいてん力りょくを維持いじする必要ひつようがある。フリーホイールのない自転車じてんしゃの場合ばあいには、自転車じてんしゃに勢いきおいさえ付ついていれば乗のり手てがペダルを踏ふまなくてもクランクは回転かいてんし続つづけるが、死し点てんで止とまった状態じょうたいからは、正ただしい回転かいてん方向ほうこうへ力ちからを掛かける必要ひつようがある。

内燃ないねん機関きかん

レシプロエンジンのシリンダー内うち（内燃ないねん室内しつない）でのピストンの位置いちを示しめす技術ぎじゅつ用語ようご。 ピストンがクランクシャフトの中心ちゅうしんから最もっとも遠とおくなる位置いちを上うえ死し点てん、最もっとも近ちかくなる位置いちを下した死し点てんと呼よぶ。 内燃ないねん機関きかんにおける上うえ死し点てんは、エンジンの様々さまざまなタイミング測定そくていのための重要じゅうような基準きじゅん点てんとなる。

主おもに点火てんか時期じきやバルブタイミングなどにこの上うえ死し点てんを0度どとした基準きじゅんを用もちいて、

• 上うえ死し点前てまえ(Before Top Dead Center/BTDC)何なん度ど、
• 上うえ死し点てん後ご(After Top Dead Center/ATDC)何なん度ど、

といった使つかわれ方かたによって動作どうさタイミングが指定していされている。

なお、下した死し点てんを基準きじゅんとする場合ばあいには、

• 下した死し点前てまえ(Before Bottom Dead Center/BBDC)何なん度ど、
• 下した死し点てん後ご(After Bottom Dead Center/ABDC)何なん度ど、

という表記ひょうきが行おこなわれる。

例たとえば、点火てんか時期じきの場合ばあいには理想りそう的てきな燃焼ねんしょうのためには上うえ死し点てん後ご（ATDC）での点火てんかが望のぞましい。だが、スパークの発生はっせいから混合こんごう気きへの火炎かえん伝播でんぱにはわずかにタイムラグが生しょうじる為ために、一般いっぱん的てきな点火てんか装置そうちでは上うえ死し点前てまえ（BTDC）にてスパークを行おこなうように点火てんか時期じきが決定けっていされている。

原理げんり的てきに着火ちゃっか遅おくれが避さけられないディーゼルエンジンも同様どうように上うえ死し点前てまえから燃料ねんりょう噴射ふんしゃを行おこなうと効率こうりつが高たかまるが、一いち度どに全量ぜんりょうを噴射ふんしゃすると燃焼ねんしょう室しつ内うちの温度おんどと圧力あつりょくの急上昇きゅうじょうしょうによって窒素ちっそ酸化さんか物ぶつと騒音そうおんの発生はっせいも増ますため、排出はいしゅつガス規制きせいや騒音そうおん規制きせいの強化きょうかに伴ともなって上うえ死し点てん後ごからの噴射ふんしゃが主流しゅりゅうとなり、最新さいしんのコモンレール方式ほうしきでは上うえ死し点てんを挟はさんだ多段ただん噴射ふんしゃへと変かわっている。

多おおくの火花ひばな点火てんか式しきエンジンではクランクシャフトプーリーかフライホイールなどに第だい一いち気筒きとうの上うえ死し点てんがマーキングされている。これによってバルブのタペット調整ちょうせい（隙間すきま調整ちょうせい）やカムシャフトの組くみ付づけなどの際さいに、クランクシャフトの位置いち出だしを行おこなうことができる。そして上うえ死し点てんマークの周辺しゅうへんには多おおくの場合ばあい、エンジン設計せっけい者しゃが指定していした点火てんか時期じきを示しめすマークが併記へいきされており、整備せいび士しはタイミングライトを用もちいてこのタイミングマークを照合しょうごうしながらディストリビューターやカムポジションセンサーを動うごかして、点火てんか時期じきの微ほろ調整ちょうせいを行おこなうことになる。

マルチシリンダーエンジン（多た気筒きとうエンジン）の場合ばあいは、各かく気筒きとうごとに死し点てんが存在そんざいするため、各々おのおののピストンを連結れんけつするクランクシャフトの角度かくどの設定せっていや気筒きとうの傾斜けいしゃにより、クランク軸じくから見みた上うえ死し点てん位置いちは複数ふくすう存在そんざいすることになる。上うえ死し点てんが複数ふくすう気筒きとうで重かさなり合あう場合ばあいもあり、4ストローク機関きかんでは、設計せっけいにより複数ふくすう気筒きとうが同時どうじに点火てんかされる場合ばあいと、点火てんか（ディーゼル機関きかんにおいては燃料ねんりょう噴射ふんしゃ）される気筒きとうと排気はいき行程こうていから吸気きゅうき行程こうていへ移うつる気筒きとうとが存在そんざいする場合ばあいがある。2ストローク機関きかんにおいて上うえ死し点てんは、すべて点火てんか爆発ばくはつの時期じきである。また振動しんどう対策たいさくのため複数ふくすうシリンダーを持もつエンジンのクランク軸じくは全体ぜんたいとして回転かいてん軸じくに対たいして対象たいしょうになるようクランクを配はいする例れいがほとんどだが、二輪車にりんしゃ向むけのエンジンでは一部いちぶ例外れいがいもある。

4ストローク機関きかんの点火てんか時期じきは1サイクルである720度どを気筒きとうごとに等間隔とうかんかくで割わり振ふる例れいが多おおいが、設計せっけい上じょうの都合つごうや、二輪車にりんしゃにおけるドライバビリティーの向上こうじょうを目的もくてきとして、あえて点火てんか時期じきを不ふ等間隔とうかんかくにする、つまりクランクの上うえ死し点てん位置いちを等間隔とうかんかくに並ならべない設計せっけいが、しばしば見みられる。

• クランクピンを共有きょうゆうするV型がたエンジンの場合ばあいは第だい一いち気筒きとうの上うえ死し点てんからバンク角かく進すすんだ（または遅おくれた）位置いちで第だい二に気筒きとうの上うえ死し点てんが出現しゅつげんする。ただしクランクピンを共有きょうゆうせず位相いそうをずらしたクランクを採用さいようする場合ばあいはこの限かぎりではない。
• 直列ちょくれつ2気筒きとうエンジンの場合ばあい、2ストローク機関きかんと4ストローク機関きかんとで、クランクの位相いそうの設計せっけいは違ちがったものになる。
  • 2ストローク機関きかんは等とう爆ばくとなる180度どクランクシャフトを持もつ場合ばあいがほとんどである。
  • 4ストローク機関きかんの場合ばあいは、360度ど、180度ど、270度どの3パターンの設計せっけいがあり、二輪車にりんしゃの乗のり味あじに応おうじ使つかい分わけられる。

詳細しょうさいは「直列ちょくれつ2気筒きとう」を参照さんしょう

• 水平すいへい対向たいこうエンジンは向むかい合あう両りょうシリンダが同どう位相いそうで回まわるため、ペアとなる気筒きとうの上うえ死し点てん位相いそうは同おなじである。
• 直列ちょくれつ4気筒きとうエンジンの場合ばあいは、回転かいてんバランスと爆発ばくはつタイミングを等とう爆ばくにするため、1番ばんと4番ばんおよび2番ばんと3番ばんのクランク位相いそうを同相どうしょうとし、4ストローク機関きかんでは各かく気筒きとうを180度ど間隔かんかくで等とう爆ばくにする設計せっけいがほとんどである。例外れいがい的てきに2009年ねん式しきヤマハ・YZF-R1ではレーシング仕様しよう車しゃのYZR-M1で用もちいたクロスプレーンクランクシャフトを用もちいて、不ふ等間隔とうかんかく爆発ばくはつとし、ドライバビリティーを向上こうじょうさせている。
• 直列ちょくれつ3気筒きとうエンジンは各かくクランクの位相いそうを120度どとする構成こうせいが一般いっぱん的てきである。
• 直列ちょくれつ6気筒きとうエンジンは直列ちょくれつ3気筒きとうエンジンを対象たいしょうに連結れんけつした構造こうぞうであり、点火てんか時期じきは直列ちょくれつ3気筒きとうの半分はんぶんの120度ど間隔かんかくの等とう爆ばくとなり回転かいてんバランスが最もっとも良よい。
• 120度どバンク角かくを持もつV型がた6気筒きとうエンジンはクランクピンを共有きょうゆうすると120度ど間隔かんかくで等とう爆ばくにできる。また60度どバンク角かくのV型がた6気筒きとうでは60度どの位相いそうを持もたせたオフセットクランクを用もちいて120度どバンク角かくのV型がた6気筒きとうエンジンと同様どうようの等とう爆ばくエンジンにすると、一いち次じ振動しんどう・二に次じ振動しんどうともバランスし、偶力の軌跡きせきも真ま円えんを描えがくため採用さいよう例れいも多おおい。一方いっぽうで90度どバンク角かくを持もつV型がた6気筒きとうエンジンではクランクピンの共有きょうゆうをする設計せっけいが多おおいが、これは不ふ等間隔とうかんかく爆発ばくはつであっても多た気筒きとうエンジンのため問題もんだいにならず、かつエンジン高たかさが低ひくく振動しんどう特性とくせいに優すぐれ、90度どバンク角かくが一般いっぱん的てきなV型がた8気筒きとうエンジンと生産せいさん設備せつびを共用きょうようできるメリットがあるためである。
• 直列ちょくれつ5気筒きとうエンジンはクランク位相いそうを72度どごとに並ならべる必要ひつようがあったため製作せいさくは困難こんなんであったが、直列ちょくれつ6気筒きとうよりも全長ぜんちょうが短みじかく取とれることからあえて採用さいようする例れいもあった。これはV型がた10気筒きとうエンジンでも同おなじである。
• 星ほし型がたエンジンではマスターロッドに結むすび付つけられた気筒きとうを除のぞき、残のこりの気筒きとうは放射状ほうしゃじょうに並ならんだ気筒きとうの角度かくどよりクランク角かくがごくわずかずれた位置いちで上うえ死し点てんに来くる。これはマスターロッドの大だい端はし部ぶに取とり付つくサブロッドの取とり付つけ穴あなの軌跡きせきが楕円だえんになるためストローク長ちょう、死し点てん位置いち、死し点てんタイミングともに狂くるうことにより起おきる。このためエンジン性能せいのうに大おおきく影響えいきょうが出でる上うえ死し点てん高たかさはサブロッドの大だい端はし部ぶ取とり付つけ穴あなの位置いちで調整ちょうせいし、点火てんか時期じきはその狂くるいに合あわせて不ふ等間隔とうかんかくにカム山やまを並ならべることで解消かいしょうしている。したがって星ほし型がたエンジンは等とう爆ばくエンジンではない。

ロータリーエンジンの場合ばあいには上うえ死し点てんとは内燃ないねん室しつの容積ようせきが最小さいしょうになるポイントを表あらわし、一ひとつのローターが1回転かいてんする間あいだに3回かいの上うえ死し点てんが発生はっせいする。マルチローターエンジンの場合ばあいには各かくローターの上うえ死し点てんはそれぞれ位相いそうがずらされている。

また、レシプロエンジンにおいては上うえ死し点てんと下した死し点てんの間あいだの移動いどう距離きょりはストロークとして表あらわされ、この数値すうちにシリンダーの内径ないけい(ボア)の数値すうちを掛かけ合あわせる事ことで、そのシリンダーの排気はいき量りょうを算出さんしゅつする事ことが出来できる。

蒸気じょうき機関きかん

レシプロ式しきの蒸気じょうき機関きかんにおいても、蒸気じょうき機関きかん車しゃや蒸気じょうき船せんなど往復おうふく運動うんどうをクランクにより回転かいてん運動うんどうに変換へんかんして利用りようする場合ばあい、上うえ死し点てんと下した死し点てんが存在そんざいする。フライホイールを利用りようして滑なめらかに死し点てんを通過つうかできるようにしているが、死し点てんで止とまってしまった場合ばあい再さい起動きどうが不可能ふかのうになるので、通常つうじょうは複数ふくすうの気筒きとうに位相いそう差さを設もうけて回転かいてん軸じくを接続せつぞくすることでこれを避さけている。例たとえば2気筒きとう式しきの蒸気じょうき機関きかん車しゃの場合ばあい、左右さゆうの気筒きとうで位相いそうが90度どずれており、どちらかの気筒きとうが死し点てんにあるときにもう一方いっぽうの気筒きとうが最大さいだいの力ちからを発揮はっきできる位置いちにある。3気筒きとう式しきの場合ばあいは120度どずつずれていて、より滑なめらかに回転かいてんできる。

外部がいぶリンク

• 『死し点てん』 - コトバンク