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mTOR

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

mTOR日本にっぽんではエムトールとばれることもあるが、まさしくはエムトアまたはエムトーである)は哺乳類ほにゅうるいなどの動物どうぶつ細胞さいぼうないシグナル伝達でんたつ関与かんよするタンパク質たんぱくしつキナーゼ(セリン・スレオニンキナーゼ)の一種いっしゅ[1][2]酵母こうぼもちいたスクリーニングでラパマイシン標的ひょうてき分子ぶんしとして発見はっけんされたため、TOR (target of rapamycin)つまり「ラパマイシン標的ひょうてきタンパク質たんぱくしつ」のりゃくとして命名めいめいされた(TOR1、TOR2の2種類しゅるいがある)[1][3][4]のち哺乳類ほにゅうるいホモログ見出みいだされ、同定どうていした研究けんきゅうしゃらによりFRAP1RAFT1などと命名めいめいされたが、一般いっぱんにはmTOR (mammalian TOR:哺乳類ほにゅうるいのTOR)との呼称こしょう普及ふきゅうした[5]。その様々さまざま生物せいぶつしゅでTORホモログがひろ同定どうていされたのをけ、HUGO遺伝子いでんし命名めいめいほう委員いいんかい (HGNC)は2009ねんほん遺伝子いでんし公式こうしきめいMTORmechanistic target of rapamycin)に決定けっていした。なお、HGNCによる公式こうしき名称めいしょうでは、Mはmechanistic(物理ぶつりてき機械きかいてき機構きこうてき)のりゃくであり、当初とうしょ一般いっぱんてきであったmammalian(哺乳類ほにゅうるいの)ではない。

mTORは、複数ふくすうタンパク質たんぱくしつによるふく合体がったい(complex)を形成けいせいし、ふく合体がったいはmTORCとばれる。インスリン成長せいちょう因子いんし栄養えいよう・エネルギー状態じょうたい酸化さんか還元かんげん状態じょうたいなど細胞さいぼう内外ないがい環境かんきょう情報じょうほう統合とうごうし、転写てんしゃ翻訳ほんやくひとしつうじて、それらにおうじた細胞さいぼうのサイズ、分裂ぶんれつ生存せいぞんなどの調節ちょうせつ中心ちゅうしんてき役割やくわりたすとかんがえられている。インスリンやアミノ酸あみのさん豊富ほうふ存在そんざいするとmTORは活性かっせいされ、リボソームにおけるmRNA翻訳ほんやく促進そくしんタンパク質たんぱくしつ合成ごうせい増加ぞうかさせるとともに、オートファジー阻害そがいタンパク質たんぱくしつ分解ぶんかい抑制よくせいする[6]

酵母こうぼそのものも栄養えいよう状態じょうたいとうおうじた調節ちょうせつ機能きのうたすが、詳細しょうさい作用さようじょことなる。さらにおおくのかく生物せいぶつでホモログがられるが、これらの作用さようじょかならずしもおなじではない。語源ごげんとなっているラパマイシンは、まずFKBP12タンパク質たんぱくしつ結合けつごうし、このタンパク質たんぱくしつふく合体がったいがmTORに結合けつごうしてこれを阻害そがいする。mTORは2種類しゅるい分子ぶんしふく合体がったい(ラパマイシン感受性かんじゅせいおよび感受性かんじゅせい)を形成けいせいし、それぞれにおいて触媒しょくばい(mTORキナーゼ)サブユニットとしてはたらく。

mTORふく合体がったい1(mTORC1)はmTOR、mLST8/GβべーたL(mammalian LST8/G-protein βべーた-subunit like protein)、Raptor(regulatory associated protein of mTOR)およびPRAS40とDEPTORからなる。このふく合体がったいは、栄養えいよう・エネルギー・酸化さんか還元かんげん状態じょうたいかんする情報じょうほうにより、リボソームの生産せいさんタンパク質たんぱくしつせい合成ごうせい促進そくしんし、タンパク質たんぱくしつ分解ぶんかいおさ細胞さいぼう成長せいちょううながす。mTORC1はラパマイシンにより阻害そがいされ[1]、またてい栄養えいよう状態じょうたい成長せいちょう因子いんし不足ふそく還元かんげんストレスとう刺激しげきにより抑制よくせいされる。これらの刺激しげきがあるとmTORとRaptorの相互そうご作用さようよわくなりmTORキナーゼが活性かっせいされる。ぎゃくにこれらがなくなると相互そうご作用さようつよまることにより、mTORキナーゼは活性かっせいされる。mTORC1の重要じゅうよう標的ひょうてきにはp70-S6キナーゼ1 (S6K1)や4E-BP1(かく生物せいぶつ翻訳ほんやく開始かいし因子いんし4E[eIF4E]結合けつごうタンパク質たんぱくしつ1)がある。mTORC1はS6K1をリン酸化さんかし、これにより活性かっせいされたS6K1はS6リボソームタンパクしつ翻訳ほんやく関係かんけい成分せいぶん活性かっせいつうじてタンパク質たんぱくしつ合成ごうせい開始かいしさせる。また、リン酸化さんかされていない4E-BP1はeIF4E結合けつごうし、これが5'キャップ構造こうぞうmRNA結合けつごうするのをさまたげでいるが、mTORC1が4E-BP1をリン酸化さんかすると、eIF4Eの機能きのう回復かいふくする。

mTORふく合体がったい2(mTORC2)はおもにmTOR、GβべーたL、Rictor(rapamycin-insensitive companion of mTOR)、およびmSIN1(mammalian stress-activated protein kinase interacting protein 1)からなる。mTORC2も成長せいちょう因子いんし栄養えいよう状態じょうたいにより調節ちょうせつけるが、ラパマイシンによる阻害そがいけない[1]一方いっぽうで、長時間ちょうじかんのラパマイシン処理しょりによって阻害そがいされることが報告ほうこくされている。TORC2は細胞さいぼう増殖ぞうしょく生存せいぞん調節ちょうせつ重要じゅうようなセリン・スレオニンキナーゼであるAkt別名べつめいタンパク質たんぱくしつキナーゼB[PKB])をリン酸化さんかし、これによりAktのべつ位置いちのリン酸化さんか促進そくしんされ、Aktは完全かんぜん活性かっせいされる。mTORC2は細胞さいぼう骨格こっかく調節ちょうせつにも関与かんよする。

そうやくターゲットとしてのmTOR

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mTORは、細胞さいぼう栄養えいよう状態じょうたい反映はんえいし、蛋白たんぱく合成ごうせい細胞さいぼう増殖ぞうしょく血管けっかん新生しんせい免疫めんえきなどを制御せいぎょする。mTOR阻害そがいざいは、ステントのさい狭窄きょうさく防止ぼうし抗癌剤こうがんざい免疫めんえき抑制よくせいざいとして実用じつようされている。

文献ぶんけん

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  1. ^ a b c d Bruce Alberts, Alexander Johnson et al. (2010). 細胞さいぼう分子生物学ぶんしせいぶつがく (5 ed.). 株式会社かぶしきがいしゃニュートンプレス. pp. 934-935. ISBN 978-4-315-51867-2 
  2. ^ 岡部おかべすすむ. “mTOR 阻害そがいやくもちいたがん治療ちりょう”. 日本にっぽん薬理やくり学会がっかい. 2016ねん11月17にち閲覧えつらん
  3. ^ Cafferkey et al.: Mol Cell Biol. 1993; 13(10), 6012-23. Dominant missense mutations in a novel yeast protein related to mammalian phosphatidylinositol 3-kinase and VPS34 abrogate rapamycin cytotoxicity.
  4. ^ Helliwell et al.: Mol Biol Cell. 1994; 5(1), 105-18. TOR1 and TOR2 are structurally and functionally similar but not identical phosphatidylinositol kinase homologues in yeast.
  5. ^ Sabers et al.: J Biol Chem. 1995; 270(2), 815-22. Isolation of a protein target of the FKBP12-rapamycin complex in mammalian cells.
  6. ^ 水島みずしまのぼる (2011-12-02). 細胞さいぼう自分じぶんべるオートファジーのなぞ. 株式会社かぶしきがいしゃPHP研究所けんきゅうじょ. p. 194. ISBN 978-4-569-80071-4 

外部がいぶリンク

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