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ヒドロキシルアミン

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヒドロキシルアミン
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識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう 7803-49-8 チェック
PubChem 787
RTECS番号ばんごう NC2975000
特性とくせい
化学かがくしき NH2OH
モル質量しつりょう 33.030 g/mol
外観がいかん 白色はくしょくはりじょうまたはフレークじょう固体こたい
密度みつど 1.21 g/cm3 (20 °C)[1]
融点ゆうてん

33 °C, 306 K, 91 °F

沸点ふってん

58 °C, 331 K, 136 °F (分解ぶんかい)

みずへの溶解ようかい 冷水れいすい
ねつすいでは加水かすい分解ぶんかい
溶解ようかい 液体えきたいアンモニアアルコールえき
さん解離かいり定数ていすう pKa 5.94
構造こうぞう
双極そうきょくモーメント 0.67553 D
ねつ化学かがく
標準ひょうじゅん生成せいせいねつ ΔでるたfHo -39.9 kJ/mol
危険きけんせい
安全あんぜんデータシート(外部がいぶリンク) ICSC 0661
EU分類ぶんるい Carc. Cat. 3
爆発ばくはつせい (E)
有毒ゆうどく (T)
有害ゆうがい (Xn)
刺激しげきせい (Xi)
環境かんきょうへの危険きけんせい (N)
EU Index 612-122-00-7(水溶液すいようえき、> 55 %)
612-122-01-4(水溶液すいようえき、< 55 %)
NFPA 704
0
2
3
Rフレーズ R2 R21/22 R37/38 R40 R41 R43 R48/22 R50
Sフレーズ S2 S26 S36/37/39 S61
引火いんかてん 129 °C, 402 K(爆発ばくはつ
発火はっかてん 265 °C, 538 K
半数はんすう致死ちしりょう LD50 408 mg/kg(経口けいこう、マウス); 59–70 mg/kg(腹腔ふくこうない投与とうよ、マウス、ラット); 29 mg/kg(皮下ひか注射ちゅうしゃ、ラット)[2]
関連かんれんする物質ぶっしつ
関連かんれんするヒドロキシルアンモニウムしお
関連かんれん物質ぶっしつ
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・つねあつ (100 kPa) におけるものである。

ヒドロキシルアミンえい: hydroxylamine)はしめせせいしきNH2OHあらわされる無機むき化合かごうぶつである。みずアンモニアたがいに一部分いちぶぶん共有きょうゆうしたような構造こうぞうっているので、それらのこん成体せいたいることもできる。純粋じゅんすいなヒドロキシルアミンは室温しつおん不安定ふあんてい結晶けっしょうせい固体こたいであり、吸湿きゅうしつせいつ。潮解ちょうかいせいがある。一般いっぱんてき水溶液すいようえき、または塩酸えんさんしおなどのしおとしてあつかわれる。

ヒドロキシルアミンはなま合成ごうせいてき硝化しょうかなかあいだたいである。アンモニアの酸化さんかはヒドロキシルアミン酸化さんか還元かんげん酵素こうそによって媒介ばいかいされる。

生産せいさん

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いくつかの合成ごうせいほうられている[3]

ラシヒほう (Raschig Synthesis) では、まず硝酸しょうさんアンモニウム水溶液すいようえきを 0 °C において 還元かんげんし、ヒドロキシルアミド-N,N-ジスルフェートとする。これを加水かすい分解ぶんかいして硫酸りゅうさんしお る。

固体こたいのヒドロキシルアミンはこの硫酸りゅうさんしお液体えきたいアンモニアで処理しょりすることによってられる。硫酸りゅうさんアンモニウム液体えきたいアンモニアに不溶ふようなので濾別でき、アンモニアは減圧げんあつとめされる。

合成ごうせいほうとして、ヒドロキシルアンモニウムしおるものがある。硝酸しょうさんまたは硝酸しょうさんナトリウム亜硫酸ありゅうさんイオンで還元かんげんする。生成せいせいしたヒドロキシルアミド-N-スルフェートを加水かすい分解ぶんかいし、ヒドロキシルアンモニウムしおとしたのち、ナトリウムブトキシドで中和ちゅうわ遊離ゆうりのヒドロキシルアミンをる。

(100 ℃、1あいだ

反応はんのう

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アルキルざいのようなもとめ電子でんし試薬しやく反応はんのうする。酸素さんそ窒素ちっそはどちらも攻撃こうげきける。

アルデヒドケトンとの反応はんのうではオキシム生成せいせいする。

この反応はんのうはケトン、アルデヒドの精製せいせい有用ゆうようである。またオキシムるいジメチルグリオキシムのようなはいとしても使つかわれる。

クロロ硫酸りゅうさん反応はんのうしてヒドロキシルアミン-O-スルホンさんあたえる。これはカプロラクタム合成ごうせいもちいられる試薬しやくである。

ヒドロキシルアミン-O-スルホンさんは 0 ℃ 以下いか保存ほぞんする必要ひつようがあり、ヨウしずくじょう確認かくにんできる。

利用りよう

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ヒドロキシルアミンおよびその塩類えんるいおおくの有機ゆうき化学かがく無機むき化学かがく反応はんのうにおいて還元かんげんざいとして一般いっぱんてきもちいられる。脂肪酸しぼうさん酸化さんか防止ぼうしざいとしての作用さようもある。化学かがく以外いがいでの利用りようほうとしては、獣皮じゅうひ脱毛だつもう写真しゃしん現像げんぞうえきなどがある[4]半導体はんどうたい洗浄せんじょうざいとして利用りようされる。農薬のうやく原料げんりょうにもなる。

硝酸しょうさんヒドロキシルアンモニウムロケットの推進すいしんざいとして、いちえき推進すいしんやく水溶液すいようえき)、固体こたい燃料ねんりょう両方りょうほう研究けんきゅうされている。

安全あんぜんせい

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ヒドロキシルアミンは爆発ばくはつせい化合かごうぶつであるが、その危険きけんせい度合どあいについては完全かんぜんにはわかっていない。火気かき高温こうおんたいれると、爆発ばくはつてき燃焼ねんしょうする。紫外線しがいせんけると爆発ばくはつする。1999ねん以来いらい、ヒドロキシルアミンをあつか工場こうじょうでの死者ししゃともな事故じこなんこっている。2000ねん6がつ10日とおか群馬ぐんまけん尾島おじままち当時とうじ)、てつイオンフリーヒドロキシルアミン 50 % 水溶液すいようえき製造せいぞう工場こうじょう爆発ばくはつ[5]があったほか、1999ねん2がつ19にちアメリカペンシルバニアしゅうにて日本にっぽん同様どうように 50 % 水溶液すいようえき製造せいぞう工場こうじょうにて爆発ばくはつ事故じここしている[6]。なおいずれの場合ばあいもヒドロキシルアミンがこう濃度のうどのときやてつイオンの存在そんざいによりはげしく分解ぶんかい危険きけんだということはられていた。

2000ねん6がつ10日とおか群馬ぐんまけん工場こうじょうてつイオンフリー(1 ppb以下いか)の、ヒドロキシルアミン 50 % 水溶液すいようえきせいとめ工程こうていにてだい爆発ばくはつしたことを[注釈ちゅうしゃく 1]消防しょうぼう研究所けんきゅうじょにて爆発ばくはつ危険きけんせいについて各種かくしゅ実験じっけんおこなった[8]当初とうしょ、ヒドロキシルアミンは危険きけんぶつ輸送ゆそうかんする国連こくれん勧告かんこくしょでは腐食ふしょくせい物質ぶっしつ (class 8) に分類ぶんるいされるも、火災かさい爆発ばくはつ危険きけんせいについては記述きじゅつされていなかった[9]が、日本にっぽん消防しょうぼう法令ほうれい改正かいせいせまるものともなった。結果けっか要旨ようしつぎのとおりである。

  1. しめせねつ分析ぶんせき (DTA) により、ヒドロキシルアミンの分解ぶんかいはステンレスこう表面ひょうめん触媒しょくばい作用さようにより促進そくしんされることと、ねつ分解ぶんかい爆薬ばくやくであるTNTとどう程度ていど反応はんのうねつ発生はっせいする物質ぶっしつであることを確認かくにんした[10]。そしてヒドロキシルアミン 80 % 以上いじょう水溶液すいようえきつてばくせいゆうし、80 % 水溶液すいようえき雷管らいかんのみの衝撃しょうげきでも容易よういばくとどろきこすことが判明はんめいした[10]
  2. ヒドロキシルアミン水溶液すいようえきへのイオンの混入こんにゅうによる影響えいきょう調しらべたところ、てつイオン (Fe2+・Fe3+)の寄与きよおおきく[11]、たった0.9 ppmの微量びりょうてつイオンでもはげしく分解ぶんかいすることが示唆しさされ[12]、ヒドロキシルアミン 85 % 水溶液すいようえきに0.2 % (200 ppm) のFe3+溶液ようえき投入とうにゅうした場合ばあいにおいては点火てんかすうびょう自然しぜん発火はっかこすほどであった[13]。なお、Fe2+・Fe3+イオンの反応はんのう性状せいじょう類似るいじしている可能かのうせい示唆しさされている[13]。このことは、示唆しさねつ分析ぶんせきにおけるきんメッキ処理しょりステンレスこう容器ようきと、新品しんぴんのステンレスこう容器ようき使つかふるしたステンレス容器ようきとのちがいを説明せつめいできるほどごく微量びりょうてつイオンでもヒドロキシルアミンの分解ぶんかい速度そくど影響えいきょうがあった。
  3. ヒドロキシルアミンの各種かくしゅしおについて爆発ばくはつせいは、硫酸りゅうさんしおは「なし」、塩酸えんさんしおは「あり」、リンさんしおは「あり」となった。また分解ぶんかいはげしさは硫酸りゅうさんしおは「はげしい」、塩酸えんさんしおは「はげしい」、リンさんしおは「はげしくない」、であった[14]
  4. ヒドロキシルアミン 50 % 水溶液すいようえき国連こくれんさだめる試験しけんほうでは自己じこ促進そくしん分解ぶんかいこす環境かんきょう温度おんど目安めやすであるSADTは80°Cであり「自己じこ反応はんのうせい物質ぶっしつ」には該当がいとうしないものの、てつイオンを5.2±0.2 ppmふくんだ試料しりょう、1.2±0.2 ppmふくんだヒドロキシルアミン 50 % 水溶液すいようえきは「自己じこ反応はんのうせい物質ぶっしつ」だと判定はんていされた。

群馬ぐんまけんにおけるヒドロキシルアミンのだい爆発ばくはつ事故じこけ、消防しょうぼうほう改正かいせいされ、だい5るい危険きけんぶつ自己じこ反応はんのうせい物質ぶっしつ)のはちに「ヒドロキシルアミン」、きゅうに「ヒドロキシルアミン塩類えんるい」が追加ついかされた[15]。この改正かいせい実験じっけん結果けっかたず、爆発ばくはつ危険きけんおおきさよりなされたものである。

またヒドロキシルアミンは呼吸こきゅう皮膚ひふ、そして粘膜ねんまく刺激しげきする[16]皮膚ひふから吸収きゅうしゅうされる可能かのうせいがあり[16]んだ場合ばあい有害ゆうがいであり[16]変異へんい誘発ゆうはつ物質ぶっしつである可能かのうせいがある[よう出典しゅってん]蒸気じょうき大量たいりょう体内たいないはいるとメトヘモグロビンがしょうじるため、血液けつえき酸素さんそ吸収きゅうしゅうりょく低下ていかすることがある[16]

ほう規制きせい

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日本にっぽん

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消防しょうぼうほうにおいて、だい5るい危険きけんぶつ自己じこ反応はんのうせい物質ぶっしつ)にぞくする。

毒物どくぶつおよげきぶつ取締とりしまりほうによりげきぶつ指定していされている[17]

参考さんこう文献ぶんけん

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脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ まどガラスの破損はそんじょうきょうから、爆発ばくはつ威力いりょくは296 - 593 kgのTNT火薬かやく相当そうとうするばくとどろきがあったと推察すいさつされた[7]

出典しゅってん

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  1. ^ Pradyot Patnaik. Handbook of Inorganic Chemicals. McGraw-Hill, 2002, ISBN 0070494398
  2. ^ Martel, B.; Cassidy, K. (2004). Chemical Risk Analysis: A Practical Handbook. Butterworth–Heinemann. pp. 362. ISBN 1903996651 
  3. ^ Earnshaw, A.; Greenwood, N. Chemistry of the Elements; Butterworth-Heinemann: Oxford, 1997; 2nd ed., pp. 431–432. ISBN 0750633654
  4. ^ Patnaik, P. Handbook of Inorganic Chemicals; McGraw Hill: Columbus, 2003; pp. 385–386. ISBN 0070494398
  5. ^ ヒドロキシルアミン爆発ばくはつ火災かさい”. 失敗しっぱい知識ちしきデータベース‐失敗しっぱいひゃくせん. 失敗しっぱい学会がっかい. 2024ねん6がつ30にち閲覧えつらん
  6. ^ 磐田いわたせき 2003, pp. 61–63.
  7. ^ 磐田いわたせき 2003, p. 3.
  8. ^ 磐田いわたせき 2003.
  9. ^ 磐田いわたせき 2003, p. 2.
  10. ^ a b 磐田いわたせき 2003, p. 52.
  11. ^ 磐田いわたせき 2003, pp. 52–54.
  12. ^ 磐田いわたせき 2003, p. 54.
  13. ^ a b 磐田いわたせき 2003, p. 53.
  14. ^ 磐田いわたせき 2003, p. 56.
  15. ^ 平成へいせい13ねん7がつ4にち法律ほうりつだい98ごう
  16. ^ a b c d 0661 - ヒドロキシルアミン
  17. ^ 毒物どくぶつおよげきぶつ取締とりしまりほう昭和しょうわ25ねん12月28にち 法律ほうりつ303ごうだい2じょう 別表べっぴょうだい2だい69ごう

外部がいぶリンク

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