士族しぞく（読よみ）シゾク

明治維新めいじいしん後ご、新しん政府せいふが旧きゅう武士ぶしに与あたえた身分みぶん呼称こしょう。1869年ねん（明治めいじ2）版籍はんせき奉還ほうかんとともに、旧来きゅうらいの四民しみん（士農工商しのうこうしょう）からなる身分みぶん秩序ちつじょの整理せいりが開始かいしされた。旧きゅう公卿くぎょう(くぎょう)と諸しょ大名だいみょうの藩主はんしゅが華族かぞくに、旧きゅう幕臣ばくしん、諸しょ藩はん藩士はんし、神官しんかん、寺院じいんなどの家いえ士したちが士族しぞくに処しょせられた。翌年よくねん、士族しぞくの下層かそうであった足軽あしがる(あしがる)などを卒そつ族ぞくとしたが、反対はんたい運動うんどうがあったため、72年ねんに彼かれらのなかで世襲せしゅうの者ものを士族しぞくに、一いち代だい限かぎりの者ものを平民へいみんに分ぶん属ぞくさせて、卒そつ族ぞくの呼称こしょうを廃止はいしして、士族しぞく身分みぶんを確定かくていした。73年ねん当時とうじ、その数すう約やく41万まん戸こ弱じゃく、人口じんこう約やく189万まん人にん強きょうであった。士族しぞくの身分みぶんは華族かぞくに次ついで、平民へいみんの上うえに位置いちづけられ、また当面とうめん、家いえ禄ろく(かろく)や帯刀たいとうなどの封建ほうけん的てき特権とっけんが許ゆるされたこととも相あいまって、平民へいみんに対たいする彼かれらの感情かんじょうを満足まんぞくさせた。一部いちぶには、政せい官界かんかい・学界がっかい・軍部ぐんぶなどで指導しどう者しゃとしての役割やくわりを果はたし、また商しょう工業こうぎょうの分野ぶんやに進出しんしゅつした例れいもあったが、徴兵ちょうへい令れい、廃刀はいとう令れい、秩禄(ちつろく)処分しょぶんなどを経へて、その政治せいじ・社会しゃかい的てき地位ちいは失うしなわれ、没落ぼつらくした者ものが多おおかった。生計せいけいの手段しゅだんを失うしなった士族しぞくのなかで、職人しょくにん、教員きょういん、邏卒らそつ(らそつ)になったり、塾じゅく経営けいえい者しゃに転身てんしんした者ものなどはまだ成功せいこうしたほうで、「士族しぞくの商法しょうほう」に従したがって商売しょうばいを始はじめ失敗しっぱいした場合ばあいも多おおかった。困窮こんきゅう士族しぞくのなかには、貧民ひんみん街がいに住すみ日雇ひやとい人夫にんぷや乞食こじき(こじき)になったり、強盗ごうとうや自殺じさつ者しゃまでも出だした例れいがある。新しん政府せいふは、金きむ禄ろく公債こうさいを与あたえ、資金しきんを貸かし付つけて失業しつぎょう士族しぞくの授産じゅさん政策せいさくを進すすめたが、彼かれらを救済きゅうさいすることはできなかった。その結果けっか、没落ぼつらく不平ふへい士族しぞくの不満ふまんは蓄積ちくせきされ、西南せいなん戦争せんそうに至いたる士族しぞく反乱はんらんに加くわわり、また1870年代ねんだいに始はじまる初期しょきの自由じゆう民権みんけん運動うんどうの担にない手ての一部いちぶになって活躍かつやくした者ものもあった。1947年ねん（昭和しょうわ22）戸籍こせき法ほうの改正かいせいにより、士族しぞくは他たの身分みぶん呼称こしょうとともに廃止はいしされた。

［石塚いしづか裕ひろし道どう］